メニュー読書室レビュー集今月のおすすめレビュー集 オンライン書店

やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ(2003年9月)

<女の子は夏に大人になっていく。>

*************
トラベリング・パンツ』
"The Sisterhood of the Traveling Pants"
アン・ブラッシェア―ズ/作
大嶌 双恵/訳

理論社
2002.4
*************

*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。


 カルメン、ブリジット、ティビー、レーナの4人は幼なじみ。母親同士がマタニティーエアロビクスの教室で知り合ったので、生まれる前からの友達だともいえる。ちょっとかんしゃく持ちのカルメン、活発で行動力のあるブリジット、人に縛られるのがきらいなティビー、そしてクールなレーナ。性格のまったく違う4人だけれど、堅い友情でむすばれている。

 夏休みはいつも一緒に過ごしてきた4人だったが、今回はじめて別々の場所で過ごすことになった。カルメンはサウスカロライナの父親のところに、レーナはギリシャの祖父母の家へ、ブリジットはサッカー・キャンプでメキシコに、そしてティビーはひとり地元でアルバイトをすることになっていた。

 出発の前日、4人はカルメンが買った古着のジーンズをはいてみることにした。どこにでもありそうなジーンズに見えたのだが、不思議なことに細身のティビーにも、ちょっとお尻の大きなカルメンにも、そしてブリジットやレーナにもぴったりとフィットしたのだ。そのうえ、みんなをいつもよりもずっとステキにみせてくれた。体格のまったくちがう4人全員に似合うジーンズだなんて、これはもう魔法のジーンズにちがいない! 4人はジーンズ使用のルールを定め、夏休みの間中、かわりばんこにこのジーンズを持つことにした。ジーンズは4人の間を順番に旅(トラベリング)することになったのだ。魔法のジーンズとともに過ごす夏、彼女たちをまっていたのは忘れられない体験だった。

 アン・ブラッシェアーズはこの作品でデビューしたと思えないほど、魅力的な主人公たちを作り出すことに成功した。友情、家族、恋愛、新しい出会いや別れ、誰もがいつか体験するような出来事をリアルに描き、それに伴う彼女たちの微妙な心理状態や、感情の変化なども丁寧に描いている。また、別々の場所で起こる話をトラベリング・パンツでつないでいくという構成力も見事だ。

 この作品には魔法のジーンズが出てくるが、とても現実的な話になっている。ジーンズは彼女たちが困難に立ち向かう時にほんの少しの勇気を与えくれる。そして、起こった出来事や彼女たちの感情を静かにみつめながら記憶し、4人を一つにつなぎ合わせてくれる。ジーンズの魔法の力というのは、遠く離れても変わらない友情を思い出させてくれるものだったのかもしれない。

  はいた人を素敵に見せてくる魔法のパンツも欲しいと思うが、それよりもお互いを信じ、いたわりあえる、そんな彼女たちのような親友が欲しくなった。トラベリング・パンツは友情について考えさせられる、そんな作品である。ところでこの作品はワーナーブラーザースが映画権を獲得している。映画化も非常に楽しみである。

【作者】アン・ブラッシェアーズ Ann Brashares:
メリーランド州チェビー・チェイスで生まれる。コロンビア大学系列のバーナード・カレッジにて哲学を学ぶ。大学院の学費をためるために編集者として働きだしたのがきっかけで、ニューヨークでプロの編集者になる。やがて作家に転身し、この作品にて作家デビュー。現在ニューヨーク在住。芸術家の夫と3人の子供と暮らしている。

【訳者】大嶌 双恵 おおしま ふたえ:1960年北海道生まれ。京都女子短期大学英語科卒。翻訳学校で翻訳を学び、2001年『死ぬには、もってこいの日。』(ジム・ハリスン著、柏艪舎)で翻訳家としてデビューした。訳書に『殺人者には蜂蜜をおくる』(ジュリー・パーソンズ著、扶桑社)、『彼女が乳がんになって考えた』(ブレンダン・ハルビン著、ソニーマガジン)など。北海道在住。

【参考】
☆大嶌双恵さんのインタビュー(フーダニット翻訳クラブ)
http://www.litrans.net/whodunit/int/oshi.htm

白井久子

☆アマゾン・ジャパンでこの本の情報を見る
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4652077122/yamanekohonya-22
☆bk1でこの本の情報を見る
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3e0380f83cba50100f25?aid=p-yamaneko01386&bibid=02164481&volno=0000


*************

『セカンドサマー』
"The Second Summer of the Sisterhood"
2003.6

*************



 トラベリング・パンツと過ごす2年目の夏。オープンカレッジの映画製作コースに参加するためヴァージニアへ行くティビー。突然、アラバマの祖母に会いにいくことにしたブリジット。そして地元に残るレーナとカルメン。今年の夏もそれぞれ別々に過ごすことになった4人。去年の夏の体験で、少しは大人になったと思っていたけれど……。

 セカンドサマーは去年の夏よりももっと切なく苦しい。心の奥底にしまいこんだ悲しみ。見失ってしまった自分自身。はじめての本当の恋。母親との関係の変化。4人が体験したことは、つらいことばかり。でも、そのつらさに立ち向かう勇気をくれたのは、さらに深い友情でむすばれた親友たち。そして、その悲しみ、つらさを乗り越えたとき、4人は大人への階段をまた一歩のぼることができたのだった。

 若さゆえの純粋さ、もろさ、そして残酷さ。登場人物たちの深い心理描写は2作目も見事だ。セカンドサマーでは友情や恋愛の話に加えて、母と娘の関係についても詳しく描かれている。大人になるということは、けっして楽しいことばかりではない。4人は大人になるための通過点に立ったばかり、これから先、彼女たちの人生にどんなことが起こるのか見守っていきたくなるような、そんな作品になっている。作者の頭の中にはこのシリーズの次のアイデアもあるらしい。ぜひ、また少し成長した4人に再会したいものである。


   

白井久子

☆アマゾン・ジャパンでこの本の情報を見る
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4652077297/yamanekohonya-22
☆bk1でこの本の情報を見る
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3e0380f83cba50100f25?aid=p-yamaneko01386&bibid=02336652&volno=0000

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

<ひと夏の出会いが残していったものは……>

*************

『恋におちた人魚』
"Aquamarine"
アリス・ホフマン/作
野口百合子/訳
アーティストハウス

2002.07

*************

*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。


 真夏の陽射しは、地上の存在すべてを焼き尽くしそうだった。浜辺に隣接する〈カプリ・ビーチ・クラブ〉はかつての賑わいをなくし、8月一杯で閉鎖が決まっていた。テニスコートには雑草が生え、プールにはカモメが住みつき、寂れたクラブの最後を感じさせた。

 唯一開いている売店では、夏が終わったらマイアミの大学に行く予定の青年、レイモンドが店番をしている。客足の途絶えたクラブには、12歳の少女のヘイリーとクレアだけが、毎日のようにやってくる。親友同士の2人は、クレアの両親が交通事故で亡くなった時も、ヘイリーの両親が離婚した時も、お互いに支えあってきた。しかし、今は避けようのない別れが待っている。クレアが祖父母と共に遠いフロリダに旅立つことが決まっていたからだ。頼れる友と離れ離れになって1人でうまく過ごしていけるのか、友情も続けられるのか、2人とも不安を拭えなかった。

 そんな時、激しい嵐が通過していった。強風と高潮でからす貝が飛び散り、海藻でどろどろになったプールに、「遊泳禁止」の看板が空しく立てかけられた。その看板を目にした2人はやるせなくなる。プールには懐かしい思い出が沢山つまっていたから……。感極まったヘイリーは、プールに飛び込む。泳げないクレアは心配で水面を見つめて、気が気でない。やっとヘイリーが水面から顔を出した。ほっと胸をなで下ろすクレア。次の瞬間、2人は目を交わし、水中に何かを見つけたことを確認しあう。――プールの底に人魚がいる!

 人魚は、アクアマリンと名のった。アクアマリンは嵐で流れ着いたプールから顔を出した時、偶然ハンサムなレイモンドを見かけ、あろうことか彼に一目ぼれしていた。クレアもヘイリーも人間との恋は無理よと忠告するが、アクアマリンは彼と会えるまで絶対海には帰らないと言い張る。レイモンドは夏が終われば大学に行ってしまうし、アクアマリンも海に戻らなければ死んでしまう。2人はアクアマリンを海に戻すために、一度だけレイモンドに会わせてあげると約束し、思いきった計画を練る。

 中学の頃、私もヘイリーと同じような経験をした。親友が遠いところに引っ越したのだ。親友はお笑い系のタイプで涙もこぼさずに越していったが、私は寂しくて仕方がなかった。が、時が経つにつれ、物理的に親友と離れても友情は簡単に終わるものではないし、離れることで自分も成長するのではないかと感じた。別れというのも1つの成長の糧なのかもしれない。ホフマンは、このお話を従姉妹のキャロルと義姉妹にあたるジョー・アンとの思い出を元に書いたと公式ホームページで語っている。身近な存在が登場人物のモデルだったからだろう、少女たちの姿が生き生きと爽やかに描かれている。

 ところで、原書の英国版と米国版は邦訳よりも装丁がちょっと大人っぽい。私が持っている英国版には、ページごとに貝殻などの挿絵がちりばめられておしゃれだ。

【作者】アリス・ホフマン Alice Hoffman1952年ニューヨーク生まれ。アデルファイ大学、スタンフォード大学を卒業後、執筆活動に入る。幻想と現実を交差させた独特の作風は高い評価を得ている。新作を発表するたび全米ベストセラーとなり、映画化されているものもある。邦訳には、『7番目の天国』(岡真知子訳、早川書房)『オーウェンズ家の魔女姉妹』(船木裕訳 集英社)『タートルムーン』(深町真理子訳、早川書房)などがある。

【訳者】野口百合子 のぐち ゆりこ:東京外国語大学英米語学科卒。主な翻訳書に『コレクター蒐集』(ティボール・フィッシャー作、東京創元社)『狼の震える夜』(ウィリアム・ケント・クルーガー作、講談社文庫)『マリー・アントワネットの首飾り』(エリザベス・ハンド作、新潮社文庫)などがある。

【参考】
☆アリス・ホフマン公式サイト
http://www.alicehoffman.com/

高橋めい

☆アマゾン・ジャパンでこの本の情報を見る
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4048980882/yamanekohonya-22
☆アマゾン・ジャパンでこの本の原書を見る (英国版)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/1405203633/yamanekohonya-22
☆アマゾン・ジャパンでこの本の原書を見る (米国版)
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/0439098637/yamanekohonya-22
☆bk1でこの本の情報を見る
http://www.bk1.co.jp/cgi-bin/srch/srch_detail.cgi/3e0380f83cba50100f25?aid=p-yamaneko01386&bibid=02323607&volno=0000


今月のおすすめの目次

 

メニュー読書室レビュー集

copyright © 2003 yamaneko honyaku club