※1月は定期休刊です。次回は2009年2月号になります。どうぞお楽しみに! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 2008年12月号    =====☆                    ☆=====   =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====    =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====                                 No.106 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌◆ ◆http://www.yamaneko.org                         ◆ ◆編集部:mgzn@yamaneko.org     2008年12月15日発行 配信数 2500 無料◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2008年12月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎特集:第11回やまねこ賞――会員が選んだ、今年の児童書ベスト5は? ◎特別企画:レビューを書こう(第3回レビュー勉強会より) 『シュワはここにいた』 ニール・シャスタマン作/金原瑞人・市川由季子共訳 『ペニー・フロム・ヘブン』 ジェニファー・L・ホルム作/もりうちすみこ訳 "Laura und der Freundschaftsbaum"           クラウス・バウムガート原案・絵/コーネリア・ノイデルト文 ◎賞速報 ◎イベント速報 ◎お菓子の旅:第45回 くるくるまいたらできあがり 〜ロールケーキ〜 ◎読者の広場 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━やまねこ賞協賛会社      ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のカジュアルウオッチ ☆☆ 「FOSSIL は化石って意味でしょ? レトロ調の時計なの?」 これは創業者の父親が FOSSIL(石頭、がんこ者)というあだ名だったことから誕生したブランド名。オーソ ドックスからユニークまで様々なテイストの時計がいずれもお手頃価格で揃います。 2005年より新しいスローガン "What Vintage are you?" を掲げ、更にパワーアップ した商品ラインナップでキャンペーンを展開。Vintage を表現する重要なツールが TIN CAN(ブリキの缶)のパッケージです。年間200種類以上の新しいTIN CAN が発表 され、時計のデザイン同様、常に世界中のコレクターから注目を集めています。 http://www.fossil.co.jp/      (株)フォッシルジャパン:TEL 03-5981-5620 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集●第11回やまねこ賞            協賛:(株)フォッシルジャパン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  さる11月1日から15日の間、やまねこ翻訳クラブ恒例のやまねこ賞の投票が、当ク ラブ特設掲示板にて開催されました。やまねこ賞は、前年10月から本年9月までに出 版された邦訳児童書、未訳・既訳・言語を問わない原書、および、過去に国内外で出 版された児童書を対象に会員がベスト5を選び、大賞作品を決定します。大賞に輝い た邦訳作品の翻訳者には、賞状と副賞が贈られます。今年も株式会社フォッシルジャ パンより、副賞の時計をご提供いただきました。 「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考 に、当クラブの判断で決定しています。  記事中に記載した、本誌の過去のレビューについては、やまねこ翻訳クラブサイト に掲載のバックナンバーをご参照ください。 http://www.yamaneko.org/mgzn/  すべての投票と感想はこちらでご覧いただけます。 http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm  やまねこ翻訳クラブは、会員・非会員を問わず、海外児童書を主とした本の話題が 書き込める「読書室掲示板」を運営しております。 http://www.yamaneko.org/dokusho/index.htm      ★☆★☆【2008年 第11回やまねこ賞 読み物部門】☆★☆★ ★大賞 『夢の彼方への旅』エヴァ・イボットソン作 三辺律子訳 偕成社  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  20世紀初頭。両親を亡くしたマイアは、遠縁のカーター家に引き取られることにな り、ロンドンからアマゾンにわたる。しかし彼らの目的は莫大な遺産から出る生活費 だった。カーター家の双子の姉妹からいやがらせを受けながらも、家庭教師のミント ン先生に守られ、マイアはインディオたちやアマゾンの大自然に溶け込んでいく。そ してマイアの運命を大きく変えるひとりの少年が現れる。アマゾンの風景が目に浮か ぶような、雄大でロマンチックな作品。 (本誌2001年11月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎イボットソンの書くものは、いつもほんのり温かく、際どいとか、残酷とかいうこ ととは無縁。だけど十分読者をひきつけて離さない魅力が詰まっている。とてもおも しろかった! アマゾンに行ってみたくなった。(おちゃわん) ◎さまざまなクラシック名作をモチーフにちりばめたような、ストーリー展開がおも しろい。読後は今までにないくらい、満足というか、幸せな気持ちになれた。(ゆま) ◎善者と悪者のくっきりとした対比、偶然の一致が重なるロマンチックな物語展開。 そこにアマゾンの豊かな自然、インディオやイギリス貴族の暮らしなど、あこがれの 世界が盛りこまれ、どっぷり浸って楽しめる。(ちゃぴ) ◎これぞ物語、これぞ児童文学。読後は幸福感でいっぱいでした。主役の子どもたち はもちろん魅力的だけど、わたしはミントン先生と博物館長さんのファンです。(か らくっこ) ☆~~~~~~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 三辺律子さん ~~~~~~~~~~~~~~~~~~☆ |                                    | |憧れのやまねこ賞を、しかも大好きな作家イボットソンの作品で受賞することが| |できて、本当にうれしいです。ありがとうございます。イボットソンは卓越した| |ストーリーテラーだと思います。明確な社会的メッセージがある作品などに比べ| |作品の「物語の力」って評価されにくいなあ、と思っていましたので、こうやっ| |て評価して頂いてとても幸せです! 物語に没入する愉しみを、どうか読者の皆| |さんも味わってくださいますように。                   | ☆                                    ☆  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ◆2位 『ユゴーの不思議な発明』ブライアン・セルズニック作 金原瑞人訳                                  アスペクト  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  12歳の孤児ユゴーは駅舎の部屋に隠れ住み、構内すべての時計を点検している。そ して時計職人だった亡き父が遺したからくり人形を修理するため、向かいのおもちゃ 屋から必要な部品を毎日盗んでいたが、ある日店主の老人につかまってしまう。モノ クロームの絵と文章で構成された、無声映画さながらの作品。ラストには読者をうな らせる仕掛けも用意されている。 (本誌2008年2月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎絵と文章が一体化した映画を観ているような手法とストーリー展開に引き込まれた。 (ぎねびあ) ◎レトロな映画を見ているような不思議な感覚。(おとむとむ) ◎本の新たな可能性を見せてもらいました。(蒼子) ◎1冊丸ごと映画館。映画好きには嬉しい作品。ストーリーも、心配し通しだったあ との安心感に、感極まりました。(カコ) ◎絵と物語の融合感がたまらない。新しい発想に拍手を送りたい。(ち〜ず) ◆3位 『空に浮かんだ世界』「トビー・ロルネス」シリーズ1                ティモテ・ド・フォンベル作 伏見操訳 岩崎書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  身長1.5ミリくらいの人が住む木の世界。そのなかでもっともすぐれた科学者を父 に持つトビー・ロルネスは、とつぜん世界中から追われる身となった。しかしトビー は幾多の困難を勇気と知恵で切り抜けていく。木の世界の環境問題を地球のそれにな ぞらえた、愛と友情がたっぷり詰まった冒険ファンタジー。演劇の脚本家であるフォ ンベルの初めての小説で、サン・テグジュペリ賞を受賞した。 ◎舞台である木の世界がしっかり緻密に描かれ、ファンタジー世界をリアルなものに しています。文章もなんともいえない比喩がちりばめられ、新鮮な作品に感じられま した。(さかな) ◎奇想天外な世界観がサイコー! 思わず、木をじっくり見つめてトビーを探したく なる。(ぐりぐら) ◎フランスらしいエスプリを感じるファンタジー。木の世界の人物、社会、環境が細 かく描かれ、リアリティーがある。(くらら) ◆4位 『漂泊の王の伝説』ラウラ・ガジェゴ・ガルシア作 松下直弘訳 偕成社  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  砂漠のキンダ王国の王子ワリードは、すぐれた詩人を自負していた。しかし、詩を 競うコンクールで名もなきじゅうたん織りの男に3度も敗れてしまう。憎しみにから れたワリードは、男に〈人類のすべての歴史を織りこんだ〉じゅうたんを織るよう命 ずる。出来上がったそれは人々を狂気に追いやる呪いのじゅうたんとなった。人間の 運命について読者に深く考えさせる、スペイン発、異色のファンタジー。 ◎すばらしい! 人生を教えてくれる、心に残る作品。一気に読んでしまい、もう一 度読みたくなった。(さらん) ◎作中に出てくるじゅうたんと同じく、見事に織り上げられた物語。スペインの作品 をもっと読んでみたい。(からくっこ) ◎運命というものについてあらためて考えさせられた。アラブの壮大な歴史の一端に 触れた気がする。(ぎねびあ) ◎流転の王子の運命にハラハラしながら、ラストまで一気に読んだ。意外な結末だっ たけど、よかった。(ゆま) ◆5位 『バディ たいせつな相棒』V・M・ジョーンズ作 田中亜希子訳                                 PHP研究所  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  もうすぐ13歳の多感な少年ジョシュには秘密がある。互いをバディと呼び合う、た いせつな双子の兄の存在だ。幼いころの事故で障害を負ったバディは、7年間リハビ リセンターで過ごしている。そして事故の現場に居合わせたジョシュも心に深い傷を 負っていた。家族や兄弟のつながりを描きながら、勝つことの本当の意味を教えてく れるすがすがしい青春小説。 (本誌2008年3月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎12歳以上の硬派なスポーツ少年に読んでほしい。読み終わったあと、健やかで前向 きな気持ちになれる。(くらら) ◎ヤングアダルトの王道を行くような力作。泣きました。(みちこ) ◎いろんな思いを抱えながら、乗り越えていく思春期がまぶしかった。(おとむとむ) ◆6位以下の作品:6位『ラブ、スターガール』、7位『あなたはそっとやってくる』、 8位『エマ・ジーン・ラザルス、木から落ちる』、9位「クレメンタイン」シリーズ、 10位「ウィニー」シリーズ(『バレエなんて、きらい』『キャンプで、おおあわて』)      ★☆★☆【2008年 第11回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★ ★大賞 『みーんないすのすきまから』 マーガレット・マーヒー文 ポリー・ダンバー絵 もとしたいづみ訳 フレーベル館  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  うちのポンコツ車のかぎをパパがなくしたの。車がなくっちゃ、仕事もない。うち じゅう暗ーい気分。マリーが「いすのすきまをみてみれば?」というので、いすのす きまを探してみると、でてくる、でてくる、なくした指輪、クモ、アナゴ、双子のか たわれ、おなべに、せんす、海賊にドラゴンなどなどなど。すきまから飛び出したた くさんの品物がところせましと踊りまわる!? ◎頭韻に脚韻、そして駄洒落など、言葉遊びが最高。もとしたいづみさん、すごすぎ る!(ワラビ) ◎原書を読んだときに、この訳はどうするの!?と思ったけれど、見事に英語から日 本語の韻へと変身し、読み心地のいい作品になっていて、すごい!(SUGO) ◎どんどん盛り上がっていくパーティーみたいな絵本。絵も文も、最高に楽しい! (からくっこ) ◎原書の楽しさを存分に引き出した訳は、リズミカルで読んでも聞いてもうれしくな ってしまいます。(NON) ◎「いすのすきま」から思いがけないものが出てくる、というモチーフには「あるあ る!」と大共感。でも、ここで出てくるもののナンセンスぶりったら! そのおかし さをリズミカルな言葉でテンポよく盛り上げたもとしたいづみさんの訳、わたしもす ごいと思います!(えみりい) ◎リズミカルな文章といすのすきまから出てくるいろいろなものに、おはなし会でも 大人気でした。(みーこ) ☆~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 もとしたいづみさん ~~~~~~~~~~~~~~~~~~☆ |                                    | |「今度のポリー・ダンバーの絵本、文は別の人で、しかも詩みたいなんです」と| |編集の新担当が電話口で言った。「じゃあ、訳は私なんかではなく、詩人で翻訳| |家なんて方のほうがいいですね」と答えたのに、後日、絵本をちらっと見たとた| |ん「え! マーガレット・マーヒーなの? や、やらせてください〜〜」と中も| |見ずにウハウハと持ち帰ったらさあ大変! 全体が言葉遊びで、しかも絵がある| |ので他の単語にできない! 子どもの言葉の中でどうしたら? と悶え苦しみま| |した。が、とてもうれしい賞に報われました! ありがとうございました!  | ☆                                    ☆  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ★2位 『エセルとアーネスト』レイモンド・ブリッグズ文・絵                            さくまゆみこ訳 小学館  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  作者レイモンド・ブリッグズの両親の物語。若き日のふたりの出会い、レイモンド の誕生、戦争、親子の葛藤。ふたりの歴史を、その時代の空気を、人々の生活を、レ イモンドは両手でていねいにすくいとり描いている。両親への愛にあふれる1冊。 ◎作者ブリッグズが両親について、淡々とかきつづっている。邦訳が出るまで時間が かかったような気がするが、長く残ってほしい。(SUGO) ◎絵本作家ブリッグズの才能のすばらしさを見せてもらった1冊。(さかな) ◎副題にあるとおり、これは「ほんとうの物語」。誠実に生きる普通の人々の姿が、 静かに胸を打つ。(からくっこ) ◎いつでるかいつでるかと待ちに待ったうえに、訳者はさくまさん。完璧な翻訳絵本 ではないでしょうか。(NON) ◎ブリッグズの両親への想いが伝わってきて、胸を打たれた。(あんこ) ★3位 『死神さんとアヒルさん』ヴォルフ・エァルブルッフ文・絵                            三浦美紀子訳 草土文化  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ある日、後ろにいる「死神さん」に気づいたときから、アヒルさんと死神さんの不 思議な日々が始まる。ちょっとショッキングなテーマをさりげなく、きちんと描いた 本。生と死は分かちがたく、表裏一体であることを思い出させてくれる。 (本誌2008年7月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎個性的なイラストと心に深くしみいるお話。折に触れて読みかえしたくなるにちが いない。(niki) ◎死神さんの絵がどぎついので、はじめはびっくりしましたが、「死」について、や さしくあたたかく語られていると思いました。(みちこ) ◎切なく、印象に残るお話。絵もタイトルもいい。(さらん) ★3位 『ペンギンさん』ポリー・ダンバー文・絵                        もとしたいづみ訳 フレーベル館  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ペンギンさんと、友だちになりたくて、なりたくて、ベンは思いつくかぎりの行動 をおこす。でもペンギンさんはなあんにもいわない。ついにベンは爆発。ベンのとっ た最終作戦は? 幼いころの一生懸命な気持ちが画面にあふれ、思わず頬ずりしたく なる1冊。 (本誌2008年5月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎主人公の男の子とペンギンさんのかわいらしさに、もうとろけてしまいそうです。 (ワラビ) ◎ペンギンさんも、ブルーのクールなライオンも、そしてもちろん、主人公の男の子 もみんなかわいらしい!(tommy) ◎ペンギンさんの無表情のなかの表情(?!)が、なんともおかしくて。(ゆま) ◆5位 『あかいはな さいた』タク ヘジョン文・絵 かみやにじ訳 岩波書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  どのページにも赤い花があふれる。花々にはすてきな言葉が添えられている。美し い絵とその花にふさわしい言葉で、花たちはますます輝きを放つ。作者は韓国の新進 イラストレーター。花々にささげる賛歌。 ◎どのページに咲いている花も美しく、添えられている言葉もすてきです。(さかな) ◎色彩が鮮やか。どのページもみな赤い花だが、種類によって微妙に色がちがう。ど の花もみずみずしく生きているよう。眺めるだけで感嘆のため息が出る。(ちゃぴ) ◎ご覧になれば、わかると思いますがほんとうに美しいです。ほーっと、ためいきが でそう。(shoko) ◎なじみのある美しい花々にはっとさせられます。それに添えられることばは、ふっ とでてきたようなさりげなさ、だけど心に残る確かさがあります。(NON) ◆6位以下の作品:6位『まっくら、奇妙にしずか』『ちいさなあなたへ』『かわい いサルマ アフリカのあかずきんちゃん』(3作同点)、9位『ながいながい旅 エ ストニアからのがれた少女』『きんようびはいつも』(2作同点)      ★☆★☆【2008年 第11回やまねこ賞 原書部門】☆★☆★  昨年から未訳という枠を取り払い、さらに幅広く選べるようになった原書部門。今 年は14名が投票、読み物34作品、絵本は12作品、詩集が1作品の計47作品が集まった が、1作品を除いては全て1票ずつという結果になった。  まず貴重な2票を獲得したのはクリス・リデルの "Ottoline"シリーズ。1作目の "Ottoline and the Yellow Cat" に2名、2作目 "Ottoline Goes to School" には 1名が投票した。1作目は2007年ネスレ子どもの本賞6〜8歳部門金賞受賞、2008年 ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト作品でもある。かわいくて、ちょっと風変 わりなオットーライン・ブラウンが、不思議な生き物ミスター・モンローと謎を解決 していく。(本誌2008年7月号「注目の本」のレビューをご参照ください) 「主人公の女の子の、自由気ままでおしゃれ、そして妙な暮らしにあこがれる。漫画 感覚で推理しながら楽しく読めた」(ちゃぴ)、「隅々まで楽しめる作品」(SUGO) と感想にあるように、ディテールに凝った挿絵が作品の魅力を倍増している。邦訳刊 行の予定もあり、日本の読者がチャーミングなオットーラインに会える日も近そうだ。  そのほかにも "Gatty's Tale"、"Ruby Red"、"Finding Violet Park" といったカ ーネギー賞候補作品をはじめ、スペイン語の "Finis Mundi" など、本誌にレビュー が掲載された作品も多く選ばれたが、ここではそれ以外の興味深い読み物6作と、目 と心を楽しませてくれる絵本を2作、投票者の感想とともに紹介しよう。 ★ "Mouse Noses On Toast"(ダレン・キング作) イギリスの新進気鋭作家による、 ねずみとその仲間たちの大冒険と言葉遊びが楽しいストーリー。「ねずみなのにチー ズアレルギーのポールのキャラクターがいい」(shoko) ★ "My Dad's a Birdman"(デイヴィッド・アーモンド作/ポリー・ダンバー絵)  「鳥になると言い出した父親と、その姿を見つめる娘。父子家庭で突然起きたおかし な出来事をとおし、作者の真剣なメッセージが伝わってくる」(つー) ★ "Everything on a Waffle"(ポリー・ホーヴァート作/邦訳『みんなワッフルに のせて』) 両親の死を信じず強く生きる少女の姿をコミカルな視点で描いた作品。 「苦境にあっても、ひょうひょうとした主人公のスタンスが新鮮だった」(niki) ★ "The Absolutely True Diary of a Part-Time Indian"(シャーマン・アレクシー 作) 2007年全米図書賞受賞。白人一色の高校に通うインディアンの少年の挑戦と成 長のストーリー。「主人公の少年の語りに、笑って泣きました」(コアラン) ★ "The Master of the Fallen Chairs"(ヘンリー・ポーター著) 「迷路のように 入り組む古い屋敷を舞台に、少年が絵画に残された謎を解く話。出てくるキャラクタ ーがユニークでよかった」(ぐりぐら) ★ "Keeper"(マル・ピート作/邦訳『キーパー』) 2004年ブランフォード・ボウ ズ賞受賞。「世界最強のゴール・キーパーが南米一のスポーツ記者に語った少年時代 の不思議な物語! 久しぶりに胸が躍った。サッカー・ファン必読のファンタジー」 (あんこ) ★ "Harris Finds His Feet"(キャサリン・レイナー文・絵) 「色彩がとても美し い作品です。子ウサギの成長の物語でもあり、おじいちゃんと孫の交流の物語でもあ ります」(えみりい) ★ "The Paper Crane"(モリー・バング作) 閑古鳥の鳴く店にやって来た老人が残 した贈り物の秘密とは? 「折り鶴の出てくるとても夢のある物語」(おちゃわん) 「大好きな作家の最新作をすぐに読みたい」、「最近読んでよかった邦訳、気になる 作家の作品を原語で読んだらどんな感じだろう」など、原書を手に取る理由は十人十 色だが、共通するのは、原語の言葉遣いやリズム、そして何より作者の世界にじかに 触れる楽しみではないだろうか。やまねこたちの選んだバラエティー豊かな原書が、 新たな作品や作家との出会いをもたらしてくれるかもしれない。    ★☆★☆【2008年 第11回やまねこ賞 オールタイム部門】☆★☆★  出版年を問わず、過去1年間にやまねこ翻訳クラブ会員が読んだ邦訳児童書を対象 としているオールタイム部門。対象範囲が多岐にわたるため、投票総数は70票を超え る結果となった。これらは、会員たちの年間読書量を察するに余りあり、選書に時間 をかけ、思いのこもったコメントと共に投票されたものである。  今年度1位に輝いた作品は4票獲得し、2位以下を大きく引き離すこととなった。 ★1位 『水曜日のうそ』クリスチャン・グルニエ作 河野万里子訳 講談社 2006            (本誌2007年3月号「注目の本」レビューをご参照下さい) 「水曜日のうそ」とは、老齢の祖父と息子家族をつなぐ優しい嘘。思いやりからつく こととなった嘘は、やがて、あふれるほどの愛情と悲しい知らせをもたらした。それ は、孫娘イザベラが中学2年の夏の終わりから、次の夏を迎えるまでの間に起きた出 来事だった。淡い恋、祖父母の恋愛、家族、地域コミュニティーの持つ力を描くなか で、人としての尊厳にもふれている。児童書の枠を超え全ての世代の心を打つ作品で ある。「いろいろな愛の形について考えさせられた。心にしみいる作品」(tommy)、 「登場人物のそれぞれの気持ちが胸にしみました」(えみりい)、「忘れかけていた こと、忘れてはならないことを思い出させてくれた」(ワラビ)などのコメントが寄 せられた。脚本家でもある著者の力量で、読み手はその場に居合わせたかのような臨 場感を味わうことになる。フランスの風景描写とともに、嘘と真実、生と死が表裏一 体であることを、誠実な言葉で伝えてくれる。「人生とは何かを問いかけてくるよう な深い作品。フランスらしい雰囲気にあふれているところも魅力」(あんこ)とある ように邦訳作品の装丁もウィットに富み、読後の満足度を高めることだろう。2005年 クロノス賞最終候補作。 ★2位(2人投票)6作品  『ニルスのふしぎな旅』    セルマ・ラーゲルレーヴ作 菱木晃子訳 福音館書店 2007  『ねぼすけはとどけい』    ルイス・スロボドキン作 くりやがわけいこ訳 偕成社 2007  『秘密の手紙 0から10』    シュジー・モルゲンステルン作 河野万里子訳 白水社 2002  『リスとお月さま』    ゼバスティアン・メッシェンモーザー作 松永美穂訳 コンセル 2007  『ちいさな天使とデンジャラス・パイ』    ジョーダン・ソーネンブリック作 池内恵訳 主婦の友社 2006  『アル・カポネによろしく』    ジェニファ・チョールデンコウ作 こだまともこ訳 あすなろ書房 2006            (本誌2005年2月号「注目の本」レビューをご参照下さい) 『ニルスのふしぎな旅』は、2007年装いも新たに新訳され、長く愛されているスウェ ーデンの作品。作者は女性初のノーベル文学賞を受賞した。『ねぼすけはとどけい』 は、2007年新装版が発行され、真新しさと懐かしさの両面から手に取った会員も多い。 『リスとお月さま』は、2007年ドイツ児童文学賞絵本部門ノミネート作品。シュール な絵とリスのユーモアに魅了される。『秘密の手紙 0から10』はフランスの作品。 大家族の中で暮らす少女の明るさに、かたくなな心を溶かしていく少年と家族の物語。 暖かな日差しのような作品との声もあがった。『ちいさな天使とデンジャラス・パイ』 は、白血病と戦う5歳の弟に、力いっぱい寄り添う13歳の兄の奮闘を描く作品だ。 『アル・カポネによろしく』は、姉の自閉症に心砕く弟とその仲間達の交流が生き生 きと語られる。2007年やまねこ賞読み物部門大賞受賞作品。  たくさんの本に出合い、読み込んできた会員たちの心をふるわせた作品は、いずれ も秀逸で、世代を問わず人々が真摯に生きる姿を語るものであった。多数の作品が過 去に児童文学賞を受賞し、今もなお感動を与え続けている。これらの作品を未読の方 は、是非、手に取って読んで欲しい。オールタイムの名のとおり、時代を超えて愛さ れる本たちに出合えることになるだろう。 【参考】 ▽やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm               (石井柚実/尾被ほっぽ/かまだゆうこ/三好美香) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特別企画●レビューを書こう(第3回レビュー勉強会より) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  先月号に続き、今月号でも第3回「レビュー勉強会」の参加者による、レビュー3 本をお届けする。 【参考】 ▽本誌2008年11月号「特別企画1 レビューを書こう(第3回レビュー勉強会より)」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2008/11.htm#kikaku ▽本誌2006年12月号「特別企画 レビューを書こう(第2回レビュー勉強会より)」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2006/12.htm#kikaku ▽本誌2005年10月号「特別企画 レビューを書く(実践編)」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2005/10.htm#kikaku ▽本誌2003年11月号情報編「特別企画 レビューを書く(翻訳学習者編)」 http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2003/11a.htm#kikaku **************************************************************************** 『シュワはここにいた』 ニール・シャスタマン作/金原瑞人・市川由季子共訳 小峰書店 定価1,680円(税込) 2008.06 357ページ ISBN 978-4338144216 "The Schwa Was Here" by Neal Shusterman Dutton Childrens Books, 2004 ★2005年ボストングローブ・ホーンブック賞フィクションと詩部門受賞作品  ある日、アンツィはシュワという見覚えのない少年に声をかけられた。ふたりは、 どうやら隣同士の席で受けている授業があるらしい。それなのに、アンツィはシュワ の存在をまったく感じていなかった。この事実に興味を持ったアンツィは、さまざま な実験を試みることにする。実はシュワは、存在感の薄さで有名だった。果たしてシ ュワは、噂どおり空気のような存在で、なにをしても周りの人に気づかれないのだろ うか。ふたりの実験は学校中で知られるようになり、やがて、クラスメートとの賭け で、近所でも偏屈で通っているクローリーじいさんの家に忍び込む羽目になる……。  自分の存在感の薄さを当然のように受け止め、アンツィの実験にも進んで協力する シュワ。一方、ばらばらになりそうな家族をまとめるという重要な役割を家族内で果 たしているにも関わらず、優秀な兄とかわいい妹に挟まれ、両親から注目してもらえ ないアンツィ。ふたりは互いに平気な素振りを見せてはいるが、実は、自分の存在や 思いに気づいて欲しいと強く願っていた。物語は、そんなふたりが「今までの自分」 と決別していく様子を描いていく。  ふたりの心境に大きな変化をもたらすのが、盲目の少女レクシーとの出会いだ。ふ たりは、ともにレクシーに恋をする。そして、恋をしたことで自分の存在をより意識 するようになっていく。友だちと同じ相手を好きになるのはよくあることだ。ようや く真正面から向き合い始めた己の本心と、築き上げた友情との狭間で苦しむふたりの 姿は、同じ年ごろの読者には身近な現実として映るだろう。また、遠い日の自分を重 ね合わせる大人の読者もいるはずだ。このリアルさが魅力のひとつとなっている。  さらに、いくつになっても自分の存在を認めて欲しいのが人間なのだ、というメイ ンテーマが、読者に共感を抱かせるだろう。著者シャスタマンは、人間のこの本質を、 アンツィとシュワだけでなく、大人でありながら同じような悩みを抱えているクロー リーじいさんや、それぞれの両親の姿を通して描いていく。他人や現実と本気で向き 合えば、衝突したり見たくなかった一面を突きつけられる。痛みを伴うことも多い。 この作品は、そんな辛さを乗り越えることのすばらしさを、改めて教えてくれた。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】ニール・シャスタマン(Neal Shusterman):米国生まれ。カリフォルニア大 学アーバイン校を卒業後、小説家としてだけでなく、映画やテレビの脚本家としても 活躍。サスペンス・SF・ユーモア小説など、数多くの子ども向け作品を発表してお り、高い評価を受けている。邦訳に『父がしたこと』(唐沢則幸訳/くもん出版)が ある。 【訳】金原瑞人(かねはら みずひと):1954年、岡山県生まれ。法政大学文学部博 士課程修了、同大学教授・翻訳家。主な訳書に『透明人間のくつ下』(アレックス・ シアラー作/竹書房)など多数。2008年に翻訳書数が300冊を超えた。 【訳】市川由季子(いちかわ ゆきこ):1959年、東京生まれ。法政大学英文学専攻 博士課程修了。金原瑞人氏に師事。訳書に『Gold Rush!――ぼくと相棒のすてきな冒 険』(シド・フライシュマン作/金原瑞人共訳/ポプラ社)がある。 【参考】 ▼ニール・シャスタマン公式ウェブサイト http://www.storyman.com/ ▽金原瑞人訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/mkaneha1.htm ▽ボストングローブ・ホーンブック賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/bghb/index.htm                                 (村上利佳) **************************************************************************** 『ペニー・フロム・ヘブン』 ジェニファー・L・ホルム作/もりうちすみこ訳 ほるぷ出版 定価1,470円(税込) 2008.07 353ページ ISBN 978-4593533985 "Penny from Heaven" by Jennifer L. Holm Random House, 2006 ★2007年ニューベリー賞オナー(次点)作品  ペニーのことを本名のバーバラで呼ぶ人はだれもいない。父さんが、大好きなビン グ・クロスビーの歌《ペニー・フロム・ヘブン》にちなんでペニーと呼んだのが始ま りらしい。そんな子煩悩の父さんは、ペニーがまだ赤んぼうのころに亡くなった。代 わりに一家の大黒柱となった母さん、おそろしく料理の下手な〈ばーば〉、人前でも 平気でゲップをする〈じーじ〉、そして粗相ばかりしている犬のスカーレット・オハ ラがペニーの家族。近所には父さん側の親類も大勢、住んでいる。こちらはみんなイ タリア系で、日曜日になると〈おばあちゃん〉の家に集まり、昼下がりから夜遅くま で食べて飲んでおしゃべりをして過ごす。ペニーが一番好きなドミニクおじさんは別 として。このおじさんは、かつて有望な野球選手だったのに、なぜか早々と引退して しまい、車の中で暮らしている。夏休みに入ったペニーは、父さん方の親類のところ に入りびたりで楽しく過ごしていたが、母さんが嫌な顔をするのが引っかかる。  おとなへの階段を上りはじめる主人公のひと夏を温かく描いた物語。舞台は1953年 の、のどかなアメリカ――とはいえ、大戦の傷はまだ癒えていない。やり場のない悲 しみを抱えているのは、息子のようにかわいがっていたおいっ子を亡くした〈じーじ〉 だけではなかった。世捨て人のように暮らしているドミニクおじさんも、やたらに心 配性の母さんも、戦争の犠牲者だったのだ。ふたりがある思い出を封印して生きてき たことがわかり、ペニーはいっとき、だまされていたような思いに駆られるが、やが て許しという感情を知る。世界の不条理を知り、おとなたちの弱さを受けいれられる ようになる、それが成熟するということなのだと、しみじみ感じさせられた。  もっとも、この作品の真価は別のところにある。覚えきれないぐらい登場する脇役 たちが、驚くほど生き生きと描きわけられているのだ。人物描写に定評のある作家だ けあって、ひとりひとりに独特の人間くさい味わいを持たせている。ゆったりとした 時間が流れる、この時代の空気感も大きな魅力だ。現代と比べ、はるかに人情に厚く、 さりげない優しさが息づいている。全編に漂うほのぼのとした幸せなにおいが、いつ までも淡い余韻を読者の心に残すにちがいない。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】ジェニファー・L・ホルム(Jennifer L. Holm):1968年米国カリフォルニア 州生まれ。放送プロデューサーから作家に転身。デビュー作 "Our Only May Amelia" は2000年ニューベリー賞オナーに選ばれた。他に "The Creek"、"Boston Jane" シリ ーズ、"Babymouse" シリーズなどがある。夫と息子、プリンセス・レイア・オーガナ という名の猫とともにメリーランド州に暮らす。 【訳】もりうちすみこ:福岡県生まれ。九州大学教育学部卒。主な訳書に『リリー・ モラハンのうそ』(パトリシア・ライリー・ギフ作/さ・え・ら書房)、『ナム・フ ォンの風』(ダイアナ・キッド作/あかね書房)、『Xをさがして』(デボラ・エリ ス作/さ・え・ら書房)、『ミミズくんのにっき』(ドリーン・クローニン文/ハリ ー・ブリス絵/朔北社)などがある。 【参考】 ▼ジェニファー・L・ホルム公式ウェブサイト http://www.jenniferholm.com/ ▽ジェニファー・L・ホルム作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/author/h/jholm.htm ▽ニューベリー賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm                                 (雲野雨希) **************************************************************************** 『ローラとゆうじょうのき』(仮題) クラウス・バウムガート原案・絵/コーネリア・ノイデルト文 "Laura und der Freundschaftsbaum" by Klaus Baumgart, Cornelia Neudert Baumhaus Verlag GmbH, 2008 ISBN 978-3833901188 64pp.  ローラとソフィーは親友同士だ。ふたりは近所の花壇で、マロニエの木の実から芽 が出ているのを見つけ、友情の木として育てることにする。ところが、ちょっと離れ たすきに、ローラの弟トミーがふざけてサッカーボールを当ててしまい、小さな苗は ぽっきり折れてしまった。ソフィーに嫌われると思ったトミーはローラに、「ソフィ ーに言わないで」と頼む。はじめは怒っていたローラも、弟をかわいそうに思って言 わないことを約束するが、折れた苗を見て驚くソフィーにうまく説明することができ ない。嘘を感じとったソフィーは腹を立て、学校でもローラのことを完全に無視する。 来週はソフィーの誕生日。「仲直りをしたい」そう思ったローラは、あるアイデアを 思いついた……。  この「ローラ」シリーズは、ドイツではほぼ毎年新作が出る人気シリーズだ。映画 にもなった第1巻では、窓から星をながめるのが好きなローラが、空から落ちてきた お星さまを見つけ、欠けた部分を手当てし、お星さまと友達になっていく様子が描写 されていた。本作品では、このお星さまの助けを借りて、ローラがソフィーと仲直り するための方法を思いつく。お星さまはあちこちに描かれていて、ときにはローラの 肩の上にいたり、またあるときには机の引き出しに入っていたりする。ホログラムが きらきらと輝いてかわいらしく、ローラをピンチのときに救い、あたたかく見守って くれる存在だ。こんなお星さまを読者である子供たちは親近感をもって迎えるにちが いない。絵のタッチは柔らかく、多彩な色使いである。字も大きく読みやすいので、 小学校に入る前なら両親に読んでもらうのにぴったりだし、小学校低学年なら自分で 読むことができるだろう。  この作品では、ローラでなくとも誰でも日常経験するような友達との関係が生き生 きと描かれている。放課後に待ち合わせて帰ったり、休み時間に一緒にジュースを買 って飲んだり、はたまた誤解が元で仲たがいしてしまったり。そして小さい弟をかば うあまりに、大切な友達に嘘をつく場面では、やさしい姉の姿を垣間見ることができ る。夜空のお星さまに見守られてこの物語を読んだら、やさしくほのぼのとした気持 ちになって眠りにつくことができるにちがいない。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【原案・絵】クラウス・バウムガート(Klaus Baumgart):ドイツ生まれ。イラスト レーター、グラフィックデザイナーとして数々の国際的な賞を受賞。『ローラのおほ しさま』(いずみちほこ訳/西村書店)は、1999年チルドレンズ・ブック賞にドイツ 人作家として初めて候補にあがった。邦訳として他に、『ローラのクリスマス』(い けだかよこ訳/西村書店)、『トアトアのいちばんのともだち』(いのうえあつこ訳 /草土文化)などがある。 【文】コーネリア・ノイデルト(Cornelia Neudert):ドイツ生まれ。独文学・英文 学・美術史を専攻後、ラジオ局で子供向け番組の企画を担当。2003年の『ローラ、学 校に行く』(仮題)からバウムガートの構想を元に「ローラ」シリーズの文章を書く ようになった。 【参考】 ▼クラウス・バウムガートのインタビュー(Little Tiger Press.com 内) http://www.littletigerpress.com/lyndall/interviews.htm ▼クラウス・バウムガートを紹介するページ(Baumhaus Verlag 内、ドイツ語) http://www.baumhaus-verlag.de/autoren/autoren_detail.asp?ID=3                                 (向口敦子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2008年ブックトラスト・ティーンエイジ賞発表 ★2008年カナダ総督文学賞(児童書部門)発表 ★2008年コスタ賞(旧ウィットブレッド賞)ショートリスト発表                       (受賞作の発表は2009年1月6日) ★2008年全米図書賞(児童書部門)発表 ★2008年フィンランディア・ジュニア賞発表 ★2008年トペリウス賞およびアーヴィド・リーデッケン賞発表 ★2008年アウグスト賞発表  海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を ご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●イベント速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★展示会情報  北海道大学総合博物館「カレル・チャペック展」  鹿児島・長島美術館「ボローニャ国際絵本原画展」  徳島県立文学書道館「ターシャ・テューダー展」 など ★講座・講演会情報  東京芸術劇場「日仏絵本文化交流原画展」関連シンポジウム  神奈川近代文学館「アンのゆりかご 村岡花子の生涯」講演会  アクロス福岡「YA文学講座」 など ★イベント情報  IID世田谷ものづくり学校「世界のあったかい物語 オランダ特集」  詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、 空席状況については各自ご確認願います。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event                            (冬木恵子/笹山裕子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お菓子の旅●第45回 くるくるまいたらできあがり 〜ロールケーキ〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ "Jelly! Roll!" exclaimed Amelia Bedelia. "I never heard tell of jelly rolling." But Amelia Bedelia got out a jar of jelly. Amelia Bedelia tried again and again. But she just could not get that jelly to roll.                                by Peggy Parish          "Thank You, Amelia Bedelia"(1964), HarperCollins(1992) -*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*  日本で人気のロールケーキは、英語ではジェリー(ジャム)ロール、スポンジロー ルと呼ばれます。イギリスではスイスロールともいい、由来は定かではありませんが、 ヴィクトリア女王がスイスの旅から持ち帰ったためという説もあるようです。そのス イスではルーラード(巻いたもの)とシンプルな名前ですが、スペインにはブラソ・ デ・ヒターノ(ジプシーの腕)、南フランスにはブラ・ド・ヴェニュス(ヴィーナス の腕)と、見た目の違いが想像できる名前もあります。愛媛銘菓のタルトもポルトガ ル由来の巻き菓子。人々の知恵と想像力で、その土地のお菓子になっていくのですね。  さて、冒頭の引用はアメリカの子どもたちに人気のシリーズ「アメリア・ベデリア」 の一節です。アメリア・ベデリアはあるお宅で家政婦をしていますが、ことばをひと つの意味だけでとらえて行動するので、まわりのみんなはいつも驚かされてばかり。 今回も「ジェリーロールを作って」といわれたのに「ジェリー(ジャム)をロールし て(転がして)」といわれたと思い込み、台所はたいへんなことに……。  ロールケーキに使うスポンジケーキの原型は、15世紀ごろからスペインやポルトガ ルの修道院で作られていました。それがヨーロッパ各地に広まり、やがて卵白と卵黄 をわけて泡立てる方法が生まれ、巻くこともできるやわらかい生地になったのです。  今回は、いちごと生クリームを巻き込んだレシピをご紹介しましょう。クリスマス には、チョコレートクリームでビュッシュ・ド・ノエルに変身させても素敵ですよ。 *-* ロールケーキの作り方 *-* 材料(25センチ×30センチの天板1枚分) 〈スポンジケーキ生地〉           薄力粉           80g    卵(卵黄、卵白にわける)    4個  砂糖            80g    牛乳          大さじ1と1/2  バニラエッセンス     少々 〈フィリング〉  生クリーム        90ml    砂糖            大さじ1  バニラエッセンス     少々    いちご             適量 1.天板の表面に薄くバターを塗り、クッキングシートを敷く。 2.卵白をツノが立つまで泡立て、砂糖の半量を少しずつ入れながらさらに泡立てる。 3.卵黄に残りの砂糖を加え、人肌に温まるまで湯煎し、白っぽくなるまで泡立てる。 4.卵白と卵黄をあわせ、バニラエッセンスを加えてなめらかになるまで混ぜる。 5.薄力粉をふるいながら加え、さっくりと混ぜる。牛乳を加えてさらに混ぜる。生   地をすくうとリボン状に落ち、しばらく跡が残って消える程度を目安とする。 6.天板に生地を流し、空気抜きをして、170度に予熱したオーブンで約20分焼く。 7.生クリームを泡立て、とろりとしたらバニラエッセンスを加えてさらに泡立てる。   刻んだいちごを加え、あら熱をとった生地の上に塗って巻く。 8.クッキングシートで包み、さらにラップで包んで冷蔵庫で30分ほどおく。 ★参考図書 『西洋たべもの語源辞典』(内林政夫著/東京堂出版) 『カステラ読本』(株式会社カステラ本家福砂屋) 『イギリス菓子のクラシックレシピから』(長谷川恭子/柴田書店) 他 ★「やまねこ翻訳クラブお菓子掲示板」         http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=okashi                          (冬木恵子/かまだゆうこ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ ください。 ※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。 ※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。 ※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。 ※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編 集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ●  本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/info/order.htm  本号の html 版を12月18日に公開予定です。以下の URL よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm#html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽   やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。           吉田真澄の児童書紹介メールマガジン              「子どもの本だより」      http://www.litrans.net/maplestreet/kodomo/info/index.htm  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆       出版翻訳ネットワーク・メープルストリート       ☆★         http://www.litrans.net/maplestreet/index.htm 新刊情報・イベント情報などを掲載いたします。詳細はmaple2003@litrans.netまで。        出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです ★☆★☆★☆★☆★☆★☆ http://www.litrans.net/ ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=      ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★                http://www.litrans.net/whodunit/mag/           未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*= やまねこ翻訳クラブ発行メールマガジン&ウェブジン =*=*=*=*=*=* ★やまねこアクチベーター(毎月20日発行/無料)   やまねこ翻訳クラブのHOTな話題をご提供します!                  http://www.yamaneko.org/mgzn/acti/index.htm *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=* ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◆次号予告は毎月10日頃、やまねこ翻訳クラブHPメニューページに掲載します。◆         http://www.yamaneko.org/info/index.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●やまねこ賞の結果はいかがでしたか? 賞の発表が終わると、いよいよ 年の瀬だと感じます。どうぞよい年をお迎え下さい。読者のみなさまにも私たちにも、 来年も心に残る本や、すてきな方々との出会いがたくさんありますように。編集部一 同より。(い) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発行人 大原慈省(やまねこ翻訳クラブ 会長) 編集人 井原美穂/植村わらび(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 石井柚実 雲野雨希 尾被ほっぽ かまだゆうこ 児玉敦子 笹山裕子     冬木恵子 三好美香 向口敦子 村上利佳 協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内     ながさわくにお えみりい コアラン muzu ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除もこちらからどうぞ。 ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・ご意見・ご感想は mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆無断転載を禁じます。