メニュー読書室レビュー集千葉茂樹レビュー集


北海道新聞 2002年1月    掲載紙から   トップ

★幼児

ながいながいへびのはなし
風木一人 文 高畠純 絵
小峰書店 1200円

 こぶりでシックなデザインのこの絵本、実は壮大で心温まるほら話です。主人公のへびくん、とにかく長いんです。どのくらいながいかというと……頭が街にいても、しっぽは山のなか。頭をみた男の子がしっぽをみるときにはおじいさんだというのです。あるときへびくんの頭は、しばらくしっぽの姿をみていないことに気づきます。ひさしぶりにあいたくなったへびくんの頭は、しっぽめがけて一直線。さあ、頭としっぽはぶじにあうことができるでしょうか。
 ほら話は、子どもの心の成長には欠かすことのできない栄養素のひとつです。ちぢこまった心を押し広げ、渇いた心を笑いで潤し、衰弱した想像力の滋養強壮にも効果抜群。もちろんおとなにも有効ですので、ぜひいっしょに試してみてください。


どんなきぶん?
サクストン・フライマン&ユースト・エルファーズ 作
アーサー・ビナード 訳
福音館書店 1500円


 ピーマン、タマネギ、トマトにキウイ、おなじみの野菜や果物が画面いっぱいに次から次へと登場して自己主張。おこった顔、しょげた顔、底抜けの笑顔があるかと思えば、ちょっと悲しい気分の顔も。市場や八百屋さんで仕入れてきた野菜や果物に目玉として豆(英語でブラック・アイ・ビーンズ)をうめこみ、最小限の手を加えただけなのに、その表情の豊かさといったら!
 我が家でも「あ、このオレンジ、すねてるときの○○くんそっくり」とか、「このピーマン、根性悪そう」などと大いに盛り上がりました。この絵本を見てしまってからは、夕食の準備をしているときにも、ついジャガイモを見つめて表情を読み取ろうとしてしまう私……。
 実はおなじコンビの絵本を私も近々翻訳の予定です。どうぞお楽しみに。


★低・中学年

ありがとう、フォルカーせんせい
パトリシア・ポラッコ 作・絵
香咲弥須子 訳
岩崎書店 1400円


 知的発達に遅れはないのに、ある特定の学習面で特異な習得の困難さを持つLD(学習障害)は、日本でもようやく最近になって注目されはじめましたが、現代アメリカを代表する絵本作家のひとり、パトリシア・ポラッコもそうだったとは本書を読むまで知りませんでした。
 みんながあたりまえにできることができないもどかしさ、それを理由にしたいじめ、そしてなにより、大好きな本を読むことのできない悲しさからトリシャを救ってくれたのは、LDを正しく理解し、忍耐強く導いてくれたフォルカー先生でした。頭の中に一条の光がさしこむように、トリシャが本を読めるようになる瞬間は、実に感動的です。
 LDへの理解が足りないために悲しい思いをする子どもがひとりでも少なくなるよう、多くの人に読んでもらいたい本です。


こどものころにみた空は
工藤直子 詩 松本大洋 絵
理論社 1300円


 すぐれた詩だけが持つイメージ喚起力をまざまざと教えてくれる詩集です。徹底的に個人的な思い出を徹底的に自分の感覚、自分のことばで描くことによって、誰の記憶にもある普遍的な世界が立ち現れるそのすごさ。
 砂山にトンネルを掘るときに、あごにくっつく砂の感触を思い出すなんてこと、このを読まなければ、もう一生なかったかもしれません。うれしいぞ! そんなもん、思い出してもしょうがないじゃん、なんて人とは友だちになってあげない。
 挿絵がまたいい。ときによりそうように、ときに風を吹き込むように詩の世界を広げてくれています。漫画家として確固たる地位をもつ松本氏ですが、今後、児童書の挿絵の世界にも進出してくれるとうれしいなあ。


高学年以上

ルート225
藤野千夜 作
理論社 1500円


 読んでいるあいだ、ずっとくすくす笑いどおしでした。一人称で語る主人公のエリ子と同じ年の娘がいるものですから、その日常のあまりのリアルさに。でも、物語自体は笑っていられるようなものではありません。ある日、エリ子と一つ年下の弟ダイゴは、元の世界とは微妙にちがう別世界にまぎれこんでしまうのです。仲直りしていないはずの友だちと仲直りしていたり、巨人の高橋由伸がわずかに太っているという世界です。
 ファンタジー、いやSFといってもいい荒唐無稽な設定のこの物語をこんなにもリアルに感じてしまうのは、そのディテールの秀逸さによるばかりではないと気づいたときにはすこしばかりヒヤリとしました。さまざまな問題をきっちり解決しようとしたり、オチをつけようとしたりせずに宙ぶらりんにしておくという全編に漂うその感覚が、あまりにも今という時代を活写していると思えたからです。


サンタのおばさん
東野圭吾 作 杉田比呂美 画
文藝春秋 1333円


 なにを今ごろサンタクロースの話を、と笑われてしまいそうですが、ジェンダーを扱った作品という観点から見れば、季節を問うといったものではないのです。
 アメリカ支部のサンタの引退に伴って、次期候補としてサンタ協会の年次総会に姿をあらわしたのは女性でした。もちろん、白いヒゲははやしていませんし、太ってさえいません。以前、アフリカ・サンタとして黒い肌のサンタが承認されたときとは次元の違う大問題だと、会議はもつれますが……。
 ジェンダーがテーマというと目を吊り上げた過激なものでは? とビビる方もいらっしゃるかもしれませんが、本書はあくまでもソフトタッチ。そう、サンタクロースの寛容と慈愛のやわらかさ。杉田さんのあたたかくて透明な絵がぴったりはまっています。


北海道新聞 2002年4月    掲載紙から   トップ

★幼児

ぜったいたべないからね
ローレン・チャイルド 作
木坂涼 訳
フレーベル館 1300円

 兄妹ふたりで留守番をすることになった夜、妹のローラに夕食を食べさせなければいけないお兄ちゃんのチャーリーは気が重い。なにせローラは、豆もニンジンもじゃがいもも、あれもこれも大きらいで、食べないっていうのです。とりわけトマトはぜったい食べない!
 ところがふたりは、楽しくおいしく食事をおえました。ローラはあのトマトまで自分から食べたんです。さて、ふたりにはいったいなにがおこったの?
 さいわい、わが家の子どもたちは好ききらいなくなんでも食べてくれるので主夫としては大助かり。でも、もし、お子さんの好ききらいで悩んでいる方がいらっしゃったら必見かも。好ききらい克服への効果は保証しませんが、親子で楽しい時間をすごせることはぜったい保証します! 同時刊行の『ぜったいねないからね』もおすすめ。


オオカミくんのホットケーキ
ジャン・フィアンリー 作
まつかわまゆみ 訳
評論社 1300円


 ときとして、かわいいふりして、とんでもないおどろきをあたえてくれる絵本があるものです。
おなかがすいたオオカミくんは、ホットケーキを食べようと思いつきます。でも、作り方がわかりません。料理の本を読もうにも、本を読むのは苦手です。材料の買い物にいこうにも、計算が苦手なので自信がない。その上料理下手。
 そこで、ご近所のオンドリや赤ずきんちゃん、三びきのコブタたちに、丁重にてつだいをたのむのですが、みんないじわるで「やなこった!」。かなしくなってちょっぴり泣きながらも、なんとかひとりで苦心して、ようやくほかほかのホットケーキのできあがり。
 ところが、あたりにおいしそうなにおいがただようと、みんなが、においをかぎつけておしかけてきたのです。そして、みんなは……。このあとの驚愕の場面だけは、ここで紹介するわけにはいきません。


★低・中学年

とどまることなく
アン・ロックウェル 作 グレゴリー・クリスティー 絵
もりうちすみこ 訳
国土社 1500円


 死後百年以上たってから、アメリカの火星探査機にその名をのこすことになるある黒人女性の半生をえがいた絵本です。
 奴隷の子として生まれたソジャーナ・トゥルースは、九歳の年に両親と引き離されて農場へと売られていきます。その後も転々と売られ、二十年後、奴隷制に反対するある白人の夫妻によって解放されました。
 それからのソジャーナは、ものいわぬすべての奴隷たちの声になろうと決意して、アメリカ中を旅しながら、奴隷だったころのことを人々に語り、奴隷解放運動の大きな推進力のひとつとなっていくのです。
 力強い絵と文章を通して伝わってくるソジャーナの苦しみ、怒り、悲しみに、心を揺さぶられます。しかし、読み終えたあとには、自分の中にも勇気が湧き上がってくるのを感じるのです。

ねこじまくん
堀家喜久子 作 佐藤真紀子 絵
新日本出版社 1400円


 児童文学の中のひとつのジャンルとしてなりたつのではないかと思えるほど、転校生をテーマにした作品はたくさんあります。実は私、小・中あわせて六つの学校に通ったことのあるバリバリの「転校生」だったものですから、ちょっと気になります。
 でも、新しい学校で身を守る処世術として、目立たずそつなくを心がけていたものですから、きっとあんまり記憶に残るような生徒じゃなかったろうな。その点、ねこじまくんがうらやましい!
 かなりかわっているものだから、陰湿ないじめを受けるのに、いじめられてること自体に気づかないで、マイペース。いつのまにかみんなから一目おかれる存在になっている。そして、強烈な印象を残して、とつぜん、またいなくなってしまうのです。謎に満ちたねこじまくんは、いったいだれだったのでしょう?


高学年以上

アリになったカメラマン
栗林慧 写真・文
講談社 1500円


 必要は発明の母、ということばを実証するようなノンフィクションです。アリの目で見た世界を写真に撮りたいと考えた昆虫写真家の栗林さんが、不可能といわれたことを自らの工夫で次々と乗り越えていくようすは痛快といってもいいほど。
 努力なんてダサいことするぐらいなら、そこそこの人生でいいやなんて、やけにさめたことをいう、ある意味ではとてもかわいそうなイマドキの子どもたちに、ぜひ読んでもらいたい! ひとつのことに没頭して、成しとげるおもしろさがビンビンつたわると思うのです。その上、写真や昆虫の生態についてのとてもわかりやすい解説書になっていますので、そっち方面への関心がある子どもにはバイブルになるかも。
 私は子どものころ熱中した天体写真をまた撮ってみたいなあと、ちょっとむずむずしました。

影の王
スーザン・クーパー 作
井辻朱美 訳
偕成社 1500円


 ナットが所属するアメリカの少年劇団は、シェークスピア劇の公演のためにロンドンにやってきました。ところが、公演をまえに、ナットは四百年まえのもうひとりの少年俳優ナットと入れ替わってしまいます。そのナットもまた大事な公演を直前にひかえていたのですが、それはほかならぬシェークスピア本人も役者兼作家として参加する芝居だったのです。
 十六世紀のロンドンの喧騒やにおいまではっきりとつたわる抜群のリアリティーに、ぐいぐいと作品世界にひきこまれます。
 とつぜんシェークスピアとおなじ舞台に立つ羽目になるナットの緊張感や、劇団の仲間たちとのいさかいや友情などがうずまく物語は、息詰まるような迫力で展開していきます。ナットの演劇へのはげしい情熱と、シェークスピアへ寄せる尊敬と思慕の念にはせつなさをおぼえるほどです。


北海道新聞 2002年7月    掲載紙から   トップ

★幼児

おとうさんがおとうさんになった日
長野ヒデ子 作
童心社 1300円


 自宅に助産婦さんをよんで出産を経験する家族を描いた絵本です。おかあさんの陣痛がはじまるのを待つあいだ、生まれてくる赤ちゃんのおにいちゃんとおねえちゃんは、おとうさんにたずねます。「おとうさんは、いつおとうさんになったの?」って。そこでおとうさんは、自分が父親になったと実感したときのことを思い出し、語りはじめるのです。
 そうこうするうちに、いよいよ陣痛がはじまりました。助産婦さんがかけつけ、おばあちゃんはオロオロ、おにいちゃんたちはどきどき……。
 新しく誕生する生命は、家族をあたたかくし、その絆を強くしてくれるんですね。
 ちなみに、わが家の三人の子どもも助産婦さんに見守られての誕生。出産に立会い、へその緒を切ったときの感動が、読んでいるわたしにもよみがえりました。

まほうの夏
藤原一枝・はたこうしろう 作 はたこうしろう 絵
岩崎書店 1300円


 いよいよ夏休み。お子さんたちは、どのように過ごしていますか? この本に登場する兄弟は、都会暮らしで両親は共働き。学校のプールとテレビゲームのくりかえしにうんざりしているところに、田舎から「あそびにおいで」のお誘いが! さあ、ほんとうの夏休みのはじまりです。虫とりに川遊び、夕立、花火、メインイベントの海水浴……。
 やっぱり夏休みはこうでなくっちゃね。でも、真っ黒に日焼けして、朝から晩まで、走りまわって遊んでいる子どもたちって、最近あんまり見かけない気がします。頭をからっぽにして全力をそそいでひたすら遊ぶ、そんな経験、絶対必要だと思うんだけどなあ。この絵本をお子さんに手渡して、うらやましがらせ、おおいに「幸せな夏休みの思い出」作りを奨励してあげましょう!


★低・中学年

ドーナッちゃんとモンブラリン
つつみあれい 作
小峰書店 1300円


 ナンセンスなお話を紹介するのって、すっごくむずかしいんですよね。理屈じゃ説明できない世界が広がっているわけですから。それに、おもしろいと共感してたっぷり楽しんでくれる人がいる一方で、「くっだらない! さっぱりわからん」と切り捨てられる可能性も。
 ですから、内容を紹介するのはやめときましょう。ドーナッツが、きのことしりとりをして、そこに黙々と庭仕事をするモンブラン(ケーキの)が登場して……なんて書いても、さっぱりわからないでしょうから(って、書いてるじゃん!)。
 でもね、読み終えたとき、きっとハッピーな気持ちになっていることでしょう。いつもにこにこしているこの本のなかの登場人物(?)たちみたいにね。

トウモロコシが実るころ
ドロシー・ローズ 作
長滝谷富貴子 訳 小泉るみ子 絵
文研出版 1200円


 中央アメリカの村で暮らす、マヤ族の血をひく少年タイガーは、働き手のひとりとして家族を助けなきゃいけないことはよくわかっています。でも、つい寝坊してしまうし、働きはじめても、すぐに疲れて一休み。ところが、そのタイガーに転機がおとずれます。父親がけがをして、しばらく畑にでることができなくなってしまったのです。
 責任の重さにつぶされそうになりながらも、歯を食いしばり、ひとりでジャングルを切り開き、トウモロコシ畑を作るうちに、タイガーには自信と誇りがみなぎってきます。そして、自然とともに生きることの厳しさや、そのよろこびをも知るのです。
 生きていくことの実感からはなれてしまっている日本の子どもへの、シンプルで力強いメッセージがここにはあります。


高学年以上

ぼくは貝の夢をみる
盛口満 作
アリス館 1300円


 著書『ぼくらが死体を拾うわけ』で、生徒とともに動物の死体を拾い集めるけったいな先生(ほめことばです)として一躍注目を浴びた、知る人ぞ知る「ゲッチョ先生」の青春記です。
 生まれ育った海辺の町で、貝殻拾いに情熱をかたむけたひとりの少年が、いつもどこかで貝とかかわりながら成長していくさまが、恋や進学の悩み、ユニークな友だちとの交流などもまじえて楽しく描かれています。自分の進路でなやむ子どもにもなんらかのヒントをあたえてくれるかもしれません。
 著者本人による挿絵もすばらしい。
 ちょっと宣伝ですが、石を集めることに情熱をもやしたおとうさんの話、拙訳の『あたまにつまった石ころが』ハースト作(光村教育図書)もぜひ!

ガールズ イン ラブ
ジャクリーン・ウィルソン 作
尾高薫 訳
理論社 1000円


 イギリスの女の子たちに絶大な人気を誇るベストセラー作家による、「ガールズ・トリロジー(三部作)」の第一巻です。十三歳の女の子エリー、親友マグダとナディーンの三人を中心に、生きのいい会話でくりひろげられる文句なしに楽しい物語。
 でも、ただ楽しいばかりじゃありません。たたみかけるようなテンポのいい軽快な物語のなかに、「カレシ」をめぐる深刻な悩み、家族との葛藤、親友とのいきちがいなども散りばめられていて、ときにしんみり。
 まさに現代を生きる等身大の子どもたちの姿が生き生きと描かれているんですね。
 おなじ年頃の娘をもつ身としてもおおいに参考になったりして。ちなみにその娘も「すんごくおもしろかった」といっております。


[NEW!]

北海道新聞 2002年10月    掲載紙から   トップ

★幼児

スモーキーナイト
イヴ・バンティング 作 ディヴィッド・ディアス絵
はしもとひろみ 訳
岩崎書店 1400円


 1992年、ロサンゼルスで人種差別が原因となった暴動が起こりました。この絵本の舞台はその日の夜です。ぼくとかあさんは、通りで起きている暴動や略奪の様子を窓からそっと見下ろしています。直接被害のおよばない場所で、ひそひそ声で交わす親子の会話はどこか人ごとのようです。
 ところが、ふたりの身にも危険がせまってきました。アパートに火の手が上がり、避難しなければならなくなったのです。命からがらたどりついた避難所では、ふだんはおたがいに避けていた違う人種の人たちとの間にも言葉が交わされます。そして、それまでは仲の悪かったネコ同士まで身をよせあっています。
 おそろしい暴動の夜に、地域に新しい交流が生まれる姿を、力強い絵で描いたとても前向きな絵本です。

よこしまくん
大森裕子 作
偕成社 1000円


 いつもよこしまのシャツを着ているフェレットのよこしまくん、いきなり表紙から読者にケンカを売ってます。「おまえなんかきらいだ」だって。
 寝起きが悪くて、テレビっ子。うそつきで、大げさで、意地っ張り。ごめんなさいはいえないし、ほめられると照れくさいのをごまかすためにくまれ口をたたく。そう、よこしまくんは素直じゃないんです。
 だけど、いいところもあるんですよ。朝ごはんはしっかり食べるし、クイズにはちょっとうるさい物知り自慢。
 にくたらしいのにどこかにくめない、よこしまくんはそんなやつです。
 ふふふ、でも、似たようなのがわが家にも三匹ほどいるような気がするなあ。お宅はいかが?


★低・中学年

キツネ和尚と大フクロウ
富安陽子 作 長野ヒデ子 絵
あかね書房 1100円


 成神山のキツネは化けるのがうまくて、雲をあやつる術も持っています。人間の子どもの武二と空のドライブにでかけることもしょっちゅう。
 ある日、空を散歩中のふたりのまえに、不気味な黒雲があらわれます。それは不思議なことのはじまる予兆でした。武二のかよう学校に、とてもかわった先生がやってきたのです。山野先生は鳥のことならやたらくわしくて、毎日授業は鳥のことばかり。大フクロウが化けていることを見破った武二は、キツネに相談して追い払うことにしました。大フクロウの黒雲のせいで春がやってこないからです。さあ、うまくいくのでしょうか。
 それにしても、山野先生の授業はすごく楽しそうなんですよね。普通の先生の授業なんかよりずっと役に立ちそうな気もするし。
 さし絵に描かれた山野先生も絶品です。

注意読本
五味太郎 作
ブロンズ新社 1600円


 ひねくれものといえば、よこしまくんも到底およばないのが五味太郎(わー、いっちゃったよ!)。今度の絵本は子どもがすこやかに生きていくために必要なさまざまな注意事項を教えてくれます。次から次へと毒の効いた注意がたっくさん登場。
 一瞬、うむむと思うものの、考えれば考えるほどいずれも真実をついているんですよね。たとえば、「話し合いに注意」ではこんなふう。
「だいたい声が大きいおしゃべり好きの人のペースになりがちですので、注意しましょう」ねっ。
 でも、いちばん注意しなければいけないのは、五味太郎の本は子どもには毒なので読ませないようにしましょう(良書の普及に携わっていると称する人の中には本当にいるんです、この手が!)なんてことをいう大人だな。


高学年以上

シャングリラをあとにして
マイケル・モーパーゴ 作
永瀬比奈 訳
徳間書店 1500円


 ある日、十二歳の少女セシーの前に、とつぜん、一度も会ったことのないおじいちゃんが現れます。息子であるはずのセシーのパパさえも消息を知らなかったおじいちゃんです。ようやく本当のおじいちゃんとわかったのもつかの間、病気で倒れ、一部記憶も失って、いっしょに暮らすことになります。
 祖父と孫娘のあたたかい交流、失われた記憶を取り戻せないもどかしさ、過去の戦争に残したある思い、老人ホームを脱け出した老人たちと少女だけでの大冒険。そしてなにより、長い時間を隔てた親子のおたがいを思う複雑な心のうち。
 たくさんの要素を盛り込みながら、けっして消化不良をおこすことなどなく描ききる筆さばきは実に見事です。さすがイギリスの児童文学会の大御所といった感じ。

へスースとフランシスコ
長倉洋海 作・写真
福音館書店 1600円


 実は長倉さんには何度かお目にかかったことがあります。モジャモジャのひげに鋭い目つき、正直いってちょっとおっかないという印象の方です。でも、氏が撮った写真を見れば、そこには心からの気を許したものしか見せない笑顔や、信頼した人間同士のきずながうかがえるよそいきではない表情があふれています。
 この本を読んで、一見こわもての長倉さんが撮る写真から、あんなにも優しい気配があふれでてくる理由がわかったような気がします。
 内戦のエルサルバドルの難民キャンプで出会った3歳の少女へスースが成人するまでを、20年ににおよぶ取材を元にたくさんの写真とともに丹念につづった本書ですが、長倉洋海という稀有な写真家の青春の記としても貴重な作品といえるでしょう。


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