一月の新刊「きつねのスケート」の絵を描かれた堀川理万子(ほりかわりまこ)さんにお話をうかがいました。

 堀川さんはタブロー(一枚画)の絵描きさんとして活躍中ですが、絵描きさんになろうと思ったきっかけは?
 小学校時代は、先生と合わなかったせいか、「お絵描き暗黒時代」(笑)でした。だけど中学に入って、「ああ私は絵が好きだったんだ」と気がついて。エスカレータ式で行ける上の大学には、行きたい学部もなかったから、高校の時は美大を受けるための予備校に行きました。途中、いろんな素材を扱うのにも興味があって、陶芸もいいなあと思ったんですが、結局デザイン科に進みました。大学では先生方から、「絵描きは大変だよ」とよく言われましたけど、結局その道を選んでしまいました。その頃は、ルネッサンスの画家の模写とか、草木とか、毎日毎日ずーっと絵を描いていました。ちょうど、就職を考える時期になっていたから、「これを私の仕事にしよう」と思って…。

 で、「絵描きは大変」でしたか? 普段の生活はどんな風ですか?
 大変っていっても、プロになった方が、趣味でやってるより楽ですよ。いっつも絵のことばかり考えてても、「真面目に仕事してる」ってことになるんですから(笑)。大変だと思うのは、進むべき道が見えなくなった時。間違った方向に進んでいるのではと疑い始めた時の恐怖は、口では言い表せませんね。でも最近では、悩みは描くことでしか解決がつかないのだから、再び筆を取るのが大切だとわかってきました。
 普段の生活は、年に一回個展をすることにしているので、何を描こうかと考えたり、スケッチをしたり、実際に描いたり…毎日が切れ目なく仕事でもあり、毎日が日曜日でもあるような、めりはりのない生活です。個展でめりはりをつけている感じですね。一回に二十点ちょっとの絵を出します。大きいのはシーツぐらいあるし、小さいのはノートの半分ぐらい。大きい絵は、描いているうちに発見があって楽しいし、小さい絵も、ある程度まとめて描くと連鎖的(れんさてき)にいろんな事に気がついて面白いですよ。もちろん絵だけ描いているわけじゃなく、趣味のピアノを弾いたり、出かけることもあります。散歩や映画や、お寺を見たり…もちろん美術館や展覧会に行くのも大好き。絵はほんと、描いて楽しい見て楽しい(笑)。

 子どもの本の仕事を始められたきっかけは?
 大学の研究室に編集者の方がデザイナーを探しに来られたのがきっかけで、そのときはデザインの仕事には結局ならなかったんですが、後に別の方から、児童書の団体で作っている「子どもの本」という雑誌の表紙の仕事をいただき、二年くらい描かせてもらいました。それを見たまた別の編集者の方から、初めての挿絵の仕事(「シロクマたちのダンス」(佑学社=当時))をいただいたんです。
 もともと、子どものころから、本を読むのは好きでした。一番印象に残っているのは、「イワンのばか」の土方重巳(ひじかたしげみ)さんの挿絵。ひろすけ童話や小川未明みたいな渋い寂しい世界と、ピッピやホッツェンプロッツみたいなファンキーな世界と(笑)、両方に惹(ひ)かれてましたけど、やっぱり、挿絵を見るのが好きでしたねえ。その頃感じた、「文章通りの絵はつまんない。でも文章から離れすぎている突飛な絵はわかりづらい」という感覚が、今挿絵の仕事をする時のベースになっている気がします。お話を読んで、「文章になっていない隠れたお話」を探して絵にするのが楽しいんです。「隠れたお話を探す」という感覚は、普段の絵にも通じますが、普段の絵は一点で世界観・宇宙観を表さなくてはならない、孤独なものです。それはそれで好きだし、私の仕事の根っこだと思うのですが、本の仕事は、お話とのコミュニケーションがあるのが楽しい。お話につかず離れず、本がふわっとふくらむような、想像の余地を残す絵を描きたいと思っています。本作りの現場の雰囲気も楽しくて、とても好きなんですよ。

 今回の「きつねのスケート」では、お話を書かれた湯本香樹実(ゆもとかずみ)さんと何度も打ち合わせをされましたよね。
 ええ、このお話をもらって湯本さんの本を全部読んで、好きになりました。湯本さんの世界の楽しいとことせつないとこがとても好きなんです。このお話でも、のねずみの気持ちを思うと心が痛むし、きつねの隠れた雄々しい優しさも好きでした。でも実際にお会いした湯本さんは、予想とちょっと違って(笑)、大真面目で人を笑わす人でした! このお話を読んだあとに残るさわやかさと、ほんとの湯本さんはちょっと違うっていうか…(同席の湯本さんより「そういうこと言うわけ?」と突っ込みが入る)。でもね、ほんと、湯本さんには、まだまだ作品に表れていないダイナミックなエネルギーがあると思います。それに、湯本さんは絵のこともすぐに理解してくれて、絵に合わせて文章を直してくれたり、「一緒に本を作っていく」ということを充分に味わわせてくれる人でした。これはホントですよ! ぜひ、このお話の続編を書いてほしいです。打ち合わせ中の雑談の中では、あと三冊くらい書けるほどアイデアが出てましたから(笑)。



 いっそうのご活躍を!

【プロフィール】一九六五年東京生まれ。東京芸術大学大学院修了。毎年、銀座や京都で絵画の個展を開き、高い評価を得ている。子どもの本の挿絵の仕事には「ふつうのおひめさま」「自由研究<赤ちゃん>」(徳間書店)、「シロクマたちのダンス」「ハロウィーンの魔法」「魔の森はすぐそこに…」(偕成社)等多数。

徳間書店『子どもの本だより』1998年1月/2月号 第4巻 23号掲載
徳間書店と堀川理万子さんの許可を得て転載しています。
無断掲載禁止

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