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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(99年6月)


『ちいさくなったパパ』表紙

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  『ちいさくなったパパ』

     LITEN

   ウルフ・スタルク/作 
   はたこうしろう/絵 
   菱木晃子/訳  小峰書店 1999.5 

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

 

★1999年 やまねこ賞 読み物部門大賞受賞!

 

 

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「どうして、おとなは遊べないの?」とつぜん、トーマスが私にきいた。
「なにいってるんだ? いま、いっしょに遊んでるじゃないか」
「ちがうよ。いまはただ、いっしょに車を組み立ててるだけだよ」
 ある日息子からこんなするどい指摘をうけたパパは、流れ星に願いをかける。
「わたしを子どものときのようにしてください」
 つぎの朝起きてみると、パパの体は小さくなっていた――。

 男の子の気持ちを書かせたら当代随一ともいわれるスタルクの新刊は、なんとパパの一人称で語られるユニークな作品だ。冒頭で紹介した一節、大人ならだれでもはっと思いあたるふしがあるのではないだろうか。わたしはもう、この会話を読んだだけで、鼻の奥がツンとしてしまった。

 そしてこのあとの展開は、まさにスタルクの独壇場。子どもにもどったパパが、息子のトーマスと友だちになって夢中で遊びまわるのだが、どの場面も単なるノスタルジーではなく、自分の中の子どもが呼びさまされるような爽快感にあふれている。息子が意外に冷静だったり、子どもならではの大変さがあったりと、現実的な視点が盛りこまれているところもさすが。それが独特のからりとしたユーモアの源なのだろう。

 はたこうしろうさんの絵も、まるで初めから作者とコンビを組んでいたかのようにぴったりはまっている。登場人物のなにげない表情や体のうごき、ぱっと視点を変えた映画のようなカット……。緻密で、大胆で、おしゃれで、いくら見ても見飽きない。

 とまあ、ついつい大人の視点から感想を書いてしまったが、うちの8歳の息子も、読み終えたとたん「あ〜、おもしろかった!」と満足のため息をもらしていた。彼は(当然のことながら)もっぱら息子の側に立って読んでいたらしい。最後の場面だけはよくわからなかったようだけれど(どんな場面なのかは実際に手にとってごらんください)、まあ、謎の部分がある本というのもいいじゃないか、と思う。何年かたって読み返したとき、また別の感想を持つことになるだろうから。そう、この本は年齢に応じていろいろな読み方のできる、味わい深い本なのだ。(内藤文子)                                                                                   

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【作者】

ウルフ・スタルク(Ulf Stark):1944年、ストックホルム生まれ。スウェーデンを代表する児童文学作家。1988年に絵本『ぼくはジャガーだ』の文章でニルス・ホルゲション賞、1993年に意欲的な作家活動にたいして贈られるアストリッド・リンドグレン賞、1994年に『おじいちゃんの口笛』(ほるぷ出版)でドイツ児童文学賞など、数々の賞を受賞。ほかに『白クマたちのダンス』(偕成社)、『うそつきの天才』『パーシーと魔法の運動ぐつ』『パーシーとアラビアの王子さま』(小峰書店)などがある。

【画家】

はたこうしろう(秦好史郎):1963年兵庫県西宮生まれ。広告、本の装幀、挿し絵、絵本などで活躍している。絵本に『どうぶつブック』(フレーベル館)『圧力ガンガン』(岩波書店)、挿し絵に『まめだまめだみつまめだ』(理論社)、
『うそつきの天才』『パーシーと魔法の運動ぐつ』『パーシーとアラビアの王子さま』(小峰書店)などがある。

【訳者】

菱木晃子:(ひしきあきらこ):1960年東京生まれ。慶應義塾大学卒業。スウェーデンの児童文学の翻訳で活躍している。訳書に『白クマたちのダンス』『おじいちゃんの口笛』、『なかないでくまくん』(徳間書店)、『うそつきの天才』『パーシーと魔法の運動ぐつ』『パーシーとアラビアの王子さま』(小峰書店)などがある。

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