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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> ブラティスラヴァ国際絵本原画展賞
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)賞(世界) レビュー集

Biennial of Illustrations Bratislava
〔Bien
ále  Ilustrácií Bratislava〕

(その1
 

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最終更新日 2008/11/01 レビュー1点追加  

その1 / その2

ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞リスト(やまねこ資料室)←準備中   ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


"Herra kuningas"『ちいさなおうさま』 * "Es war finster und merkwurding still 〔Es war finster und merkwürding still〕"『まっくら、奇妙にしずか』 * "Raben Baby"『あかちゃんカラスはうたっよ』 * "Toc,Toc! Monsieur Cric-Crac!"『トン、トン! クリック・クラックさん!』 * "Au fil des mois…"『めぐる月日に』 * "Lupinchen"『お友だちのほしかったルピナスさん』 * "Der Traummacher"『ゆめうりおじさん』 * 『あめふらし』"Das Meerhaschen 〔Das Meerhäschen〕" * "La barbe bleue" "Blaubart"『ペローの青ひげ』 * "Vader en Dochter"『岸辺のふたり』追加


1987年ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞グランプリ受賞作

"Herra kuningas" (1986)  Raija Siekkinen ライヤ・シエッキネン文 Hannu Taina ハンヌ・タイナ絵(フィンランド)
『ちいさなおうさま』 さかいれいこ訳 冨山房 1989 (邦訳絵本)

その他の受賞歴
・1987年ルドルフ・コイヴ賞(フィンランド)
ルドルフ・コイヴ賞について
ルドルフ・コイヴ賞レビュー集


 海辺にぽつんと建つお城に、おうさまがたったひとりで住んでいました。おうさまは毎日、さびしくてなりません。童話の本に出てくる他のおうさまのように、ケライがほしいと思いますが、まわりにはだれもいないのでした。そんなある日、お城にネコがやってきます。ケライができたと、おうさまは大喜び。このときから、おうさまの暮らしは変わりはじめました。

 水彩で描かれた透明感のある絵が、それはそれは美しい本です。おうさまのお城には、丸いガラスの屋根を持つ、とてもきれいな部屋があるのですが、孤独なおうさまはあまりに気持ちがふさいでいて、こんなすてきな部屋があることを忘れてしまっています。レコードプレーヤーが奏でる音楽も、おうさまの耳には入りません。ひとりぼっちでは、なにを見ても聞いても、ちっとも心に響かないのですね。
 時間や感情を共有するだれかがそばにいてくれるのは、なんて素晴らしいことなのでしょう。相手の名が「おう」だったり、「ケライ」だったりするけれど、呼び方なんて、なんでもいいのです。あなたのそばにいるのは、だれでしょうか。そのだれかと一緒に、この絵本を読んでほしいと思います。
 ハンヌ・タイナは、子どもの本の画家として、フィンランドではよく知られた存在です。なかでも、クマのぬいぐるみを主人公とした読み物「Uppo-Nalle(ウッポ・ナッレ)」シリーズ(未訳)の挿絵が有名です。

参考:BIB公式ウェブサイト内、過去の受賞作のページ(1987年のところで本書の挿絵の画像が見られます。)

(古市真由美) 2008年10月公開

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2007年ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞グランプリ受賞作

"Es war finster und merkwurding still 〔Es war finster und merkwürding still〕"(2005)
  by アイナール・トゥルコウスキィ Einar Turkowski (ドイツ)
『まっくら、奇妙にしずか』 鈴木仁子訳 河出書房新社 2008.07 (邦訳絵本)

その他の受賞歴
・2005年レーゼ・ペーター賞(ドイツ) Der Lesepeter award
・2007年トロイスドルフ絵本賞2席(ドイツ) the Troisdorfer Bilderbuchpreis


 ひとりの男が船で島にたどりつき、一軒の廃屋に住みはじめた。砂丘の向こうにある小さな町の人々は男の事が気になり、ひそかに男を見張るようになる。男の住む小屋では、なんとも不思議なことがおこっていた。朝になるとたくさんの魚が、頭を砂につっこみ、洗濯ひもに一列にぶらさがっているのだ。男は町に魚を売りに行くが、町の人は誰も買おうとしない。魚の秘密がわからずに気味悪がっていた町の人々は、やがて魚の秘密をつきとめて……。

 1本のシャープペンシルと400本の芯で、3年間をかけて完成させたという絵本。細部まで丁寧に書き込まれた白黒の絵に目を奪われる。特に、魚を捕まえる装置や、男を見張るための装置は、リアルさとシュールさの加減が絶妙。それにオーバーラップするのが、町の人々の性格と行動だ。好奇心、苛立ち、欲深さ、自己中心、破綻。全体的にとぼけた感じや不思議さも感じられるが、題名の『まっくら、奇妙にしずか』と合わせて、不気味さも漂う。
 2008イタリア・ボローニャ国際絵本原画展の日本国内の巡回では、本作品の原画が特別展示されるそうだ。

参考:BIB公式ウェブサイト内の2007年受賞者のページ

(植村わらび) 2008年10月公開

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1995年ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞グランプリ受賞作

"Raben-Baby" (1994) by John Rowe ジョン・ロウ(イギリス)
『あかちゃんカラスはうたったよ』 高橋源一郎訳 講談社 1996 (邦訳絵本)

その他の受賞歴
・オーストリア児童図書賞


 昔々、とても高い木のうえに、カラスの一族が住んでいた。すてきな帽子を持っていて、夜になると帽子を木の枝にかけて眠った。木の一番上には、一番年寄りのカラスが住んでいて、とても賢くて、とても年取っていたけど、すばらしい声で歌を歌うことができた。
 木の一番下で赤ちゃんカラスが生まれた。父さんカラスも母さんカラスもそれは大切に育てたけれど、赤ちゃんカラスはいつまでたっても、口を利かなかった。とうとうある日、父さんカラスが鳴き方を教える。と、あろうことか! 赤ちゃんはカラスなのに、「ビー」と鳴いた。二人は木の一番上に住む年寄りカラスに相談することにした。

 深い紫や深緑の暗い背景に黒いカラスの絵。お世辞にも明るい雰囲気が漂うとはいえないのだが、ところがお話はいたって明るい。亀の甲より年の功! 年寄りカラスは赤ちゃんカラスが「カー」と鳴けない原因をすぐさま解決してくれる。しかし、そこでまた新たな大問題が巻き起こるというしだい。両親は苦笑いの結末となる。
 カラスたちがねぐらにしている木の様子も不気味だし、年寄りカラスたちの帽子も奇妙。どのカラスもくちばしがとても大きくて、枝をつかむかぎ爪がとても大きい。唯一かわいいのは、赤ちゃんカラスのつぶらな真っ黒な瞳と、大きくあけた口。それにとても光っているサクランボの赤! どうしてサクランボかって? それは読んでのお楽しみ。

(尾被ほっぽ) 2008年10月公開

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1997年ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞グランプリ受賞作

"Toc,Toc! Monsieur Cric-Crac!" (1996) by Alain Serres アラン・セール文 Martin Jarrie マルタン・ジャリ絵(フランス)
『トン、トン! クリック・クラックさん!』 中井珠子訳 BL出版 1998 (邦訳絵本)

その他の受賞歴


 庭に食肉植物を育て、子供が大嫌いなクリック・クラックさん。家の周囲に高い塀をめぐらし、中央市場でボディガードを雇った。台所にはドラゴン、風呂場にはワニ、客間にはオオカミの夫婦、トイレには血統書つきのガイコツ、そして寝室にはお化けだ。これでだれも、クリック・クラックさんをたずねて来る人はいない。ところが何年かたち、ビズ・ビズさんがやってきた。トントン!クリック・クラックさん?

 最初はまるで『わがままな大男』のようだなぁと思っていたら、ビズ・ビズさんが登場してからの展開は、意外や意外楽しさいっぱいなのだ。市場で仕入れたボディガートたちが、一役も二役も重要な役を演じてくれる。
 イラストは超シュールで、ドラゴンもワニもお化けもまるでロボットみたいだし、クリック・クラックさんときたら、長四角の胴体にピーナッツみたいな顔と、針金みたいな手足がついている。点と線だけの顔は、およそ叙情とは無関係。庭に育つ12の食肉植物も口ばかりが目立ち、丸い葉っぱはまるでボクシンググローブに見える。ところがこれらの絵は、コミカルでユーモアたっぷり。食肉植物とかお化けだとかが、本来持つおどろおどろしいイメージを吹き飛ばしている。絵が物語に与える影響の大きさを、まざまざと感じさせてくれる一冊だ。

参考:BIB公式ウェブサイト内、過去の受賞作のページ(1997年のところで本書の挿絵の画像が見られます。)

(尾被ほっぽ) 2008年10月公開

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2001年ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞グランプリ受賞作

"Au fil des mois…" (1998) by Eric Battut エリック・バトゥー (フランス)
『めぐる月日に』 谷内こうた訳 講談社 2002 (邦訳絵本)

その他の受賞歴


「1月、まっている…」雪景色と思われる淡いピンク色した草原の向こう、画面の右側に、有刺鉄線の柵がある。杭の上に胸元の赤い鳥が一羽止まってる。
「2月は、たたかう…」深い紫の山山があり、同系色の暗い空にはくすんだ黄土色の月。山の上には小屋がたっていて、窓にはあかりが見え、煙突からは煙がでている。手前の草原では鹿(?)のような四足二匹が、今まさに戦わんとしているような図。
「3月には、ようすをみる…」画面左端にわずかに草原の地面があり、そこにポコッと地面から顔を出しているモグラ。モグラの横の空間から空一面、画面一面を横切る虹が美しい。
月々に寄せて書かれた言葉がほんの少し、大きな紙面を、広い空間を、感じさせる絵が占める。

 空間を楽しむ絵本。どこの月でも広い画面いっぱいに、遠くを見晴るかしたような場面が描かれている。そのなかに、書かれた言葉に呼応するような、実に小さな動物たちが、ちょこっと書かれていて、それが空間をより広く大きく見せている。5月には緑、10月にはレンガ色といった配色を統一した頁が続くと、季節の色を写し取っているのかと思ってしまう。12月の言葉は「夢をみる」一匹の四足(オオカミ?犬?)が満月に向かってる。ほえてるのか? 余韻たっぷり。

(尾被ほっぽ) 2008年10月公開

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1971年ブラティスラヴァ世界絵本原画展金のりんご賞

"Lupinchen"(1969) by Binette Schroder〔Binette Schröder〕  ビネッテ・シュレーダー
『お友だちのほしかったルピナスさん』 矢川澄子訳 岩波書店 1976

その他の受賞歴
・1971年ドイツ児童文学賞ショートリスト 他多数


 ルピナスさんは、町はずれにある花園で、なかよしの鳥のロベルトと暮らしています。ロベルトが出かけている間、ひとりぼっちでさびしいと訴えるルピナスさん。そこでロベルトは、ルピナスさんのために新しいお友だちをつれてきました。紙でできた四角い箱のパタコトン氏と、はにかみやのイギリス紳士で、たまごそっくりのミスタ・ハンプティ・ダンプティです。ルピナスさんがお友だちと過ごす1日は、ほかのどんな人の1日とも似ていません。おやつを食べ過ぎたり、嵐に見舞われたり、海に行きあたったり、おかしな出来事が次々に起こります。

 ルピナスさんは女の子で、絵ではお人形のように見えるのだけど、ルピナスの花の化身かもしれない。紙箱のパタコトン氏は、「せっしゃ(拙者)」とか「ぜっぴん(絶品)」とか大仰な物言いをする。ハンプティ・ダンプティはイギリスから来たので、言葉はたどたどしく、こうもり傘を手放さない。鳥のロベルトはルピナスさんよりだいぶ大きく、きれいなピンク色のくちばしを持っている。ひとりずつでも十分に謎めいた登場人物たちだが、かれらがいっしょになれば、もはや何が起きるか予測不能。なんともいえぬ、実に不思議な味わいの絵本だ。
 抑えた色合いの絵が美しい。静かで、知的な香りがする。内側にそっと秘密を抱えていそうだ。緑の草原で、はさみを手に紙の家をつくっているパタコトン氏の後ろ姿が、妙に愛らしい。ルピナスの咲く野原を月が照らしている場面では、ルピナスさんとロベルトの表情がすばらしく、幻想的な雰囲気にひきこまれる。
 ルピナスの花の香りを、どうしてもかいでみたくなった。

(古市真由美) 2008年10月公開

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1973年ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞グランプリ受賞作

"Der Traummacher" (1972) by Lieselotte Schwarz リーゼロッテ・シュヴァルツ(ドイツ)
『ゆめうりおじさん』 やがわすみこ訳 冨山房 1978

その他の受賞歴


 お祭り広場に夢売りおじさんがいる。大きな箱の上におじさん、おじさんの頭には帽子、帽子の上にはハトがのってる。おじさんは手招きして、ぼくを呼ぶと、箱の中から夢を出してくれた。
 「クレーンのゆめ」「ネガイゴトこうばのゆめ」「まじゅつしのふうふのゆめ」「バラのゆめ」「あやつりにんぎょうのゆめ」「けっこんしきのゆめ」「リンゴのみせのゆめ」「あおいフクロウのゆめ」「ひっこしのゆめ」
 目が覚めると、おじさんは箱のふたをしめて、箱とハトを頭にのせ「また、あした」    どこかへ行ってしまった。

 まるで和紙を貼り付けたような淡い色彩の画面が続く。夢に登場するのは、よく知っている人々ばかりだ。たとえば、ネガイゴト工場で働いている人はおとうさんだし、リンゴの店に出てくるのはおかあさんだ。けれども、どの夢もまさに夢物語。「クレーンのゆめ」で、クレーンを操作しているのは「ぼく」。小さな小屋を吊り上げていたのに、かるわざしがぶらさがり、ひっくりかえりそうになったクレーンの上でオンドリが踊り、猫が眠ってる。「ぼく」が大慌てで、叫んでいるあいだに、かるわざしは飛び降りて、ふと見ると、「ぼく」と大きな牛乳瓶があるばかり。夢また夢のオンパレード。

参考:BIB公式ウェブサイト内、過去の受賞作のページ(1973年のところで本書の挿絵の画像が見られます。)

(尾被ほっぽ) 2008年10月公開

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2003年ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞グランプリ受賞作

"Das Meerhaschen 〔Das Meerhäschen〕" by Iku Dekune(日本)
『あめふらし』 グリム兄弟文 出久根育絵 天沼春樹訳 パロル舎 2001年

その他の受賞歴


 昔々、国中くまなく、あらゆるところまで見渡せる12の窓のある高い塔を持った王女がいました。彼女と結婚しようと思うものは、この王女の千里眼から隠れおおせるものでなくてはなりませんでした。幾多のものが挑戦しましたが、王女に敗れた者の命はありません。殺された男の首がクイに串刺しにされ、97本もならびました。3人の兄弟が運試しにやってきて、ついに最後の弟の番となったとき、彼は一日の考える時間と、機会が3度与えられることを願い、王女はそれを聞いてやったのでした。

 なんでこんな王女と結婚したいのか。日のあたる場所でゆっくりのんびりした結婚は、お好みではなかったのかしら。まあ、確かに一国が手にはいるし、絶対にスリリングな人生であることは保障つきでしょう。彼女のやってることといったら、あのネロ皇帝も真っ青なのに。なあんて、現実的に感想をいっちゃお話が始まりませんが。
 歌劇『トゥーランドット』に出てくる恐ろしい姫に似ているなあと思ったら、この手の話は「謎かけ姫物語」としていくつもあるのだそうです。グリム兄弟もどこぞで見聞きした話をこうしてまとめたのでしょう。
 出久根さんの絵が冴え渡っています。メルヘンチックで面白い一方で、おどろおどろしく不気味さ満載。それなのに、謎めいた雰囲気が勝っていて、イヤミがありません。「あめふらしって何?」という方のために最後のページで種明かししてあります。

参考:BIB公式ウェブサイト内、過去の受賞作のページ(2003年のところで本書の挿絵の画像が見られます。)

(尾被ほっぽ) 2008年10月公開

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2001年ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞グランプリ受賞作

"La barbe bleue" (2000) Charles Perrault シャルル・ペロー文 Eric Battut エリック・バトゥー絵 (フランス)
 (発表の際の出版社は、 Bilboquet, Mont-pres-Chambord フランス)

『ペローの青ひげ』 池田香代子訳 講談社 2001 (邦訳絵本)
 邦訳の奥付→"Blaubart" (2000)(こちらの出版社は、Bohem Press スイス)

その他の受賞歴


  昔々、大金持ちの男がいた。あちこちにりっぱな館を持ち、金銀財宝は山のように持っていた。ところが彼は青ひげをはやしていたために、見るもおぞましく、人はみな逃げていった。男は何人も妻を迎えたが、その者たちがどうなったか、だれも知らない。またも青ひげは美しい娘に言いより、あの手この手で近づき、とうとう結婚にこぎつけた。
 ひと月たつと青ひげは館中の鍵を渡して言った。「どの部屋も開けて良いが、この一番奥の小さな部屋だけは空かずの部屋だ」青ひげが留守の間、奥方は友だちを呼び、それぞれの部屋にあるお宝を眺め明かした。けれども、あの奥の小部屋が気になってしょうがない。とうとうある日、階段を降りあの小部屋の前に立った。

 おなじみのお話もエリック・パトゥーの挿絵にかかると、ずいぶん印象が変わってしまう。『めぐる月日に』と同様にこちらも登場人物が小さく小さく描かれ、城の壁が大きく紙面を占める。そのため、あの!青ひげがコミカルに見えてしまうし、結婚する美女もマッチ棒人形になってしまう。でも、例の場面では、背景をおおう城の黒い壁が、小さな美女を圧倒し、不気味さを引き立てる。やっぱりさらっとはいかないお話なのだ。

参考:BIB公式ウェブサイト内、過去の受賞作のページ(2001年のところで本書の挿絵の画像が見られます。)

(尾被ほっぽ) 2008年10月公開

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2003年ブラティスラヴァ絵本原画展賞金のりんご賞

"Vader en Dochter"(2002) by Michael Dudok de Wit マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット
『岸辺のふたり』  うちだややこ訳 くもん出版 2003 (邦訳絵本) 追加

その他の受賞歴


 水平線に向かってボートをこいでいく父親。土手の上から見送る小さな娘。戻ってこない 父を、娘は待ち続ける。いつまでも……。時が、静かに流れていく。娘は成長し、結婚し、子どもを育て、老後を迎え、それでも待ち続ける。

 2001年米国アカデミー賞短編アニメーション賞など、世界各国で高い評価を受けたアニメーション作品「岸辺のふたり」を、監督自らが絵本化した。セピア色の画面は、映画のおもかげそのままだが、短いアニメーションをさらに濃縮した絵本では、読者にゆだねられるものがさらに増す。アコーディオンやピアノの調べも、波や風の音もなく、また、気持ちの あらわれている動作も大幅に削られ、その代わりに短い言葉が添えられている。おもしろい試みだと思った。
 二人はなぜ別れなければならなかったのだろうか。映画と一緒で説明は一切ない。干潟と海を隔てる土手にカメラは固定され、そこで見える以外のことは想像するしかないのだ。 読者の人生経験が大きく反映される。

(植村わらび) 2008年11月公開

 ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞リスト(やまねこ資料室)←準備中   ブラティスラヴァ世界絵本原画展賞の概要

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