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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

あなたがもし奴隷だったら


13.Jan.2000 NO.66 Sincerely やまねこの絵本箱 by 柳田 利枝

あなたがもし奴隷だったら

ジュリアス・レスター作 ロッド・ブラウン絵
片岡しのぶ訳 あすなろ書房

 今回ご紹介する『あなたがもし奴隷だったら』(ジュリアス・レスター作/ロッド・ブラウン絵/片岡しのぶ訳/あすなろ書房)は、アフリカの黒人たちが奴隷船でアメリカに運ばれ、南北戦争後に解放されるまでを描いた絵本です。ページをめくると、はじめから背筋が冷たくなるような、おそろしい絵が続きます。黒人たちが海に投げ捨てられた絵、板の上に横たえられ、手足を鎖でつながれて、荷物のように積み重ねられた絵、裸にされ、せりにかけられる絵などです。手首から縄で吊るされ、ムチ打たれて裂けた背中を見せている絵もあります。どれも思わず目をそむけたくなるような悲惨なものです。

 アメリカに昔、黒人奴隷がいて、その多くがアフリカ大陸から奴隷船とよばれる船で運ばれてきたことは、だれもが知っていることでしょう。でも、実際に自分が、すべてを奪われ、突然、そういう船に積み込まれることを想像したことがあるでしょうか? 

「あなたがもし奴隷だったら」表紙

 この絵本の作者は訴えます。あなたがもし奴隷だったらと、想像してみよう、と。そして、さらに、奴隷をムチうつ側の気持ちになってみよう、ともいっています。奴隷の気持ちがわかれば他人への理解が生まれるし、奴隷をムチ打つ側に立って考えてみれば、人間の心の醜さに気づくことができるというのです。

 黒人奴隷制度をつくりだしたのは、人間の心の醜い部分でした。人間の歴史が続くかぎり、このようなあやまちは、これからも形を変えて、果てしなく繰り返されるおそれがあります。ただ、もし、傷つける者が傷つけられる者の気持ちを想像することができれば、理解することができれば、悲劇が起こるのを避けられるのかもしれません。

 全編をとおして、黒人たちの苦痛の叫び声がきこえてくるような気がしました。魂を大きく揺さぶられる一冊です。

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。


やまねこの絵本箱

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