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やまねこ翻訳クラブ 資料室
古沢嘉通さんインタビュー


『月刊児童文学翻訳』1998年12月号より

【古沢嘉通(ふるさわよしみち)さん】

 1958年生まれ。大阪外国語大学デンマーク語科卒業。英米娯楽小説翻訳家。プリースト『魔法』、マクドナルド『黎明の王 白昼の女王』、ライマン『夢の終わりに…』、ホルト『疾風魔法大戦』(以上、早川書房)、コナリー『ナイトホークス』『ザ・ポエット』(扶桑社ミステリー)など、訳書多数。マクドナルド『火星夜想曲』(早川書房)で、1998年、第8回BABEL国際翻訳大賞新人賞を受賞。サッカー日本代表と飼い猫をこよなく愛す。最近のお気に入りは、フジ系TVドラマ『ソムリエ』の稲垣吾郎の怪演。大阪府在住。

「火星夜想曲」表紙 「ナイトホークス」表紙

『火星夜想曲』
 イアン・マクドナルド作
 (早川書房)

『ナイトホークス』
 マイクル・コナリー作
 (扶桑社)

Q☆翻訳家になられたきっかけはなんですか?

A★どうせ一回しか生きられないのだから、いやな思いをしながら生きていたくないなあ、と思っているうちに……。
  好きなことをして暮らしていけるなら、それにこしたことはないですからね。
  二十五年まえにJリーグができていたら、そっちに進んでいたでしょう(笑)。

Q☆最初のお仕事はどのようにして決まりましたか?

A★編集者をしていた、SFファン仲間からの紹介です。東京創元社で、新人翻訳家を数名採用して新しいシリーズ(マリオン・ジマー・ブラッドリーの〈ダーコーヴァ〉シリーズ)を出すことになり、そのうちの一冊(『ハスターの後継者』)をやってみないかといわれて。
  SFファングループには、十六歳のときSFマガジンに投書したのをきっかけに、積極的に関わるようになりました。たまたま入ったファングループが、翻訳を中心に活動していたので、わたしも翻訳に興味を持つようになったんです。大学に入ってからは、SF研究会を作って活動していました。

Q☆最初のお仕事をなさったとき、どのような点にご苦労なさいましたか?

A★勤めながら翻訳していたので、眠かったなあ、という印象しか残っていないですね。とくに苦労した覚えはありません。こ、この本が百万部売れたら、すぐにでも会社辞められるのになあ、と夢想しながら、ワープロをぶったたいておりました。
  あっ、字を書くのがきらいなので、ワープロがなかったら、翻訳家にはなっていなかったでしょうね。

Q☆様々なジャンルの翻訳をなさっていますが、特にお好きな分野はありますか? また、翻訳なさる際に特に注意していることなどがありましたら教えてください。

A★SF畑出身なので、もちろんSFやファンタジーは好きですが、自分が面白いと思える小説はなんでも好きです。
  翻訳の際に気をつけているのは、原文がいわんとしていることを日本語化の過程で恣意的に変えてしまわないようにすることですね。なにも足さない、なにも引かない、が理想ですか。

Q☆作家や作品の情報は、どのような方法で入手なさっているのでしょうか? また、作家の方と直接コンタクトをとられることはありますか?

A★業界の情報誌に目を通しておくのは基本ですが、好きなジャンルであれば、自然とアンテナにひっかかってくるものです。本を買うのが仕事ですもの。
  ただ、わたしの場合、先に誰かが訳して、その訳者の色がついている作家を訳すのは気が進まないので、なるべく新しい作家を探すようにはしています。
  それから、作品に興味はあっても作家個人にはなんの興味もないので、なるべく著者にコンタクトを取ることはしないようにしています。日本に来たって絶対に会ってやんない(笑)。

Q☆ずばり、今、注目の作家を教えてください。

A★今後わたしが訳す作家をご注目ください(笑)。

Q☆出版社から依頼されるお仕事と、持ちこみとでは、どちらが多いのでしょうか。

A★編集者から提示された作品を読んで、面白かったら、引き受けるようにしております。つまんない作品訳したって、仕方ないもんね。もっとも、たくさん売れるという保証つきであれば、四の五のいわずに引き受けますが。
  売りこんでも諸般の事情でうまくいかない場合が多いですね。

Q☆ところで、古沢さんは大阪にお住まいですが、東京以外でお仕事をされていることで、何か不便を感じることはありますか? また、地方在住の方が翻訳家デビューするのは難しいと思われますか?

A★東京に出版社が集中していることから、なにかとお金がかかりますねえ。足代とか電話代とか。でも、それほどデメリットは感じておりません。
  翻訳家としてやっていけるかどうかは、居住地よりも本人の資質の問題でしょう。
  デビューしたからといって、ずっとやっていける保証なんてないんだし。

Q☆やはり、子どもの頃から本がお好きだったのでしょうか?

A★友だちの家に遊びにいって、友だちをほっぽって、その家にある本を読みふけり、そこの親に「その本貸してあげるから、もう帰ったら?」といわれるような子どもでした。

  近所に、マンガ週刊誌をすべて買っているお兄さんがおり、毎週一度その家に勝手にあがりこんで(笑)、読みふけっていたなあ……。
  そういえば小学生の頃、月に一度、家族で神戸の三ノ宮に食事に行っていたんですが、行く度にポプラ社のルパン・シリーズを一巻ずつ買ってもらうのがとても楽しみでしたね。あまり裕福な、というか、ありていにいえば貧しい家庭だったんですが、ほしい本はたいてい買ってくれました。いま思えば、けっこうムリして買ってくれていたようで、両親にはとても感謝しています。
  とにかく、字の書かれているものが手許にあればなんでも読んでいたと思います。
  あのころの情熱がいまあれば……。

Q☆最後に、翻訳家をめざしている読者のみなさんに、ひとことお願いします。

A★ライバルが増えてほしくないので、あんまりめざしてほしくないんですが(笑)。
  ただでさえ、才人ぞろいの業界なんだから。まあ、わたしがかつかつ生活できるだけのパイは残しておいてください。オ・ネ・ガ・イ。

(インタビュアー 宮坂宏美)

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。

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