◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 2013年9月号    =====☆                    ☆=====   =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====    =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====                                 No.151 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌◆ ◆http://www.yamaneko.org                         ◆ ◆編集部:mgzn@yamaneko.org     2013年9月15日発行 配信数 2380 無料 ◆ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2013年9月号(「障害」特集)もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎はじめに:障害特集を組むにあたって ◎特集1:レビュー集  『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』                   フランシスコ・X・ストーク作/千葉茂樹訳  『車いすで世界一周 リック・ハンセンのお話』             エインズリー・マンソン文/たしろちさと絵/杉本詠美訳  『算数の天才なのに計算ができない男の子のはなし 算数障害を知ってますか?』         バーバラ・エシャム文/マイク&カール・ゴードン絵/品川裕香訳 ◎特集2:視覚障害がある子どものためのさわる絵本 ◎特集3:訳者からのメッセージ ◎賞速報 ◎イベント速報 ◎特集4:障害を扱った児童書の資料と賞の紹介   IBBY障害児図書資料センター推薦図書   シュナイダー・ファミリーブック賞(アメリカ) ◎特集5:ALS(筋萎縮性側索硬化症)と闘うドイツ語翻訳家 ◎歴代編集人からのメッセージ 第2弾 ◎読者の広場 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●はじめに●障害特集を組むにあたって ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  本誌ではこれまでに、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(マーク・ハッドン作/ 小尾芙佐訳/早川書房)、"Rules"(邦訳『ルール!』シンシア・ロード作/おびか ゆうこ訳/主婦の友社)、"Gadget Girl: The Art of Being Invisible"(スザンヌ ・カマタ作/未訳)など、障害を持つ子どもが登場する作品を折にふれて紹介してき た。これらの作品を通して、彼らやその家族に近づいたり、感じ方や考え方を知った りしたことはかけがえのない経験であった。また、本や言葉が持つ、読み手の心を揺 り動かす力を再認識する機会にもなった。障害を持つ子どもたちも、健常児と呼ばれ る子どもたちも、また私たち大人も、皆同じように、まわりの人々との関わりを求め、 その中で喜びや悲しみを共有しながら成長していく存在なのである。  そしてここ何年かの間に、こういったテーマの作品がやまねこ翻訳クラブ会員の翻 訳で世に送り出されてきているのは、われわれにとって誇らしいことである。  そこで今月号では、障害の特集を組むことにした。最近出版された作品のレビュー を皮切りに、視覚障害を持つ子どもも楽しめる「さわる絵本」の紹介、やまねこ会員 が翻訳に取り組んだ際の思いなど、多角的に迫ってみたい。また、このテーマの作品 を探す一助となるように、「IBBY障害児図書資料センター推薦図書」と、アメリ カの「シュナイダー・ファミリーブック賞」についても取りあげる。そして最後に、 ALSという難病のために身体の自由がきかず目だけで思いを伝えている、あるやま ねこ会員と、彼女が目を使って書いた本も紹介したいと思う。  なお、この特集を機に「障害を扱った翻訳作品リスト」を当クラブ資料室内にて新 規公開した。ぜひ参考にしていただきたい。 ▽障害を扱った翻訳作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/gen/theme/syogai/index.htm ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集1●レビュー集 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』 フランシスコ・X・ストーク作/千葉茂樹訳 岩波書店 定価1,995円(税込) 2013.03 388ページ ISBN 978-4001164039 "Marcelo in the Real World" by Francisco X. Stork Scholastic, 2009 ★2010年シュナイダー・ファミリーブック賞ティーン部門受賞作品  発達障害を持つ17歳のマルセロは、最後の夏休みをパターソンの養護学校で馬の世 話をして過ごそうと楽しみにしていた。ところが、普通の高校へ行かせたいと考える 父親から「リアルな世界」を経験してほしいといわれ、新学年からの進路を自分で決 めることを条件に、夏の間だけ父の法律事務所で働くことを渋々承諾する。いい距離 を取りつつ上手に接してくれる先輩ジャスミンのおかげで、何とか仕事には慣れつつ あった。だが、同じくバイトに来ている弁護士の息子ウェンデルが、ジャスミンをも のにするためマルセロを利用しようと何かと声をかけてくる。そんなある日、ウェン デルから頼まれた仕事をしている時に、マルセロは偶然1枚の写真を見つける。顏を 半分失った少女のまなざしに衝撃を受けたマルセロは、葛藤の末、行動を起こす。  主人公のマルセロは、我が息子とよく似ている。素直でまっすぐで、生き方が不器 用だ。思わず母親の気持ちになり、子どもを見守るようにしてページをめくった。パ ターソンという整った環境で続くはずだった幸せな生活は、リアルな世界に飛び込ん だことで一変する。暗黙の了解が理解しづらく、不測の出来事に困惑したり、偏見や 悪意に傷ついたりしながら、きれいごとばかりでない現実を少しずつ知っていくマル セロ。現実世界に慣れていく様子にはうれしさを感じたが、彼にだけ聞こえる内なる 音楽やこだわりでもある宗教への特別な関心など、アスペルガー症候群がもたらすマ ルセロらしさが弱まっていくのは、寂しくもあった。だが、ジャスミンや聖職者のラ ビ・ヘッシェル、そして母親のオーロラといった、主人公にそっと寄りそい、後押し してくれる存在があることに、心の底から安堵した。  人は誰でも、常に選択をしながら生きている。だが、その選択のせいで、人を傷つ けたり、自分の希望の道が断たれたりするとしたらどうだろう。人生の岐路に立つマ ルセロを導いたのは、宗教と大好きな音楽、そして馬だった。正直すぎるほど正直で 守られる存在だったマルセロは、大きな決断をし、ひとりで立てるほどやさしく強く なった。迷いながらも自分の力で答えを見つけたその成長ぶりが、何ともまぶしく、 誇らしい。親として選択に迷った時、わたしはこの本を何度でも手に取るだろう。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作】フランシスコ・X・ストーク(Francisco X. Stork):1953年、メキシコ、モ ンテレイ生まれ。9歳で米国テキサス州に移住し、地元の大学で英米文学と哲学を学 ぶ。大学院でラテンアメリカ文学を専攻した後、今度はロー・スクールに通い、弁護 士となる。法律の世界で生計を立てながら執筆活動を行い、2000年に "The Way of the Jaguar" でデビュー。本作が初の邦訳作品。 【訳】千葉茂樹(ちば しげき):1959年、北海道生まれ。国際基督教大学を卒業し、 児童書編集者を経て、英米作品の翻訳家となる。訳書に、『スター・ガール』(ジェ リー・スピネッリ作/理論社)、『ピーティ』(ベン・マイケルセン作/鈴木出版)、 『ボグ・チャイルド』(シヴォーン・ダウド作/ゴブリン書房)、『くらくてあかる いよる』(ジョン・ロッコ文・絵/光村教育図書)など多数。 【参考】 ▼フランシスコ・X・ストーク公式ウェブサイト http://www.franciscostork.com/ ▽千葉茂樹インタビュー(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/int/schiba.htm ▽千葉茂樹レビュー集(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/dokusho/shohyo/chiba/index.htm ▽千葉茂樹訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/schiba.htm                               (美馬しょうこ) **************************************************************************** 『車いすで世界一周 リック・ハンセンのお話』 エインズリー・マンソン文/たしろちさと絵/杉本詠美訳 汐文社 定価1,575円(税込) 2013.03 76ページ ISBN 978-4811389769 "Boy in Motion" by Ainslie Manson Greystone Books, 2007 ★2011年IBBY障害児図書資料センター推薦図書  自然豊かなカナダに暮らすリックは、外遊びが大好きで釣りに夢中な男の子だ。夢 は大物を釣り上げること。父と行った湖に、倒れたヒマラヤ杉を渡しに使った釣り場 があった。倒木の上を歩くのは無理だと弱音を吐くリックに、父は決して下を見ない で前だけを向いて一歩ずつ進むよう教えた。この日、リックは大きな魚を釣り上げた。  15歳、リックはバレーボールのカナダ代表選手選抜キャンプに誘われるが、それよ り優先した釣り旅行の帰リ道で事故に遭う。歩き疲れ、友人と共に荷台に乗せてもら ったトラックがぬかるみで横転。投げ出されたリックは、脊髄損傷により下半身まひ を負い、車いすの生活を余儀なくされた。強がって見せる笑顔の奥で、心は深く沈ん でいく。そんなある日、父は事故後初めてリックを釣りに誘った。悪路に渋るリック に対して、父は今回も手を貸さなかった。ようやくたどりついた川岸で、以前と変わ らぬ自分への自信と釣りに興じる喜びをかみしめる。それからは何事にも果敢に挑戦 していった。失ったもの以上に得たものがあると気付いたから……。  作品は障害の受容がより困難な後天的障害を受け入れ、障害も大切な自分の一部だ と考えるリックの精神を描いている。あきらめることなく前進する心の原点となった のは、ヒマラヤ杉がある湖に父と行ったあの時の釣りだろう。その後、障害を負った リックの心の叫びを聞いた父が、励ますために選んだのも釣りだった。それがリック の原風景であり、吹く風や匂いが五感を通して生きる力となり心を満たした。夢は生 きる希望になる。リックは歩く機能を失ったが、大きな夢と仲間を得た自分に気付く。 どれほど努力を重ねても切れた神経が元に戻ることはない。けれど、心を通わせて結 んだ心の糸はどんなことがあっても切れはしない。死が阻もうとも、そのつながりは 永遠だ。夢を叶えること以上に大切なのは、夢に向かって進むこと。その思いを両腕 から車輪に込めて、リックは今も人々の心を結ぶために走り続けている。  車いすマラソンのランナー、リック・ハンセンはパラリンピックに2度出場したメ ダリスト。義足のランナーで知られる友人のテリー・フォックスの遺志に心動かされ、 1985年「マン・イン・モーション・ワールドツアー」に挑戦。2年をかけて車いすで 世界を1周した。集められた募金は、障害の周知や医療の研究のために役立てられて いる。本作は、若き日のリック・ハンセンを描くノンフィクション。続編が楽しみだ。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文】エインズリー・マンソン(Ainslie Manson):児童書作家。高校を卒業後、世 界中を旅し、個人的楽しみとして旅行記を書く。結婚と仕事を両立しながら、大学へ 進学し創作コースを受講した。本格的作家活動は1981年から。カナダの歴史を題材に した作品を多く発表している。カナダ、ブリティッシュコロンビア州在住。 【絵】たしろ ちさと:絵本作家。大学で経済学を学ぶ。その後、絵本の創作活動に 入った。愛らしい表情の動物や虫などを題材にした絵が印象的で、多くの作品を手掛 けている。『ひっこしだいさくせん』(ほるぷ出版)で、2011年日本絵本賞を受賞し た。神奈川県在住。 【訳】杉本詠美(すぎもと えみ):広島大学文学部卒業。児童文学翻訳家。訳書に 「ガラスのうしモリーのおはなし」シリーズ(アントニオ・ヴィンチェンティ文・絵 /少年写真新聞社)、『おもいではチョコレートのにおい』(バーバラ・マクガイア 文・絵/アールアイシー出版)など多数。東京都在住。 【参考】 ▼エインズリー・マンソン公式ウェブサイト http://www3.telus.net/ainsliemanson/ ▼リック・ハンセン財団公式ウェブサイト http://www.rickhansen.com/ ▼テリー・フォックス財団公式ウェブサイト http://www.terryfox.org/                                 (三好美香) **************************************************************************** 『算数の天才なのに計算ができない男の子のはなし 算数障害を知ってますか?』 バーバラ・エシャム文/マイク&カール・ゴードン絵/品川裕香訳 岩崎書店 定価1,680円(税込) 2013.07 31ページ ISBN 978-4265850365 "Last To Finish: A Story about the Smartest Boy in Math Class" Mainstream Connections Publishing, 2008  マックスは算数が大の得意!……のはずだったが、小学校3年生になると、とつぜ ん授業についていけなくなってしまった。先生がタイマーを片手に、九九の問題をど れだけ早くとけるかテストするたび、気ばかりあせって全然できない。おかげで、同 級生のデヴィッドにはバカにされ、年下の子たちにまでからかわれる始末。それに、 パパとママをがっかりさせて悪いなって思う。でも、一番がっかりしてるのは自分自 身なのだ。そんなある日、学校から呼び出しが。きっと、算数の授業のことで、「も っとがんばりなさい!」って、しかられるんだ。  ともすれば深刻一辺倒になりかねない作品に、軽妙なタッチのコミカルな絵と、淡 い黄や緑を基調とした優しい色彩が、明るさを添えている。遊び心も随所に見て取れ、 テストで思考停止状態になるマックスをあるものに変身させて表現するところなどは、 切実な場面であるにもかかわらず、思わず吹き出してしまうほどだ。重いテーマが、 押しつけがましくなく、からりと伝わってくるのは、この絵のおかげだろう。  数がどう関係しているかなど概念を理解するのは得意だが、数の処理が苦手で計算 問題につまずく〈算数障害〉の一種を抱えるマックス。そんな彼の障害をまわりが知 るのは偶然からだ。だが、本来ならば、両親や先生が彼とのかかわり合いのなかで気 づくのが理想であろう。では、いち早く気づくためには何が必要か。それは、まさに この絵本が提供してくれるような知識である。もちろん、障害の名称を知った程度で、 あたかも理解したような錯覚に陥る危険性もあるだろう。そして、それは先入観とな って、逆に彼らの可能性を否定しかねない。  というのも、スペシャルオリンピックスという知的障害者を対象としたスポーツ組 織の大会でボランティアをした経験があるのだが、アスリートと共に過ごした3週間、 過度に手を差し伸べては、それが不要だと思い知らされたからだ。Disable と呼ばれ る彼らは、実にたくさんの able を見せてくれたのだった。  要は、相手のそのままの姿を見つめるまなざしと外からの知識――このふたつのバ ランスが大事なのだ。この絵本を読みながら、そんなことを思った。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【文】バーバラ・エシャム(Barbara Esham):米国東海岸で3人の娘を育てながら、 隙間時間を上手に見つけて物語を書いている。本作のほか、ディスレクシア(読み書 き障害)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)などをテーマにした作品が "The Adventures of Everyday Geniuses" シリーズとして刊行されており、2008年の Parents' Choice Awards を受賞した。 【絵】マイク&カール・ゴードン(Mike & Carl Gordon):マイクは、米国カリフォ ルニア州在住。世界的に有名なイラストレーターで、国立漫画家協会(米国)の権威 ある賞にノミネートされた経歴を持つ。息子のカールは、南アフリカでコンピュータ を駆使した作品作りを行っている。本作は、マイクがイラストの輪郭を描き、カール がコンピュータで色付けをして仕上げた。マイクの作品は、『ぼくのまわりの大切な こと』(ブライアン・モーセズ文/たなかまや訳/評論社)、『ほねはどうして動く』 (マリア・ゴードン文/にしもとけいすけ訳/ひかりのくに)など邦訳多数。 【訳】品川裕香(しながわ ゆか):早稲田大学法学部卒業。教育ジャーナリスト・ 編集者。著書に、ディスレクシアをテーマにした「怠けてなんかない!」シリーズ、 訳書に『どうしてダブってみえちゃうの?』(ジョージ・エラ・リヨン文/リン・ア ヴィル絵)(ともに岩崎書店)など、子どもの障害に関する本を多数手がけている。 【参考】 ▼"The Adventures of Everyday Geniuses" シリーズ公式ウェブサイト http://theadventuresofeverydaygeniuses.com/ ▼マイク・ゴードン公式ウェブサイト http://www.gordonillustration.com/                                 (相良倫子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集2●両手を開いて絵本を読む――視覚障害がある子どものためのさわる絵本 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  視覚障害というと、視力が全くない状況を思い浮かべる人が多いかもしれないが、 ぼやけて見える、まぶしくて見えにくい、一部の視野が欠けている、色の区別がつき にくい……など、状況はさまざまだ。  視覚障害がある子どものためのさわる絵本は、多様な視覚障害をもつ子どもたちに 絵本の楽しさを伝えることを目的として作られている。まだ点字を習っていない子や、 点字を習い始めたばかりの子が、手で読み取ることに慣れるための教育ツールとして も使われる。ボランティアが数か月かけて手づくりした布の絵本から、印刷・製本さ れ、出版物として市場に出まわっているものまで、バラエティーに富んでいる。  視覚障害のある子どもたちが絵本を読むとき、両手を開いてページ全体にふれ、10 本の指を使って読んでいく。その指先は、見える人の想像をはるかに超えて繊細だ。  そんな繊細な指先で楽しむ、ヨーロッパ発のさわる絵本を1冊紹介したい。 **************************************************************************** "Soffio di vento" 『風が吹いて』(仮題) by Elisa Lodolo エリーザ・ロドロ文・絵 Fed. Nazionale delle Istituzioni Pro Ciechi / Les Doigts Qui Revent, 2009, 18pp. ISBN 978-2916170995 ★2011年IBBY障害児図書資料センター推薦図書  地球が深呼吸して風が生まれる。風は草原を駆け抜け、雲の間を通り、家々のまわ りでほえ、最後は女の子の耳に入りこんで、自分の冒険を話して聞かせる。  風を表しているのは3本の毛糸。毛糸にさわり、風の動きを追いながら読み進める ことができる。家々はでこぼこした段ボール、雲や木、女の子には、見た目も触感も 異なる、いろいろな種類の布が張られている。左ページ上方に点字、右ページ上方に 文字が並び、目の見える子も見えない子もそれぞれに楽しめる絵本だ。  本書は、Federazione Nazionale delle Istituzioni Pro Ciechi(イタリア視覚障 害者団体連合)と、さわる絵本専門のフランスの出版社 Les Doigts Qui Revent に より共同製作された。 ****************************************************************************  さわる絵本への取り組みは日本でも進んでいる。2002年に「点字つき絵本の出版と 普及を考える会」が設立された。メンバーは出版社・書店・印刷会社の関係者や、作 家、画家など。めざすは出版物としての点字つき絵本の出版・普及だ。  一般的な書籍の製本方法は、強い圧力がかかって点字部分を傷つけてしまうため、 点字つき絵本には使用できない。リング製本される場合も多いが、コストがかかり、 価格が高くなってしまうのが難点とされる。会の設立10周年を記念して出版された 『ノンタンじどうしゃぶっぶー』(キヨノサチコ文・絵/偕成社)と『こぐまちゃん とどうぶつえん』(森比左志、わだよしおみ、若山憲作/こぐま社)のバリアフリー 絵本版、および『さわるめいろ』(村山純子作/小学館)は、いずれも大きな厚紙1 枚を折りたたむ、蛇腹製本という方法で製本されている。コストを抑えられたおかげ で、比較的求めやすい価格になったのがうれしい。  子どもたちに人気のロングセラー絵本『ノンタン〜』と『こぐまちゃん〜』を、目 の見えない子どもたちにも読ませたい。そんな気持ちから生まれたバリアフリー版は、 既存の絵本にただ点字を併記したものではない。透明な樹脂インクを使用して絵が盛 り上がるよう加工されており、絵も手でさわって読むことができるのだ。視覚障害を もつ子どもたちの意見を企画段階で取り入れ、元の絵そのままではわかりにくくなる 部分については、人物と物を離して配置する、形を変えるなどの工夫がされている。 特別支援学校に通う子どもたちが学校の図書室で借りて、目の見える弟や妹に家で読 みきかせてやることも多いそうだ。 【参考】 ▼Federazione Nazionale delle Istituzioni Pro Ciechi 公式ウェブサイト                                (イタリア語) http://www.prociechi.it/ ▼Les Doigts Qui Revent 公式ウェブサイト http://ldqr.org ▼"Soffio di vento"(フランス語版書名 "Petit souffle de vent")紹介ページ                            (上記ウェブサイト内) http://ldqr.org/livresVirtuels/petitSouffle/UkPetitSouffle.php ▼エリーザ・ロドロ公式ウェブサイト http://www.elisalodolo.it ▼「点字つき絵本の出版と普及を考える会」公式ブログ http://tenjitsuki.exblog.jp/ 【特殊文字】 「Revent」:最初の「e」の上にアクサン・シルコンフレクス(^)がつく                               (赤塚きょう子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集3●訳者からのメッセージ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  やまねこ翻訳クラブ会員の翻訳で、障害をテーマとした作品が多数出版されている。 どのような思いで作品と向き合ったのか、また翻訳する際にはどんなことに苦労した のだろうか。7人の訳者からのメッセージをお読みいただきたい。 **************************************************************************** ◆杉本詠美 『車いすで世界一周 リック・ハンセンのお話』 エインズリー・マンソン文/たしろちさと絵/汐文社/2013 ※2011年IBBY障害児図書資料センター推薦図書 (本誌今月号、特集1のレビューを参照のこと)  作品の原題は "Boy in Motion"。車椅子で世界を1周した "Man in Motion World Tour" にひっかけたタイトルですが、リックが誰より活発な少年だったこと、下半身 不随となりながらも懸命のリハビリで動きまわる自由をとりもどしたこと、そして何 より、前へ前へ進んでいこうとする彼の心のあり方を表しています。だいじなのは夢 をあきらめないこと――このメッセージを、ぜひ子どもたちに届けたいと思いました。  この本の原書は、実は絵本です。より幅広い年齢の子どもたちに読んでもらおうと、 読み物の形で出版することになりました。低年齢の読者にもわかるように、なるべく 平易な言葉を選び、語りかける調子で訳しています。文だけで物語として成立させる 工夫もしましたが、たしろさんの親しみやすく、行き届いたイラストは日本語版の魅 力です。この物語にはまだ続きがあるので、いつかそれもお届けできればと思います。 ◆田中亜希子 『僕らの事情。』 デイヴィッド・ヒル作/求龍堂/2005  YA小説の王道をいく、爽やかで骨太な作品です。この本はなんといっても、15歳 の少年たちの生き生きとした描写と、作品全体に漂う舞台ニュージーランドの素朴な 温かさが大きな魅力。翻訳では何よりその雰囲気を損なわないよう心がけました。ま た、本書は難病の筋ジストロフィーにおかされている車椅子の少年とその親友の物語 でもあり、病や障害のことを抜きには語れません。そうした記述に関する翻訳では、 医師を初めとする多くの方のご協力をいただきました。この本を翻訳することが、 「海外」という「未知の世界」の紹介になるだけでなく、「病や障害」という、ある 意味においての「未知の世界」の扉を開くことにもつながっていたのは、訳者として 幸運でした。『僕らの事情。』が日本の読者に楽しんでもらえて、命や友情といった さまざまなことを考えるきっかけになれば幸いです。 ◆枇谷玲子 『手で笑おう 手話通訳士になりたい』 アン・マリー・リンストローム作/汐文社/2012  この作品は1968年にスウェーデンろう連盟の一職員として手話通訳士の教科書や手 話辞典を編纂、その翌年国内発の手話通訳養成講座を開講した作者の自伝です。2010 年に私はノルウェー、オスロのIBBY障害児図書資料センターを訪れ、そこでこの 作品を知りました。訳しながら私は留学していたお隣デンマークの生涯学習施設を思 い出しました。そこにはろうの生徒が3人いたのですが、その3人のために県から給 与を支払われているプロの通訳さんが毎日やって来ていました。他の生徒たちも手話 の自主学習会を開いていました。このような光景が北欧の学校生活の一コマとして当 たり前のように見られるのは、本作の作者のような方たちのご尽力もあってのことな のではないでしょうか。本書の日本での出版が、日本のろうの人たちを取り巻く環境 の改善につながればうれしいです。 ◆古市真由美 『暗やみの中のきらめき 点字をつくったルイ・ブライユ』 マイヤリーサ・ディークマン作/森川百合香絵/汐文社/2013 ※2011年IBBY障害児図書資料センター推薦図書  この本には主人公が2人います。1人は、200年前のフランスに生き、失明という 体験を乗り越えて15歳で点字を考案したルイ・ブライユ。もう1人は、現代のフィン ランドで点字を使っている小学生の男の子レオ。レオの担任の先生が、ブライユの生 涯をクラスのみんなに語り聞かせる形で進行する作品です。本書は、IBBY障害児 図書資料センター推薦図書を紹介する「世界のバリアフリー絵本展」をきっかけに日 本の出版社の目に留まり、邦訳出版に至りました。翻訳に当たっては、ブライユの伝 記部分やフィンランドの障害児教育に関わる部分はノンフィクションなので事実確認 に努め、同時に、物語としての温かな味わいを損なわないよう心がけました。どうし ても本が読みたい、そのための文字を自らの手でつくろう、と考えたブライユの熱い 思いが、この作品を通して読者に伝わることを願っています。 ◆美馬しょうこ 『わたしのすてきなたびする目』 ジェニー・スー・コステキ=ショー文・絵/偕成社/2013 ※2009年IBBY障害児図書資料センター推薦図書  斜視と弱視を持つジェニー・スーは、とても前向きな女の子。友だちにからかわれ てもへっちゃらでしたが、治療ではつらい思いをし……。読後さわやかなこの絵本は、 まず絵に惹かれて興味を持ち、それから個性的な主人公の明るさや、斜視や弱視、そ の治療の様子がプラスイメージで表現されているところにぐっときて持ち込みを決め ました。作者の芸術家らしい詩的な表現を、わかりやすく、かつリズミカルになおし たり、ラストの決めぜりふをかっこよくしたりと、じっくりことばと向き合えた編集 作業は、頭を悩ませつつもとても楽しく、幸せな時間でした。個人的には、工夫を取 り入れてもらった黒板の文にも注目していただけたらうれしいです。〈他の子と違う 点は、長所になる〉〈あなたはあなたのままでいい〉という作者のメッセージが、た くさんの子どもたちに勇気を与えてくれますように。 ◆村上利佳 『両手を奪われても シエラレオネの少女マリアトゥ』 マリアトゥ・カマラ、スーザン・マクリーランド共著/汐文社/2012 ※2011年IBBY障害児図書資料センター推薦図書  西アフリカの小国シエラレオネでは、1991年から約10年間大規模な内戦が続いてい ました。突然内戦に巻きこまれ、自分とさほど年の変わらない少年兵に両手首から先 を切断された少女マリアトゥの懸命に生きる姿や、彼女を励まし支える家族の愛情に 感銘を受け、ぜひこの作品を日本に紹介したいと思いました。  シエラレオネは、悲惨な内戦という代償を払ったにもかかわらず、いまだ世界最貧 国のひとつという状況から脱することができていません。欧米の篤志家の援助を得る ことができたマリアトゥが、思い出したくない過去をさらけ出しても伝えたかったの は、愛する祖国への思い、そして明日への希望です。日本人がなかなか知る機会のな い、シエラレオネの文化や風習、人々の気質も描かれています。これからの地球を担 っていく若い人たちに、ぜひ手に取っていただきたい作品です。 ◆横山和江 『ウィッシュ 願いをかなえよう!』 フェリーチェ・アリーナ作/講談社/2011 ※2007年IBBY障害児図書資料センター推薦図書  主人公のセブはダウン症です。一般的にダウン症といえば、親に守られているイメ ージを受けますが、セブが病気のお母さんを救いたい一心で旅に出て活躍する物語は ほかに類を見ないと思い、ぜひ日本に紹介したいと出版社に持ち込みしました。  翻訳するうえで一番気をつけたのは、会話や動作の部分です。原書にはダウン症特 有の言い回しはなく、翻訳した文章からもダウン症ということが伝わりにくかったの で、なるべくリアルな話し言葉や動作になるよう、読みにくくならない範囲で手を加 えました。その際、詳しい方に相談したほか、書家の金澤翔子さんの動画や書籍を参 考にさせていただきました。ある新聞で、金澤翔子さんの記事と並んで本書が紹介さ れていたのが、なによりうれしかったです。邦訳にあたり挿絵を加えたおかげで、広 大なオーストラリアの大自然をよりイメージできるようになったのではと思います。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★2013年ミソピーイク賞児童書部門発表 ★2013年LIANZA児童図書賞発表 ★2013年オーストラリア児童図書賞発表 ★2013年ガーディアン賞ショートリスト発表(受賞作品の発表は10月の予定)  海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を ご覧ください。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●イベント速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★展示会情報  ハックルベリーブックス「ニルスが出会った物語 原画展」  伊丹市立美術館「THE COLLECTION 2013」 など ★講演会・シンポジウム情報  子どもの城「世界と日本の子どもの本から2」  大阪・名古屋・東京「中川李枝子講演会」 など ★コンクール情報 「第20回いたばし国際絵本翻訳大賞」 など  詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、 空席状況については各自ご確認願います。 http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event ★★やまねこ翻訳クラブ協力企画のお知らせ★★ 「読書探偵作文コンクール 2013」   主催 読書探偵作文コンクール事務局   協力 翻訳ミステリー大賞シンジケート、やまねこ翻訳クラブ  やまねこ翻訳クラブが協力しているこのコンクールの応募締め切りは9月30日です。  詳しくは、読書探偵作文コンクールのウェブサイトをご参照ください。  また、ツイッターでも随時情報を提供していますので、どうぞご利用ください。 読書探偵作文コンクール公式ウェブサイト http://dokushotantei.seesaa.net/ 読書探偵作文コンクール公式ツイッター https://twitter.com/Dokusho_Tantei                            (冬木恵子/笹山裕子) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集4●障害を扱った児童書の資料と賞の紹介 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★IBBY障害児図書資料センター推薦図書  IBBY Outstanding Books for Young People with Disabilities  IBBY障害児図書資料センター推薦図書は、障害のある青少年のための図書カタ ログとして、IBBY(国際児童図書評議会:International Board on Books for Young People)から隔年で発行されている。このプロジェクトは、読書への特別なニ ーズの有無に関わらず、全ての子どもたちに読書を楽しむ機会や環境が与えられるこ とを目指して始まった。掲載作品は、IBBY各国支部、出版社、及び支援者により 推薦された中から選ばれ、ボローニャ国際児童図書展で展示された後、日本を含む世 界各地で巡回展示されている。  プロジェクトの中心となるIBBY障害児図書資料センターは、1985年、ノルウェ ーのオスロ大学特殊教育研究所内に、同研究所の講師で図書館司書のニーナ・A・ラ イダーソンにより開設された。障害児のために特別にデザインされた図書の調査研究、 製作、貸出の仲介、及び利用の促進を目的とし、4,000冊以上の蔵書を保有している。 さらに、カタログの原点は、オスロ大学文学部教授で、自らが障害児の母親であった 作家トーディス・ウーリアセーターの下で進められた、ノルウェー特殊教育研究所と IBBYの共同研究にさかのぼる。その成果は『本はともだち 障害をもつ子どもと 本の出会いのために』(藤田雅子、乾侑美子訳/偕成社)や、小冊子 "Books for Language-retarded Children"(仮題「言語障害児のための本」)として発表され、 最初のカタログ "Books and Disabled Children" が、1981年に製作された。2002年 に、センターはオスロ郊外のビーラム市にあるハウグ・スクール資料センター内へ移 り、所蔵する推薦図書全体から選んだ2002年版のカタログが作られている。その後、 2005年版からは、過去2年間に発行された作品が対象となった。長くノルウェーで活 動を続けてきたIBBY障害児図書資料センターは、今年カナダに移転し、トロント 公立図書館内で冬から運営を再開するとのことである。  IBBY障害児図書資料センター推薦図書は、一般に流通している図書を読むこと や、自分に適した本を選ぶことが困難な子どもたちの求める要素や機能を持ち、文学 としても、芸術としても、質の高い作品を製作、選択するための、ひとつのガイドラ インを提示してきた。障害の有る無しに関わらず、子どもたちは、一人一人が異なる ニーズやスキルを持っている。そのことを理解し、そのために活用されることを願い、 日本でもJBBY(日本国際児童図書評議会)が邦訳版カタログを製作、販売してい る。2011年版からは、やまねこ翻訳クラブの有志も協力している。 【参考】 ▼IBBY公式ウェブサイト http://www.ibby.org/ ▼JBBY公式ウェブサイト http://www.jbby.org/ ▼カタログのアーカイブ(Austrian Literature Online 内) http://www.literature.at/collection.alo?objid=14771&from=1&to=50&orderby=date&sortorder=a                                 (大原慈省) --------------------------------------------------------------------------- ★シュナイダー・ファミリーブック賞 The Schneider Family Book Award  シュナイダー・ファミリーブック賞は、ALA(米国図書館協会:American Library Association)が主催する賞のひとつで、2004年にキャサリン・シュナイダ ー博士の寄付により創設された。毎年1月末にニューベリー賞などと同時に発表され る。障害を持つ子ども、若者、その家族や友達を描いた作品が対象で、ティーン向け (13〜18歳)、中学生向け(11〜13歳)、子ども向け(0〜10歳)の3部門から1冊 ずつ選ばれる。2013年の『さかさまになっちゃうの』(クレア・アレクサンダー文・ 絵/福本友美子訳/BL出版)、2010年の『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』 (本誌今月号、特集1のレビューを参照のこと)など、受賞作品の中から多数の邦訳 が出版されている。  キャサリン・シュナイダーは生まれつき盲目であったが、ハンディを乗り越え、ミ シガン州立大学を卒業し、さらにパデュー大学博士課程を修了した。その後は、大学 で教鞭をとり、また学内のカウンセリングサービスの管理・運営の仕事もこなすなど、 臨床心理士として30年のキャリアを築いてきた。退職後に、自らの経験をもとにした "To the Left of Inspiration: Adventures in Living with Disabilities"、"Your Treasure Hunt: Disabilities and Finding Your Gold"(いずれも未訳)の著作を発 表している。 【参考】 ▼シュナイダー・ファミリーブック賞公式ページ(ALA内) http://www.ala.org/news/mediapresscenter/presskits/youthmediaawards/schneiderfamilybookaward ▼キャサリン・シュナイダー紹介ページ(University of Wisconsin-Eau Claire 内) http://www.uwec.edu/newsreleases/10/feb/0225KSchneiderBook.htm ▽シュナイダー・ファミリーブック賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/schneider/index.htm                                (植村わらび) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●特集5●ALSと闘うドイツ語翻訳家 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 『わたしは目で話します 文字盤で伝える難病ALSのこと そして言葉の力』 たかおまゆみ著 偕成社 定価1,260 円(税込) 2013.02 231ページ ISBN 978-4038082504  ALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気をご存じだろうか。全身の筋肉を動かす 神経細胞の数が少しずつ減少して働かなくなっていき、やがて人工呼吸器をつけなけ れば呼吸筋まひで亡くなってしまうという難病だ。この病の特徴は、認知機能はあく まで正常というところだ。つまり、ものごとを理解し考える能力は正常なのに、体の あらゆる筋肉が動かなくなり、声を発したり手を動かしたりという一般的なコミュニ ケーション手段を絶たれるのだ。  だが、そんな過酷な状況におかれても、本まで出版しているやまねこ翻訳クラブ会 員がいる。彼女の名前は、たかおまゆみさん。たかおさんはドイツ語翻訳・通訳のプ ロとして活躍していた2009年にALSを発症した。  たかおさんは大学で言語障害児教育を学び、大学院卒業後ろう学校の教師となった。 その後、夫の留学先スイスに同行してドイツ語と出会う。この本には、ろう学校の教 師やドイツ語翻訳・通訳者といった言語のプロとしてのたかおさんの経験と、文字盤 を通して意思疎通をする世界の両方が書かれている。ALSは個人差はあるものの、 本来そんなに進行速度が速い病気ではないそうだ。だがたかおさんの場合、病の進行 があまりに速すぎて、瞬く間に、動くのは眼球まわりのほんのわずかな筋肉だけ、と いう状態になってしまった。そんな状況で文字盤を使って200ページ以上もの本書を 書き上げるというのは、とんでもない奇跡としか言いようがない。  文字盤にはいろいろ種類があり、たかおさん愛用の品は、クリアボードに50音順の ひらがなと、文章を書くための記号が並んでいる。そのボードをはさんで、話す人と 読みとる人が向かい合い、文字盤を動かしながら目と目を合わせるようにして、視線 の合った文字を読みあげる。同時に読みとる側は、話す人の目に現れる感情や表情も 読みとる。そうすることで、話す人の「言葉」が「本物」となり、言葉の世界が無限 に広がっていく。これぞ本当の「コミュニケーション」だ。たかおさんの「どうして もこの本を書き上げたい」という強い意志と、「言いたいことを読み取ってあげたい」 という支援者たちの強い思いが、「真の意味でのコミュニケーション」を具現化する ことになり、本書がこの世に送り出されたのだ。なお、たかおさんは発病以来、本書 のほかに共訳書を2冊、ウェブサイト上で翻訳作品を2作品発表している。  彼女の発病を知って以来、わたしが非常に感銘を受けているのは、たかおさんの常 に前向きな考え方だ。もちろん、告知されたときはあらゆることに絶望し、悲嘆に暮 れたという。だが、彼女はさまざまな葛藤を乗り越え、ご家族とともに病気と「あり のままの自分」を受け入れ、24時間他人ケアを受けながら、あくまで「自分らしく」 暮らそうとしている。彼女が本書やブログを通じて、家族のケアをする側だった「お 母さん」が、ケアされる側になってなお「普通に」暮らせる姿を社会に見せてくれて いることは、女性の同病の方にとっても非常に心強いことではないだろうか。  同じ翻訳に携わる者として、やまねこの仲間として、わたしはたかおさんのことを 誇りに思う。今回の特集で紹介したように、近年「障害」をテーマにした作品を、会 員が多数邦訳出版する機会に恵まれた。たかおさんが当クラブの会員であることも、 運命の巡りあわせだろう。心からのエールを送るとともに、この本が、コミュニケー ションの本当の意味を考えるきっかけになることを心から願う。 【参考】 ▼たかおまゆみ ブログ 「ニューロンくん がんばれ!」 http://blog.goo.ne.jp/usagi2009_2009 ▽たかおまゆみ訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/mtakao.htm                                 (村上利佳) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●歴代編集人からのメッセージ 第2弾●創刊15年、150号発行の節目を迎えて ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  7月号に引き続き、創刊15年を記念して歴代編集人からのメッセージをお届けする。 10月号掲載予定の、第3弾最終回もお楽しみに。 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + ▼赤塚きょう子 2003年10月号(書評編)〜2005年7月号担当 「書評編」の編集長を引き継いだ1年後に「情報編」と「書評編」を統合し、以後は 毎月交替で編集長・副編集長を務めました。ニューベリー賞、カーネギー賞といった メジャーな賞の情報に目を光らせ、邦訳児童書の新刊はできる限りチェック……。そ のマメさは、今の自分からはとても想像できません。編集作業を通して経験したこと は非常に大きく、その後の仕事に生かされていることを実感しています。祝150号! + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + ▼竹内みどり 2004年10月号〜2006年9月号担当  リストを作ったり、レビューを書いたり、「お菓子の旅」などのコーナーを担当し たりする中で、最後に編集長としてたくさんのことを学ばせていただきました。編集 長としての初仕事は、「情報編」と「書評編」を統合することでした。さまざまな困 難を乗り越えての150号、本当におめでとうございます! これまで「月刊児童文学 翻訳」に関わり支えてくださったすべてのみなさまに、感謝と敬意を捧げます。 + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + + ▼横山和江 2005年9月号〜2007年7月号担当  150号、おめでとうございます! 毎月発行間際になるとお祭り騒ぎ(?)のよう に盛り上がったのが懐かしいです(もちろん現在も続いていますが)。わたしが編集 人だった期間は、メインの担当は3か月に一度という3人体制で、編集メンバーをは じめ編集人の2人にとても助けてもらいました。記憶を掘り起こしてみると、担当し ていた時期は、持ち込みではじめて訳書を出してから3冊目の編集・校正作業をして いたときと重なるようです。現在12冊目の作品にとりかかっていますが、本誌で学ん だことが確実に役立っていると、深く感謝しています。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ ください。 ※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。 ※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。 ※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。 ※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編 集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ●  本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。 こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/info/order.htm  本号の html 版を9月18日に公開予定です。以下の URL よりお入りください。 http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm#html ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━            ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・  詳細は10日頃、出版翻訳ネットワーク内「やまねこ翻訳クラブ情報」のページに掲 載します。どうぞお楽しみに!           http://litrans.g.hatena.ne.jp/yamaneko1/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽   やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━      ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のライフスタイルブランド ☆☆  独創的なデザインで世界100ヶ国以上で愛用されているフォッシルはアメリカを代 表するライフスタイルブランドです。1984年、時計メーカーとして始まったフォッシ ルは時計をファッションアクセサリーの一つと考え、カジュアルな「TREND」ライン からフォーマルなシーンにも使える「CERAMIC」など、年間300種類以上のモデルを発 売し続けています。またフォッシル直営店では、時計以外にもレザーバッグ、革小物、 ファッションサングラスなどのラインも展開しています。 TEL 03-5992-4611 http://www.fossil.co.jp/     (株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社 PR━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ★☆     出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです     ☆★              http://www.litrans.net/ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=      ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★           http://www.litrans21.net/whodunit/mag/ 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉 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