◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 2025年10月号    =====☆                    ☆=====   =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====    =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆===== No.237 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌 http://www.yamaneko.org 編集部:mgzn@yamaneko.org 2025年10月15日発行 配信数 2610 無料 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●2025年10月号もくじ● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ◎賞情報:速報! 2025年全米図書賞児童書部門 ファイナリスト発表! ◎賞速報 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞情報●速報! 2025年全米図書賞児童書部門 ファイナリスト発表! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  10月7日、2025年全米図書賞(National Book Awards)のファイナリスト(最終候 補作品)が発表された。  アメリカ人作家による優れた文学作品の普及と読書人口の増加を目的として1950年 に創設された本賞は、1989年から全米図書財団(The National Book Foundation)が 主催している。対象部門は時とともに変遷し、2018年から、フィクション、ノンフィ クション、詩、児童書、翻訳作品の5部門となった。前年12月1日から当年11月末日 までにアメリカで出版された(または出版される)作品を対象に、文学的価値を重視 して選考される。児童書部門は1969年に設けられ、1984年にいったん廃止されたが、 1996年に復活した。以来、ジャンルを問わずもっとも優れた児童書に贈られている。  今年は9月9日から12日にかけて各部門のロングリスト10作品が発表され、その中 から各5作品がファイナリストに選ばれた。受賞作品の発表は、11月19日の予定。  本号では、児童書部門(Young People's Literature)のファイナリストおよびロ ングリストに選ばれた作品をご紹介する。 ▼2025年全米図書賞ファイナリスト発表ページ  (National Book Foundation ウェブサイト内) https://www.nationalbook.org/2025-national-book-awards-finalists-announced/ ▼上記ウェブサイト内、児童書部門ロングリスト発表ページ https://www.nationalbook.org/2025-national-book-awards-longlist-for-young-peoples-literature/ ▽全米図書賞(児童書部門)受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室) http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/nba/index.htm ★Finalists(5作) "A World Worth Saving"  by Kyle Lukoff (Dial Books for Young Readers) "The Leaving Room"  by Amber McBride (Feiwel & Friends) "The Teacher of Nomad Land: A World War II Story"  by Daniel Nayeri (Levine Querido) "Truth Is"  by Hannah V. Sawyerr (Amulet Books) "(S)Kin"  by Ibi Zoboi (Versify)  "A World Worth Saving"は、ユダヤ神話をとりいれたファンタジー小説だ。14歳の 少年Aは、トランスジェンダーの若者を「治療」する集会に参加させられていたが、 集会の背後には、人間の苦痛や偏見を糧にする悪霊がいた。Aは、自分に悪霊を倒す 力があることを知り――。作者のKyle Lukoffは、トランスジェンダーの男の子と幽 霊の交流を描いた"Too Bright to See"が2021年の本賞ファイナリスト作品、2022年 のニューベリー賞オナーに選ばれるなど、今注目を集めている作家のひとりである。  "The Leaving Room"は、アフリカ系アメリカ人の作家Amber McBrideによる、幻想 的なヴァースノベル。Leaving Roomとは、早世した子どもが死後に通過する部屋だ。 17歳の少女Gospelはその番人として、死者の世話をしてきた。ところが、もうひとり の番人Melodeeとの思いがけない出会いから、自身の役割を問い直すことになる。 2021年の本賞ファイナリストに選ばれたデビュー作"Me (Moth)"同様、ブードゥー教 を実践する作者の霊的世界への関心がうかがえる作品だ。  Daniel Nayeriによる"The Teacher of Nomad Land: A World War II Story"は、第 二次世界大戦中、1941年のイランが舞台。遊牧民に読み書きを教えていた亡き父の仕 事を引き継ぎ、13歳の少年Babakは8歳の妹Sanaと山岳地帯へ向かう。その道中で出 会ったのは、ナチスのスパイから逃げているユダヤ人少年だった。作者Nayeriはイラ ン生まれ。自伝的小説"Everything Sad Is Untrue (a true story)"で2021年プリン ツ賞を受賞、"The Many Assassinations of Samir, the Seller of Dreams"で2024年 ニューベリー賞オナーに輝いている。  "Truth is"は、17歳の女子高校生の胸の内を、日記や詩を織り交ぜた文体で綴った 作品だ。主人公のTruthは、親に対する怒りや将来への不安を詩に書いて発散してい る。別れたボーイフレンドの子どもを妊娠していることがわかり、ひそかに中絶を決 意するのだが、この想いを詩にして語ったパフォーマンス動画がネット上で拡散され、 母親に知られてしまう。作者のHannah V. Sawyerrは、若手の詩人として注目された のち2023年に"All the Fighting Parts"で小説家デビューを果たし、本作が2作目と なる。  "(S)Kin"では、カリブの民間伝承をもとに、ふたりの少女の成長が描かれる。15歳 のMarisolは新月に脱皮する魔女の娘。島を離れて母とブルックリンに移住したばか り。17歳のGenevieveは、ルーツの異なる家族のなかで肌と心に痛みを抱えていた。 生後間もない双子の異母妹のために、Marisolの母が乳母として雇われ、ふたりは出 会う。ハイチ系アメリカ人作家のIbi Zoboiが詩形式で語る、初のファンタジー小説。 Zoboiは、2017年にデビュー作"American Street"でも本賞ファイナリストに選ばれて いる。 ★Longlist(5作) "A Sea of Lemon Trees: The Corrido of Roberto Alvarez"  by Maria Dolores Aguila (Roaring Brook Press) "The Corruption of Hollis Brown"  by K. Ancrum (HarperCollins) "The Incredibly Human Henson Blayze"  by Derrick Barnes (Viking Books for Young Readers) "A Bird in the Air Means We Can Still Breathe"  by Mahogany L. Browne (Crown Books for Young Readers) "Song of a Blackbird"  by Maria van Lieshout (First Second) 【特殊文字】 「Maria Dolores Aguila」: 「Maria」の「i」、「Aguila」の「A」の上に(´)がつく  "A Sea of Lemon Trees: The Corrido of Roberto Alvarez"は、1931年カリフォル ニア州での「レモングローヴ裁判」をモチーフとした作品。サンディエゴに住む12歳 の少年Roberto Alvarezは、メキシコ人学校への転校を強制される。地域の住民とと もに隔離教育の撤回を求めたRobertoは、原告代表として声を上げるのだった。自ら もメキシコ系アメリカ人である作家Maria Dolores Aguilaが自由詩で綴る、勇気に満 ちた物語だ。  "The Corruption of Hollis Brown"は、YAスリラーの名手K. Ancrumによるロマ ンスホラー。さびれた田舎町で鬱屈を抱えた男子高校生Hollis Brownは、ある日、 Waltという少年の幽霊に取り憑かれる。Waltには、この町でやり残したことがあった。 一つの体を共有し、ともに行動するうちに、HollisとWaltは、互いに惹かれていく。 作者Ancrumは生まれ育ったシカゴを拠点に、多様性を掲げた作品を数々発表している。  "The Incredibly Human Henson Blayze"では、白人がマジョリティの社会で黒人で あることの困難さが描かれる。ミシシッピ州の小さな町で、13歳の黒人少年Henson Blayzeは天才アメフト選手として大きな期待と注目を集めていた。だが、ある事件を きっかけに、人々の態度は一変する。作者Derrick Barnesは、文章を手掛けたグラフ ィックノベル"Victory. Stand!: Raising My Fist for Justice"で2022年の本賞ファ イナリストに選ばれるなど、受賞歴多数。  Mahogany L. Browneによる"A Bird in the Air Means We Can Still Breathe"は、 散文や詩を用いて、複数の若者の視点でコロナ禍のニューヨークを描いた作品。若者 たちは不安や喪失感を抱えながらも、愛と夢をあきらめず、立ち直ろうとする。作者 Browneはカリフォルニア州オークランド生まれのアフリカ系アメリカ人で、詩人、作 家、活動家。人種差別や性差別など自身の経験を詩にし、多くの人々を勇気づけてい る。  "Song of a Blackbird"はオランダ出身のイラストレーター、Maria van Lieshout による初のグラフィックノベル。二つの時代のアムステルダムが舞台だ。2011年、十 代のAnnickは祖母の骨髄ドナーを求め、祖母が幼い頃に離ればなれになった家族を探 している。唯一の手がかりは5枚の版画だ。1943年、女学生のEmmaはユダヤ人兄妹の 逃亡を助けたことから、ナチスへの抵抗運動に加わった。二人の物語は版画の謎解き を軸につながっていく。木版画風の絵に白黒写真をコラージュしたイラストも斬新だ。 【参考】 ▼Kyle Lukoff公式ウェブサイト https://www.kylelukoff.com/ ▼Amber McBride公式ウェブサイト https://www.amber-mcbride.com/ ▼Daniel Nayeri公式ウェブサイト https://www.danielnayeri.com/ ▼Hannah V. Sawyerr公式ウェブサイト https://www.hannahsawyerr.com/ ▼Ibi Zoboi公式ウェブサイト https://www.ibizoboi.net/ ▼Maria Dolores Aguila公式ウェブサイト https://mariadoloresaguila.com/ ▼K. Ancrum公式ウェブサイト https://kancrum.com/ ▼Derrick Barnes公式ウェブサイト https://derrickdbarnes.com/ ▼Mahogany L. Browne公式ウェブサイト https://mobrowne.com/index.html ▼Maria van Lieshout公式ウェブサイト https://www.vanlieshoutstudio.com/ (小島明子/進藤浩子/はまさきひろみ/三好美香/森井理沙/綿谷志穂) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●賞速報● ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━  2025年より「速報(海外児童文学賞)」をnoteに移行しました。海外児童文学賞の 書誌情報を随時掲載していますので、ぜひご覧ください。 https://note.com/awards_yamaneko ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●お知らせ● ・本誌に対するご感想をはじめ、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等をお 待ちしています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。ご質問等は本誌 に掲載させていただく場合があります。 ・本誌のhtml版(ウェブ版)は、発行日から5日後に公開予定です。以下のURLより お入りください。 http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm#html ・11月号は定期休刊です。次号(2025年12月号)の配信は12月15日の予定です。11月 に会員による投票がおこなわれる「やまねこ賞」の結果などをお伝えします。お楽し みに! ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ =- PR -=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=      ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★            https://www.mag2.com/m/0000075213 未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や 編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉 =-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=- PR -= ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= ◇クラブのHOTな情報をご紹介しています◇ ★やまねこ翻訳クラブFacebookページ https://www.facebook.com/yamaneko1997/ ★やまねこ翻訳クラブX  やまねこアクチベーター       https://x.com/YActivator  やまねこ翻訳クラブ☆ゆる猫ツイート https://x.com/yamanekohonyaku  巷で見かけたやまねこたち      https://x.com/ChimataYamaneko *=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ●編集後記●今月号から編集人に加わりました。先輩方が一から築き上げた、長い歴 史を誇る情報誌の編集にたずさわるよろこびをかみしめています。一生懸命がんばり ますので、どうぞよろしくお願いいたします。(し) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 発 行 やまねこ翻訳クラブ 編集人 三好美香/森井理沙/平野麻紗/進藤浩子(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) 企画・執筆・協力 やまねこ翻訳クラブ会員有志 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ・このメールマガジンは、「まぐまぐ」( http://www.mag2.com/ )を利用して配信 しています。登録・解除は下記のページからお手続きください。 http://www.mag2.com/m/0000013198.html ・バックナンバーは、http://www.yamaneko.org/mgzn/ でご覧いただけます。 ・「月刊児童文学翻訳」編集部 連絡先 mgzn@yamaneko.org ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ ◆無断転載を禁じます。