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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

オランダ作品レビュー集(3/5)


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「とけい」by Hiroyuki Inagaki

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『お話のすむ家』
ミンダルト・ヴィンストラ作 バッブス・ヴィンストラ絵 小林たん子訳
偕成社 1996.8 102頁

IT HUS FOL FERHALEN(HUSのUに^)
text by Mindert Wijnstra/illustrations by Babs Wijnstra
1991, Stiching It Fryske Boek, Holland
                                       
 本が大好きなヨースト少年は、朝から晩まで本といっしょ。寝食を忘れて夢中にな
っていた『ドラゴンの復讐』を読み終え、自分でもこんな物語を作ってみたいと思っ
た。そこで、どうしたらおもしろいお話が作れるのか、その作家に手紙を出して聞い
てみたところ、なんと数日後に返事が届く。手紙には、お話でいっぱいの家に暮らし
ているから遊びに来ないか、というお誘いが……。
 そういえば、わたしは高校生の頃、少女漫画家になりたかった。数本漫画を描いて
みたが、どの話もたいしておもしろくない。こりゃダメだ、とあっさり夢を捨て去っ
た。その頃この本に出会っていたら、「お話のすむ家」を切望したことだろう。
 この本の中には、ギャグの嵐が吹き荒れている。下ネタから文学ネタまで、これで
もかと襲いかかるダジャレめいたギャグには「参りました」という感じである。たま
に「さむ〜」とツッコミを入れる自分がいたりもするが、文句なくおもしろい。それ
でいて決して夢を失っていず、読後にはホッと心があったかくなるのだ。
 ここしばらく笑っていないあなた。この本で笑いの原点に立ち返り、懐かしさをも
覚えるギャグの数々を堪能してみては? 大丈夫。途中、あまりのさむさに風邪をひ
きそうになっても、気付けば心はポッカポカだから。

(海野 祥)

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『クルトがどうぶつえんにいったとき』
ハリー・ゲーレン絵と文 いずみちほこ訳

セーラー出版 1994年 29頁
ALS KURT IN DEN TIERGARGEN GING
by HARRIE GEELEN
1991, GERTRAUD MIDDELHAUVE VERLAG GMBH&CO.

 たからものを全部持って、動物園へ出かけたクルト。おりのなかの動物たちは、ク
ルトのたからものが欲しくてたまらない。クルトは、それじゃあ取りかえっこしても
いいよ、っていうんだけど、いったいなにと、取りかえっこしたのかな。
 水彩絵の具をにじませ、強烈な色を組み合わせるハリー・ゲーレンの絵は、一度見
ただけでいつまでも心に残る。子供の頃、図画の時間の筆洗箱に残った色。あのとき
は汚い色だと思っていたのに、ゲーレンの手にかかると見事な個性になっている。
 挿絵を担当した『テーブルの下のアンネ』(くもん出版)や『リサのあかいくつ』
(セーラー出版)では、このにじんだ色から、少女の微妙な気持ちの揺れが浮かびあ
がり、読者を切ない気持ちにさせてくれた。ところが自分で文章を書いた、この『ク
ルトがどうぶつえんにいったとき』は、全く別の一面を見せている。表紙のクルトの
天真爛漫な笑顔からは想像もできない、シュールな展開。そこには、茶目っ気たっぷ
りのゲーレンの素顔が見え隠れするような気がする。さらに読み終えたあとに、この
あとどうなるのだろう、自分だったらどうするだろうと、想像が羽ばたく心憎い演出。
これこそが彼の真骨頂なのかもしれない。
 作者のハリー・ゲーレンは、1936年生まれ。子供の本に関わるまえは、映画監督、
グラフィックデザイナー、作曲家としても活躍していた多彩な人だ。
                                       

(沢崎杏子)

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『デージェだっていちにんまえ』
                                       

準備中

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『動物たちのひとりごと』 イダ・ファン・ベルクム作 野坂悦子訳
あすなろ書房 1998.8.31

JENNY DE JONGE-BOEK by Ida van Berkum
1997, Uitegeveriji J. H. Gottmer/H. J. W. Becht bv
                                       
 カワウソや犬、モルモットにカメにナナフシ……。さまざまな生き物の奇妙な「ひ
とりごと」が満載の絵本。あまり深く考えず、まずは彼らのつぶやきに耳をすませて
みよう。
 たとえばダックスフント。のんきそうに見えるけど、実は意外とまわりの目を気に
しているらしい。モルモットを飼うときに気をつけなくちゃいけないことも、よくわ
かる。カメが左右をきょろきょろ見るのには、理由があったんだ。おや、なぞの動物
たちが、意味不明の言い合いやゲームをしているぞ。そうかと思うと、卵からかえっ
たばかりのナナフシが、世界に向けて歩き出した。
 絵は、さらりとした線のコミカルなタッチ。水彩絵の具の淡い色彩も魅力的だ。ナ
ンセンスな文章を引き立てつつも、ユーモア過多になるぎりぎりのところで、笑いの
ツボを刺激する。表紙の絵を見るだけでも、このおかしさはかなり伝わるはず。
 アタマやココロが疲れたときには、ぜひぜひお手にとっていただきたい。ただし、
立ち読みはしないようにね。絶対笑っちゃうから。

 作者のベルクムは、1964年生まれの新進気鋭の絵本作家。オランダ、スヘルトゲン
オスにある芸術アカデミーを卒業後、95年に『ローザ』(未訳)でデビュー。実生活
でも、かなりの動物好きだそうだ。

(森久里子)

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『レナレナ』ハリエット・ヴァン・レーク作 野坂悦子訳
リブロポート 1989年

De Avonturen van Lena Lena by Harriet van Reek (Harrietのeに‥)
1986, Em.Querido's Uitgeverij B.V.,Amsterdam

『レナレナ』は不思議におかしい絵本だ。主人公の少女レナレナは鉛筆のような体に
長い黒髪。見開き2ページごとに、レナレナの奇妙なエピソードが紹介され、読み手
は笑いをこらえきれない。左ページはコマ割りの絵。右ページはポイントになる絵が
ひとつと、かわいい手書き文字。空白とのバランスがよく、しゃれた感じもする。
 レナレナは人間の髪を食べたいネズミに、逆立ちをして食べさせる――。地中にす
むミミズの引っ越しを手伝う――。水泳のあと甲羅干しをしながら、友だちの裸の背
中に草や小石をならべる――。
 レナレナの好奇心は、乳幼児のもつ強烈な好奇心を思わせる。レナレナも乳幼児も
自分の体や身近なものに興味を持ち、おとなには真似できないようなことをひょうひ
ょうとやってくれる。そんなときのレナレナの表情は、点と線で描かれた単純なもの
なのに、探究心にあふれ、真剣に見えるから不思議だ。またレナレナはネズミやミミ
ズなど小さな生き物たちとすぐに仲良くなる。それはおたがいの望みをかなえあうか
ら。たとえば、ミミズが体の上を歩きたいと思えば、歩かせてあげるのがレナレナ。
 この絵本に解説は似合わない。さっそく手にとって、笑ってほしい。きっと心のど
こかではレナレナのようなことをしてみたいと思うはず。

 作者のハリエット・ヴァン・レークは、1957年11月21日、オランダ、ライデン市
に生まれ、海や森など自然に囲まれて育つ。現在は、ロッテルダムの都会に移り住み、
絵本執筆のほか、人形劇の製作にも力をいれる。1987年、本書で金の石筆賞を受賞。
ほかの絵本作品に、"Het Bergje Spek"、"Henkelman, ons Henkelmannetje"など
がある。
                                       

(よしいちよこ)

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『みんなの広場』 アン・ルッヘルス・ファンデル・ルフ作
イエンニ・ダレンノールド絵 熊倉 美康訳 岩波書店 1968年

HET WILDE LAND and IEDERS LAND
An Rutgers vander Loeff/Jenny Dalenoord
1961, N.Samson N.V.
                                       
 町のまんなかにある草ぼうぼうの荒れ地、そこでは、子どもたちが毎日夢中で遊ん
でいた。ところがある日、事件がおこった。アクタレとノッポのたき火からジャガイ
モがぬすまれたのだ。それだけじゃない、ふたりだけのかくし場所になぞの手紙とお
返しのジャガイモが。「だれのしわざだ」アクタレとノッポを先頭に子どもたちは団
結し、荒れ地のまわりを毎日見張った。そしてとうとう現れたのは、横町からやって
きた黒人の子どもたち。みんなと一緒に遊びたいとその子たちはいう。初めはけんか
腰だった子どもたちだが、次第に心を開きかける。しかし、引っ込みがつかないアク
タレは、けんかで決着をつけようと言い張る。一方、市議会では荒れ地を有効につか
うための委員会がもうけられ、調査委員がやってきた。 
 この作品は、オランダで学校の教材として出版されたものである。しかし、決して
堅苦しくはない。作品の中の子どもたちは、荒れ地での経験を通して思いやりの気持
ちをはぐくみ、柔軟な心で他者を受け入れ、目標に向かって努力する。ごく普通の子
どもたちが活躍するこの作品は、同年代の読み手にとって受け入れやすく、共感しや
すいものだろう。しかも読んだ後、面白かった、だけで終わるのではなく、作品の中
の子どもたちと一緒に、読み手も共に成長できる作品である。

(松田 貴子)

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Updated: 2000/10/31

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