※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 2002年7月号(書評編) =====☆ ☆===== =====★ 月 刊 児 童 文 学 翻 訳 ★===== =====☆  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ☆===== No.42 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌● ●http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/      ● ●編集部:yamaneko-mgzn@office-ono.com 2002年7月15日発行 配信数 2550 無料● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2002年7月号(書評編)もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎賞情報1:2002年チルドレンズ・ブック賞発表 ◎賞情報2:速報! 2002年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表 ◎特集1:カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作レビュー ★カーネギー賞  "Love that Dog" シャロン・クリーチ作(Commended)  "Jake's Tower" エリザベス・レアード作  "The Kite Rider" ジェラルディン・マコーリアン作 ★ケイト・グリーナウェイ賞  "Pirate Diary: The Journal of Jake Carpenter"(受賞作)   リチャード・プラット文/クリス・リデル絵  "Sometimes I Like to Curl up in a Ball"(Highly Commended)   ビッキー・チャーチル文/チャールズ・フュージ絵  "The Witch's Children" アーシュラ・ジョーンズ文/ラッセル・エイト絵  "Tatty Ratty" ヘレン・クーパー文/絵 ◎特集2:ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会 ◎Chicoco の親ばか絵本日誌:第18回「ぼく大きくなりたい」(よしいちよこ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞情報1●2002年チルドレンズ・ブック賞発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  6月15日、チルドレンズ・ブック賞が発表された。1980年に「子どもの本グループ 連盟(FCBG)」主催で始められたこの賞は、子ども向けのフィクションを対象に、候 補作から受賞作まで子どもたちの投票によって決められる。幼年向け、低学年向け、 高学年向けという3つのカテゴリーでそれぞれ1作ずつ賞が与えられ、さらにその中 から大賞が選ばれる。審査員の子どもたちには、受賞パーティーへ出席し候補作家た ちと交流できる、という素敵な特典までついている。  今年度の大賞作★、受賞作☆、は以下の通り。最終候補作(The Top Ten)につい てはやまねこ翻訳クラブサイトの「海外児童文学賞速報」などを参考にして欲しい。 ★大賞(高学年向け部門)  (The Overall Winner & The Winner of Books for Older Readers Category)  "Noughts & Crosses" by Malorie Blackman (Doubleday) ☆低学年向け部門(The Winner of Books for Younger Readers)  "Out of the Ashes" by Michael Morpurgo & Michael Foreman (Macmillan) ☆幼年向け部門(The Winner of Books for Younger Children)  "The Man who Wore All his Clothes" by Allan Ahlberg & Katharine McEwen  (Walker Books)  大賞を受賞した "Noughts & Crosses" は、今年度のランカシャー・チルドレンズ・ ブック賞も受賞している。作中の社会では、Crosses と呼ばれる人々が権力をもち、 Noughts の人々を抑圧している。その社会の中で幼なじみの男女が、お互いの立場の 違いや人種差別、偏見に立ち向かいながらも、社会構造の重圧に打ちのめされていく。 重いテーマを、リアルに表現した作品だ。  低学年向け部門を受賞したのは、一昨年に大賞受賞、昨年は最終候補作入りを果た しているモーパーゴ。今回の作品は口蹄疫が発生してしまった農場に住む少女が主人 公である。この作品を手がけた当時、英国では口蹄疫があちこちで発生し、彼自身が 運営する体験農場も被害に遭い閉鎖している。作者にとって、見過ごすことのできな い事件だったのだろう。  幼年向け部門で受賞した "The Man who wore all his Clothes" は、受賞作の中で 唯一愉快な作品。主人公のお父さん、なぜか服をどんどん着込んでいく。理由は本を 読んでのお楽しみ。アルバーグは、「ゆかいなゆうびんやさん」シリーズでおなじみ。 最近の邦訳絵本としては、『たからものさがし』(黒木瞳訳/小学館)が出版されて いる。                                 (西薗房枝) 【参考】 ◆チルドレンズ・ブック賞 公式サイト http://www.btinternet.com/~martin.kromer/CBA2winner2002.htm ◇本誌2002年3月号「世界の文学賞」 http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/dtp/2002/03a.htm#bungaku ◆やまねこ翻訳クラブサイト 海外児童文学賞速報 http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/award.htm *発行日や誌面の都合上、メールマガジンでは対応しきれない最新賞情報を、このサ イトでお伝えしています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞情報●速報! 2002年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  7月12日、イギリスで最も権威ある児童文学賞、カーネギー賞、およびケイト・グ リーナウェイ賞の発表が行われた。受賞作、および次点は以下の通り。 【カーネギー賞】(作家対象) ★Winner   "Amazing Maurice and his Educated Rodents" Terry Pratchett    (Doubleday) 〈本誌6月号レビュー掲載〉 ☆Highly commended   "Stop the Train" Geraldine McCaughrean (Oxford)   〈本誌6月号レビュー掲載〉 ・Commended   "Love that Dog" Sharon Creech (Bloomsbury) 〈本誌今月号レビュー掲載〉 【ケイト・グリーナウェイ賞】(画家対象) ★Winner   "Pirate Diary" Chris Riddell (Walker) 〈本誌今月号レビュー掲載〉 ☆Highly commended   "Fix-It Duck" Jez Alborough (Lions) 〈本誌6月号レビュー掲載〉   "Sometimes I Like to Curl up in a Ball" Charles Fuge (Gullane)   〈本誌今月号レビュー掲載〉  ※候補作リストは本誌5月号書評編参照。全候補作のレビューを先月号および今月 号の特集記事で掲載。ただし、カーネギー賞候補作のうち、以下の2作品のレビュー は、すでに本誌バックナンバー及び増刊号に掲載済みなので、そちらを参照願いたい。 "Journey to the River Sea" by Eva Ibbotson(エヴァ・イボットソン) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/dtp/2001/11b.htm#myomi2 (本誌2001年11月号書評編「注目の本(未訳読み物)」) "True Believer" by Virginia Euwer Wolff(ヴァージニア・E・ウルフ) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/plus/html/z01/index.htm (本誌増刊号No.1「ヴァージニア・E・ウルフ特集号」)                                 (西薗房枝) 【参考】 ◇カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞サイト http://www.carnegiegreenaway.org.uk/ ◆カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について (本誌1999年7月号書評編「世界の児童文学賞」) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/dtp/1999/07a.htm ◇やまねこ翻訳クラブ作成 カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞リスト  (受賞作情報は7月16日に更新される予定です) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/bookdb/award/uk/carnegie/ http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/bookdb/award/uk/greenawy/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集1●カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞候補作レビュー ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  先月号に引き続き、両賞の候補作のレビューをお届けする。書誌に注記がないもの のレビューは、英国版の本を参照して書かれている。 **************************************************************************** ★カーネギー賞(作家対象)候補作 **************************************************************************** "Love that Dog" 『だいすきな ぼくの犬』(仮題) by Sharon Creech シャロン・クリーチ作 Bloomsbury Children's Books 2001, 96pp. ISBN 0747556164(UK) Joanna Cotler Books 2001, 105pp. ISBN 0060292873(US) (このレビューは、US版を参照して書かれています) ★カーネギー賞 Commended ぼく、詩なんて書きたくない。だって男だもの。詩なんて、女の子が書くものさ。  新学期、詩の授業がはじまった。ジャックは先生が教えてくれる有名な詩に、はじ めは戸惑いをおぼえる。ただ単語をならべただけみたいな、あれが詩だっていうの? それなら短い行にして書けば、どんな言葉だって詩になっちゃう。そんなふうに思っ たジャックは、いろんな詩をまねして書くうち、しだいに詩の魅力に引きこまれてい く。気がつけば、"Love that Boy" という詩を書いた詩人の大ファンに!  ジャックは心に、あるしこりをかかえている。それが、詩を受けいれ、みずから書 くことによって、解きはなたれてゆく。詩に秘められた癒しの力の大きさというもの をあらためて感じずにはいられない。またこの本は、詩が苦手だという子どもたちに、 「もっと自由に書いていいんだよ」と教えてくれる。巻末に、作中で先生が紹介した 詩をまとめて掲載してくれているのも楽しい。なかでも、単語をつらねてリンゴの形 にした "The Apple" という詩などを見る(「読む」というよりも「見る」!)と、 ほんとうに自分でもまねして書いてみたくなってしまう。もちろん、クリーチ独特の あの胸キュン、この本のなかにも生きている。犬と心を触れあわせ、切ない思いをし たことのある人にとって、それはそれはたまらない1冊になることだろう。                                 (清水陽子) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】Sharon Creech(シャロン・クリーチ):1945年、米国オハイオ州生まれ。渡 英後、教職のかたわら執筆を始める。『めぐりめぐる月』(もきかずこ訳/講談社) で1994年度ニューベリー賞などを受賞。昨年度 "The Wanderer" でも同賞オナーおよ びカーネギー賞候補に選ばれる。現在は米国に戻り、ここ2年ほどは絵本の執筆も手 がける。最新作はYA向け小説の "Ruby Holler"(今年3月出版)。 ◇シャロン・クリーチの公式サイト http://www.sharoncreech.com/index.html ◇シャロン・クリーチ作品リスト(やまねこ翻訳クラブ データベース) http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/bookdb/author/c/screech.htm **************************************************************************** "Jake's Tower" 『ジェイクの塔』(仮題) by Elizabeth Laird エリザベス・レアード作 Macmillan Children's Books 2001, 154pp. ISBN 033396215X 「濠に囲まれた高い塔。そのてっぺんがぼくの部屋。はね橋を上げておけば、誰も入 って来られない。大丈夫、絶対に安全だ」ジェイクが安心できるのは、秘密の場所に 築いた空想の塔にいるときだけ。現実の生活では、母親の愛人から暴力をふるわれ、 安全など存在しなかった。ある日、これまでにないほどすさまじく殴られたジェイク は、ついに家を逃げ出す――もう耐えられない。ジェイクは秘密の場所へ向かった。 しかしそこは何者かによって、めちゃめちゃに荒らされていた。「ぼくにはもういる 場所がない……」  冒頭から張りつめた雰囲気が漂い、読み進むにつれ、心が重くなっていった。章立 てのないこの物語は、ジェイクの心の動きをノンストップで綴っている。それを追っ ていくのは辛い。しかしある出来事をきっかけに、ジェイクの心に光が差し始め、物 語が暗から明へと転じていくと、ページを繰る手の緊張もほどけていった。  作者はジェイクの内面を一人称で細やかに描き、児童虐待の問題をあぶり出してい る。結末はやや安易に思われなくもないが、物語の中にだけでも解決を求めたくなる ほど、虐待に直面している子どもたちの状況は厳しいのだろう。ちなみに賞のシャド ウイング(子どもの評価)では、本書は多くの支持を集めている。                                 (蒲池由佳) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】Elizabeth Laird(エリザベス・レアード):ニュージーランド生まれ。幼少 期に英国に移住。ブリストル大学、エディンバラ大学で語学を学び、マレーシア、エ チオピア、インドで教鞭をとる。結婚後は、イラクやレバノンなどに移り住んだ。邦 訳にカーネギー賞の候補になった『ひみつの友だち』(香山千加子訳/徳間書店)な どがある。英国サリー州在住。 ◇カーネギー賞サイト内のシャドウイングのページ http://www.carnegiegreenaway.org.uk/shadow/shad/shadow.asp 12日に発表になった投票結果では、"Jake's Tower" が1位となっている。 **************************************************************************** "The Kite Rider" 『凧乗り』(仮題) by Geraldine McCaughrean ジェラルディン・マコーリアン作 Oxford University Press 2001, 212pp. ISBN 0192751573 ★2001年スマーティーズ賞ブロンズ賞受賞作  元の時代。中国では船が出港する前に人を乗せた大凧をあげ、航海の先行きを占う 「風見」の儀式がおこなわれていた。港町で生まれ育った、12歳の少年ハオヨウは、 父の仇を町から追い出すために、未経験ながら風見の凧乗りをかってでる。やがて、 町で興行中だった蒙古族のサーカス団の団長、ミャオがハオヨウをスカウトしにやっ てきた。一族を仕切る大叔父は金に目が眩み、団長の申し出を受けてしまう。こうし てハオヨウはサーカスの凧乗りになった。一行は巡業しながら川を遡り、フビライ・ ハンが夏を過ごす都、キサナドゥーをめざした。  ハオヨウの父が殺された事件を皮切りに、物語は冒頭から坂を転がる石の勢いで急 進展し、盛りだくさんのエピソードを絡めながらハオヨウの遍歴を紡いでいく。一方、 テーマは意外に単純だ。儒教の基本である孝行を重んずるハオヨウが、いかにして大 叔父の束縛からのがれ、個を確立していくか。作者はこの過程を描こうとしている。  儒教を宗教的にとらえたり、鼻白むような「東洋」の誇張があったりと「イギリス 人の書いた中国」という域をでる作品でないことが残念だ。だが、なんといってもこ の作品の醍醐味は作者の「物語る力」といえる。13世紀の中国、凧、サーカス団、フ ビライ・ハンなど、心躍る素材をちりばめた各場面が、あたかも映像を見るように読 者の脳裏に再現されてゆく。エンターテインメント性の高い読み物だ。                                 (大塚典子) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】Geraldine McCaughrean(ジェラルディン・マコーリアン):1951年イギリス 生まれ。テレビ局、大学勤めの後、ロンドンでライターとなる。結婚後は執筆を専業 として、子どもの本や大人の本など、合わせて100をこえる作品を発表。また、戯曲 やラジオのシナリオなども書く。『不思議を売る男』(金原瑞人訳/偕成社)でカー ネギー、ガーディアンの両賞を受賞している。今回のカーネギー賞は本作品と "Stop the Train" (レビューは本誌6月号掲載)の2作品がノミネートされた。 **************************************************************************** ★ケイト・グリーナウェイ賞(画家対象)候補作 **************************************************************************** "Pirate Diary: The Journal of Jake Carpenter" 『海賊日記』(仮題) by Richard Platt, illustrations by Chris Riddell リチャード・プラット文/クリス・リデル絵 Walker Books 2001, 64pp. ISBN 00744562333 ★ケイト・グリーナウェイ賞受賞作  ジェイク・カーペンター、10歳。将来は医者である父親と同じ道を進むつもりでい た。しかし、大きな変化が彼におとずれる。海に出ることになったのだ! 医学の世 界に進む前に、広い「世界」を彼にみてほしいと願った父親が、船乗りの弟に手紙を 書いた、息子の面倒を少しの間みてくれないかと。ふってわいた、海の世界、さぁ、 船に乗るぞ、世界をみるぞと意気込むジェイク。  大判絵本の体裁にこの題材はぴったりだ。そして、クリス・リデルの緻密な絵が、 船の生活をつぶさに伝えてくれる。船の断面図は見開きいっぱいに描かれ、それぞれ の部屋を観察できる。ある部屋には樽がたくさんあり、別の部屋には大砲があり、そ してハンモックが吊されている部屋では誰かが休憩し、その隣の部屋ではヤギや鶏も 住んでいる。しかし、『海賊日記』とくれば、おだやかな船の生活は長くは続かない。 海賊の襲撃がはじまると、まぁ、目を覆いたくなるような血しぶき飛び散る戦いのシ ーン! 絵のもつ力を存分に発揮している1冊だと思う。特に船のマストから見おろ す海の絵にはほれぼれさせられる。読者もマストにのぼっているような気分を味わえ るにちがいない。リデルは前作、"Castle Diary" で1999年度グリーナウェイ賞HC を受けた。そして、今回みごと大賞受賞となった。                                 (林さかな) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【絵】Chirs Riddell(クリス・リデル):日本では「崖の国物語」シリーズの詳細 な表紙絵や挿絵で名前が知られている。絵本では、『ぞうって、こまっちゃう』(た なかかおるこ訳/徳間書店)1冊のみ邦訳されている。文章を書いたプラットとのコ ンビに "Castle Diary" があり、他に「The Observer」誌の漫画を描く仕事もしてい る。 **************************************************************************** "Sometimes I Like to Curl up in a Ball"  『まぁるくなるのがすき』(仮題) by Vicki Churchill, illustrations by Charles Fuge ビッキー・チャーチル文/チャールズ・フュージ絵 Gullane 2001, 21pp. ISBN 1862333963 ★ケイト・グリーナウェイ賞 Highly Commended  まぁるくなって遊ぶのが好き。だって、小さくなるからだれもぼくをみつけられな いんだ。できるだけ高く飛び上がるのも好き。おりたとき、どれだけ大きな音をたて られるかためすんだよ。大きな声で叫ぶのも好き。怒っているわけじゃないんだけど。 それにどろんこ遊びも楽しいな。からだじゅうどろだらけになっちゃうんだ。それか ら、それから好きなのはね……。  表紙にはイチゴ畑でまるくなって笑う、ウォンバットの子どもがいる。裏表紙では、 まるくなって、斜面をころころところがっている。手で足をつかむこの格好、赤ちゃ んがよくやるポーズみたい。そう思いながら物語を読むと、ウォンバットは、自分の 好きなことを次々と教えてくれる。みんな子どもの好きなことばかり。表情がとても いきいきと描かれていて、読んでいるこちらも楽しくなってくる。一番笑ってしまう のは、目尻をひっぱったり、舌をだしたりと、おもしろい顔をする場面。鮮やかな色 彩でくっきりと描かれた絵は、幼い子どもたちにもわかりやすいだろう。いっしょに 遊んでいるコアラやウサギなどの動物たちは、とぼけた表情をしていておもしろい。 ウォンバットやコアラには、さわってみたくなるような質感があり、子どもたちに喜 ばれそう。ほっとするラストは、1日の終わりに読んであげたくなる。                                (竹内みどり) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【絵】Charles Fuge(チャールズ・フュージ):英国のカンバーウェル・カレッジ・ オブ・アート在学中に描いた "Bush Vark's First Day Out" で、学生に贈られる Macmillan Children's Books 賞を1987年に受ける。同作は翌年、Macmillan 社から 出版され、マザー・グース賞を受賞。以来、多くの絵本の制作や挿絵で活躍中。 **************************************************************************** "The Witch's Children" 『魔女の子どもたち』(仮題) by Ursula Jones, illustrations by Russell Ayto アーシュラ・ジョーンズ文/ラッセル・エイト絵 Orchard Books 2001, 32pp. ISBN 1841215511  びゅーびゅー風ふく秋の日に、公園にやってきた魔女の子3人。あわてて鳥たち木 にかくれ、そっと様子をうかがった。大きい子、小さい子、まん中の子。なかよくア イスクリーム食べていた。ところが大変、「たすけて」と、さけぶ少女の声! 「池 に浮かべたおもちゃの舟が、風にたおされ、沈みそう!」魔女の子出番とはりきって、 大きい子、少女をカエルにかえた。「自分で泳いでとっといで」「お舟は助けたから、 もとの姿にもどしてよ」「もどす魔法はまだしらない」少女はカエルの姿のまま、大 きな声で泣くばかり……。  これは、頭で楽しむ作品というより、五感で味わうものだ。肌に痛いほどの強風、 アイスクリームの冷たい甘さ、カエルのぬめり、少女のしょっぱい涙。どれも生き生 きと伝わってくる。話の筋に意外性はないが、だれもが知るグリム童話をもじって、 読者を楽しませてくれる。また、タイトルページには、羽を生やした2つのおっぱい が飛んでいる。よく見るとハトのようだが、やっぱりおっぱいにしか見えない。この 鳥の存在のせいか、作品全体を通して、魔女である母親が、いたずらな子どもの仕業 をどこかで見守ってくれている安心感が伝わってくる。今年の秋に続編、"The Witch's Children and the Queen" が出版予定。                        (池上小湖) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【絵】Russell Ayto(ラッセル・エイト):イギリス生まれ。いったん科学者を目指 したが、結局は大学に戻って画家になった。一般書、特にペンギン社の表紙画などを 多く手掛けてきたが、10年程前から児童書の挿し絵を描くようになった。主な作品と しては、スマーティーズ賞の候補作となった、"Quacky Quack Quack"(イアン・ワイ ブルー文)など。邦訳はまだない。 **************************************************************************** "Tatty Ratty" 『タッティー・ラッティー』(仮題) by Helen Cooper ヘレン・クーパー文/絵 Doubleday 2001, 30pp. ISBN 0385600062  モリーの大事なぬいぐるみ、うさぎのタッティー・ラッティーがどこにもいない! どうやら、バスの中に置き忘れてきちゃったみたい。「タッティー・ラッティー、さ みしがっているかな」と、モリーは心配顔。でも、だいじょうぶ。タッティー・ラッ ティーは、バスから飛びおりて、汽車を運転して、3びきのくまといっしょにおかゆ を食べて、シンデレラの馬車に乗って、海に飛びこんで海賊に助けられて……と、い ろんな冒険を楽しんでいるよ――。  お気に入りのぬいぐるみをなくしてがっかりしている娘を元気づけるため「タッテ ィー・ラッティーはきっとこうしている」と話す両親と、それに応えて空想を繰り広 げるモリー。物語は3人の会話で進められる。絵のほうは、親子の日常生活のシーン とタッティー・ラッティーの冒険のシーンが、見開きの左右に並んでいる。小さめに 描かれた親子の姿はほほえましく、どこかなつかしい。スペースたっぷりに描かれた 冒険のようすは夢がいっぱいでかわいらしく、見ているだけで心がうきうきする。  物語の結末については、論理的につじつまが合わないと感じる読者もいるかもしれ ない。それでもこの作品には人を惹きつける力があり、グリーナウェイ賞を2度も受 賞したクーパーの実力が十分に発揮されていることは確かだ。                                 (生方頼子) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文・絵】Helen Cooper(ヘレン・クーパー):1963年、ロンドン生まれ。音楽教師 を務めながら独学で絵を学び、絵本作家となる。1997年に "The Baby Who Wouldn't Go to Bed" で、1999年に "Pumpkin Soup"(『かぼちゃスープ』せなあいこ訳/アス ラン書房)でグリーナウェイ賞を受賞。その他の邦訳作品に『ねことまほうのたこ』 (掛川恭子訳/岩波書店)がある。夫(画家テッド・デュワン)と娘とともにオック スフォードに在住。 ◇ヘレン・クーパーとテッド・デュワンの公式サイト  http://www.wormworks.com/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集2●ケイト・グリーナウェイ賞予想座談会 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━   7月4日、都内某所で、グリーナウェイ候補作の鑑賞オフ会が開かれた。12日の 発表を前に、作品を見比べながら感想を話し合い、受賞作を予想しようというものだ。 今年は嬉しいことに、候補作品の8冊すべてが揃い、またとないチャンスにどの会員 もしばし無言で、熱心に見入っていた。では、その座談会のようすを一部簡単に再現 してみよう。     (★=進行役、A〜E=参加者) ★:活字が多くて読み応えのある絵本 "Pirate Diary" からはじめましょう。 B:絵に動きがあって、色彩も鮮やか。構図が映画っぽいし、迫力も十分。 C:でも、27ページの絵は、迫力がありすぎて残酷! 子どもにはどうかな? D:それに、これだけ文章が多いと、絵本という感じがしない。 A:帆船の断面図が載っているし、男の子は興味を示すかもしれない。 ★:がらりと変わって女性的な感じの "Katje the Windmill Cat" はどう? A:繊細できれいな絵! 芸術性も高いし、猫好きにはたまらないと思う。 B:でも、大人にはいいけど、子どもがとびつく絵ではないな。上品すぎる。 C:受賞作のシールが表紙に似合いそう! そのスペースもあるし(笑)。 ★:表紙の絵はいいけど、最後のおちがちょっとというのが "Tatty Ratty"。 C:ヘレン・クーパーは2度も受賞しているから、もういいんじゃない(笑)。 A:動物はいいけど、人物の絵が……。日本人にはこういう顔は受けないかも。 ★:じゃ、写実的でわかりやすいイラストの "Silver Shoes" は? E:絵がまじめすぎて面白くない。地味だね。時代に合わないんじゃない? A:テーマ性はあるし、子どもの表情描写なんかうまいと思うけど、正統派すぎる。 B:英米では人気あるけど、日本の子どもには受け入れられそうにないよね、この手 の絵は。 ★:日本で受け入れられそうなのは "The Witch's Children" じゃない? C:うん、私は大好き! この画家の作品はまだ邦訳が出てないのよね。 E:これは、8冊の中で一番いい線いっていると思うし、賞を取りそうな気がする。 ★:"Sometimes I Like to Curl up in a Ball" はウォンバットが出てくるね。 C:ウォンバットを実際に見たけど、こんなじゃない! もっと機敏だった! A:それに、この地面、おかしい! チョコレートみたいだもん。 B:うん、これはちょっとね。ウォンバットもおっさんくさい(笑)。 ★:じゃ、犬の物語の "Let's Get a Pup!" は? C:刺青をして鼻ピアスをしたお母さんは現代的だけど、絵はそれほどでもない。 A:私の好きな絵ではないけど、子どもはわりと気に入ると思う。        ★:最後は不器用なあひるが登場する "Fix-It Duck!"。 A:この絵はかわいいし、スピード感もあって、小さい子どもは好きだと思う。 B:大騒動のストーリーをよく物語っているし、日本人好みの絵ね。 C:うん、"The Witch's Children" の次にいい線いってる。"Katje the Windmill Cat" も同じように人気が高いけど、ダークホースは、"Pirate Diary" かな。 ★ということで、受賞予想はこの4点にしぼられそうだね。さて、結果はいかに……。   (ダークホースが来ました! 編集担当より)                                  (高原昴) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●Chicoco の親ばか絵本日誌●第18回「ぼく大きくなりたい」    よしいちよこ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 「なんでも食べてえらいねー。いっぱい食べたら大きくなれるねんで」と、しゅんは いつも自分にいわれていることを絵本を見ながらいいました。その絵本は『ガブリエ リザちゃん』(H・A・レイ作/今江祥智訳/文化出版局)です。蚊をぱくりとやっ てご機嫌の食虫植物のガブリエリザちゃんは、植物学者の研究室に連れていかれて大 騒動を起こします。  ソフトな笑顔でなんでも食べてしまうガブリエリザちゃんはとても愉快です。ただ いま3歳4か月のしゅんは、こわがりのくせに、ちょっぴり残酷なことが好きで、蚊 をぱくり、植物学者の指をぱくり、犬のしっぽをぱくりの絵に爆笑。「カさん、たす けて〜っていってるねえ」といいながら大爆笑。「ガブリエリザちゃん、わるさのば つ」の図にまたまた大爆笑。後半のガブリエリザちゃんのお手柄のページは「ガブリ エリザちゃん、たべすぎや〜! ゲボゲボでちゃうよ!」とこれまた大爆笑。絵本を 閉じたら「はー」と息をついて笑いをしずめ、「もう1回読んで」といいます。  さて、先月末に幼稚園で給食参観なるものがありました。しゅんはにこにこしなが ら後ろばかりむいて、手をふったり、手で双眼鏡のまねをしたり。ふざけてばかりい ないで、ガブリエリザちゃんのようにたくさん食べてねと願う母でした。    2歳のころからずっと乗り物が大好きだったしゅんですが、幼稚園に通うようにな り、興味の対象がかわってきました。興味がなくなると早いもので、あんなに詳しか った電車の名前を忘れてしまいました。いま好きなのはヒーローもの。自分も強くて やさしいおにいちゃんになりたいと思っているようです。そんなしゅんの心をとらえ たのが、すこし長い絵本『さびしがりやのドラゴンたち』(シェリー・ムーア・トー マス文/ジェニファー・プレカス絵/灰島かり訳/評論社)です。深い森のおくの洞 穴に3びきのドラゴンが住んでいました。さびしくて眠れないので泣くドラゴンを、 勇敢な騎士が助けに行きます。  しゅんには騎士の剣がかっこよく見えるらしく、「ぼくも、これしたい」といいま した。ラップの芯をわたすと大喜びでズボンにさし、いばって歩きます。「えい!」 「やっ!」などといいながら、ラップの芯の剣をふりまわしたあと、ドラゴン役の犬 のぬいぐるみに「ねんねさせてあげるよ」と話しかけています。  ところでこの絵本には「きしはとうから『トオッ!』ととびおりて、へいをへいき ではいおりた」などなど、言葉遊びがいっぱい。音読すると楽しいですね。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ●  本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 (今号掲載の本の情報は、7月16日から反映される予定です。)こちらの「やまねこ オンライン書店街」よりお入りください。 http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/shop/index.htm PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 【イロイロあるから、いろいろ楽しい FOSSIL】 ボタンを押すと「赤い」文字盤が「ブルー」に変わる、大きなデジタル数字が文字盤 を占領して秒ごとに時計の表情が変わる、しかもその数字が漢字だったり、カバーガ ラスがビー玉みたいにコロンと丸っこかったりする・・・。小さな腕時計の中にいろ いろな「遊び心」を詰め込んでいるのが、フォッシルのウオッチ。直営店にもぜひご 来店ください。 《渋谷区神宮前 4-26-28 JUNK YARD 1F TEL 03-5413-6118 》 http://www.fossil.com       (株)エス・エフ・ジェイ:やまねこ賞協賛会社 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽  海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽ やまねこ翻訳クラブ(yamaneko-mgzn@office-ono.com)までお気軽にご相談ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━    ☆★姉妹誌「月刊児童文学翻訳あるふぁ」(購読料/月100円)☆★ 洋書ビギナーにおすすめの、楽しく読める未訳書ガイド。クイズに答えてポイントを ためると、プレゼントももらえます。詳細&購読申し込みはこちらから(↓)。    http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/alfa/index.htm (第11号は9月5日発行。申し込み手続きは前日までにおすませください。) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●プラチェットの作品がカーネギーを受賞したのは意外でしたが(作者自 身も驚いたらしい)、大好きな作品なのでとっても嬉しいです!(き) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発 行 やまねこ翻訳クラブ        発行人 河原まこ(やまねこ翻訳クラブ 会長) 編集人 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 蒼子 河まこ キャトル きら くるり こべに さかな 小湖     Gelsomina sky SUGO 昴 Chicoco ちゃぴ つー 月彦 どんぐり     NON BUN ぱんち ベス みーこ みるか 麦わら MOMO YUU     yoshiyu りり Rinko ワラビ わんちゅく 協 力 @nifty 文芸翻訳フォーラム     小野仙内 ながさわくにお ち〜ず ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除もこちらからどうぞ。 ・バックナンバーは、http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/でご 覧いただけます。 ・ご意見・ご感想はyamaneko-mgzn@office-ono.comまでお気軽にお寄せください。 ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●無断転載を禁じます。