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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(2000年9月)


アウトサイダーズ表紙 **************************

  『アウトサイダーズ』

    The Outsiders

   S.E.ヒントン/作 
   唐沢則幸/訳  あすなろ書房 2000.7
 

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

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 主人公のポニーボーイは14歳。両親を交通事故で失い、兄二人と暮らしている。20歳の長兄ダリーが家計を支え、次兄のソーダポップも学校をやめてガソリンスタンドで働き、ポニーボーイに学業を続けさせてくれている。でもポニーボーイは、自分にばかり厳しい長兄には愛されていないと感じていた。

 ポニーボーイたち貧しいイーストサイドに住む不良少年たちは「グリーサー」と呼ばれ、ウエストサイドに住む金持ちグループ「ソッシュ」と対立していた。グリーサーのひとりジョニーは、ソッシュに襲われて以来びくついているし、ポニーボーイ自身危うい目にあったこともある。

 ある晩、ドライブイン・シアターに出かけたポニーボーイは、ソッシュの女の子チェリーと知り合い、ソッシュも自分たちと基本的に違わないんだと感じる。その夜門限に遅れて帰宅したポニーボーイは、ダリーに怒鳴られ、日頃の鬱憤が爆発、家を飛び出してしまった。兄を困らせてやろうというぐらいの気持ちだったのに、それがあんな大事件になってしまうとは……。

 『アウトサイダーズ』は、1967年、作者ヒントンが16歳のときに書いた作品だ。出版当時はベストセラー、そして今でもずっと読み継がれるロングセラーとなっている。30年以上もまえだというのにちっとも古く感じないのは、ティーンエイジャーならいつの時代だろうが、誰でも(そう、グリーサーだろうがソッシュだろうが)感じる普遍的な気持ちがきっちり書かれているからだ。今の高校生が読んでも多くの点で共感できるに違いない。過ぎし日を振りかえりながら読むのも悪くはないのだけれど、同年代の時期に巡り会えたなら幸運だと思う。プロットの甘さなどを超越した作品のエッセンスをまっすぐに受けとめられるだろうから。

 登場人物のひとりひとりに作者の愛情が注がれているところにも注目してほしい。どのひとりをとってみてもそれぞれ弱いところを持っている若者として描かれている。きっとお気に入りや共感できるやつが見つかるのではないだろうか。

 ところで、この作品を古く感じないもうひとつの理由は、翻訳が新しいからだ。1983年の映画公開にあたって2種類の翻訳が出ておりそれぞれに評価が高いが、今年出版された新訳はやはりイキがいい。できることなら読みくらべてみると、日本語というものの面白さもよくわかる。主人公の「ぼく」が「おれ」になるだけで、どれだけ作品の雰囲気が違うことか。やまねこ「翻訳」クラブとしては、翻訳の妙というものも感じてもらえたらなあ、と思ったりするわけなのだ。
                                                 (沢崎杏子)

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【作者】S. E. Hinton(スーザン・エロイーズ・ヒントン)1951年、米国オクラホマ州生まれ。タルサ大学卒業。主な著書に『ランブルフィッシュ』(集英社)『トラヴィス』(原生林)『妹になるんだワン!』(徳間書店)など。

【訳】唐沢則幸(からさわ のりゆき):1958年東京生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。主な訳書に「ウォーリーの絵本」シリーズ(フレーベル館)、『ジャカランダの花さく村』(講談社)、『エヴァが目ざめるとき』(徳間書店)など。

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〔やまねこ会員の声〕
★主人公のポニーボーイは、文学や映画を愛する繊細な感受性を持った少年。グリーサーの仲間に強い友情を感じながらも、どこかで孤立感を抱えています。グリーサーの他の少年たちも、誰もが心に問題を抱え、寂しさを感じているように見えます。
 でも、彼らの「個」の感覚は、ひとりぼっちの孤独感ではありません。どこかに属し、愛されているからこそ感じることのできる、「他人とは違う自分」という確かな存在感なのです。だからこそ、どれほどすさんだ出来事に巻き込まれても、思いやりや誇りを忘れることなく、自分の信じた道を進むことができるのではないでしょうか。
 心に直接響いてくるようなイキイキとした日本語で、リアルタイムにこの物語を読める今の10代は、幸せだなあとしみじみと思います。(くるり)

〔この本が気に入ったあなたにおすすめする次の一冊〕
★別の訳で。『アウトサイダーズ』(清水真砂子訳 大和書房)『アウトサイダー』(中田耕治訳 集英社)
★今の貧しい若者たちを伝える
『オーブンの中のオウム』(マルティネス作 講談社)

〔こんなものも〕
★ビデオ 『アウトサイダー』『ランブルフィッシュ』(いずれもヒントン原作)

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