■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ 98年11月号 =====☆ ☆===== =====★ 月 刊 児 童 文 学 翻 訳 ★===== =====☆  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ☆===== No.5 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌■ ■http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/mgzn/index.htm      ■ ■編集部 yamaneko-mgzn@office-ono.com 1998年11月15日発行 配信数270 無料■ ============================================================================ ●11月号もくじ● ◎特別企画――プロに訊く:第2回 中釜浩一郎さん&中村悦子さん(画家) ◎特集:1998年グリーナウェイ賞受賞作"When Jessie Came Across the Sea"研究 ◎コンテスト・トライアル情報:いたばし「国際絵本翻訳大賞」 ◎展示会・講演会情報:「『宝栄たかこ・森は生きている』展」など全4種 ◎Chicocoの洋書奮闘記:第2回「衝動買いの1冊め」(よしいちよこ) ◎注目の本(邦訳編):キャサリン・パターソン作『北極星を目ざして』 ◎注目の本(未訳編):メルヴィン・バージェス作『ジャンク』(仮題) ◎お菓子の旅:第2回 アメリカのクリスマス ☆ヴィネガー・パイ Vinegar Pie☆ ============================================================================ ●特別企画――プロに訊く●第2回 中釜浩一郎さん&中村悦子さん(画家) 今回は、画家の中釜浩一郎さんと中村悦子さんに、デビューのきっかけや、児童書 の挿し絵についてのお話をうかがいました。インタビューに快く応じてくださった 中釜浩一郎さん、中村悦子さんに、この場をかりて厚く御礼申し上げます。  なお、今回の中釜さんと中村さん、および、10月号でご紹介したこだまともこさん の作品リストを、近日中にホームページでご紹介する予定です。どうぞお楽しみに。 【中釜浩一郎(なかがまこういちろう)さん】 +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ |1965年、鹿児島県生まれ。児童書や専門書など、幅広い分野で挿し絵を手がけ、| |活躍中。主な作品に、『汽車にのって』(講談社)、『天使の足あと』(徳間書| |店)、『銀色のクレヨン』(PHP)、『ドロップス』(パロル舎)、『タイムマ | |シン』(集英社)、『ねこかぶりデイズ』(小峰書店)、『狼がくるとき』(佑| |学社)、『さよならクックー』(ポプラ社)、『見習い物語』(ベネッセ)など| |がある。よみうり日本テレビ文化センター、および、自宅の絵画教室「きらら」| |では、<児童書挿し絵入門>のクラスも開いている。東京都在住。      | +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ Q☆画家になられたきっかけはなんですか? A★絵を描くのは、昔から大好きでした。小さい頃、お小遣いで画用紙を買うのが本 当に楽しみで――100円のお小遣いで買えるだけの画用紙(当時は1枚5円でしたか ら20枚)を買って帰るとき、何ともいえない幸せな気分でしたね。理容学校を卒業し て、1年間理容師をしていたのですが、体をこわしたこともあって、画家としてやっ ていこうと思うようになりました。 Q☆最初のお仕事について教えてください。 A★高校1年生のとき、同級生の女の子に頼まれて絵を描いたことがあります。報酬 はお金ではなく、船の形をした風鈴でしたが、とてもうれしかったのをおぼえていま す。その風鈴は、今でも大事にとってありますよ。はじめてお金をいただいたのは、 ヘアスタイルのデザイン画を描いたときです。本の挿し絵を手がけたのは、『まぼろ しのストライカー』(国土社)がはじめてでした。  出版社には、片っ端から足を運びました。一度断られたところにも、何度も何度も 通って、編集者の方の意見を聞きました。やはり、何事もあきらめないことが大事な のではないでしょうか。国土社から仕事をいただいたのも、たまたま絵を描く人が不 足していたときに、まめに顔を出していた私を思い出してもらえたからなんです。あ きらめずに通っていてよかったなと思いました。 Q☆児童書の挿し絵のお仕事について、詳しく教えてください。 A★挿し絵をかくときは、当然のことですが、まずその作品をじっくり読み込みます。 そして、情景を思い浮かべます。分からない部分があるときは、もちろん、調べもの もします――この調べものが結構大変なんですけどね。絵を入れる箇所や枚数は、編 集者の方と相談します。作家の方や、翻訳者の方とお会いする機会は、残念ながらほ とんどないですね。1冊の本の挿し絵を仕上げる期間は、だいたい1か月弱でしょう か。  絵のタッチも、作品の雰囲気によって変えます。私は、鉛筆やペンだけでなく、つ まようじやサランラップなども使って絵を描くのですが、アメリカを代表する児童文 学作家、カニグズバーグの『エリコの丘から』(佑学社)は、私がつまようじで挿し 絵を描いた作品のひとつでした。  子どもは大好きなので、児童書の挿し絵を描くのは楽しいです。子どもの姿をうま く表現できるようにと、保育園に通ってスケッチをしたこともあります。でも、保育 園の子どもたちが抱きついてきたりするので、スケッチどころではなくなることのほ うが多かったのですが(笑)。みんなの似顔絵を描いてあげると、子どもたちが大喜 びしてくれるので、それがまた楽しかった。子どもたちの喜ぶ姿を見ていると、絵を 描いていてよかったなと心から思います。  これからも、子どもに喜んでもらえるような絵を描いていきたいです。いつか絵本 も手がけてみたいと思っています。 (インタビュアー:宮坂宏美) 【中村悦子(なかむらえつこ)さん】 +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ |1959年、群馬県生まれ。児童書の挿し絵や絵本の分野で活躍中。主な児童書の挿| |し絵に、『あらし』(ほるぷ出版)、『アリスの見習い物語』(あすなろ書房)| |、『のっぽのサラ』(ベネッセ)、『草原のサラ』(徳間書店)、『峠をこえた| |ふたりの夏』(あかね書房)、『遠くへいく川』(くもん出版)、『鳥と少年』| |(佑学社)、『おねいちゃん』(理論社)、絵本に、『ひだまり村のあなぐまモ| |ンタン』『森のせんたくやさん あなぐまモンタン』(いずれも学研)、『シン| |デレラ』(ほるぷ出版)などがある。東京都在住。             | +――――――――――――――――――――――――――――――――――――+ Q☆このお仕事はどのようにしてはじめられたのですか? A★絵は特に学校などには行かず、独学で身につけました。24歳のころ、しばらく続 けていたアルバイト生活に区切りをつけるため、一念発起してラフスケッチをたくさ ん描き、知り合いの紹介で会った編集者に見てもらいました。それがきっかけとなっ て、最初の挿し絵の仕事をもらいました。 Q☆児童書の世界を選ばれたのは、なぜですか? A★いろんな理由があります。例えば子どもの頃読んだ絵本がとても印象的だったの もそのひとつです。たくさん本を読む子供ではありませんでしたが、4、5歳のとき 初めてもらった絵本がとても気に入って、わくわくしながら繰り返し読みました。 Q☆『シンデレラ』(新倉朗子/文)では絵本のお仕事もされていますが、絵本と挿 し絵では取り組み方が違いますか? A★絵本も挿し絵も作家の方の作られた世界やイメージを大切にするという意味では、 基本的に似ていると思います。文章を読んだ人がそれぞれ自分の想像をふくらませる ことのできるような挿し絵を描きたいですね。 Q☆調べものは大変ですか? A★そうですね。私はその世界がまるで目の前にあるようにリアルに見えないと描け ないんです。作品の世界に入り込んでイメージを作るまでが、一番時間がかかります。  例えば、きつねを描くときも動物園に通ってスケッチしたり、資料や写真を集めて 部屋中に貼ったりします。目の前に本当にきつねがいるようになって、やっと描ける んです。  『アリスの見習い物語』のときには、13世紀ごろのことを調べていくうちに「なん て汚い世界なんだ!」とびっくりしました。描いているとき、夫が「きれいな絵だね」 って言ってくれたんですが、「そう。でも臭いの」って答えていたんですよ(笑)。 Q☆印象に残る作品はどれですか? A★すべての本に対して思いは同じですが、強いてあげるなら『のっぽのサラ』です。 仕事を始めて3年目ぐらいに、この仕事を続けるには実力が足りないと悩んでいまし た。そんな時に『のっぽのサラ』の話がきて、私の好きな世界だったので、これにか けてみようと思ったんです。少し、自分らしさが出せたので、「もう少しがんばって みよう」という気持ちになれました。  この作品の表紙は、話のイメージがよく出るもの、タイトルともぴったり合うもの ということで、あの絵を選びました。表紙はとても大切だと思っています。読み終え てから本を閉じて表紙を眺めたとき、またお話のイメージが戻ってくるようなものを 描きたいですね。また、どんなに重く暗いイメージの物語でも、必ず作品の中の明る さや前向きな部分を大切にして描くようにしています。 Q☆オリジナルの絵本を作ってみたいというお気持ちはありますか? A★私らしいオリジナルを描けるようにあたためているところです。いつになるかわ からないけれど、私自身が早く見たいと一番思っています。 Q☆最後に、何か今望んでいることがありましたら、教えてください。 A★ストーリーに生活感があり、ファンタジーが入っているようなお話が大好きなの で、読者としてももっと読みたいし、挿し絵の仕事もしてみたいです。そう、『あら し』はちょうどそんな作品で、今でもとても好きなひとつです。そういう本にこれか らもめぐりあえればと思っています。                         (インタビュアー:内藤文子) ============================================================================ ●特集●1998年ケイト・グリーナウェイ賞受賞作研究        P.J.Lynch "When Jessie Came Across the Sea" (text by Amy Hest) ケイト・グリーナウェイ賞は、イギリスで出版された児童書のイラストレーターに 与えられる権威ある賞で、アメリカでいえばコールデコット賞(9月号参照)に匹敵 する。ここでは、今年7月に発表になった1998年の受賞作"When Jessie Came Across the Sea"を詳しく紹介しよう。 ※(参考)ケイト・グリーナウェイ賞邦訳・未訳リスト http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/bookdb/award/uk/greenawy.htm 【あらすじ】〜19世紀、東欧から約束の地アメリカへと旅立つ少女の物語〜  両親を早くに亡くした13歳の少女ジェシーは、東欧にあるユダヤ人村に、祖母とふ たりで住んでいた。ジェシーは祖母に読み書きを、祖母はジェシーにレース編みをそ れぞれ教えながら、ふたりは仲良く暮らしていた。  ある日、宗教的指導者の「ラビ」が村人に告げた。自分の兄弟が亡くなり、「約束 の地」(アメリカ)へのチケットを彼に残したと。ラビは立場上、村を離れられない と考え、村人にチケットを譲ることに決めた。たくさんの村人が自分こそアメリカに 行くべきだとラビに懇願したが、ラビが選んだのはジェシーだった。ジェシーにとっ ても祖母にとっても、離れて暮らすのは耐え難いことだったが、祖母は、孫のためを 思い、アメリカ行きをジェシーにすすめた。  旅立つ時、ジェシーは亡き母の結婚指輪をお守りとして祖母に預けた。祖母との別 れ、嵐で揺れる船――ジェシーにとって船旅はつらいものだった。しかし、天候も回 復し、気持ちが落ち着くと、ジェシーは得意のレース編みを乗船客の服に飾りつけは じめた。そんなジェシーの様子を見ていたルーという青年が、彼女に声をかけ、ふた りはすぐに打ち解けた。  ニューヨークに着くと、ジェシーはラビの親類の婦人服仕立て屋でレース飾りを編 む仕事に就いた。稼いだお金は、すべて瓶の中にためていった。また、仕立て屋のケ イのすすめで、英語を習いに学校へも通いはじめた。英語は難しかったが、彼女は熱 心に勉強した。彼女の編む美しいレースも次第に評判になり、ジェシーは忙しい毎日 を送るようになった。  3年が経ち、16歳に成長したジェシーは、ある日偶然ルーと再会する。その日以来、 ふたりは毎週会うようになった。また、ジェシーは自分がためたお金でチケットを買 い、ようやく祖母に送ることができた。ジェシーは大好きな祖母に再び会うことがで きるのだろうか……。 【解説】〜ユダヤ人の物語とアイルランド人画家による異文化の共存〜  参考:英国図書館協会ホームページ  http://www.la-hq.org.uk./  http://www.la-hq.org.uk/directory/medals_awards/lynch.html http://www.la-hq.org.uk/directory/medals_awards/greenaway_winner.html  パトリック・ジェームズ・リンチ(P.J. Lynch)は、北アイルランドの首都ベルフ ァスト(アイルランドのプロテスタンティズム中心地)でカソリックを信仰する家族 の5人兄弟の末っ子として生まれた。18歳のときにイギリスへ渡り、ブライトン美術 学校へ入学した。  彼の最初の仕事は、おとぎ話やファンタジーに挿し絵を描くことだった。当時は、 アーサー・ラッカムの影響を受けていたという。1996年にケイト・グリーナウェイ賞 を受賞した"The Christmas Miracle of Jonathan Toomey"と今回の作品は、ノーマン ・ロックウェルの影響を受けているとのことだが、絵を見るとなるほどと思えてくる。 水彩画で細部まで入念に書き込まれ、人物の表情が生き生きとしているからだ。この 絵本のテーマは、離別の悲しみ、新しい生活に対する戸惑いと適応、成長過程におけ る苦悩、年長者に対する尊敬、幸福の追求などと思われるが、それらに直面するとき のジェシーの表情は特に印象的だ。表紙にも使用されている、ジェシーがニューヨー クに到着するときの船上の場面は、映画のワンシーンのような臨場感さえある。  当初リンチは、この作品にイラストを描くことに対し慎重になっていたらしい。だ が、次第にユダヤ人の物語にユダヤ人ではない画家が絵を描くのを刺激的でおもしろ いことだと思うようになったという。そもそも彼自身、社会における多様な文化の共 存を強く支持していた上、ユダヤ人のディアスポラ(国外離散)という状況が、アイ ルランド人にも共通していると思えたからである。彼は現在、ダブリン(アイルラン ド共和国及びダブリン州首都)に住んでいるが、故郷のベルファストにもできるだけ 帰っているという。  リンチの他にケイト・グリーナウェイ賞を2回受賞したのは、マイケル・フォアマ ン、アンソニー・ブラウン、レイモンド・ブリッグスそしてジャネット&アラン・ア ルバーグだけである。  日本で紹介されているリンチの作品には、『オーディンと呪われた語り部』(スー ザン・プライス著 当麻ゆか訳 徳間書店)、『幽霊の友だちをすくえ』(ヘレン・ クレスウェル著 岡本浜江訳 大日本図書)などがある。 ◎P.J. Lynch 作品リスト "Catkin" Antonia Barber, P.J. Lynch "The Christmas Miracle of Jonathan Toomey" Susan Wojciechowski, P.J. Lynch "Favourite Fairy Tales" Sarah Hayes, P.J. Lynch "The King of Ireland's Son" Brendan Behan, P.J. Lynch "Oscar Wilde Stories for Children" Oscar Wilde, P.J. Lynch "Raggy Taggy Toys" Joyce Dunbar, P.J. Lynch "The Steadfast Tin Soldier" Hans Christian Andersen, P.J. Lynch "When Jessie Came Across the Sea" Amy Hest, P.J. Lynch "The Candlewick Book of Fairy Tales" Sarah Hayes(Editor), P.J. Lynch "A Bag of Moonshine " Alan Garner, P.J. Lynch "Boy in Darkness " Mervyn Peake, P.J. Lynch "East O' the Sun, West O' the Moon " Naomi Lewis, P.J. Lynch "Irish fairy tales " P. J. Lynch "Memories of Steam Around Britain" P.J. Lynch "Sarah, Plain and Tall " Patricia MacLachlan, P.J. Lynch "The Snow Queen " Hans Christian Andersen, P.J. Lynch     (双沢和江) ============================================================================ ●コンテスト・トライアル情報● ◎いたばし「国際絵本翻訳大賞」――絵本翻訳 課題:"The First Red Maple Leaf" by Ludmila Zeman(英語) "IL PAESE DEI SILENZI" by Sandra Bersanetti(イタリア語) 締切:1998年11月30日(必着) 応募:事務局へ問い合わせのこと(03-3265-7691) ============================================================================ ●展示会・講演会情報● ◎フジタトイミュージアム「ロンドンおもちゃと模型の博物館展」  所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷4-6-15  電 話:03-3401-4242  開 期:平成11年3月31日まで  休館日:木曜日  入場料:無料  内 容:18世紀から現代までのロンドンを中心としたおもちゃの展示会 ◎宮沢賢治イーハトーブ館「宮沢賢治・イギリス海岸展」  所在地:花巻市高松1-1-1  電 話:0198-31-2116  開 期:平成10年12月27日まで  休館日:なし  入場料:無料  内 容:賢治に関するさまざまなジャンルの芸術作品、資料を収集した展示会 ◎沼田絵本美術館「『宝栄たかこ・森は生きている』展」  所在地:東京都世田谷区上用賀1-25-20  電 話:03-3708-8200  開 期:平成11年1月24日まで  休館日:月曜日と年末年始  入場料:大人800円、高中生600円、小学生400円  内 容:小学館「世界の名作」シリーズ第12巻「森は生きている」(マルシャーク)      の全原画を初公開 ◎安曇野絵本館「ジョン・ロウの世界」  所在地:南安曇郡穂高町有明2186-117  電 話:0263-83-6173  開 期:平成11年2月28日まで  休館日:火曜日(ただし、1、2月は土、日、祝日のみ開館)  入場料:一律700円(飲み物付き)  内 容:動物を主人公にした絵本で有名なジョン・ロウの原画展                         (担当:瀬尾友子/菊池由美) ============================================================================ ●Chicocoの洋書奮闘記●第2回「衝動買いの1冊め」   よしいちよこ  りっぱな洋書読みをめざす「洋書奮闘記」。1冊目は何にしよう。大阪梅田の紀伊 國屋書店に行ってみた。思わず衝動買いしたのは"TOM'S MIDNIGHT GARDEN"(Philippa Pearce/1958年/Puffin Books)。児童文学ではあまりにも有名な『トムは真夜中の庭 で』だ。邦訳は未読。きれいな表紙。「とりあえず始めなくちゃ」と、1690円+消費 税で購入。本文212ページ。字はやや小さめ。 【5/31】スタート。たったの5p。挿し絵のトムがかわいくない。 【6/1】1日に最低10pは読むぞと誓いをたて、がんばる。18p。 【6/2】10p。誓いは守られた。 【6/3】3p。やばい。知らない形容詞続出。せっかくの庭の描写がうかばない。 【6/4】8p。またしても、誓いが守れない。 【6/5】仕事がドタキャン。こんな日こそ、たくさん読もう。でも、やっと11p。庭 の描写より、おじさんたちとの会話のほうが楽しめる。正しい味わい方ではないかも。 【6/6】とうとうやってしまった。0p。今日は私の誕生日。大目に見よう。 【6/7】友人宅に遊びにいく電車の中。21p。ハティって? 前にも出てたかな。 自分の読書力にちっとも自信がもてない。 【6/8】7p。 【6/9】7p。栞の位置を見て、あと半分もあるのかと悲しくなる。 もっと薄い本にすればよかったか。英字を見ると眠くなる。楽しくない。 【6/10】22p。 【6/11】29p。時間のことで混乱していたが、謎がとけて理解でき るようになってきた。うれしい。 【6/12】電車でたくさん読む。えっへん。28p。ハティと庭のことには飽き飽き。 ピーター(トムの弟)からの手紙で状況がかわりそう。おもしろくなってきた。 【6/13】FMCの関西セミナーとニフティのオフライン・ミーティング(お茶会)に参 加。帰りの電車で14p。 【6/14】29p。読了。ふー。児童書に15日もかけてしまった……。  後半はおもしろくなってきて、1日20ページを超すペースで読めた。でも、正直な ところ、名作だ、感動するとの噂をきいていたわりには、あまり好きになれなかった。 レベルを考えずに衝動買いしたせいで、名作形無しだ。やれやれ、道は遠い。 ============================================================================ ●注目の本(邦訳編)●自由を求めて、少年は19世紀のアメリカを生き抜いてゆく         キャサリン・パターソン作『北極星を目ざして――ジップの物語』          岡本浜江訳 1998/9発行 偕成社 本体1,600円               原書:"JIP―HIS STORY", Lodestar Books, 1996  アメリカ、ヴァーモント州。ジップは3歳のとき馬車から落ち、誰も探しにこない まま町の救貧農場にひきとられた。8年後の1855年、人や動物の扱いがうまいジップ は、老人の多い農場で一番の働き手として暮らしていた。豊かな暮らしではなかった が、他の生活を知らないジップに不満はなかった。ある時監督官が、町からやっかい 払いするため「あばれモン」を農場へ連れてきた。檻に入れられた「あばれモン」は、 発作が起きた時にだけひどく暴れまわるが、正気の時にはやさしいパットという男だ った。ジップはこの物知りのパットを親切に世話し、やがて父親のように慕いはじめ る。また、ジップは農場で共に暮らすようになったルーシーと一緒に学校に通いはじ め、暖かく、毅然とした態度の先生に深く感化される。そんなジップの心配事は、町 で偶然出会った見知らぬ男からしつこくつきまとわれることだった。どうもこの男は 自分の出生の秘密を知っているらしい……。  最初の2、3ページをめくっただけで、読者をすぐに物語の世界にひきこんでしま うキャサリン・パターソンの力を思い知らされる作品である。アメリカの暗く重い歴 史が描かれているが、無理なく物語の世界に入りこむことができる。家族の愛も学ぶ ことの楽しさも知らなかったジップが、それらに目覚め、自由を求めて生きぬいて行 く姿に心が揺さぶられる。読者は主人公になりきって、自由に生きることの尊さを実 感することができるだろう。  『ワーキングガール』(Liddie 1991)の主人公リディが、ジップの先生として登 場している。(植村わらび) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 【作者】キャサリン・パターソン:1932年、中国に生まれる。24歳から4年間布教活 動のため日本で過ごす。『テラビシアにかける橋』『海は知っていた』で、2度ニュ ーベリー賞受賞。"The Crane Wife""The Tongue-Cut Sparrow"の絵本の翻訳も含め、 これまでに30冊以上の本を書いている。日本では偕成社より8冊が翻訳出版されてい る。1998年には、これまでの業績に対して国際アンデルセン賞を受賞した。 【訳者】岡本浜江{おかもと はまえ}:1955年、東京生まれ。大学卒業後、記者生 活を経て、英米文学翻訳家となる。パターソンの邦訳全作品(偕成社)、カニグズバ ーグの『800番への旅』『エリコの丘から』(佑学社)、アン・ファインの『ぎょろ目 のジェラルド』『妖怪バンシーの本』(講談社)など訳書多数。 ============================================================================ ●注目の本(未訳編)●ローティーンの少年少女の声なき叫び                 メルヴィン・バージェス作『ジャンク』(仮題)                 Melvin Burgess "Junk" 278pp.                 Penguin Books, 1997 ISBN 0-14-038019-1 (Hardcover : Andersen Press Limited, 1996)  14歳のタールは、暴力をふるう父親とアルコール依存症で無気力な母親に耐えきれ ず、家を飛び出した。ガールフレンドのジェンマも、何かと干渉する両親を疎ましく 思い、タールのあとを追って家出する。自由を求めるジェンマと、彼女に引きずられ 気味のタール。やがてジェンマは、パーティーで知り合った自由奔放な少女リリィに 強く引かれ、リリィとその恋人ロブのところへ転がり込む。そこにタールも加わり、 4人の共同生活が始まった。  タールとジェンマは、リリィたちに麻薬を教わり、次第に深みにはまっていく。リ リィの妊娠をきっかけに一度は麻薬をやめようとするが、どうしてもやめることがで きなかった。ふたりともすでにjunkie(麻薬常習者)になってしまっていたのだ。や がて、自分が妊娠していることに気がついたジェンマは……。  1980年代のイギリス、ブリストルを舞台に、ひたむきで純粋だが未熟で不安定で無 鉄砲、というローティーンの少年少女特有の姿を描いた作品である。登場人物が交互 に語り手となり、タールとジェンマが家を出てからの数年間をそれぞれの視点で語っ ていく。未熟であるがゆえに、自分の未熟さには気づかない子どもたち。そんな彼ら が必死にもがき、苦しむ姿は、いいようのないほど痛ましい。さらにタールの父親と タールが語るラスト2章では、大人になるために知らねばならない現実の厳しさをつ きつけられる思いがする。  若者の麻薬中毒患者が急増している昨今のイギリスにとって、実にリアルで衝撃的 な題材を扱ったこの作品は、1997年度のカーネギー賞・ガーディアン賞の両方を受賞 した。アメリカでは、"Smack"というタイトルで出版されている。(生方頼子) ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ Melvin Burgess(メルヴィン・バージェス):1954年イギリス、ロンドン生まれ。レ ンガ積み工、染色業などの職を経て、1990年に"The Cry Of The Wolf"(邦題『オオ カミは歌う』/偕成社)で作家としてデビュー。以後、個性豊かな作品を発表し続け、 高い評価を受けている。その他の邦訳作品に『メイの天使』『エイプリルに恋して』 (ともに東京創元社)がある。現在は妻子とともにランカシャーに在住。 ============================================================================ ●お菓子の旅●第2回 アメリカのクリスマス ☆ヴィネガー・パイ Vinegar Pie☆ *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---* Ma was busy all day long, cooking good things for Christmas.(中略)She baked vinegar pies and dried-apple pies, and filled a big jar with cookeis, and she let Laura and Mary lick the cake spoon. Laura Ingalls Wilder "Little House in the Big Woods"    Hparper Trophy edition 1971(初版1932年) *---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*---*  あまりにも有名な、ローラとその一家の物語です。ローラが著したシリーズ9作に 加え、テレビドラマでも大人気となりました。  決して豊かだったとはいえないインガルス一家でしたが、母さんが作る料理は質素 ながらもどれも愛情と工夫に満ちたおいしそうなものばかり。この母さんの料理と、 父さんのバイオリンの音色こそ、厳しい開拓時代をたくましく生き抜いたインガルス 一家の絆の象徴といえるでしょう。  ヴィネガー・パイは、クリスマスをはじめとする、特別な日のためのお菓子です。 当時はレモンが非常に高価だったために、レモンの代わりにヴィネガーを使って作っ たという、まさにアイディアにあふれたものでした。このヴィネガーは、リンゴの芯 を蜂蜜水に2か月ほど漬けて発酵させたもの。お菓子だけではなく、料理にもよく使 われていました。ここでは、市販のリンゴ酢を代用しています。できあがりは、ほん のりリンゴの香りが漂う、アップルパイに似た素朴で優しい味。作り方もとても簡単 ですので、お菓子作りが苦手という方にもおすすめです。 *-* ヴィネガー・パイの作り方 *-*  材料:直径23cmのパイ皿1つ分   無漂白粉 1.5カップ         グラニュー糖 1/2カップ     塩 小さじ1/2弱           ブラウンシュガー 1/2カップ    ラード 大さじ5           無漂白粉 大さじ4   バター 大さじ4           ナツメグ 少々    卵 2個               リンゴ酢 大さじ3      1.無漂白粉、塩、ラードおよびボールを冷蔵庫でよく冷やしておく。手も冷たい水 で洗ってよくふくこと。氷水1カップを用意しておく。 2.ボールの中で塩と粉を混ぜ、ラードを加える。冷たい指先でぼろぼろと粒がそろ った玉になるまでよく混ぜたら、氷水大さじ3を加え、全体を混ぜて練る。生地をボ ール状にまとめ、冷蔵庫で冷やしておく。 3.オーブンを200度に温めておく。 4.バターを溶かし、卵は別の容器でよくかき混ぜておく。 5.大きなボールに2種類の砂糖、粉、ナツメグを入れ、指先で固まりがなくなるま でよく混ぜたら、リンゴ酢、卵、バター、水1カップを加えて更によく混ぜる。 6.パイ生地を直径23cmのパイ皿にしき、5をゆっくりと注ぎ入れる。 7.6を温めておいたオーブンに入れ、30分焼く。次に温度を180度に下げ、パイの中 身がグツグツいってきつね色になるまで、更に30分焼く。 8.取り出して、ナイフで切り分けられるくらいに中身が固まるまで冷ます。 *-* 参考文献 *-*    『小さな家の料理の本』            バーバラ・M・ウォーカー/文                  本間千枝子・こだまともこ/共訳 文化出版局  『ローラのお料理ノート』       本間千枝子・本間長世/文 文化出版局  『ようこそローラのキッチンへ』        ウィリアム・アンダーソン/文                            谷口由美子 訳 求龍堂  『ローラ・インガルス・ワイルダー』      ウィリアム・アンダーソン/文                            谷口由美子/訳 佑学社                           (森久里子/田中亜希子) PR========================================================================== ◆◇◆◇◆◇◆◇◆  やまねこ翻訳クラブ(会員数99名)  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ やまねこ翻訳クラブは、NIFTY SERVE 文芸翻訳フォーラム内にある児童書専門サー クルで、海外の子どもの本に関する情報交換および翻訳・レジュメ勉強会を主な目的 として活動してます。児童書に興味のある方でしたらどなたでも入会できますので、 ぜひお気軽にご参加ください。             ―― 11〜12月の活動 ――     ・海外児童文学賞受賞作読破マラソン     ・未訳作品の全訳勉強会(Sharon Creech "Pleasing the Ghost")     ・遊学館絵本コンクール勉強会("Pushkin")<11/28まで> ◆◇◆◇ http://www.nifty.ne.jp/forum/flitrans/yamaneko/index.htm ◇◆◇◆ ============================================================================ ●編集後記●11月3日、旧童話屋書店の店長竹村さんが、渋谷に児童書専門店「子ど もの本の店」をオープンしました。以前よりもこぢんまりとしていますが、あたたか い雰囲気の素敵なお店です。やまねこ翻訳クラブがボランティアでホームページを作 成しましたので、ぜひご覧ください。(み) ============================================================================ 発 行 NIFTY SERVE 文芸翻訳フォーラム・やまねこ翻訳クラブ        発行人 小野仙内(文芸翻訳フォーラムマネージャー) 編集人 宮坂宏美(やまねこ翻訳クラブスタッフ)   企 画 河まこ、キャトル、くるり、Chicoco、BUN、ベス、YUU、りり、ワラビ ============================================================================ ・ご意見・ご感想はyamaneko-mgzn@office-ono.comまでお気軽にお寄せください。 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ ■無断転載を禁じます。