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よくできた物語は色あせることなく

「世界でいちばんやかましい音」表紙

『世界でいちばんやかましい音』
THE LOUDEST NOISE IN THE WORLD (1954)
ベンジャミン・エルキン作
松岡享子訳 太田大八絵
(こぐま社 本体1100円)
「スニッピーとスナッピー」表紙

『スニッピーとスナッピー』
SNIPPY AND SNAPPY (1931)
ワンダ・ガアグ文・絵
さくまゆみこ訳
(あすなろ書房 本体1200円)
「はたらくうまのハンバートとロンドン市長さんのはなし」表紙

『はたらくうまのハンバートと
ロンドン市長さんのはなし』

HUMBERT (1965)
ジョン・バーニンガム作 神宮輝夫訳
(童話館出版 本体1200円)

「よくできた物語」という言い方には、いささか皮肉めいた響きがこめられる場合がある。「よくできた物語なんだけど……」というふうに。しかし、ほんとうによくできた物語には、そんな不満や疑問をはねかえすだけの力があるものだ。

 ガヤガヤの都は、世界でいちばんやかましい町。なかでも王子のギャオギャオは大のやかまし好きだった。その王子が誕生日の贈り物として望んだのは、世界中の人が同時にどなったらどんな音がするだろう、という思いつき。そして、全世界の人がそのアイデアをおもしろがり、協力することになったが――。この『世界でいちばんやかましい音』、ここからの意外な展開が小気味よい。このストーリーを騒々しい現代社会に対する風刺として読み解くこともできるが、それ以前に物語の原初的な楽しさを感じずにはいられない。

 本書は古い物語を新たに絵本にしたものだが、一方『スニッピーとスナッピー』は、古典絵本を新訳で甦らせたもの。「危ないところに行ってはいけないよ」という教訓が気になる向きもあるだろうが、好奇心に端を発する2匹の子ねずみの活躍は、純粋な冒険譚としての読みごたえがある。

 バーニンガムの『はたらくうまのハンバートとロンドン市長さんのはなし』は、65年の作品。毎回多種多様な手法とアイデアを駆使するバーニンガムだが、初期の作品には、本書のような「さえない主人公が一躍脚光を浴びる」パターンが意外と多い。溜飲が下がる展開、というのもよくできた物語のひとつの条件かもしれない。

 今回は原著の古い作品ばかり取り上げてしまったが、もちろん現代にだって、よくできた物語はそこここに転がっている。しかし、その根っこを見ていくと、不思議と昔話・民話の構造に近づいていくようだ。長く語り継がれる物語の秘密が、ここにある。

(ながさわくにお)

「キッズBOOKカフェ」(月刊『翻訳の世界』1999年8月号掲載)のホームページ版です。

表紙の画像は、出版社の許可を得て掲載しています(無断転載不可)。

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