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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ(2003年6月

ルピナス」と「ブルーボンネット」、同じ花だって知ってました?

<子どもの心にまかれた種が、やがて花ひらくまで。>

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ルピナスさん
―小さなおばあさんのお話―

"Miss Rumphins"

バーバラ・クーニー/作

かけがわ やすこ/訳


ほるぷ出版

1987.10

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。


  ルピナスさん――背筋を伸ばし、さっそうと歩いている彼女は、なぜ花の名前で呼ばれているのだろう。表紙のむこうには、ひとりの女性の人生が静かに描かれていた。「大きくなったら遠い国に行く。そして、おばあさんになったら、海のそばの町に住むことにする」少女時代のルピナスさんは、一緒に過ごすことの多いおじいさんに夢を語る。するとおじいさんは、もうひとつしなければならないことがあると告げる。「世の中をもっとうつくしくするために、なにかしてもらいたいのだよ」おじいさんの言葉は、少女の豊かな心の土壌に種のようにまかれた。

 成長したルピナスさんは、図書館で働き、やがて遠い国々を訪れる。南の島から高い山まで。砂漠やジャングルもかけめぐった。行く先々で、心に残るたくさんの人との出会いもあった。それは、ルピナスさんの心の種に水が注がれ、芽が出て、すくすくすくと成長し、さまざまな自然の恵みを受け、小さなつぼみがつくまでの過程を見ていくようだ。

 老年にさしかかったルピナスさんは、海辺の町に落ち着く。少女時代の夢もかない、自分の人生に満足していた。そんなとき、おじいさんとの約束をまだ果たしていないことに気づく。世界中のうつくしい風景を見たけれど、世の中をうつくしくするためになにをすればいいのか、まだわからない。その答えが見つからないうちに、体調をくずしてしまう。ベッドで過ごす彼女の心の中では、固いつぼみのままの花がじっとうつむいていた。

 病床の窓から見えた花。それが、ルピナス。彼女には、やっとわかった。何をすればいいのか。長い間つぼみのままだったが、闇の中で過ごしたのち、ゆっくりとひらき始めた心の中の花。病気というつらい経験を経て、世の中をうつくしくするものが見えたのだ。暗闇に閉ざされて初めて知る光の輝き。その光を浴び、心の中で花はついに満開となった。

 しっかりと自立し、世界中を旅したルピナスさんの人生は、それだけでとても素敵だ。しかし、「世の中をうつくしくする」という素晴らしいけれど、見過ごされがちな夢を決して忘れなかった。少女時代、心にまかれた種を長い時間をかけて育て、見事に花を咲かせたのだ。

  ルピナスさんは、次の世代の心にも、種をまくことを忘れなかった。自分の心から花の種を大切にとり、豊かな土壌をもった若い心にそっと根づかせたのだ。絵本を閉じながら感じた。この本を読んだひとりひとりの心にもまたルピナスさんの種がまかれたことを。「世の中をうつくしくするために」わたしたちは、どんな花を咲かせることができるだろう。

【作者】バーバラ・クーニー Barbara Cooney:1917年、ニューヨーク市ブルックリンで生まれる。スミス大学とアート・スチューデント・リーグで学ぶ。1959年『チャンティクリアときつね』(ジェフリー・チョーサー原作/ひらのけいいち訳/ほるぷ出版)、1980年『にぐるまひいて』(ドナルド・ホーン文/もきかずこ訳/ほるぷ出版)で、2度のコールデコット賞受賞。『ルピナスさん』は、1982年に発表され、全米図書賞を受賞した。2000年、83歳で亡くなるまで、数多くの名作を世に送った。

【訳者】掛川恭子 かけがわ やすこ:
1936年東京生まれ。津田塾大学英文科卒業。訳書に『フランバーズ屋敷の人びと』(ペイトン作/岩波書店)、『ザ・ギバー 記憶を伝える者』(ロイス・ローリー作/講談社)、 『赤毛のアン』(モンゴメリー作/講談社)、翻訳絵本に『エミリー』(マイケル・ビダード文/バーバラ・クーニー絵/ほるぷ出版)など多数。

鈴木明美

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<自然との調和を大切にした先住民族からのメッセージ>

青い花表紙 *************

青い花のじゅうたん
テキサス州のむかしばなし

"The Legend of the Bluebonnet
: An Old Tale of Texas
"

トミー・デパオラ 再話/絵

いけだ さとる/訳

評論社

2003.05

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。


 毎春、テキサス州の丘は、青い花でおおわれるという。ボンネット型の帽子に似た形から“ブルーボンネット”と名づけられたこの花は、テキサス州の州花になっている。この地の先住民コマンチ族には、ブルーボンネットの由来を伝えるむかしばなしがある。

 厳しい冬がおわったのに雨が降らない。乾ききった大地に緑はなく、飢饉が村をおそった。雨乞いの踊りを3日間続けても効果はなく、ついにまじない師が精霊に教えを請う。

「人間は、じぶんのことしか考えなくなってしまった。大地からめぐみをうけるばかりで、なにもかえそうとしない」

 精霊は、人間に、大地へのいけにえを求めたのだ。もっとも大切にしているものを灰にして、風の生まれるところにまけと。

 村には、この飢饉で両親を失った少女がいた。少女は、かつて母さんが作り、父さんが青い羽を飾ってくれた人形を宝物にしている。両親が亡くなった今、この人形はかけがえのないものだった。けれども、精霊の言葉をきいた少女は……。

 地球上のすべてのいとなみは、人間から小さな生き物、土や水や空気にいたるまで、たがいに影響を及ぼしあっているのかもしれない。わずかな歪みが重なり合って、大きなうねりとなり、不幸をもたらす。人間も自然の一部と考える先住民族。彼らの物語に出会うとき、あらがうことのできない大自然の環と、そのなかのちっぽけな存在である自分に気づかされる。

 だれよりも先に行動した少女の勇気には、身震いするほどの迫力を感じた。しかし、少女は決して特別な人物などではない。いたって普通の少女の行為が胸をうつのは、どんな障害があっても信じるものにまっすぐに向かう彼女の純真さが、まだわたしたちのこころに残っているからかもしれない。少女も、わたしたちも、人々を救うことができる存在――。読み終えたとき、そう思えるほどの勇気がわいてきた。

 デパオラは、白と茶と、そしてブルーボンネットの青を効果的に使って描く。表紙には、砂漠のような大地に土色の衣服をまとった少女が描かれている。タイトルの文字はブルーボンネットに合わせた深い青。ページをめくっていくと、青い絵の具がさまざまなところに使われているのがわかる。青い色を追っていくのも、この絵本のもう一つの楽しみだ。

【再話者・画家】トミー・デパオラ Tomie dePaola: 1934年、コネチカット州生まれ。作絵本や挿絵を担当した本の数は200作以上。『まほうつかいのノナばあさん』(ゆあさふみえ訳/ほるぷ出版)はコールデコット賞オナー、自らの幼年期を題材とした『フェアマウント通り26番地の家』(片岡しのぶ訳/あすなろ書房)は、ニューベリー賞オナーとなった。(月刊児童文学翻訳2002年5月号)
〔参考〕◆やまねこ翻訳クラブ資料室 トミー・デ・パオラ邦訳作品リスト
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/d/tdepaola.htm

【訳者】池田 智 いけだ さとる:1944年、東京生まれ。玉川大学大学院文学研究科、州立イリノイ大学アーバナ・シャンペイン校大学院修了。現在、玉川大学文学部教授。著書に『アメリカ・ アーミッシュの人びと』(明石書店)、共著書に『早わかりアメリカ』(日本実業出版社)、『アメリカ文化ガイド』(荒地出版)、訳書に『アーミッシュに生まれてよかった』(評論社)など。

河原まこ

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