※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 2002年6月号(書評編) =====☆ ☆===== =====★ 月 刊 児 童 文 学 翻 訳 ★===== =====☆  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ☆===== No.41 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌● ●http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/      ● ●編集部:yamaneko-mgzn@office-ono.com 2002年6月15日発行 配信数 2540 無料● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2002年6月号(書評編)もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎賞情報:2002年ボストングローブ・ホーンブック賞発表 ◎特集:カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作レビュー ★カーネギー賞  "The Ropemaker" ピーター・ディッキンソン作   "Stop the Train" ジェラルディン・マコーリアン作  "Amazing Maurice and his Educated Rodents" テリー・プラチェット作 ★グリーナウェイ賞  "Fix-It Duck" ジェズ・オールバラ文/絵  "Katje the Windmill Cat" グレートヒェン・ヴォルフル文/ニコラ・ベイリー絵  "Silver Shoes" キャロライン・ビンチ文/絵  "Let's Get a Pup!" ボブ・グラハム文/絵 ◎注目の本(邦訳絵本):『氷の海とアザラシのランプ〜カールーク号北極探検記』           ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン文/ベス・クロムス絵 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞情報●2002年ボストングローブ・ホーンブック賞発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  1967年に創設されたこの賞は、6月から翌年5月までの1年間に米国で出版された 本を対象にしており、フィクションと詩、ノンフィクション、絵本の3部門に贈られ る。ボストングローブ(新聞社)及びホーンブック(児童文学評論誌出版社)主催。 2002年の ★Winner(受賞作)、☆Honor(次点、各部門2作品)は以下の通り。 【フィクションと詩】(Fiction and Poetry) ★"Lord of the Deep" by Graham Salisbury (Delacorte) ☆"Amber Was Brave, Essie Was Smart" by Vera B.Williams (Greenwillow) ☆"Saffy's Angel" by Hilary McKay (McElderry) 【ノンフィクション】(Nonfiction) ★"This Land Was Made for You and Me: The Life and Songs of Woody Guthrie" by Elizabeth Partridge (Viking) ☆"Handel, Who Knew What He Liked" by M.T.Anderson, illus. by Kevin Hawkes (Candlewick) ☆"Woody Guthrie: Poet of the People" by Bonnie Christensen (Knopf) 【絵本】(Picture Book) ★"Let's Get a Pup! Said Kate", illus. by Bob Graham (Candlewick) ☆"I Stink!" by Kate McMullan, illus. by Jim McMullan (Cotler/HarperCollins) ☆"Little Rat Sets Sail" by Monika Bang-Campbell, illus. by Molly Bang (Harcourt) 【フィクションと詩】部門受賞のグレアム・ソールズベリーの作品は、ハワイの海を 舞台に13歳の少年が漁を通して成長していく過程を描いた作品。ソールズベリーの邦 訳作品としては『その時ぼくはパールハーバーにいた』(さくまゆみこ訳/徳間書店) が出版されている。オナーに選ばれたべラ・B・ウィリアムズはかつて『かあさんの いす』(佐野洋子訳/あかね書房)で本賞の絵本部門に輝いた。一方ヒラリー・マッ カイもわんぱく四人姉妹物語『夏休みは大さわぎ』(ノーマン・ヤング絵/ときあり え訳/評論社)でガーディアン賞を受賞した作家である。 【ノンフィクション】部門の受賞作と、オナーに選ばれたうちの1作は、共に20世紀 を代表するフォーク・シンガー・ソングライター、ウッディ・ガスリーの物語である。 パートリッジの作品はYA向け読み物、クリステンセンの作品は低年齢から楽しめる 絵本だ。パートリッジは2003年5月に新作 "Whistling"(Anna Grossnickle Hines 絵)を出版する予定。もう一つのオナー、アンダーソンの作品は、音楽の母といわれ るヘンデルを取り上げたもの。画家のケビン・ホークスは『ウエズレーの国』(ポー ル・フライシュマン文/千葉茂樹訳/あすなろ書房)でグリーナウェイ賞の commended に選ばれている。 【絵本】部門の受賞作はオーストラリア出身のボブ・グラハムの作品。オーストラリ ア児童図書賞の他、グリーナウェイ賞の候補にも挙がっている(本誌今月号「グリー ナウェイ賞候補作レビュー」記事参照)。オナーに選ばれた作品は2作とも家族で取 り組んだもの。"I Stink!" では妻が文を、夫が絵を担当し、一方 "Little Rat Sets Sail" では娘が文を、母親が絵を担当している。ケイト・マクマランの作品では、再 話を担当した『ジキルとハイド』(R・スチーブンソン作/原田友子訳/笠原彰絵/ 金の星社)などが邦訳出版されている。モニカ・バング・キャンベルは、この作品で デビュー。母親のモリー・バングは『ソフィーはとってもおこったの!』(おがわひ とみ訳/評論社)で一昨年コールデコット賞オナーに選ばれた。                                 (西薗房枝) 【参考】 ◇ホーンブック公式サイト http://www.hbook.com/bghb.shtml ◆ボストングローブ・ホーンブック賞受賞作品リスト (やまねこ翻訳クラブ データベース) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/bookdb/award/us/bghb/ ◇べラ・B・ウィリアムズ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ データベース) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/bookdb/author/w/vwilliams.htm ◆"Amber Was Brave, Essie Was Smart" レビュー (「月刊児童文学翻訳あるふぁ」2001年10月号/有料、1部100円) バックナンバー購読はこちら↓ (まぐまぐプレミアム会員登録が必要) http://premium.mag2.com/j/004/0001.htm ◇エリザベス・パートリッジ公式サイト http://www.elizabethpartridge.com/ ◆ケビン・ホークス絵『ウエズレーの国』レビュー (やまねこ翻訳クラブ「今月のおすすめ」) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/osusume/1999/weslnd.htm ◇ケイト・マクマラン公式サイト http://www.katemcmullan.com/direct.html ◆モリー・バング『ソフィーはとってもおこったの!』レビュー (本誌2000年4月号書評編「注目の本(未訳絵本)」) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/dtp/2000/04b.htm#mehon ◇モリー・バング公式サイト http://www.mollybang.com/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集●カーネギー賞・グリーナウェイ賞候補作レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  昨年に引き続き、やまねこ翻訳クラブでは、カーネギー・グリーナウェイ両賞の候 補作を読み比べ、レビューを書くという企画を行った。今月と来月の2回にわたり、 その成果をご報告したい。今月号では、カーネギー賞3作、グリーナウェイ賞4作の レビューをお届けし、次号では、残りのレビューに加え、受賞結果を速報でお届けす る予定。受賞作の発表は7月12日。候補作一覧は本誌先月号書評編を参照のこと。  なお、特に記載がないもののレビューは英国版の本を参照して書かれている。 【参考】 ◇カーネギー・グリーナウェイ両賞サイト http://www.carnegiegreenaway.org.uk/ ◇カーネギー・グリーナウェイ両賞について (本誌1999年7月号書評編「世界の児童文学賞」) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/dtp/1999/07a.htm **************************************************************************** ★カーネギー賞(作家対象)候補作 **************************************************************************** "The Ropemaker" 『ロープメーカー』(仮題) by Peter Dickinson ピーター・ディッキンソン作  Macmillan Children's Books 2001, 432pp. ISBN 033394738X(UK) Delacorte Press 2001, 375pp. ISBN 0385729219(US) (このレビューは、US版を参照して書かれています) ★2002年プリンツ賞オナー(次点)受賞作  はるか昔に山と森にかけられた魔法によって、平和を保ってきた〈谷〉。ところが、 長い歳月を経て魔法の力が弱まり、他国の侵略の危機が迫る。南の帝国に住む伝説の 魔術師を探し出し、〈谷〉を救わなければ――。そのとき、魔法のスギの木が一人の 娘を指名した。森の魔法を守る家系に生まれながら、その能力に恵まれず、疎外感と 劣等感に悩む娘ティルジャだ。山と森以外には魔法のない〈谷〉から、魔法が渦巻く 未知の世界へ。とまどいや不安、家族や故郷への想いを胸に、ティルジャは冒険の旅 に出た。  ユニコーン、魔術師の指輪、伝説の鳥ロックなど、華やかな仕掛けの数々、謎の魔 術師ロープメーカーとの出会い……。スリリングで先の読めない展開が、読者を物語 の中に引き込んでいく。背景となる帝国社会の詳細な描写、設定も独特だ。人の死ま でを管理しようとする独裁下で、老人が死の許可証を求めて旅をする制度など、異様 な設定が目をひく。そこには作者の社会批判や死生観が窺え、魔法の源はすべての人 や自然の中にあるという魔法観とともに、作品に奥行きと広がりを持たせている。旅 の途中で自らの持つ不思議な力に気づき、生き方を模索し始めるティルジャ。その鮮 やかな成長ぶりが心に残った。冒険と自分探しの旅に、作者独自の世界観を絡めた、 読み応え十分のハイファンタジー。じっくりと味わいたい1冊だ。                                 (児玉敦子) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】Peter Dickinson(ピーター・ディッキンソン):1927年北ローデシア(現ザ ンビア)のリビングストンに生まれ、7歳から英国で育つ。ケンブリッジ大学卒業後、 雑誌の編集をしながら、大人向けのミステリや児童書を執筆。1979年 "Tulku"、1980 年 "City of Gold" で2年連続カーネギー賞に輝いたほか、ガーディアン賞、ウィッ トブレッド賞、BGHB賞など数々の賞を受賞。邦訳多数(詳細は下記リスト参照)。 ◇ピーター・ディッキンソン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ データベース) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/bookdb/author/d/dcknsn.htm **************************************************************************** "Stop the Train" 『列車を停めちゃえ』(仮題) by Geraldine McCaughrean ジェラルディン・マコーリアン作 Oxford University Press 2001, 238pp. ISBN 01902719017  1893年、オクラホマ州の開拓予定地、フローレンス。壮大な夢を抱く人々が土地の 権利を手に入れ、生活を始めた。しかし、早くも貪欲な鉄道会社は、その土地と夢を 買い占めようとした。本物の開拓者精神をもつ市民が、当然のようにそれをはねつけ ると、執念深い鉄道会社の社長は誓った。「列車はフローレンスでは停車させない!」 と。草原の真ん中で、交通手段を失えば、産声をあげたばかりの町は消えてしまう。 食料雑貨店の一人娘、シシーをはじめフローレンスの人々には、わが町の繁栄した将 来像がもうしっかりと見えていた。だから簡単に諦めるわけにはいかない。なにがな んでもあの列車を絶対に停めてみせるぞ!  名語り部、マコーリアンならではの楽しい物語だ。市民の熱心な努力により鉄道会 社に停車駅を作らせた、エニッド・オクラホマでの実話に基いているらしい。登場人 物の描写には誇張や類型化が見られるが印象深く、読者は、市民と一緒になって鉄道 会社を憎み、列車停止計画の進退に一喜一憂するだろう。ただし、この作品では、厳 しい自然条件や飢え、病気などで多くの人が亡くなった、実際の開拓の悲惨さには触 れられていない。作者は正確な史実より、難局を意外な発想で切り抜けてきた開拓民 の精神を伝えたかったのだろう。それは、アメリカ人が最も誇る精神に違いない。                                 (池上小湖) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】Geraldine McCaughrean(ジェラルディン・マコーリアン):1951年生まれ。 デビュー作 "A Little Lower than Angels" で1987年にウィットブレッド賞を、続い て1988年には『不思議を売る男』(金原瑞人訳/偕成社)でカーネギー、ガーディア ン両賞を受賞して以来、多くの名作を発表し、受賞も果たしてきた。昔話の再話に特 に定評があるが、ファンタジー、冒険ものなど、多岐に渡る作品で活躍している。 **************************************************************************** "Amazing Maurice and his Educated Rodents" 『素晴らしきモーリスと教養ある鼠族』(仮題) by Terry Pratchett テリー・プラチェット作 Doubleday 2001, 269pp. ISBN 0385601239(UK) HarperCollins 2001, 242pp. ISBN 0060012331(US) (このレビューは、US版を参照して書かれています)  魔法使いの大学のゴミを食べて、突然賢くなったネズミたち。ネズミだけの国を建 設すべく、やはり知恵づいた猫モーリスと手を組み、人間相手の詐欺商売で資金調達 に精をだしてきた。しかし、町々を渡り歩くうち、人間を騙すことに倫理的な抵抗を 感じ始めたネズミたちは、次の町を最後にこの商売から足を洗うと決める。その町は 遠目には裕福そうに見えたが、中に入ってみると人々は飢えに苦しんでいた。ネズミ の被害のせいだというのだが、当のネズミの姿はちっとも見当たらない……? 奇妙 な矛盾を探りはじめたモーリスたちは、やがて恐ろしい敵の存在に気づく。  有名な大人向けファンタジー「ディスクワールド」シリーズに、はじめて児童向け の作品が登場。シリーズを未読でも単独でじゅうぶん楽しめる。“栄養たっぷり”、 “立入禁止”など、笑える名前(なにしろ、ゴミの中の缶詰のラベルや標識から自分 の名前をつけたものだから)のネズミたちが愛らしい。知恵がつくと同時に羞恥心が 芽生え、道義的、哲学的悩みが生じるネズミたちの姿は、成長過程にある人間の子ど もを暗に示唆しているのかも? だけどその筆致は戯画的で、ちっとも重くない。お 堅い教訓や問題提起はすべて、イギリス人らしいユーモアに満ちた語り口で包まれて いるし、物語は“ハメルンの笛吹き”のパロディという枠組みに見事におさめられて いる。その軽やかさ、楽しさが本書の醍醐味。素直に味わいたい。                                 (菊池由美) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】Terry Pratchett(テリー・プラチェット):1948年生まれ。ジャーナリスト として働き、1987年に「ディスクワールド」シリーズを書き始め、英米で大好評を得 る。シリーズは今も続刊中。角川書店、三友社、鳥影社から一部邦訳あり。児童書の 邦訳には「遠い星からきたノーム」シリーズ3部作(鴻巣友季子訳/講談社)がある。 英国ウィルトシャー在住。 **************************************************************************** ★グリーナウェイ賞(画家対象)候補作 **************************************************************************** "Fix-It Duck" 『おいらにおまかせ』(仮題) by Jez Alborough ジェズ・オールバラ文/絵 Picture Lions 2001, 30pp. ISBN 0007106238(UK) HarperCollins Publishers 2002, 33pp. ISBN 0060006994(US) (このレビューは、US版を参照して書かれています)  アヒルくんが部屋でお茶を飲んでいると、天井からカップにしずくがポトン。おや、 雨もり。こいつはいけない。よっしゃ、おいらにまかせとけ。アヒルくんは道具箱を 持って外へ。けれども屋根は高くて上れそうにない。そうだ、ヒツジくんに梯子を借 りよう。ヒツジくんのトレーラーハウスに入ってわけを話していると、天窓がギイギ イ。あの窓、きっちり閉まらないんだとヒツジくん。よっしゃ、おいらにまかせとけ。 アヒルくんは接着剤を塗って、ねじをまわして、金槌でトン、トン、あっ!――。  黒点の目にだいだい色の大きなくちばし。ブルーの帽子がお似合いのアヒルくんは 失敗してもぜんぜんめげない。意気揚々と取りくむ(そして被害をどんどん広げる) 姿はまさに人生を前向きに楽しんでいる感じ。一方、散々な目に遭うヒツジくんをは じめ、ほかの動物たちが驚き、恐れ、嘆き、呆れる描写はかなり大げさだ。ヒツジく んたちの心情がありありと伝わってきて、アヒルくんの能天気ぶりと対照的で笑える。  実は、次々起こる悲劇(喜劇?)の本当の発端は意外なところにある。それがさり げなく片隅に描かれ最後に明かされる演出も心にくい。調子のいい文章にのって明る い配色の絵が躍動している。のりにのって音読したあとは、表紙から裏表紙までたっ ぷり描かれた絵をじっくり読みたい。絵本の特質を存分に生かした作品だ。                                 (三緒由紀) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文・絵】Jez Alborough(ジェズ・オールバラ):1959年、イングランド南東部サ リーのキングストン・アポン・テムズ生まれ。ノーリッジの美術大学卒業。はじめ2 年間は挿絵だけを描いていたが、その後、文も絵も自作するようになった。本作は "Duck in the Truck" の続編。日本では『ぎゅっ』(徳間書店)が紹介されている。 ロンドン在住。 **************************************************************************** "Katje the Windmill Cat"『風車小屋のカッチェ』(仮題) by Gretchen Woelfle, Illustrated by Nicola Bayley  グレートヒェン・ヴォルフル文/ニコラ・ベイリー絵 Candlewick Press 2001, 25pp. ISBN 0763613479  風車小屋の粉ひき職人、ニコの飼い猫カッチェはたいそうな利口者。小屋からネズ ミを追い払い、ニコの仕事を助けながら、愉快に暮らしていた。そんな楽しい生活も、 ニコにお嫁さんが来てからがらりと変わってしまった。きれい好きのお嫁さんは、カ ッチェが床に足跡をつけるのも、生まれたての赤ちゃんと遊ぶのもいやがった。赤ち ゃんとカッチェはとても仲良しなのに。そんなある日、村が嵐におそわれて大洪水に なってしまった。あぶない、ニコの家に水が……。  この昔話ふうの愛らしい物語は、15世紀のオランダでほんとうにあった出来事をも とに書かれている。そのお話に、画家ニコラ・ベイリーが、この上なくやさしくあた たかい肌合いの絵を添えた。猫の絵を描かせたら右に出る者はいないと言われるベイ リー、この絵本でも猫の姿態や表情を深い愛情を込めて描いている。嬉しくてお腹を 上にして寝ころぶカッチェ。洪水に呑まれてずぶぬれのカッチェ。髭の先にも肉球に も、画家の猫への思いがこぼれるようだ。これまでの細密画風の密度の濃い作風がや や抑えられ、水彩色鉛筆の味わいをうまく生かしたソフトで愛嬌のある絵に仕上がっ ており、それがお話の雰囲気によく合っている。各ページに配された、オランダ特産 のデルフトタイルの絵柄が、お話の内容に絡んでいてなかなか面白い。若草のような 薄緑色の瞳のカッチェは、画家にいつも寄り添う愛猫パンジーがモデルだという。                                  (中務秀子) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【絵】Nicola Bayley(ニコラ・ベイリー):1949年、シンガポール生まれ。英国の 王立芸術大学卒業。在学中から細密画を描き始める。1975年、『マザーグースのうた がきこえる』(由良君美訳/ほるぷ出版)でデビュー。『ネズミあなのネコの物語』 (今江祥智・遠藤育枝訳/BL出版)は数々の賞を受賞し、1990年度のグリーナウェ イ賞の commended にも選ばれた。英国ストックウェル在住。 **************************************************************************** "Silver Shoes" 『シルバー・シューズ』(仮題) by Caroline Binch キャロライン・ビンチ文/絵 Dorling Kindersley Limited 2001, 25pp. ISBN 0751327549(UK,pb) DK Publishing, Inc. 2001, 32pp. ISBN 0789479052(US,hb) (このレビューは、US版を参照して書かれています)  モリーはダンスが大好き。おばあちゃんのうちに行くと、おばあちゃんの(ぶかぶ かの)銀のダンス靴を借りて踊っちゃう――カタカタカッタン。そんなモリーが仲良 しのベバリーとダンス教室へ行くことになった。ダンスの靴はおばあちゃんがもって るような銀の靴でなきゃ、とモリーは思う。でもママはいった、「教室に通っていけ そうかたしかめてからね」。教室に行くと、ほとんどの子たちが銀の靴で踊ってた。 次の週には、ベバリーもいとこから銀の靴をもらってた。そこでモリーもママと銀の 靴を買いに行くのだけれど……。  うれしい顔、不安な顔、悲しい顔、いじけた顔、得意げな顔――モリーのさまざま な表情をビンチは鮮やかな水彩で見事に描き分けている。モリーを見守る大人たちの やわらかな表情もとてもリアルで、彼らの体温まで感じられる。そして絵本から立ち のぼる躍動感。モリーのダンスに誘われて、自然にわたしの足まで動いてしまう―― タン、タタン……。踊ることが自分の一部になってるモリーを見ると、“心から好 き”ってこういうことなんだとわかってくる。  裏表紙の、モリーとおばあちゃんのダンス・シーンや、おしゃれなモリーの服にも ご注目! 絵が読み手の心をとらえる、エネルギッシュな作品だ。                                 (蒲池由佳) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文・絵】Caroline Binch(キャロライン・ビンチ):1947年、英国マンチェスター 生まれ。ソールフォード・テクニカル・カレッジでグラフィック・デザインを学ぶ。 おもな作品に、スマーティーズ賞(0-5 years 部門)を受賞した "Hue Boy"、グリー ナウェイ賞 Highly Commended に選ばれた "Down by the River" などがある。邦訳 はまだない。コーンウォール在住。 **************************************************************************** "Let's Get a Pup!" 『こいぬをかおうよ!』(仮題) by Bob Graham ボブ・グラハム文/絵 Walker Books 2001, 32pp. ISBN 0744575745  ケイトは毎晩、大きなベッドにひとりで寝ていた。去年の冬に、それまでいっしょ に寝ていたネコのタイガーが死んでしまったから。でも、夏の日射しがまぶしいある 朝のこと、目を覚ましたケイトは、パパとママの寝室にかけこんでこう言った。「こ いぬをかおうよ!」――朝食後、3人はさっそく『犬の保護センター』へ行き、連れ て帰れそうな子犬を探した。そこで見つけたのが、ケイトの好みにぴったりの、デイ ブという名前の小さくてかわいらしい子犬。3人はデイブを抱き上げて帰ろうとする が、そのとき、ロージーという名前の年老いた犬と目が合って……。  犬との出会い、犬との生活――犬を飼いはじめることは、日常のなかのちょっとし た「事件」だ。作者のボブ・グラハムは、そのわくわくするようなできごとを、マン ガタッチの親しみやすい絵で描き出している。幼い少女とイマドキのおしゃれな若い 両親が、犬を家族の一員として愛する姿がほほえましい。そこには、実生活でも犬を 飼っているというグラハムの、あたたかな思いが込められているのかもしれない。  愛嬌たっぷりの子犬のデイブと、大きくて毛がふかふかしている老犬ロージーも魅 力的なキャラクターだ。「こんな犬を飼いたい!」と思う読者も多いことだろう。  この作品は、本年度ボストングローブ・ホーンブック賞を受賞している(本誌今月 号「賞情報」参照。米国版タイトルは "Let's Get a Pup! Said Kate")。                                 (生方頼子) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文・絵】Bob Graham(ボブ・グラハム):1942年オーストラリア生まれ。美術教育 関係の仕事に携わったのち、絵本を手がけはじめる。邦訳作品に、1997年度グリーナ ウェイ賞 Highly Commended に選ばれた『チャボのオッカサン』、2000年にスマーテ ィーズ賞を受賞した『ちいさなチョーじんスーパーぼうや』(ともに、まつかわまゆ み訳/評論社)、『はいっちゃだめ』(作者名表記ボブ・グレアム/掛川恭子訳/岩 波書店)などがある。現在は家族とともに英国サマセット州に在住。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(邦訳絵本)●アザラシのランプが見守った極寒の旅 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『氷の海とアザラシのランプ〜カールーク号北極探検記』 ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン文/ベス・クロムス絵/千葉茂樹訳 BL出版 本体1,600円 2002.03 48ページ "The Lamp, the Ice, and the Boat Called Fish" by Jaqueline Briggs Martin, Illustrated by Beth Krommes Houghton Mifflin Company, 2001 ★2001年度ゴールデン・カイト賞絵本(絵)部門受賞作  1913年夏、「魚」という意味のカールーク号に、カナダの北極探検隊の科学者たち が乗り込み、航海に旅立った。北極地方の植物や人びとの研究をしたり、新しい島を 発見したりするのが目的だ。隊長はイヌピアク族の一家も船に乗せた。お母さんは北 極の寒さにたえるための服やブーツを縫ってくれるだろうし、お父さんはアザラシを とってくれるだろう。8歳と2歳の娘たちもいっしょだった。  ところが、カールーク号はいつもより早く来た冬の寒さで氷にとりかこまれ、動け なくなってしまう。隊長と5人の隊員は、カリブー狩りに出かけて、陸地にたどり着 くことができた。そしてオタワの政府に船が氷に閉じ込められたことを報告しただけ で、そのまま探検に行ってしまい船にはもどらなかった。その時から船長が隊長とな った。残された人びとは、生き延びるために働く。年が明けてまもなく、とうとう船 は沈んでしまった。そこで船の人びとは、氷の上を歩いてわたる危険な旅に出る。  実際におきた出来事を、イヌピアク族の一家を中心に描いた物語。寝ているとき床 の氷が割れて落ちそうになったり、食べ物が見つからず飢えに悩まされたりと苦難が 続く。それでもどこかゆとりを感じるのは、一家が希望を失わないからだろう。出発 まえにおばあちゃんからいわれた「ランプと歌のあるところ、そこがおまえの家なん だ」という言葉どおり、一家が落ち着く場所には必ずランプが描かれていて、ここは 家だから安心なんだよと思わせてくれる。  ベス・クロムスが描く氷に囲まれた極寒の地は、おさえた色合いながらあたたかさ も感じさせてくれてすばらしい。北方民族の装飾美術を研究しているというクロムス は、石をけずってつくるアザラシ油のランプや、ウルという丸い刃のナイフなどイヌ ピアク族の道具類を細かく描いている。生活のようすがひとめでわかって興味深い。  巻末にはカールーク号の乗客と乗組員全員の名前と消息、生存者の写真がついてい る。実話であることの重みを感じながら、何度でも読みかえしたくなる絵本だ。                                (竹内みどり) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文】ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン(Jaqueline Briggs Martin):米国 メイン州生まれ。『雪の写真家ベントレー』(メアリー・アゼアリアン絵/千葉茂樹 訳/BL出版)ではコールデコット賞を受賞。アイオワ州在住。 【絵】ベス・クロムス(Beth Krommes):スクラッチボードと水彩絵具をもちいた絵 で注目を集めるイラストレーター。挿絵を描いた作品に "Grandmother Winter" (text by Phyllis Root)などがある。ニューハンプシャー州在住。 【訳】千葉茂樹(ちば しげき):国際基督教大学卒業。児童書の編集に携わったあ と、英米作品の翻訳者として活躍中。訳書に『ちいさな労働者』(ラッセル・フリー ドマン作/あすなろ書房)、『みどりの船』(クェンティン・ブレイク作/あかね書 房)、『スターガール』(ジェリー・スピネッリ作/理論社)などがある。 【参考】 ◆J・B・マーティン作品リスト(やまねこ翻訳クラブ データベース) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/bookdb/author/m/jbmartin.htm ◇ベス・クロムス作品リスト(やまねこ翻訳クラブ データベース) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/bookdb/author/k/bkrommes.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ●  本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 (今号掲載の本の情報は、6月18日から反映される予定です。)こちらの「やまねこ オンライン書店街」よりお入りください。 http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/shop/index.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●ウイルスメールにご注意!●  相変わらずコンピューター・ウイルスが流行しています。今大流行しているのは 「WORM_KLEZ」(クレズ)と呼ばれるもので、送信元を詐称したメールを送りつけて きます(この場合、送信元が感染源ではありません)。送信元に心当たりがあるから といって、安易にメールを開くと、感染してしまうことになります。ちなみに「月刊 児童文学翻訳」関連のアドレスから、皆様に添付ファイルつきのメールをお送りする ことはありません。万一そのようなメールが届いたら、それは送信元詐称のウイルス メールですので、決して開かないでください。  対策としては、Internet Explorerのセキュリティホールへの対策を行い、メール ソフトの設定で、メールを不用意に「プレビュー」してしまわないようにご注意くだ さい。各種のウイルス対策ソフトの導入もおすすめします。 【参考】クレズ対策Web http://www.trendmicro.co.jp/klez/ PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【イロイロあるから、いろいろ楽しい FOSSIL】 ボタンを押すと「赤い」文字盤が「ブルー」に変わる、大きなデジタル数字が文字盤 を占領して秒ごとに時計の表情が変わる、しかもその数字が漢字だったり、カバーガ ラスがビー玉みたいにコロンと丸っこかったりする・・・。小さな腕時計の中にいろ いろな「遊び心」を詰め込んでいるのが、フォッシルのウオッチ。直営店にもぜひご 来店ください。 《渋谷区神宮前 4-26-28 JUNK YARD 1F TEL 03-5413-6118 》 http://www.fossil.com       (株)エス・エフ・ジェイ:やまねこ賞協賛会社 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽  海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽ やまねこ翻訳クラブ(yamaneko-mgzn@office-ono.com)までお気軽にご相談ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━    ☆★姉妹誌「月刊児童文学翻訳あるふぁ」(購読料/月100円)☆★ 洋書ビギナーにおすすめの、楽しく読める未訳書ガイド。クイズに答えてポイントを ためると、プレゼントももらえます。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。    http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/alfa/index.htm (第10号は7月5日発行。申し込み手続きは前日までにおすませください。) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●カーネギー・グリーナウェイ両賞の候補作読み比べ、いかがでしたか。 来月も引き続き候補作レビューを掲載します。(き) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発 行 やまねこ翻訳クラブ        発行人 河原まこ(やまねこ翻訳クラブ 会長) 編集人 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 河まこ キャトル きら くるり こべに さかな 小湖 Gelsomina     sky SUGO Chicoco ちゃぴ つー 月彦 どんぐり NON BUN      ぱんち ベス みーこ みるか 麦わら MOMO YUU yoshiyu りり     Rinko ワラビ わんちゅく 協 力 @nifty 文芸翻訳フォーラム     小野仙内 ながさわくにお 蒼子 anya ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除もこちらからどうぞ。 ・バックナンバーは、http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/でご 覧いただけます。 ・ご意見・ご感想はyamaneko-mgzn@office-ono.comまでお気軽にお寄せください。 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●無断転載を禁じます。