やまねこ翻訳クラブ 注目の未訳書18 Helen Cooper

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Helen Cooper, Pumpkin Soup

Doubleday, 1998 ISBN 0 385 407947

〜ヘレン・クーパー作 『かぼちゃのスープ』(仮題)〜
Review by よしいちよこ

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 深い深い森の奥に、一軒の古くて白い家がたっていた。庭にはたくさんのかぼちゃがなっており、いつもおいしそうなスープのかおりがただよっている。その家には、ネコとリスとアヒルが暮らしていた。3人(2匹と1羽)がつくるかぼちゃのスープはとてもおいしい。ネコがかぼちゃを切って、リスがスープをかきまぜ、アヒルは味つけの塩をはかる。何をするにも、3人の役目があり、協力しあって平和に過ごしていた。

 ところが、ある朝のこと、アヒルが「きょうは、ぼくがスープをかきまぜる」といいだしたから大変だ。リスは自分の役目をゆずるわけにはいかないといい、ネコは小さいアヒルには無理だという。大げんかのすえ、アヒルは家を出ていった。すぐに帰ってくるだろうと思っていたネコとリスだったが、スープをつくる時間になっても、アヒルは帰ってこなかった……。

 有名どころを差しおいて、今年のケイト・グリーナウェイ賞を受賞したのは、私にとって未知の作家、ヘレン・クーパーだった。さっそく、アマゾンUKで、"Pumpkin Soup"を注文した。ネコとリスとアヒルが一皿のスープをすすっている表紙の絵は、かわいいようだが、よく見るとすこしくせがあり、読む前から期待させてくれる。

 話の内容は、単純なストーリーだが、アヒルとネコとリス、3人の個性が際だっていて、おもしろさにふくらみが出ている。身の回りにあるものをとりいれたというクーパーの絵は、空想と現実がいりまじった不思議な魅力をもち、奇妙で独特な世界にいざなう。また、3人の表情がじつに豊かに変化する。怒った顔、泣いた顔、うれしい顔、困った顔。リアルな動物の顔が、おかしな表現だが、人間味にあふれており、笑ってしまう。ページいっぱいの大きな絵、作者がコマ割りのマンガを想定してかいたという小さな絵、どちらもユーモアがあり、ページをめくるたびに新しい発見がある。作者クーパーは、アメリカに旅行中、ハロウィンのかぼちゃを見て、この絵本を書こうと思ったという。全体的に重厚なあたたかい色使いで、これからの実りの秋にぴったりの1冊だ。(よしいちよこ)

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Helen Cooper(ヘレン・クーパー):1963年生まれ。ロンドンで、同じく児童書の作家でありイラストレーターでもある夫、テッド・デュワンと暮らしている。1997年、"The baby who wouldn't go to bed"でケイト・グリーナウェイ賞を受賞。1999年、本書で、2度めの受賞をはたした。邦訳書に『ねことまほうのたこ』(掛川恭子訳/岩波書店)がある。

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1999年9月作成

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