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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ

<いくら子どもが欲しくても、ねんどで作っちゃいけないよ>

ねんどぼうや

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ねんどぼうや』
"Clay Boy" 
ミラ・ギンズバーグ/文
ジョス・A・スミス/絵

覚 和歌子訳
徳間書店

2003.8

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。


  むかしむかし、ある村におじいさんとおばあさんが暮らしていました。ある日のこと、おじいさんは、ふたり暮らしのさびしさをまぎらわそうと、粘土のかたまりをこねて、小さな男の子の人形を作りました。人形は、火にあてられてすっかり乾くと、手足を動かし、立ち上がるなり言いました。「ぼく、ねんどぼうや! おなかぺこぺこ!」。
 まるまる太った、赤ちゃんのような体つき。あどけない表情。なんて愛らしいんでしょう!〈ねんどぼうや〉は、テーブルの上にぺたんと座り、両手でミルクのカップを抱えて、おいしそうに、ごくごくごく。おばあさんは、それをいとおしげに見つめながら、カップにおかわりのミルクをついでいます。でも――
 そう、ここからが大変なのです。くいしんぼうの〈ねんどぼうや〉は、もりもり食べては、どんどん、どんどん大きくなっていきます。食べても食べても、まだおなかをすかせ、「もっと、もっと」と叫んでいます。ああ、もうおじいさんの家には食べるものがありません。いったい、どうなることでしょう?

 ロシアに伝わる昔話をもとにしたという物語は、豊かな想像の世界を創り出しています。シンプルなストーリーは、不思議な力で聞く人をひきこみ、〈ねんどぼうや〉が〈たべもの〉を飲み下す「がぶっ、ごぶっ、」という音の響きは、耳だけでなく、全身に伝わってきます。一方で、躍動感に満ちたリアルな絵が、素朴な昔話に新鮮な驚きを与えています。思わず息をのむその迫力は、大判の絵本の画面から、なおあふれださんばかり。五感のすべてが刺激を受けて、イマジネーションが大きくふくらみます。
 作者のミラ・ギンズバーグは、旧ソ連ベラルーシ、ボブルイスク生まれ。水道も電気もない田舎町で、のびのびと育った少女時代に友人の家で出会った本がきっかけとなって「昔話」の世界のとりこになりました。渡米後、「豊かで美しい故国の物語を伝えたい」と、ロシアの昔話の翻訳や再話に取り組んでいます。
 この絵本は、ぜひ誰かに読んで聞かせてもらってください。力強い〈おはなし〉とスリル満点の絵に、おとなも子どもも、知らぬ間にのめりこんでしまうことでしょう。〈おはなし〉の醍醐味をたっぷり満喫できる、おすすめの1冊です。

【作者】Mirra Ginsburg(ミラ・ギンズバーグ):旧ソ連ベラルーシ、ボブルイスク生まれ。アメリカ在住。『ひよことあひるのこ』(ホセ・アルエーゴ、エーリアン・アルエーゴ絵/さとうとしお訳/アリス館)、『ねえ、キティおしえてよ』(ロジャー・デュボアザン絵/あらいゆうこ訳/ペンギン社)、『あめのひ きのこは……』(ステーエフ原作/ホセ=アルエーゴ、エーリアン=デューイ絵/くりやがわけいこ訳/偕成社)などの邦訳作品をはじめ、作品多数。

【画家】Jos.A.Smith(ジョス・A・スミス):1936年、ペンシルベニア州生まれ。ニューヨーク市在住。画家、彫刻家。ペンシルベニア州立大学で学び、ニューヨークのプラット・インスティテュートで30年以上教鞭をとっている。ファンタジックな画風で数多くの書籍の表紙や絵本を手がける一方、「タイム」、「ニューズウィーク」などの週刊誌に政治風刺画を寄せている。絵本作品にカラフルなABCの本 "Ogres! Ogres Ogres!"(ニコラス・ヘラー作、未訳)などがある。

【訳者】覚和歌子(かく わかこ):本名、川越博子。山梨県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専攻卒。詩作朗読家。作詞家として、小泉今日子、SMAP、沢田研二らに作品を提供。「朗読するための物語詩」という独自分野を開拓し、自作詩朗読パフォーマンスを国内外で精力的に展開している。映画「千と千尋の神隠し」主題歌「いつも何度でも」の作詞で2001年レコード大賞金賞受賞。著作に、第一作品集「ゼロになるからだ」(徳間書店)、写真詩集「薬罐」(富山房)などがある。

【参考】
◇覚和歌子公認公式ファンサイト『風雲うたよみギムナジウム』

杉本詠美

 やまねこきっずの感想 

〜恐かった編〜 (+_+;)
「やばっ、ホントにこえー!」
「シャレになんないよ」
「たたり神とおなじじゃん」
「うわー」
「ひぇっ……」
「マジかよ〜」
「ごぶり、がぶりが、めちゃくちゃ恐かった!」
〜ヤギ編〜(*^^*)
「……(ヤギのあたまをなぜなぜする)」
「ヤギがヒーローなんだね」
「かっこいー! がらがらどんみたい!」
(読む前)「ねんどぼうやだって、かわいい〜。ほしいな〜」
(読んだ後)「ヤギがかわいかった。ほしいな〜。」
(「ねんどぼうやは?」)
「いらない」(--;)
〜読み聞かせ・観察編〜
・ハッと息をのむような感じがサーッと広がる
・真剣な顔つきで見入る

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<愛や、夢や、幸せがたくさんつまっています>

ブリット・マリ

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ブリット‐マリは ただいま幸せ
"Britt-Mari lattar sitt hjarta"
(lattar、 hjarta それぞれ初めのaの上にウムラウト)
アストリッド・リンドグレーン作
石井登志子訳
徳間書店
2003.07


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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。


 私はブリット‐マリ、15歳の女の子。スウェーデンの田舎の村に住んでいます。私の家族は、校長先生の父さん、翻訳家の母さん、しっかりものの姉のマイケン、いたずら好きの弟スパンテ、下の弟のイェルケル、一番下の妹のモニカ、そして家族も同然のお手伝いさんのアリーダです。いつもにぎやかでうるさいくらいだけど、大好きな家族です。
   ある時、母さんが古くなったタイプライターを私に譲ってくれました。せっかくもらったタイプライターですもの、有効に使わなくっちゃ! でも、タイプライターは宿題の作文には使えないし、日記帳のように綴じてあるものにも使えません。もっとも、日記は好きじゃないので書きたいとも思いません。私は日記よりも手紙の方が好きなんです。だって、手紙は生きてる人と話してると実感できるんですもの。そういえば、私のクラスメートはみんなペンフレンドを持っているんですって。私にもペンフレンドがいたらいいのに。そうしたらいろんな話ができるし、タイプライターも役に立てられるのに。
 そんな時、クラスの子がペンフレンドを探している女の子の話を聞いて、興味のある人はいないかと、みんなに聞いたの。私はさっそく立候補をすると、家に帰ってすぐにその女の子に向けて手紙を書き始めました……。
 ブリット‐マリはペンフレンドへの手紙に、家族のことや学校のこと、友だちや気になる男の子の話、そして将来の夢などを、まるで目の前にいる友達と話をするかのように書いていきます。15歳の女の子の手紙は、若さにあふれ、純粋でキラキラ輝いてまぶしいほど。そんな手紙をのぞかせてもらっている私たちでさえ、ブリット‐マリと実際におしゃべりをしているような気分になってきます。
 また、この作品をより魅力的なものにしているのは愛情あふれる家族の姿でしょう。ブリット‐マリの家庭は明るく楽しく、そしてやさしさに満ちています。そんなすてきな家族を持てたことの幸せを、ブリット‐マリはいろんな人との交流や出来事を通じて自覚していきます。この作品を読むと、そばにあるのが当たり前のように思いがちな家族のありがたみが伝わってきます。
   その他にも、鮮やかに描かれるスウェーデンの自然や風景、家族で行う楽しい行事の数々など、この作品を彩る要素はたくさんあります。次々に登場するおいしそうな食べ物の話も、欠かすことのできない魅力の一つでしょう。読んでいくうちに、幸せでいっぱいな気持ちにしてくれること間違いなし!

 ところで、この作品はまだ普通の主婦であったリンドグレーンが、スウェーデンの出版社主催の少女向け懸賞小説に応募して、見事2位を獲得したものです。デビュー前の作品でありながら手紙という一人称の独白形式の小説を書いたこと、そしてその完成度の高さに驚かされます。とても楽しい作品ですが、その一方でこの作品が書かれた当時(1940年)の状況――戦争についてもさりげなくふれてあるなど、考えさせられる点のある作品にもなっています。リンドグレーンのファンなら、この小説を読みながら他の作品のルーツや、共通点などをみつける楽しみもあるかもしれません。 奈良久子

【作者】Astrid Lindgren(アストリッド・リンドグレーン):1907年スウェーデンのビンメルビューで生まれる。小学校の教師や事務員をしながら児童文学を執筆。1945年に出版された『長くつ下のピッピ』が、子供たちに絶賛されて一躍人気作家になる。その他にも「カッレ君」や「ロッタちゃん」のシリーズなど、子どもたちが主役の作品を多数発表。1958年に国際アンデルセン賞を受賞。2002年1月28日、94歳で亡くなった。

【訳者】石井登志子(いしいとしこ):1944年生まれ。同志社大学卒業。スウェーデンのルンド大学にてスウェーデン語を学ぶ。スウェーデン語の絵本や児童書の翻訳などを数多く手がける。訳書にリンドグレーン『雪の森のリサベット』(徳間書店)、エルサ・ベスコフ作『おひさまがおかのこどもたち』(徳間書店)など。 

奈良久子

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