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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(2001年10月)


動物たちとじっくり向き合ってみよう

 

どうぶつたち表紙絵

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THE ANIMALS「どうぶつたち」

THE ANIMALS

まど・みちお/詩

美智子/選・訳

安野 光雅/絵

すえもりブックス

1992.9.20

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

 子どものころ、童謡「ぞうさん」を口ずさむと、なんとも言えずしあわせな気持ち になりました。親しみやすくシンプルなことばなのに、不思議な力を持つこの詩の作 者は、まど・みちおさん。日本を代表する児童詩人です。

 今回ご紹介する『どうぶつたち・THE ANIMALS』(すえもりブックス)は、まどさ んのそんな心あたたまる動物の詩を集めた絵本です。左のページにまどさんの詩、右 のページにその英訳が並ぶという構成で、詩の選・英訳をされたのは、皇后美智子様 です。

 この詩集は、もともと、まどさんが国際的な児童文学賞である「国際アンデルセン 賞」候補に推薦された際、選考資料として美智子様が選・訳し、手作りの冊子にまと められたものが原型となっています。それが後に、やはり日本を代表する画家である 安野光雅さんの装本デザインにより、1992年に日米の出版社から同時に出版されまし た。日本の児童詩が、このようなかたちで世界に発表されたのは初めてのことで、2 年後の1994年、まどさんは見事国際アンデルセン賞を受賞しました。

 まどさんの詩には、動物たちへの愛情と敬意が短く簡素なことばに凝縮されていま す。とりあげられている動物は、おなじみのゾウ、シマウマ、チョウチョ、イヌから、 ナマコやイナゴまで、本当にさまざま。ときにユーモアをたたえた珠玉のことばがき らめき、ほんの数行の詩に動物たちのいのちの輝きがあふれているのです。

 そのまどさんの世界が、美智子様によって美しい英語の詩として新たないのちを得 ています。この鮮やかなことばの変換が可能なのは、皇后様ご自身も歌を詠まれる詩 人で、まどさんと同じ、あたたかな視線で動物や自然を見つめていらっしゃるからな のでしょう。

 安野光雅さんの挿画は、ベージュと白の二色だけを配した、ごくごくシンプルな切 り絵。まどさんの静ひつな詩の世界が、ここにも形を変えて再現されています。絵の デザインはすべてのページで同じですが、詩によってさまざまに表情を変えるようで、 何時間でもながめていたくなる不思議な味わいがあります。

 この絵本の価値は、3人の芸術家による奇跡のように美しい仕事を同時に見られる ことにあるのかもしれません。「どうぶつたち」のいのちのきらめきを、ぜひとも感 じてみてください。

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【作者】まど・みちお:1909年山口県に生まれ、10歳のときに家族とともに台湾に移住。10代から詩を書き始め、北原白秋に認められる。台湾総督府勤務中の1937年、水上不二らと同人誌「昆虫列車」を創刊、戦後は日本に戻って約10年間幼年向け文学雑誌の編集に従事。その後本格的に詩作生活に入り、「ぞうさん」「一ねんせいになったら」「ふしぎなポケット」など、戦後を代表する童謡の多くを生む。1968年、初めての詩集『てんぷらぴりぴり』で野間児童文芸賞受賞。以後『このラッパだれのかな』(フレーベル館)『やぎさんゆうびん』(さ・え・ら書房)など多数の詩集を発表。2001年5月には、これまでの全作品を集めた『まど・みちお全詩集』が理論社より出版された。

【画家】安野光雅(あんの みつまさ):1926年島根県に生まれる。山口師範学校卒業後、約10年間小学校で美術の教師を務める。その後、絵本作家、画家、装丁家として活躍するかたわら、エッセイや画文集などの仕事も精力的に手がける。1975年に"Anno's Alphabet" (Crowell) で米国のボストングローブ=ホーンブック賞絵本部門賞、1977年、1979年にはチェコスロバキアの BIB(ブラティスラヴァ世界絵本原画展)金のりんご賞、1984年には国際アンデルセン賞を受賞するなど、国際的な評価も高い。
絵本に『もじあそび』(福音館書店)『ふしぎなたね』(童話屋)他、画集に『ニューイングランド』(日本航空文化事業センター)など、作品多数。
 

森 久里子      

 

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『動物たちのひとりごと』

Over beestjes

イダ・ファン・ベルクム/作

野坂悦子/訳

あすなろ書房

1998.8.31

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

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 はずかしがりやのカメくんが人目を忍んでやってみたいことって? いつもハッピーなダックスフントのルッケくんが、めずらしく怒っているそのわけは? 動物好きの作家ベルクムが手掛けたこの絵本には、動物たちのひとりごとがいっぱい。ほかにも、カワウソ、ダチョウ、アリクイ、ナナフシなどが登場して、意外な本音を聞かせてくれます。

 一つ一つのお話は、見開き2ページ程度のごく短いもの。大笑いするほどではないけれど、思わずくすりと笑ったり、後からじんわりとおかしさがこみ上げてきたり……そんなお話ばかりが詰まった1冊です。

 粗い線にさっと色をつけただけのシンプルな絵も、作品のとぼけた雰囲気に合っています。動物たちの何気ない仕草を鋭く捉え、豊かな表情で描いた作品からは、動物たちに対する作者の愛情が伝わってきます。 どこから読んでも、どのお話だけ読んでもかまいません。ちょっと時間が空いたとき、「疲れたな」と感じたときに、お好きなページを開いてください。動物たちのひとりごとが、ほっとするひとときをもたらしてくれます。

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【作者】Ida van Berkum(イダ・ファン・ベルクム):1964年生まれ。1988年にオランダ、スヘルトゲンボスにある芸術アカデミーを卒業。1995年『ローザ』(未訳)でデビュー。

【訳者】野坂悦子(のさかえつこ):1959年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部に進学し、英文学を専攻。1985年より5年間、オランダとフランスで暮らす。現在は、英語とオランダ語の児童書の翻訳を手がけている。主な訳書に『赤い糸のなぞ』(メインデルツ作/偕成社)、『ハンナのひみつの庭』(アネミー&マルフリート・ヘイマンス作/岩波書店)などがある。

中野伊都子     

 

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