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洋書でブレイク

アーモンド・ワールド
命の神秘性と生への希望

 雄大な自然のなかにいるとき、夜空を眺めているとき、世界はなんと広く自分はなんとちっぽけなのか、と思うことがある。そして、広大な宇宙へ思いを馳せながら、人はどこから来てどこへ行くのか、などと命の神秘性を考えてしまう。『肩胛骨は翼のなごり』や、『闇の底のシルキー』(ともに、山田順子訳/東京創元社)の作者デイヴィッド・アーモンドの作品を読むと、まさにそんな気持ちになる。これからご紹介する Secret Heart の読後感も同じだ。
 主人公の少年ジョーは吃音癖のためにいじめられ、学校をさぼりがち。サバイバルゲームでもするかのように動物を殺す幼なじみとも、距離をおいている。そうやって自分の殻のなかに閉じこもっているジョーも、家の近くの荒野では心を解放することができた。荒野にいる動物たちに混じって、鳥となり、キツネとなり、ヘビとなって動きまわるのだ。が、なぜそんなことをするのかは自分でもわからずにいた。そして、ある夜、半透明のトラが現れ、ジョーはサーカスのテントへと導かれる。サーカス団の少女コリナと出会い、彼女と心を通わせるジョー。そんな彼に、サーカス団の謎めいた老女は言う。このサーカス団とジョーの心の底には、共通したものが秘められている、そのために自分たちがこの町へやってきたのだ、と――。
 ジョーは、学校の先生たちやまわりの子どもたちの目には劣等生のように映る。しかし、夢と現実のはざまにいて、他の人が目に見えなかったり、耳で聞こえなかったりする大切なものを肌で感じ取る力をもっている。だからこそ、動物たちが棲む森へ足を踏みいれ、生きる悦びを知ることになるのだ。
 いつもどおり、この物語にもアーモンド特有の神秘的で不思議な雰囲気が漂っている。やはり、生と死をテーマにしているが、本作では生のほうに重点が置かれ、すべての生命の尊さが強調されているように思う。読後、この世に生をうけたことがどんなに奇跡的なことかと、改めて、生きる悦びを感じられるだろう。生に対する希望がわいてくること請け合いだ。                                            

 (吉村有加)

Secret Heart
by David Almond, 2001
(Hodder Children's Books £10.00 202pages)
未訳

「キッズBOOKカフェ」(月刊『eとらんす』2002年2月号掲載)のホームページ版です。

2月号「やまねこ調査隊」

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