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やまねこ調査隊

第5回 翻訳者に聞く:トールキン『ホビット』から『仔犬のローヴァーの冒険』へ

トールキン2作品の経緯

 トールキンの名作ファンタジーTHE HOBBITは、瀬田貞二訳『ホビットの冒険』(岩波書店)が有名。通常、一度翻訳が出た作品は版権の問題で新訳が出しにくいものだが、原書房の『ホビット』は、1966年刊の改訂版を元にすることで、版権の問題をクリアしている。

 今回出た『仔犬のローヴァーの冒険』は、トールキンが初期に執筆していたものの出版にいたらず、近年ようやく日の目を見た作品だ。

 60年以上眠り続けていたトールキンの作品が出版された。幻の名作といわれる『仔犬のローヴァーの冒険』だ。訳者は、一昨年、同じくトールキンの『ホビット』の大胆な新訳で話題となった東京大学教授の山本史郎さん。やまねこ調査隊は、出版の経緯をうかがうべく、早速山本さんの研究室をたずねた。

 まずは、『ホビット』の話から。「翻訳のお話をいただいたときには、とても名誉なことだと思いました。なにしろ古典的名作ですから」と山本さん。従来親しまれてきた瀬田貞二訳についてたずねると、「トールキンは原書でしか読んでいません。瀬田さんの訳はお上手に決まってますから、影響を受けないように目を通さなかったんですよ」ということだった。翻訳する際には、原文の持つ雰囲気やジョークなどを、もれなく訳文に反映させようと心がけたという。そういった姿勢や、読者対象を子ども向けではなく一般向けにしたことが、大胆な新訳につながったのだろう。

 山本さんはこの翻訳を機にトールキンにのめり込んでいき、今年1月イギリスの本屋で、新しく出たばかりの『仔犬のローヴァーの冒険』を見つける。そして原書房に連絡を取り、今回の出版にこぎつけた。

 『ホビット』『指輪物語』へと続くトールキン・ファンタジー世界の原点にあたるような物語と、山本さんが評しているこの作品は、ある魔法使いによっておもちゃの姿に変えられてしまった仔犬が、月や海の世界でさまざまな冒険をしていくという内容だ。冗談や言葉遊び等いろいろな仕掛けがあり、「言葉遊びの部分は、訳すのが大変といえば大変でしたが、とても楽しんで訳せました」とのことだ。

 子どもの頃は、アーサー・ランサムに夢中だったという山本さん。これまでは歴史・文学史関連書の翻訳が多かったが、児童書の翻訳にも意欲的で、現在、原書房から11月頃刊行予定の『赤毛のアン』の新訳に取り組んでいる。

(植村わらび)

「仔犬のローヴァーの冒険」表紙

『仔犬のローヴァーの冒険』
ROVERANDOM(1998)
J・R・R・トールキン著
山本史郎訳(原書房 本体1600円)

「ホビット ゆきてかえりし物語」表紙

『ホビット ゆきてかえりし物語』
THE HOBBIT(1966)
J・R・R・トールキン著
山本史郎訳(原書房 本体2300円)

※10月上旬には、『絵物語ホビット』も刊行予定。

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追加情報:記事の中で刊行予定としていた2冊は、1999年11月に出版されました。

『赤毛のアン 完全版』
L・M・モンゴメリ著
W・E・バリー、M・A・ドゥーディ、M・E・D・ジョーンズ編
山本史郎訳(原書房 本体2200円)

『絵物語ホビット ゆきてかえりし物語』
J・R・R・トールキン著
デイヴィド・ウェンゼル画
山本史郎訳(原書房 本体1800円)

(ワラビ/1999.12.10)

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「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』1999年11月号掲載)のホームページ版です。

表紙の画像は、出版社の許可を得て掲載しています(無断転載不可)。

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