※1月は定期休刊です。次回は2011年2月号になります。どうぞお楽しみに! ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 2010年12月号    =====☆                    ☆=====   =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====    =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====                                 No.126 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌◆ ◆http://www.yamaneko.org                         ◆ ◆編集部:mgzn@yamaneko.org     2010年12月15日発行 配信数 2410 無料◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2010年12月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎特集:第13回やまねこ賞──会員が選んだ、今年の児童書ベスト5は? ◎注目の本(邦訳絵本):『かげ』 スージー・リー作 ◎賞速報 ◎イベント速報 ◎お菓子の旅:第54回 ぷっくりと愛らしいミニパンケーキ 〜ポッフェルチェ〜 ◎読者の広場 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━      ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のライフスタイルブランド ☆☆  独創的なデザインで世界100ヶ国以上で愛用されているフォッシルはアメリカを代 表するライフスタイルブランドです。1984年、時計メーカーとして始まったフォッシ ルは時計をファッションアクセサリーの一つと考え、カジュアルな「TREND」ライン からフォーマルなシーンにも使える「CERAMIC」など、年間300種類以上のモデルを発 売し続けています。またフォッシル直営店では、時計以外にもレザーバッグ、革小物、 ファッションサングラスなどのラインも展開しています。 TEL 03-5992-4611 http://www.fossil.co.jp/     (株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集●第13回やまねこ賞            協賛:(株)フォッシルジャパン ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  さる11月1日から15日の間、やまねこ翻訳クラブ恒例のやまねこ賞の投票が、当ク ラブ特設掲示板にて開催されました。やまねこ賞は、前年10月から本年9月までに出 版された邦訳児童書、未訳・既訳・言語を問わない原書、および、過去に国内外で出 版された児童書を対象に会員がベスト5を選び、大賞作品を決定します。大賞に輝い た邦訳作品の翻訳者には、賞状と副賞が贈られます。今年も株式会社フォッシルジャ パンより、副賞の時計をご提供いただきました。 「読み物」「絵本」の分類については、原則として各出版社、書店などの種別を参考 に、当クラブの判断で決定しています。  記事中に記載した、本誌の過去のレビューについては、やまねこ翻訳クラブウェブ サイトに掲載のバックナンバーをご参照ください。 http://www.yamaneko.org/mgzn/  すべての投票と感想はこちらでご覧いただけます。 http://www.yamaneko.org/yn_award/index.htm  やまねこ翻訳クラブは、会員・非会員を問わず、海外児童書を主とした本の話題が 書き込める「読書室掲示板」を運営しております。 http://www.yamaneko.org/dokusho/index.htm      ★☆★☆【2010年 第13回やまねこ賞 読み物部門】☆★☆★ ★大賞 『はみだしインディアンのホントにホントの物語』    シャーマン・アレクシー作 エレン・フォーニー絵 さくまゆみこ訳 小学館  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  保留地で生まれ育ったインディアンの「オレ」。代々続く、貧しく希望のない人生 に見切りをつけ、夢と希望にあふれる白人のエリート高校に通い始めた。そんなこと をするのは保留地史上、「オレ」が初めてだ。だが、保留地では裏切り者扱い、白人 の学校では仲間はずれ。こんなはみだしインディアンに希望は生まれるのだろうか? 現代のインディアンが置かれた深刻な状況や、保留地と白人の町を渡り歩いたユニー クな青春を、14歳の「オレ」が赤裸々に、痛烈なユーモアをまじえて語る。  今回、2位以下に圧倒的大差をつけての大賞受賞となった。 ◎一見、ある限られた人の物語で、普遍性とは無縁のように感じるが、読み終わると 普遍的な感情が湧き上がってくる。これを持ち込みされたという、翻訳者様に感謝。 (カコ) ◎「ホントにホント」のことを、ユーモアという味付けで絶妙に描きだしている。脱 帽!(ワラビ) ◎過酷な現実から逃げることなく、むしろ立ち向かうことで乗り越えよう、何かを変 えようとする主人公のパワーに圧倒される。(asayaka) ◎差別、暴力、貧困などと、扱っている問題は深刻だけど、軽快な語り口でさらっと 読めてしまう。だけど、あとにはずしりと残る。(蒼子) ◎ものすごく悲惨な状況にあるのにちっともめげないで、前向きで、ひたむきで、ひ ょうひょうとカッコイイ!(おちゃわん) ☆~~~~~~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 さくまゆみこさん ~~~~~~~~~~~~~~☆ |                                    | |翻訳作品をたくさん読んでいらっしゃる目利きのみなさんに選んでいただいたの| |が、とてもうれしいです。原書を読んで私自身が夢中になり、出版社を説得した| |作品なので、なおさらです。今のところ読んでくださった方たちは、みんな気に| |入ってくださるのですが、「そんなの出てたの?」という方もいて、ちょっと悲| |しい思いをしていました。これをきっかけに読んでくださる方がふえるといいな| |と思っています。ありがとうございました。                | ☆                                    ☆  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ◆2位 『ピーティ』ベン・マイケルセン作 千葉茂樹訳 鈴木出版  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ゆがんだ顔、ねじれた体に生まれ、考える力がないと診断されたピーティは、幼く して精神病患者収容施設に入れられ、病室でただ必要な介助をされるだけの単調で退 屈な日々を何十年も送っている。だが長い施設生活の間には、彼の「考える力」に気 づいてあたたかく見守ってくれる人も時折現れ、ピーティはそのたびに新しい出会い を喜び、毎日を楽しむ。小さな喜びを全身で受けとめ、精一杯生きたピーティの生涯 は、不自由で困難が多いにもかかわらず、きらきらと輝いていた――。 ◎ピーティの人生を追いながら、同時に、ここには書かれていない、長い長い年月に 思いをはせました。(みーこ) ◎過酷な人生にも必ず光はさし、命は輝くものなのだと涙が止まりませんでした。 (おとむとむ) ◎不条理なことや悲しいことも多かったけれど、大切な人たちと出会えたピーティの 人生は幸せだったと思う。(hanemi) ◎長い年月を追いながら、シンプルなテーマで、人の孤独と愛と幸福を描ききった作 品。(りり) ◆3位 『マルベリーボーイズ』ドナ・ジョー・ナポリ作 相山夏奏訳 偕成社  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  19世紀末。9歳のユダヤ人少年ベニアミーノは、イタリアからアメリカへ単身で密 航させられた。名前をアメリカ風のドムに変え、新品の革靴だけを持ってニューヨー クに下り立った少年は、孤独や空腹に苦しむが、やがて持ち前の機転と行動力、誠実 さを生かして、日々の糧を稼ぎ始める。暴力、犯罪がはびこるニューヨーク最大のス ラム街マルベリーストリートで、たくましく生き抜いた少年の物語。 ◎いつか自分の子どもが大きくなったら、この本を読んで、考えてほしいです。学ぶ こと、働くこと、そして生きることの意味を。(林檎) ◎ドムというひとりの男の子を通じて、多くの移民が自由を求めて渡ったアメリカと いう国をしみじみ感じた。読了後、マンハッタンの地図をながめながら余韻にひたっ た。(みちこ) ◎ドムと仲間たちの勇気と賢さにただただ感動。(ぐりぐら) ◎たったひとりで密航させられ、アメリカへ向かった少年、ドムの知恵と強さにぐい ぐいと惹きつけられた。(shoko) ◆4位 『ミムス 宮廷道化師』リリ・タール作 木本栄訳 小峰書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  隣国のヴィンランド王の罠にはまったモンフィール国王は、重臣らとともに隣国の 地下牢に幽閉された。王子フロリーンだけは、ヴィンランド王を楽しませる役割を担 う宮廷道化師ミムスの弟子にされた。笑いのためには手段を選ばず、誰からも軽蔑さ れているミムスによるしごきは、初め、フロリーンにとって屈辱でしかない。だが、 ミムスの真価がわかり始めると、次第に師匠として尊敬の念を抱くようになる。 (本誌2010年4月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎この本の世界にすっぽりと入り込み、夢中になって読みました。(コアラン) ◎ミムスの徹底した道化ぶり、その壮絶な生き様には心から感服させられました。 (muzu) ◎自分の自由と大切な人を助けること。今の自分に何が出来るか。八方ふさがりに見 えてもどこかに出口はある、と教えてくれた本。(あぐりんこ) ◎最初から最後まで、ドキドキハラハラする展開。誇りをもち生きていくことの強さ を感じた。(ゆま) ◎生きていくことの厳しさとすばらしさを教えてくれる、じつに読み応えのある本。 (からくっこ) ◆5位 『ライオンとであった少女』                バーリー・ドハーティ作 斎藤倫子訳 主婦の友社  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  タンザニアの貧しい村で、9歳のアベラはエイズによって肉親を次々に失った。同 じとき、イギリスでは13歳の少女ローザが、母親が養子を切望していることを知って 疎外感を感じ始めていた。事情は異なるものの、同じく孤独を抱えるふたりの少女。 その2つの運命が交差して――。アフリカの貧困、児童の人身売買、そして絶望と希 望を、少女たちの人生を対比させながらドラマチックに描き出す。 (本誌2010年3月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎年のはじめ早々に1位と決めたほどインパクトのある作品だった。(SUGO) ◎主人公の少女アベラの心理描写が秀逸で、読んでいて胸がしめつけられるような思 いだった。(MOMO) ◎ふたりの主人公が早く出会えることを願いながら、一気に読みました。(ゆずみ) ◎全く違うようで似ているふたりの少女について、交互に描かれ、ついにつながる構 成が読ませる。(ちゃぴ) ◆6位以下の作品 6位『アニーのかさ』 7位「クロニクル千古の闇」シリーズ 8位『スキャット』 9位『リキシャ★ガール』 10位『希望(ホープ)のいる町』      ★☆★☆【2010年 第13回やまねこ賞 絵本部門】☆★☆★ ★大賞 『リスとはるの森』        ゼバスティアン・メッシェンモーザー文・絵 松永美穂訳 コンセル  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  シリーズ第3弾! あのリスの住む森に今度は、春がやってきた。「どうしてきゅ うに、みんなきれいな色になったんだろう?」ある朝、眠りから覚めてリスは目をぱ ちくり。でも、どうやら、春がおとずれたのは森だけではなかったみたい。ハリネズ ミの淡い恋ごころを助けるべく、リスが次々と出した妙案とは? 繊細な筆致で描か れる、とぼけた表情の動物たちの愛らしさとユーモアは今作でも健在だ。堂々の、シ リーズ2年連続大賞受賞。 ◎やっぱり、このリスの森の世界が好きです。(ワラビ) ◎微笑ましくおかしな森の騒動。動物たちの表情が最高にかわいい!(ゆま) ◎例の3人(?)組のはなしは、のんのんとして、でもおく深くて、思わず人生につ いて軽く真剣に考えてしまうのでした。(NON) ◎とんでもない展開と、落ち着いた絵のタッチとのギャップがおもしろい。高校生に なって、絵本をあまり読まなくなった息子も爆笑した1冊。(りり) ☆~~~~~~~~~~~~~~~~~【受賞のことば】 翻訳家 松永美穂さん ~~~~~~~~~~~~~~~☆ |                                    | |やまねこ会員のみなさま、昨年に引き続きリスと仲間たちのシリーズを選んでく| |ださり、ありがとうございます! 『リスとはるの森』は、男の子っぽいお話で| |すが、「めいよと ほまれ」を重んじるという、ヨーロッパの騎士物語みたいな| |ところがうまく伝わるといいな、と思いながら訳しました。原作者の絵はいつも| |ながらユーモアたっぷりで、春らしい明るい色彩に満ちていて、すばらしかった| |と思います。編集の柴田こずえさんにも、大変お世話になりました。今年はやま| |ねこのみなさまといろいろご縁があり、メルマガの編集長にもお会いできて、充| |実した1年でした。ありがとうございます。みなさまがよい新年を迎えられます| |よう、リスくんといっしょにお祈りしています♪              | ☆                                    ☆  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ★2位 『エイモスさんがかぜをひくと』  フィリップ・C・ステッド文 エリン・E・ステッド絵 青山南訳 光村教育図書  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  いつも決まった時間にバスに乗り動物園に出勤するエイモスさん。忙しい仕事をや りくりして、動物のおともだちの所にでかけては一緒にすごす時間を楽しんでいた。 そんなある日、風邪をひいて動物園に行けなくなって……。動物たちとエイモスさん のあたたかな関係は、毎日のさりげない出来事を愛おしく感じさせてくれる。後半の ファンタジックな展開が物語を引き立て、思わず風邪をひきたくなってしまうかも。 ◎エイモスさんのまなざしのあたたかいこと! 動物たちとのほのぼのとしたやりと りにほっとする。(asayaka) ◎リアルなようでファンタジックな物語と、写実的だけれどおかしみのある絵が絶妙 のバランス。(あんこ) ◎表紙を見たところそれほど好みでなかったのに、読んでみたら、いい。一緒に読ん だ子どもたちも楽しんでいました。(shoko) ◎本を閉じてもまだ、あたたかい気分がのこっていました。(はなみ) ★3位 『ふゆのようせいジャック・フロスト』               カズノ・コハラ文・絵 石津ちひろ訳 光村教育図書  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  コリンは、森のともだちがみんな眠ってしまう冬が大きらい。でも、ある朝まどガ ラスにうかびあがった不思議なもように誘われて外に出てみると……。灰色でさびし い部屋の外に広がるのは、いちめんの青と白。まるで氷の世界のような画面は色のコ ントラストが美しく、ページをめくるたびに冬独特のすがすがしさや匂いが立ち上っ てくるようだ。冬の楽しみ方をたくさん思い出させてくれるのもうれしい。 ◎冬が好きなので、冬の楽しさを描いたこの絵本に出会えてうれしかった。(みちこ) ◎色使いが美しい! 人物や動物が可愛い!(コアラン) ◎シンプルで美しい線と構図、子どもの気持ちになって無邪気に楽しめるストーリー。 大好きです。(ちゃぴ) ◎冬にぴったりの美しい世界が魅力的。娘と何度も読みました。(yoshiyu) ★4位 『百年の家』   J・パトリック・ルイス文 ロベルト・インノチェンティ絵 長田弘訳 講談社  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 「見ろよ! おっそろしく古い家だ」1656年に建てられずっと廃屋になっていた家は、 1900年に新たな家主を得て、息を吹き返した。そこから始まる家主の一生が、老成し た家のつぶやきを通して描かれる。100年という年月で人が生まれ死んでいくのであ れば、家もまた、その記憶を蓄積し100年のサイクルで一度は死に、次の家主を得て 再生する。生きるとは何かについて考えさせられる傑作絵本。大きな画面に描かれる 緻密で美しい絵も、圧巻。 (本誌2010年6月号「注目の本」のレビューをご参照ください) ◎家の語る100年の歴史、その壮大さに圧倒されました。絵も詩もすばらしいです。 今年といわず、これまで読んだ絵本のなかで一番です。(muzu) ◎じっくり絵を眺めて楽しみました。格調高い文もよかったです。(コアラン) ◎1軒の古い家が見つめてきた100年の歴史。緻密に描かれた絵と添えられているわ ずかな言葉が、そこに暮らした人々の100年を語っている。まさに絵が語る絵本。こ れほどじっくり見た絵本は久しぶり。(MOMO) ◎大人向きの、じっくり絵を味わいたい作品。(SUGO) ★5位 『おきゃく、おことわり?』 ボニー・ベッカー文 ケイディ・マクドナルド・デントン絵 横山和江訳 岩崎書店  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  おきゃくが来ないから、おきゃくなんて好きじゃないと思い込んでいたクマ。「お きゃく、おことわり」なんて張り紙までして、ひとりぼっちの生活を満喫していたつ もりだったけれど……。なんとしてもおきゃくになろうとするネズミの図々しさと、 それを阻止しようとするクマの情けなくもお気の毒な姿がコミカルで楽しい。思い込 みを取り払うと、毎日はぐんと楽しくなる、かも? 最後のページのクマの顔が全て を物語っている。 ◎読み聞かせにぴったりのかわいい絵本。笑って笑って、最後にはじーんとしました。 続編の翻訳も待ち遠しいです。(tommy) ◎タイル貼りの壁、ホーローの洗面器、旧式のこんろ、ポンプ式の井戸……クマの家 のインテリアにうっとり。こんな家ならわたしもお客になりたい。(hanemi) ◎ネズミさんの現れ方は、「トムとジェリー」のジェリーのように面白い。絵のタッ チと色使いも素敵。(カコ) ◆6位以下の作品: 6位『イソップものがたり ライオンとねずみ』 7位『かげ』 8位『あいつはトラだ!』 9位『さよならをいえるまで』 10位『王さまライオンのケーキ』      ★☆★☆【2010年 第13回やまねこ賞 原書部門】☆★☆★  児童書の原書であれば出版年、邦訳の有無、言語を問わず、気に入った作品に投票 できる原書部門には12名が投票し、39作品が挙がった。例年票が割れることも多いこ の部門だが、今年は計6作品に複数票が集まる結果となった。  3票を集めて1位に輝いたのは、イギリスの作家ポーリン・フィスクの "Flying for Frankie" だ。友情、家族、病気などの問題に思い悩みながらも一生懸命向き合 おうとする10代の少女たちの姿を描いた本作品は、2010年カーネギー賞ロングリスト に選ばれている。「イギリス、ダートマスを舞台に、境遇の違う少女2人の友情がみ ずみずしく描かれている」(ワラビ)、「不治の病におかされた親友を思う主人公の 純粋さに、いろいろ教えられた」(みちこ)、「重いテーマが取り上げられているが、 読み手の想像をはるかに越えた結末の爽やかさ、素晴らしさに感動した」(tommy) とのコメントが寄せられ、少女たちの気持ちに寄り添った物語に心を揺さぶられた様 子が伝わってきた。  続いて、2票ずつを獲得した5作品をコメントとともにご紹介しよう。 ★ "Friends: Snake and Lizard"(ジョイ・カウリー文/ガビン・ビショップ絵) 2010年ニュージーランド・ポスト児童図書賞児童読み物部門候補作品。同部門で子ど もたちが選んだ本賞にも選ばれた、友だち同士のヘビとトカゲの掛け合いが楽しい物 語。「"Snake and Lizard" の続編。爬虫類に対する愛が深まった」(hanemi) ★ "Sting"(レイモンド・フーバー作 ※本誌2010年6月号のレビューをご参照くだ さい) 2010年ニュージーランド・ポスト児童図書賞児童読み物部門候補作品。ハチ の少年のスリリングな冒険物語は、リアルに描かれたその世界も魅力。「自然の美し さを謳歌した『みつばちマーヤの冒険』と、環境破壊に警鐘を鳴らす本作。違いをか みしめながら読みました。楽しいけれど、深く考えさせられる物語です」(muzu) ★ "The Graveyard Book"(ニール・ゲイマン作/邦訳『墓場の少年 ノーボディ・ オーエンズの奇妙な生活』 ※本誌2010年10月号「注目の本」のレビューをご参照く ださい) 2009年ニューベリー賞、2010年カーネギー賞ほか多数受賞。幽霊たちの手 で育てられた、墓場に暮らす不思議な少年の物語。「ユニークな設定とミステリアス なキャラクターに加え、少年の成長物語としても魅力たっぷり。ぜひ邦訳も読みたい」 (asayaka) ★ "Love, Aubrey"(スーザン・ラフルア作) 2010年カーネギー賞ロングリスト、 2010年チルドレンズ・ブック賞高学年向け部門ショートリスト作品。主人公の11歳の 少女が、自らの境遇と心のうちを切々と語る。「痛ましい経験をした少女が、周囲の 人々の力を得て再生していく物語。胸が痛くなる場面が多かったが、心の傷が癒えて いく過程に説得力を感じた」(anya) ★ "Leon and the Place Between"(アンジェラ・マカリスター文/グラハム・ベイ カー・スミス絵) 2010年ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト作品。サーカス テントの中の幻想的な空間が、絵本の上で鮮やかによみがえる。「きらめくような魔 法の世界がステキ! 誘い込まれて一緒に夢の世界へ行ける」(おちゃわん)  これら複数票を獲得した作品に加え、全体を通して見ても、数年以内の児童文学賞 受賞作品あるいは候補作品の名前が多く挙がっていて、会員たちが注目作を積極的に 読んでいることがうかがえた。今年春に開催されたニュージーランド・ポスト児童図 書賞候補作読書会も絶好の機会になったようだ。作品の魅力がつまったコメントから は、世界の数多い児童書の中から選び、手に取った本との出会いを大切に思う会員た ちの気持ちが伝わってきて、ワクワクせずにはいられなかった。また1年後の報告が、 今から楽しみだ。     ★☆★☆【2010年 第13回やまねこ賞 オールタイム部門】☆★☆★  オールタイム部門は、この1年に読んだ新刊以外の翻訳児童書の中から5作品まで を、順位をつけずに投票するもの。今年は19名が票を投じた。作品総数は57で、その 約6割が読み物、4割が絵本だった。1票だけの作品のラインナップも興味深いが、 ここでは、複数票を獲得した4作品をご紹介する。 ★1位(4票) 「ステフィとネッリの物語」シリーズ              アニカ・トール作 菱木晃子訳 新宿書房 2006〜2009  昨年の読み物部門で2位につけた、スウェーデン発の4部作。第2次大戦中、親元 を離れてスウェーデンに逃れたユダヤ人姉妹ステフィとネッリが、歴史に翻弄されな がら成長し、それぞれの道をさがしていくという骨太のリアリズム作品だ。今年の春 には、作者アニカ・トール氏の来日講演会が開催され、当クラブでも話題になった。 「昨年のやまねこ賞で知り、みごとにはまった。このシリーズに出会えて本当によか った」(Emme)、「第2次世界大戦の体験を話せる人が減っていく中、こんな素晴ら しい物語が書かれたなんて、素晴らしいですね」(はなみ)、「シリーズ最終巻。最 後に一波乱も二波乱もあった。ステフィがこんなにも強くなれたのは、絶対的に信頼 できる人がいたからだろう」(ち〜ず)などのコメントが寄せられた。 ★2位(3票) 『レモネードを作ろう』徳間書店 1999/『トゥルー・ビリーヴァー』小学館 2009               ヴァージニア・ユウワー・ウルフ作 こだまともこ訳  こちらは昨年の読み物部門で1位に輝いた『トゥルー・ビリーヴァー』と、同じシ リーズの1作目『レモネードを作ろう』。アメリカのスラム街に暮らす少女を主人公 にしたYA作品だ。原作は3部作が完結しており、最終巻の邦訳を心待ちにしている 会員も多いことだろう。「昨年度読めなかった『トゥルー・ビリーヴァー』を読むに あたり、『レモネードを作ろう』も再読した。主人公を応援したくなるとともに、自 分も頑張ろうと思える、素晴らしい作品」(ワラビ)、「『レモネードを作ろう』の 続編。自分の道を切り開くのは自分なんだと勇気づけられました」(コアラン)とコ メントにあるように、逆境に負けまいと必死で生きる主人公の姿が共感を呼ぶ。 (『レモネードを作ろう』は、本誌1999年6月号書評編「注目の本」のレビューと、 増刊号No.1「ヴァージニア・E・ウルフ特集号」第一部をご参照ください。『トゥル ー・ビリーヴァー』は、同増刊号の第二部、未訳レビューをご参照ください。) ★3位(各2票/2作同点) 「クワイナー一家の物語」シリーズ         マリア・D・ウィルクス作 土屋京子訳 福音館書店 2001〜2010 『きりのもりのもりのおく』ニック・シャラット作 木坂涼訳 フレーベル館 2008 「クワイナー一家の物語」は、名作「インガルス一家の物語」シリーズの、ローラの 母キャロラインの少女時代を描いたシリーズだ。全7巻の最終巻が今年刊行されたが、 やまねこ賞に投票されたのは、シリーズ前半の作品。「あの時代、夫を亡くし、森の 中の小さな小屋で6人の子どもを育てていたローラのおばあさんは、すごい人だ」 (みちこ)、「ローラの母さんキャロラインがどんなふうに育って、あんなすてきな 母親になったのか、こうやって物語で読めてうれしい。ぜいたくを言えば、父さんの 物語も読んでみたい」(Emme)というコメントから、インガルス一族への思い入れが 伝わってくる。 『きりのもりのもりのおく』は、ケイト・グリーナウェイ賞ロングリストに選ばれた 絵本。「ページをめくるたびに、わたしも一緒に霧の森の森の奥へといざなわれてい きました。影絵のようなミステリアスな絵と絵本の構成は圧巻」(MOMO)、「薄 紙に書かれた影絵風のイラストがすてきな、夢のある絵本」(ち〜ず)とコメントに ある通り、シルエットで描かれた霧の森と、楽しめる構成が魅力的な作品だ。当クラ ブの読書室掲示板には、学校で読み聞かせしたという報告や、今後読み聞かせに使い たいという書き込みが、複数寄せられた。  オールタイム部門に投票された57作品を言語別で見ると、約半分が英語圏の作品で、 あとの半分は、ドイツ語圏、フランス語圏、スペイン語圏、北欧、オランダ、韓国な ど、さまざまな国の言語で書かれた作品がずらりと並んでいる。やまねこ会員の関心 の幅広さを改めて知るとともに、こんなにも多くの国の作品を邦訳で読めることに、 喜びをひしと感じた。  読み物部門と絵本部門の過去の受賞作品や、これまでに本誌で取りあげた作品、読 書室掲示板で紹介された作品のタイトルも多数並んだ。投票者のコメントを読んでい ると、お気に入りの作品への思いがこもっていて、片っ端から読みたくなってしまう。 やまねこ賞の投票が終わると、かえって読書熱が高まるのは、私だけではないだろう。 たくさんの本に出会えるやまねこ賞。来年も、多くの投票で盛り上がりますように。 【参考】 ▽やまねこ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/index.htm ▽やまねこ賞大賞受賞作品一覧(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/yn/ichiran.htm                  (石田景子/岡田衣央/平野麻紗/大作道子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●注目の本(邦訳絵本)●空想から広がる影の世界に遊ぼう! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『かげ』 スージー・リー作 講談社 定価1,470円(税込) 2010.08 38ページ ISBN 978-4062830454 "Shadow" by Suzy Lee Chronicle Books, 2010  横長の表紙を下から上へめくると、真っ暗闇の見返しに小さな白い文字。「パチ ッ!」。女の子が電気をつけたのは、物置部屋だろうか。掃除機、はしご、自転車に ホース、なにやらごちゃごちゃと置いてある。影が映っていることに気づいた女の子 は、食べかけのリンゴもそのままに、さっそく影絵遊びをはじめた。両手を組み合わ せてハトの影絵をつくってみる。すると、ほんのり黄色く色づいたハトが、パタパタ と飛び立って……、ふと気づけばほうきは花に、タイヤは月に姿を変えている。ホー スはヘビ、のこぎりはワニとなり、いつしか物置はジャングルへ。ところが、にぎや かさを増していく影の世界が、だんだん現実の世界に入りまじりはじめたから、さあ たいへん! 恐ろしげなオオカミが、現実の世界に飛び込んできた。 『なみ』で、波と戯れる少女を生き生きと描いたスージー・リー。新作となる本書で は、影の黒と光の黄色を効果的に用いて、またもやスタイリッシュで躍動感あふれる 世界を作りだしてくれた。文字はほとんどなく、見開きページの上半分には現実の世 界が、下半分には女の子の想像に合わせて変化していく影の世界が描かれている。影 の世界に遊ぶ女の子の、楽しそうなことといったら! 彼女と影たちの動きを追って ページをめくるうちに、私もいつの間にか、すっかり影の世界に入り込んでいた。時 間を忘れて想像の世界にひたる喜びを見事に描きながら、読者の側のイマジネーショ ンも楽しく刺激してくれる絵本だ。2色使いのシンプルな美しさ、構成の巧みさとい う点でも、極めて完成度の高い作品に仕上がっている。  夢中になって空想の世界を繰り広げる女の子。けれども「ごはんですよー!」のひ と声で、一気に現実へと引き戻される。「パチッ!」と電気を消したなら、そこはも との暗闇の中。でもどうやら、愉快な影の世界は続いているらしい。そう、イマジネ ーションの世界に終わりはないのだ。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】スージー・リー(Suzy Lee):韓国ソウル生まれ。ソウル大学、ロンドン芸術 大学キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツで学び、数々の絵本や作品集を出版。 韓国のみならず世界各国で高い評価を受けている。"Wave"(『なみ』/講談社)で 2008年ニューヨークタイムズ・ベストイラスト賞受賞、本作品でも2010年に同賞を受 賞している。シンガポール在住。 【参考】 ▼スージー・リー公式ウェブサイト http://www.suzyleebooks.com                                 (佐藤淑子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2010年カナダ総督文学賞(児童書部門)発表 ★2010年コスタ賞ショートリスト発表(受賞作の発表は2011年1月4日) ★2010年全米図書賞(児童書部門)受賞作発表 ★2010年アウグスト賞発表 ★2010年フィンランディア・ジュニア賞発表 ★2010年ラサリーリョ賞発表  海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を ご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●イベント速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★展示会情報  絵本屋ティール・グリーン in シード ヴィレッジ「酒井駒子原画展」  北九州市立美術館分館「世界の絵本作家展III」 など ★講座・講演会情報  クレヨンハウス「川端誠さん講演会」  教文館 子どもの本のみせ ナルニア国「辻村益朗氏講演会」 など  詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、 空席状況については各自ご確認願います。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event                            (笹山裕子/冬木恵子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お菓子の旅●第54回 ぷっくりと愛らしいミニパンケーキ 〜ポッフェルチェ〜 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ A man in a white apron stood before a stove in the tent and was busily frying, for there were crowds of boys and girls in front, all there to buy poffertjes for their pennies.                "A Day on Skates" by Hilda van Stockum(1934)                            Bethlehem Books(2007)   『楽しいスケート遠足』    ヒルダ・ファン・ストックム文・絵/ふなとよし子訳/福音館書店(2009年) -*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*  大小の運河が無数にあるオランダでは、冬場に運河が凍ると、人々はこぞってスケ ートに繰り出すそうです。今回のお菓子は、この運河スケートを題材にして、今から 80年近く前に書かれた物語に登場します。北部のフリースラント州にある小さな村の 子どもたちが、先生と一緒に1日がかりのスケート遠足にでかけました。いろいろな 冒険をしながら氷上を行く子どもたち。氷の上に張られたテントからはココアやケー キのいい匂いが漂い、くたびれた子どもたちを誘います。引用の場面では、ポッフェ ルチェやさんのテントで、子どもたちがお小遣いをにぎりしめ、自分の分が焼きあが るのを、今か今かと待っています。  ポッフェルチェはふっくらと厚みのある一口大のパンケーキで、たっぷりの粉砂糖 とバターで食べます。いつ頃から作られていたのかは議論のわかれるところですが、 18世紀末、革命期のフランスの修道院でホスチア(聖体)を作る小麦粉が不足し、そ ば粉で代用するうちにこのお菓子ができ、その後、19世紀初頭にかけてオランダに入 ってきたという説が有力なようです。しかし、17世紀に渡米したオランダ人女性の財 産目録にポッフェルチェ用のフライパンがあったことや、オランダで18世紀半ばに書 かれた古いレシピが残っていることから考えると、由来や歴史はもっと前にまでさか のぼれるのかもしれません。小さなくぼみの並んだ鉄板で焼かれる様子が、どことな くたこ焼きを思わせるこのお菓子。本場のものより丸くはなりますが、たこ焼き器を 利用した、家庭で手軽にできるレシピをご紹介します。どうぞお試しあれ。 *-* ポッフェルチェの作り方 *-* 材料(約4cmの穴のたこ焼き鉄板で40個分)  薄力粉             55g    そば粉           55g  砂糖            小さじ1    塩          ひとつまみ  卵(L)           1/2個    無塩バター(溶かしておく) 30g  牛乳(32〜33度に温めておく) 240cc    ドライイースト    小さじ1/2  油(鉄板に塗る)        適宜    粉砂糖           適宜  バター(トッピング用、有塩・無塩はお好みで)適宜 1.分量の牛乳のうち50ccでドライイーストを溶かし、10分ほどおく。 2.ボウルに粉類と砂糖、塩をあわせてふるい、卵と残りの牛乳を入れ、泡立て器で   混ぜる。 3.1のドライイーストも加えてしっかり混ぜる。 4.溶かした無塩バターを加えて混ぜ、ラップをして30度前後で40〜60分ほどおき、   発酵させる。発酵にはオーブンなどの発酵機能を利用したり、一回り大きなボウ   ルに40度の湯を張り、生地のボウルを重ねて湯せんしたりするとよい。湯せんの   場合は、冷めてきたら湯を足して、できるだけ温度を保つこと。 5.発酵して生地が1.5倍ほどになったら、ゴムべらで一混ぜし、熱して油を塗った   たこ焼き器の穴の8分目までお玉などを使って流し入れる。縁が焼けてきたらた   こ焼きピック(なければ竹串など)でひっくり返し、裏面が焼けたものから皿に   とる。 6.熱いうちに粉砂糖をたっぷりふりかけ、バターをのせる。 ★参考図書、ウェブサイト 『目で見る世界の国々22 オランダ』(メアリー・M・ロジャース著/国土社) 『図説キリスト教文化事典』 (ニコル・ルメートル、マリー=テレーズ・カンソン、ヴェロニク・ソ著/原書房) The food timeline http://www.foodtimeline.org/ Poffertjes on Tour "Hollandse poffertjes" http://www.poffertjesontour.com/pages/dutch-poffertjes.php ★「やまねこ翻訳クラブお菓子掲示板」         http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=okashi                    (加賀田睦美/冬木恵子/かまだゆうこ) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ ください。 ※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。 ※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。 ※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。 ※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編 集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ●  本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/info/order.htm  本号の html 版を12月17日に公開予定です。以下の URL よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm#html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━            ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・  詳細は10日頃、やまねこ翻訳クラブHPメニューページに掲載します。           http://www.yamaneko.org/info/index.htm  どうぞお楽しみに! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽   やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。           吉田真澄の児童書紹介メールマガジン              「子どもの本だより」      http://www.litrans.net/maplestreet/kodomo/info/index.htm  。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆       出版翻訳ネットワーク・メープルストリート       ☆★         http://www.litrans.net/maplestreet/index.htm 新刊情報・イベント情報などを掲載いたします。詳細はmaple2003@litrans.netまで。        出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです ★☆★☆★☆★☆★☆★☆ http://www.litrans.net/ ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=      ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★           http://www.litrans.net/whodunit/mag/ 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*= やまねこ翻訳クラブ発行メールマガジン&ウェブジン =*=*=*=*=*=* ★やまねこアクチベーター(毎月20日発行/無料)   やまねこ翻訳クラブのHOTな話題をご提供します!                  http://www.yamaneko.org/mgzn/acti/index.htm *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=* ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●やまねこ賞の投票にあたり、今年の読書を振り返ってみました。読み損 ねた本があったり、図書館から借りたのに期限が来てしまい、途中で返してしまった 本もあったり、原書の積読が増えていたり、反省ばかり。来年こそは、後悔のない読 書をするぞ、原書ももっと読むぞと心に刻みます。新春1冊目は何にしようかと、今 から考えています。(い) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発行人 蒲池由佳(やまねこ翻訳クラブ 会長) 編集人 井原美穂/植村わらび(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企 画 石田景子 大作道子 岡田衣央 尾被ほっぽ 加賀田睦美 かまだゆうこ     児玉敦子 笹山裕子 佐藤淑子 平野麻紗 冬木恵子 村上利佳 協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内     ながさわくにお ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。購読のお申し込み、解除もこちらからどうぞ。 ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・ご意見・ご感想は mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆無断転載を禁じます。