第三編集部 新刊情報

2004年5月刊行

ダルシマーを弾く少年:表紙

ダルシマーを弾く少年

トア・セイドラー 作
ブライアン・セルズニック 絵
大島英美 訳

ISBN 4-591-08144-3
定価 1365円(税込)

ダルシマーという楽器をご存知ですか?
うすい板型の共鳴箱の上に、金属弦を張り、細長いバチで打って演奏する楽器です。
ピアノの祖先にあたるともいわれ、流浪の民ロマたちの合奏でもよく使われたといわれています。

物語は19世紀末、アメリカが舞台。
ひとりの男が、大きなかごのようなものを持って一軒の家を訪れるところからはじまる。
奥方の妹が亡くなり、ふたのついた柳行李が男の手から渡された。
中には、小さな男の子が2人がねむっていた!
茶色の髪がウィリアム、金色がジュール。
両方とも生後10か月です。
父親が、この子らにあげられるのは、このダルシマーだけです。
このちいさな紙片に書かれていた文字はこれだけ。ウィリアムとジュールはこうしてカーバンクル家に住むことになった。それは幸福のはじまりではなかったのだが。日々の生活にも苦しいカーバンクル家での暮らしは楽しいことは少ない。そんななか、ウィリアムはふとしたことから、柳行李に一緒にはいっていたダルシマーを弾く機会に恵まれる。美しい細工が施されたダルシマーを、ウィリアムは甘美に奏ではじめ、その音楽は、一度も口をきかない弟ジュールの目を輝かせた。しかし、カーバンクル家の経済状況は悪化し、とうとうダルシマーを売り飛ばす話がでてしまう。そこでウィリアムは、ある決意をした……。


ダルシマーの奏でる音を私は聞いたことがない。それでも、物語にしずかに音楽が流れているのを感じた。
画家セルズニックの挿絵は、モノクロで丹念に描かれあたたかさをともない、物語にそっと寄り添っている。特に木の葉の絵は印象に残り、それはまた物語のキーワードにもなっている。ラストは光に満ち、深い余韻を残す――。
どうぞご一読を。


【作者】トア・セイドラー Tor Seidler 米ニューハンプシャー州に生まれる。シアトル、ワシントンなどを転々としながら育つ。スタンフォード大学でイギリス文学を学び、27歳のとき、本書『ダルシマーを弾く少年』(原題"The Dulcimer Boy")を書き上げる。数々の子ども向けの名著を書き、ナショナルブック賞最終候補に選ばれた。ニューヨーク在住。

【画家】ブライアン・セルズニック Brian Selznick 米ニュージャージー州に生まれる。2002年『ウォーターハウス・ホーキンズの恐竜』(光村教育図書)でコールデコット賞オナーに選ばれたイラストレーター。徹底したリサーチに裏付けられた入魂のイラストや挿絵に定評があり、子ども向けの多くの本を精力的に手がけている。ニューヨーク在住。

【訳者】大島英美 おおしま・えみ 『Not Just for Kids' Books』(ペイパーウェイト・ブックス刊)という子ども向けに出版された英語の絵本や読み物の書評集をNJFKコミッティ代表として編集・執筆。本書も大島氏推薦の未翻訳小説。他の訳書に『おじいさんの旅』(ほるぷ出版)等がある。

作者と画家のことをもう少し……

トア・セイドラーの描く物語
邦訳作品リスト全作品リストやまねこ翻訳クラブ作成

セイドラーの物語はほぼ共通して「アウトサイダー」を描いており、主人公が社会、あるいは特定のひととの何らかの「つながり」を求めることによって物語は展開していく。また、どこか寓話的で、哲学もあり、なんともいえない余興をのこす。

ネズミ嫌いを改心させてしまう『10万ドル大作戦 ―― ニューヨークのネズミ』(金の星社/きったかゆみえ訳/1991)をはじめ、動物の視点から描かれた作品がとくに有名。未訳では、魚に恋するイタチの悲恋物語 "The Wainscott Weasel"、兄たちに捨てられるほど悪さが絶えない幼女と森の動物たちの物語 "Mean Margaret" などは米国の名だたる団体によるブックリストに入っている。
人間に視点をおいたものでは、あらゆる面で兄に勝ち誇っている少年が兄の唯一の才能までも傷つける行為にでて、そこから立ち直ってくる話 "Brothers Below Zero" や、人を喜ばそうと思ってつく罪のない嘘が引き起こした悲劇に打撃をうけて、真実以外は決して口にしなくなった少年、"Terpin" などがある。最新作の "Toes" では再び動物の視点にもどし、音楽をこよなく愛する天才猫トーズの生涯が語られ、愛猫家が読む際は必ずハンカチのご用意を。

アンデルセン原作の『すずの兵隊さん』(評論社/おぐらあゆみ訳/1996)のリテリングもある。セイドラー作品のヒーロー、どんなに地味で他人に認めてもらえなくても、ひとを愛すること、自分の生きる姿勢に信念をもち、なにがあろうとも最後までそれを貫くけなげな兵隊さんなのだ。

ブライアン・セルズニックの絵本
作品リストやまねこ翻訳クラブ作成

セルズニックの絵をみていくと、人物のほとんどが少しななめ向きに描かれている。なぜだろう。地味な色合いと柔らかい線で描かれているのに、思わずめくる手を止めてしまうくらい衝撃的な視線なのだ。描かれた目からはまさに魂がのぞいているから、正面から正視するのはむつかしいのかもしれない。

残念ながら日本では未訳だが、最初の女性パイロット、アメリア・イアハート "Amelia and Eleanor Go for a Ride" などの伝記作品がまたすばらしい。とくに黒人女性としてカーネギー・ホールやメトロポリタン・オペラで初めて歌ったマリアン・アンダーソンの物語 "When Marian Sang" (パム・M・ライアン文)はセルズニックの叔父の話をもとに描かれており、非常に高い評価をうけている。そして期待されるのが、『ウォーターハウス・ホーキンズの恐竜』(光村教育図書/千葉茂樹訳/ 2003)でもコンビを組んだバーバラ・ケアリーとの共作で、2004年秋に出版予定の詩人ウォルト・ウィットマンの伝記 "Walt Whitman: Words for America" だ。詩、とくに外国の詩をわれわれ日本人が理解し、親しむのはむつかしいが、きっとセルズニックならウィットマンのこころをしかと捉えた絵でわたしたちに伝えてくれるだろう。

Copyright Sako Ikegami


ダルシマーという楽器について……
文字だけの説明ではなかなかイメージしにくいのではないでしょうか。
物語の中ではセルズニックさんのイラストもありますが、画像を掲載しているサイトをご紹介します。
▼ダルシマー公式サイト
(楽器の公式サイトというのもおもしろいですよね。試聴できるページもあります。)

▼ヤマハ音楽世界めぐり(おんがくういくりよりバックナンバー)
(ピアノの祖先といわれているダルシマーのルーツが書かれています。)おんがくういくりバナー


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Last Modified: 2004/06/18
担当:小湖・さかな

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