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月刊児童文学翻訳

─99年5月号(No.10)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:mgzn@yamaneko.org
1999年5月15日発行 配信数860


[メールマガジンのお知らせ]
翻訳じゃんぐるdirect
翻訳に関する些末で胡乱な情報を執筆ツールから文章表現まで適度にかいつまんでたどたどしくお伝えします。
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「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎出版社研究
第1回 偕成社

◎特集
「持ち込み」ってどうやるの? 〜出版社への未訳本持ち込み事情〜

◎コンクール情報
山形県遊学館「第9回外国絵本翻訳コンクール」

◎展示会情報
イルフ童画館「武井武雄 童画の世界」など全3種

◎セミナー・講演会情報
大阪国際児童文学館「ケストナーを語る」など全4種

◎Chicocoの洋書奮闘記
第5回「こんなこともあるさ」(よしいちよこ)

◎注目の本(邦訳)
レスター文/ブラウン絵『あなたがもし奴隷だったら……』

◎注目の本(未訳)
テレサ・ブレスリン作『墓場からのささやき声』(仮題)

◎世界の児童文学賞
第5回 ウィットブレッド児童文学賞



出版社研究 第1回

―― 偕成社 ――

 

 第1回出版社研究にあたり、本誌スタッフ数名で市ヶ谷駅の近くにある偕成社ビルをたずねたところ、編集部部長の西野谷敬子さんが丁寧に応対してくださった。西野谷さんは、学生時代にファージョンなどを読んで感銘を受け、海外の素晴らしい作品を是非日本の子どもたちに紹介したいと思われたそうだ。そして偕成社に入社、長年児童書出版ににかかわってこられた。そんな西野谷さんから翻訳書を中心に偕成社についてのお話をうかがった。

 

★概要 〜創業64年を迎える児童書専門出版社〜

 偕成社の創業は昭和11年にさかのぼる。戦後児童書専門となり、37年前から翻訳ものを手がけるようになった。「シートン動物記」「世界の名著」などノンフィクション系の作品からはじめ、その後読み物も出版。『大どろぼうホッツェンプロッツ』(1966)など小学校中〜高学年向けのシリーズから、幼年童話・絵本へと徐々に対象年齢を広げていく。絵本の初期のころの作品には、キーツ『ゆきのひ』(1969)、アンゲラー『すてきな三にんぐみ』(1969)、フリーマン『くまのコールテンくん』(1975)など、長い年月をこえて今もなお読み継がれている作品が多い。

 現在も、絵本、小学校初級向「幼年翻訳どうわ」、中級向「本の森」「新・世界子どもの本」「チア・ブックス」、高学年以上向「現代の翻訳文学」など幅広い年齢層を対象にシリーズを揃え、着々と出版点数を増やしている。物語だけでなく、伝記・図鑑、環境問題などさまざまなジャンルに取り組んでいる。

 また、本当に良い作品でありながら流通システムのひずみで品切れ状態とならざるをえない作品が多いなか、「子どもの本の品切れ・絶版を考える会」の要請に応え、『よかったねネッドくん』『ポケットのないカンガルー』などの復刊を5年前からはじめ、既に絵本と童話を71冊、文庫を73冊出版した。今後も続けていく予定。


【こぼれ話】

 絵本の出版をはじめた頃、大人からの視点だけで本を選ぶのではなく、子どもの反応も見て決めようと、近くの保育園や幼稚園に出かけていき、試訳を子どもたちに読み聞かせてもらっていたそうだ。後に、偕成社ビルの一階に近所の子どもや親が気軽に集まって読める「おはなしのへや」を設けた。
 こうやって子どもの反応から出版にこぎつけた作品に、コラージュをつかった『ゆきのひ』、斬新なデザインでエスプリのきいた『おばけのバーバパパ』、 しかけ絵本の『はらぺこあおむし』などがある。


★出版までの過程 〜是非紹介したいという熱意を重視〜

 偕成社では、日本の創作ものも含めて年間約150点を出版。そのうち翻訳ものは4割。創作ものと兼任で、7人のスタッフが編集にあたっている。

 本の発掘は、外国の出版社からの直接の売り込みやエイジェントからの紹介を参考にする他、ボローニア国際児童図書展に出かける、海外の各書評誌に目を通すなどして選んでいる。また、持ち込みもプロの翻訳家からだけでなく、出版経験のない人からも随時受付けている。地方在住でも、郵便等でのやりとりが可能。実際、持ち込みの件数は多いという。

 なお出版を決定する際には、担当編集者の是非出版したいという熱意を重視し、編集会議で一点一点ふるいにかけてアラ探しをすることはしないとのこと。編集者個人の好みに流されず冷静に作品を評価する目を信じ、読者の意見や反応なども参考にしながら、出版を決めている。


★出版傾向 〜子どもたちが楽しめる本を〜

 西野谷さんによれば、「面白くて元気の出る本、子どもたちが楽しめるものを」ということで、特に路線は決まっていないようだが、特徴的なのは「障害者と共に生きる本」が多数出版されていることだ。障害者から多くを学ぼうとする北欧の姿勢に共感して、20数年前から取り組んできた。ベリイマンの写真絵本は『指で見る』(1977)他合計12冊を数える。また、多くの読者に恵まれたトビアスのシリーズは、『わたしたちのトビアス』(1978)『わたしたちのトビアス大きくなる』(1979)の後出版が途切れていたが、「トビアス君はどうしているの」という問合せが多く、昨年続編『わたしたちのトビアス学校へいく』(1998)が出版された。


【西野谷さんから翻訳学習者へ】

 とにかく自分が訳したい、出版して子どもたちの手に届けたいと思えるほれ込んだ作品を見つけてください。まず、その情熱が大切です。そこからいい訳も生まれてくるのではないでしょうか。もちろん原文を正確に読みとり、自然な表現方法を習練することは大前提ですが。



★偕成社の近刊・話題の本

◎『ゴールデン・ハート』
 ウルフ・スタルク/作 マリアンネ・エンクヴィスト/絵
 オスターグレン晴子/訳 1000円
 スウェーデンの人気作家ウルフ・スタルクの新作。ほろ苦い青春の恋が描かれている。5月下旬発売予定。
◎『レイチェル・カーソン』――『沈黙の春』で地球の叫びを伝えた科学者
 ジンジャー・ワズワース/著 上遠恵子/訳 2000円
 環境保護の原点をつき、"地球の恩人"と慕われ、この春「タイム」誌上で今世紀百年の"Greatest Minds 百人"の一人に選ばれた R.カーソンの生涯を、豊富な写真で辿った伝記。5月下旬発売予定。


偕成社

住所 〒162-8450 東京都新宿区市谷砂土原町3−5
電話 03−3260−3229(編集部代表)
ホームページ http://www.kaiseisya.co.jp/ 偕成社キッズパーク


(取材・構成 植村わらび)

 

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特集

―― 「持ち込み」ってどうやるの? ――
〜 出版社への未訳本持ち込み事情 〜

 

 自分で見つけたすばらしい本を、自分の手で訳して出版したい。翻訳学習者なら――いやプロの翻訳家だって――だれでも一度は夢見たことがあるはずだ。でも、いざ持ち込みをするとなると、どこから手をつけたらいいか、なかなかわからない。そこで今回は、出版社への原書の持ち込みについて、基本的なことをまとめてみた。

 

◆まず、邦訳の有無を調べる

 海外の旅行先や、日本の洋書店で、これは、と思う洋書に巡りあったことのある人は多いだろう。でも、そのままいきなり持ち込むのは禁物だ。誰が見てもいいと思えるような本は、邦訳が出ている可能性が高い。そんな本を得々として持ち込んだら、「ど素人」のレッテルを貼られるのが落ちだ。まずはできる範囲で邦訳の有無を調べてみよう。

 最も手軽に調べられるのが、インターネットの書籍検索。作家名の読み方にあたりをつけて、色々なバリエーションで検索してみる。やまねこ翻訳クラブホームページからリンクしている「TRC新刊書籍検索」や「横浜市立図書館蔵書検索システム」は、検索が容易なのでおすすめだ。

 また出版物では日外アソシエーツから出版されている『翻訳図書目録』を利用するとよい。こちらはアルファベットの著者名索引がついていて便利である。

 もちろん、版権がすでに取得されているのにまだ邦訳が出ていないということも考えられる。最終的には、日本のエージェントに問い合わせなければ確実なことはわからないのだが、エージェントは基本的に個人の問い合わせには応じてくれない。したがって、ここから先は素人の調査の範囲外と考えていいだろう。


◆全力をふりしぼって試訳とシノプシスをつくる

 一応邦訳がなさそうだ、ということになったら、試訳を作る。絵本や幼年向けの短い読み物なら、全訳するのがベター。長めの読み物なら、ここぞ、と思うところを1章ほど。試訳だからと手を抜いてはなんにもならない。編集者に自分の文章をアピールできる最高のチャンスと心得て、全力で訳文を練ろう。

 読み物なら、さらにあらすじと感想などを記したシノプシスをつけるとよい。(書き方は本誌3月号『シノプシスの書き方 徹底研究』を参照のこと。)絵本でも、その作者の過去の邦訳作品、受賞歴、作品のセールスポイントなどを簡単にまとめておけば、あとで編集者と話すときにしどろもどろにならずにすむ。

 もちろん、無名の新人がいきなり翻訳者として採用されるケースがきわめてまれだということは、肝に銘じておかなくてはならない。そもそも持ち込み企画自体通ることが少ないし、運よく通っても訳者は別の人、というケースだって大いにあり得る。それでも、ここで頑張れば、将来リーディングなどを任される可能性もあるし、何より自分にとってまたとない勉強になる。


◆出版社に連絡を取る

 さて、自分なりの準備ができたら、いよいよ出版社に連絡を取って企画を説明し、できれば直接会って本を見てもらいたい旨を伝える。このあたりになると相性やタイミングも大きく作用するので、なにが正しい「作法」なのかは一概に言えない。思いつくのは、「アポなしで飛び込むのはやめよう」というきわめて常識的なマナーぐらい。あとは、各自が手持ちの作品に合いそうな出版社を手探りで探すしかない。

 出版社に関して事前にできるリサーチとしては、書店や図書館で目指す分野の本を片っ端から手に取り、各社の出版傾向をさぐること、各種翻訳雑誌で情報をチェックすることなどがあげられる。特に雑誌『翻訳の世界』(バベル・プレス)に連載中の『翻訳Diplomaコース』や、イカロス出版のムック『あなたも出版翻訳家になれる!』(98.1)は、現場の編集者の考えに直接触れることができるという点で貴重だ。また、本誌でも今月号から出版社研究が行われることになったので、ぜひ参考にしてほしい。


◆たとえチャンスが目の前にころがってきても……

 翻訳者や、編集者にコネがある人は、とりあえずラッキーだ。大いに活用するといい。最初の持ち込みで「面白い本ですね!」「いい訳文ですね!」といわれた人も、ラッキー。しかしそのチャンスをどう生かすかは、やっぱり本人の実力次第だ。

 この点に関して、私のかなしい体験を披露してしまおう。何年か前、大好きな作家の未訳の絵本を訳して、某出版社に持ち込んだことがある。うれしいことに、編集の方は試訳を見て「いい訳文ですね。この本は出せませんが、リーディングをしてみませんか」と声をかけてくださった。ところが、当時の私はリーディングのリの字も知らない超初心者。急にこわくなって「まだ勉強中の身ですので……」と断ってしまったのだ。おまけに「翻訳物の読み物も出していらっしゃるんですか?」などととぼけたコメントまでつけて。(あとでよく考えたら、古典的名作をたくさん出版していた。)嗚呼! 今でもこの時のことを思うと、自分の頭をポカポカなぐりたくなる。でもそれが当時の実力だったのだから仕方がない。きっと無理をして仕事を受けても、ろくな結果になっていなかっただろう。コネを持っている人にも同じことがいえる。力もないのにコネを使えば、紹介者に迷惑をかけるだけになってしまうだろう。


◆それでも持ち込みはやめられない

 ずいぶんえらそうなことを書いたけれど、私もまだまだ挑戦者の身分。ここに書いた一語一語は、すべて自分にはねかえってくる。それでもやっぱり、あっと思うような面白い作品に出会うと、「持ち込んでみたい」と思ってしまう。また、そんな思いを胸にいだいて試訳を作っているときの楽しさは、なんともいえない。

 「持ち込み」というと、なにか一種の手続きのようにも思えるが、それは要するにいい本と出会い、それを媒介にして未知の人とのつながりを作っていくことにほかならない。だからこそ、ひとつひとつの出会いを実り豊かなものにできるよう、日頃から自分に肥やしを与えておこうではないか。いつか大輪の花を咲かせられる日を夢見て。

(内藤文子)

 

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コンクール/展示会/セミナー・講演会情報

―― コンクール情報 ――

 

◎山形県遊学館「第9回外国絵本翻訳コンクール」
課 題: "PUDDLES" by Jonathan London / G. Brian Karas
"Smudge" by Julie Sykes / Jane Chapman
応 募: 課題絵本(全国の主要書店で販売)に添付されている応募要項を参照のこと
締 切: 1999年9月30日(当日消印有効)
問合先: 山形県生涯学習センター(023-625-6411)
山形県立図書館(023-631-2523)
参 考: http://www.yugakukan.or.jp/

 

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―― 展示会情報 ――

 

◎石神の丘美術館「手塚治虫の全世界展」
所在地: 岩手県岩手郡岩手町大字五日市第10地割地内
電 話: 0195-62-1453
会 期: 平成11年6月13日まで
休館日: 年中無休
入場料: 大人500円 高校生400円 小・中学生300円
内 容: 手塚治虫の全作品を四つのカテゴリーに分け、原画を紹介。
 
◎イルフ童画館「武井武雄 童画の世界」
所在地: 長野県岡谷市中央町2−2−1
電 話: 0266-24-3319
会 期: 常設展
休館日: 木曜日
入場料: 大人800円 中・高生400円 小学生200円
内 容: 童画画家、武井武雄の常設展。そのほか、センダックなどの作品を展示した資料室や、絵本ライブラリー「はらっぱ」が同じ建物内にある。
 
◎福屋「絵本の100年展 〜母と子どもたちへの贈り物〜」
所在地: 福屋 広島駅前店 8階催事場(広島市南区松原町9-1)
電 話: 082-568-3111
会 期: 平成11年5月20日(木)〜5月25日(火)まで
休館日: 無休
入場料: 大人・大学生500円 中・高校生400円 小学生・幼稚園200円(前売りは上記金額より100円引き)
内 容: 次世代に残したい名作絵本の原画約300点を展示。

(瀬尾友子)

 

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―― セミナー・講演会情報 ――

 

◎大阪府立国際児童文学館 講演会「ケストナーを語る」
講 師: 鳥越信(聖和大学教授 児童文学研究者)
場 所: 大阪府立国際児童文学館(大阪府吹田市千里万博公園10-6)講堂
日 時: 平成11年5月23日(日)14:00-16:00 (受付13:30〜)
参加費: 1,000円(「育てる会」会員は800円)
内 容: 「好きな作家は、ケストナー」という児童文学研究者の鳥越氏が、今年生誕100年のケストナーについて語る。
申 込: 大阪国際児童文学館を育てる会事務局まで(TEL 0721-28-4737〔喜田〕 0720-68-3217〔福島〕)
 
☆大和市渋谷学習センター「世界児童文学入門講座」
講 師: 定松正(共立女子大教授)
場 所: 渋谷学習センター(神奈川県大和市福田2021-2 旧渋谷文化会館)
日 時: 平成11年6月16日〜7月7日(毎週水曜、全4回)13:30-15:30
参加費: 無料
定 員: 30名(定員を超える場合は抽選)
内 容: 児童文学の歴史、主な英米児童文学者とその作品(不思議の国のアリス、ピーターラビット、ピーターパンなど)について学び、その魅力を探る。
申 込: 渋谷学習センター(TEL 0462-67-2027)まで。6月8日(火)締切。
 
◎東京子ども図書館 T&T(Tea and Talk)「グリムの昔話をたのしむ」
お 話: 佐々梨代子(元東京子ども図書館常務理事)
場 所: 東京子ども図書館(〒165-0023 東京都中野区江原町1-19-10)
日 時: 平成11年6月4日(金)18:30-20:30
参加費: 一般 3,000円 賛助会員 2,000円(茶菓子付)
定 員: 40名(定員を超える場合は抽選)
内 容: 『子どもに語るグリムの昔話』(こぐま社)の訳者、佐々梨代子氏が語るグリムの世界。
申 込: 往復はがきに (1)希望する講演・講座名 (2)氏名 (3)住所(郵便番号も) (4)電話番号(昼の連絡先) (5)賛助会員か否かを記入の上、(財)東京子ども図書館まで。5月21日(金)締切。
参 考: http://www.litrans.net/maplestreet/tklib/
 
☆松戸市おはなしキャラバン「楽しいおはなし技術講座」
講 師: おはなしキャラバン事業部長
場 所: おはなしキャラバン事業所(〒270-0035 千葉県松戸市新松戸南2-2)
日 時: 平成11年6月12日(土)10:00-15:30
対 象: 保育・教育を専門としている人、おはなしに関心を持っている人
参加費: 無料
持ち物: 上履き、絵本(『おおきなかぶ』『どうぶつのおかあさん』『てぶくろ』(以上、福音館書店)『おしょうとこぞう』(ポプラ社)の中から1冊)
定 員: 30名(定員を超える場合は抽選)
内 容: 対話を取り入れたおはなしの方法、おはなし資材の生かし方、すばなしや絵本の語り方などを学ぶ。
申 込: 往復はがきに住所・氏名・年齢・職業(おはなし会のグループに所属している人は、団体名)・電話番号を記入の上、(財)松戸市おはなしキャラバンまで。6月4日(金)必着。(TEL 047-344-3037)

(中野伊都子/菊池由美)

 

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Chicocoの洋書奮闘記 第5回 よしいちよこ

―― 「こんなこともあるさ」 ――

 

 ひさびさの洋書奮闘記。じつは、3月1日に男の子を出産。そのためにお休みをいただいた。今月から、またよろしくね。

 

 今回の洋書奮闘記は、去年の7月、切迫流産で入院したころのおはなし。妊娠初期の微妙な時期で、ただただ安静にしていなければいけなかった。そこで、私は看護婦さんの目を盗んで"Catherine, Called Birdy"(Karen Cushman/1994年/Harper Trophy)を読みはじめた。205ページもある。200ページ級の洋書は、1冊めの"TOM'S MIDNIGHT GARDEN"以来で、ちょっと尻込み。しかし、これは雑誌『翻訳の世界』(バベル・プレス発行)が主催しているレジュメ勉強会の課題本。なんとしても応募したい。

 ところが、出てくる単語が知らないものばかり。中世という時代にはとんと馴染みがない。おまけに、これでレジュメを書かなくてはいけないと思うと、「きっちり理解しなくちゃ」とプレッシャーがかかる。内容は、主人公キャサリンが「毎日の生活が退屈だ」と不満を綴っている日記。こっちも退屈な入院生活。だめだ。気分が暗くなってきた。とうとう3分の1でギブアップ。

 りっぱな洋書読みになるぞという決意はどうした! まあ、こんなこともあるさ。つぎ、がんばろう。ポジティブ。ポジティブ。

 

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注目の本(邦訳)

―― 今なお癒えない魂の傷 ――

 

『あなたがもし奴隷だったら……』
ジュリアス・レスター文 ロッド・ブラウン絵
片岡しのぶ訳 1999.2発行 あすなろ書房 本体1,800円

"From Slave Ship to Freedom Road"
Penguin Putnam, Inc 1998 

『あなたがもし奴隷だったら……』表紙

 

 アフリカ西海岸からアメリカ大陸に運ばれた奴隷。突然、理由もわからぬまま連れ去られ、荷物のように船に積まれた。弱い者は死んで海に捨てられ、生き残った者は新世界で奴隷として売られていった。彼らそれぞれが、どんな人であったかは関係がない。彼らは労働力にすぎなかった。

 白人の主人は奴隷を虐待したり、「もの」のように売買したりした。奴隷たちはたびたび逃げだした。だが、大半はつかまり、連れ戻された。そして、ムチ打たれた。それでも、奴隷は逃げた。何度でも逃げた。恐怖から逃れるために。自由になるために。
 南北戦争がはじまったとき、黒人たちも北軍とともに南軍と戦った。奴隷制度に終止符を打とうと、その制度によってもっとも苦しんだ者が戦い、死んでいった。

 奴隷たちは自由になった! 自由! だが、自由とはどんなものか、解放された奴隷たちにはわからなかった。ようやく手にいれた自由をどう守っていくか、自由になった黒人たちは、(そしてすべての人間が、)今、なお学びつづけている。

 本書は、ロッド・ブラウンが7年かけて制作した、奴隷をテーマにした絵画36点のうち21点に、ジュリアス・レスターが文をつけた作品だ。痛いほどの迫力に満ちた各ページをめくるたびに、読者は息をのみ、胸をつまらせるだろう。絵が、文章が、黒人たちの魂に今なお生々しい傷を残す歴史上の事実を語り、訴える。作者は、黒人をムチ打つ白人の気持ちを想像してほしいという。奴隷制度が黒人たちをつらい目にあわせたことを理解するのはたやすい。だが、人間には、そういう邪悪な気持ちがあることも理解しなくてはならない、と。

 黒人奴隷制度は、すべての人間にとって、悲しく、恥ずべき過去である。その過去を記憶の底に沈めてしまってはいけないことを、あらためて考えさせられた。小さな子どもが理解するためには、おとなの助けが必要かもしれない。おとなにとっても、子どもにとっても、一度読んだら、忘れられない作品になるだろう。

(柳田利枝)


【文】Julius Lester (ジュリアス・レスター)
 1939年、米国ミズーリ州セントルイス生まれ。"To Be a Slave"(『奴隷とは』岩波新書)で、ニューベリー・オナー賞を受賞。児童文学の世界に、アフリカ系アメリカ人の歴史を伝える作品をはじめて持ち込んだ。公民権運動に積極的に関わる一方で、著書は詩、創作、ノンフィクション、自伝等、25冊以上に及ぶ。

【絵】Rod Brown(ロッド・ブラウン)
 1961年、アメリカ生まれ。「奴隷」をテーマに7年かけて36点の絵を制作。それらは、ニューヨーク市にある黒人文化研究のための図書館ションバーグセンター(The Schomburg Center for Research in Black Culture)と、ワシントンD.C.のフレデリック・ダグラス博物館で展示。現在、続編を制作中。

【訳】片岡しのぶ(かたおかしのぶ)
 和歌山県で生まれ、岩手県で育つ。国際基督教大学教養学部卒業。児童文学から、ミステリー、ノンフィクションまで訳書多数。夫とともに翻訳工房パディントン&コンパニィを主宰。著書に『翻訳家になりたい人へ』(中経出版)、『翻訳練習帳』(バベル・プレス)、最近の訳書に『ナゲキバト』、『種をまく人』(あすなろ書房)などがある。

 

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注目の本(未訳)

―― ストーリーテラーの技が光るスコットランドの児童書版ホラー ――

 

テレサ・ブレスリン作 『墓場からのささやき声』(仮題)

Theresa Breslin "Whispers in the Graveyard" 127pp.
Mammoth, 1994 ISBN 0-7497-2388-2

 

 激しい怒りの赤――ソロモンの毎日は、こんな色に例えることができた。酒を飲んで暴れる父。父とソロモンを置いて出ていってしまった母。落ちこぼれのソロモンを目の敵にする担任教師。そして、5年生にもなってまだ読み書きのできない自分。ソロモンには怒りの対象がたくさんあった。

 学校や家での生活が耐えられなくなると、ソロモンはいつも同じ場所に逃げ込んだ。そこは墓地の一画で、ナナカマドの木以外、生き物は虫1匹いないという不思議な場所。ところが、そのあたり一帯の墓がよそに移されることになり、ある日、ナナカマドの木が引き抜かれる。そのときから、ソロモンの避難場所は恐怖の場所に変わった。

 この作品の題名は『墓場からのささやき声』(仮題)。いかにも恐ろしげな題名だが、実際中身も恐ろしい。じわじわ迫りくる恐怖は、クライマックスで見事に炸裂する。舞台スコットランドの歴史を絶妙に絡め、緊張感を最後まで保って一気に読ませるあたりは、さすがカーネギー賞受賞作家である。

 構成は短い章立てになっているのだが、とにかく、章と章のつなぎが実にうまい。そんなところにも、ストーリーテラーの技が光る。主人公の一人称現在形で物語が進むという特殊な形態に最初は戸惑うかもしれないが、ここにも、慣れればその物語の世界により深く入り込むはずだという、作者のねらいが感じられる。

 ここで少し物語の背景を付け足しておこう。スコットランドでは邪悪なものを封印するためにナナカマドの木を植える風習があった。物語では、この木が引き抜かれた場所で、奇妙な声(whispers)が聞こえたり、人が消えたりと、恐ろしい出来事が積み重なっていく。また、スコットランドでは昔、天然痘で多数の死者が出たり、魔女狩りが行われたりしたことがあった。このことがクライマックスに登場する邪悪なものに関係してくるのである。

 ソロモンは果たして恐怖に立ち向かうことができるのか。自分の学習障害、教師や親との確執を乗り越えることができるのか。読みどころ満載の児童書版ホラーだ。

(田中亜希子)


Theresa Breslin(テレサ・ブレスリン)
 スコットランド、グラスゴー市隣接の小さな村に在住。児童文学作家であると同時に現役の図書館員でもある。1987年、処女作"Simon's Challenge"がスコットランドの優れた児童書に贈られるキャサリン・フィドラー賞を受賞。その後も多くの作品が各国で翻訳されたり、テレビやラジオでドラマ化されたりしている。本作品は1995年のカーネギー賞受賞作。他に、"Kezzie"などの人気作品がある。ただし、日本では翻訳出版された作品はまだない。

 

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世界の児童文学賞 第5回

―― ウィットブレッド児童文学賞 ――
The Whitbread Children's Book of the Year

〜総合レジャー企業がスポンサーとなり読書の楽しみを広める〜

 

【 概 要 】
 名 称 : ウィットブレッド児童文学賞
 対 象 : イギリス人作家による7歳以上の子ども向けの作品
 創 設 : 1971年
 選 考 : Booksellers Association of Great Britain and Ireland
 発 表 : 毎年1月
関連サイト: http://www.whitbread-bookawards.co.uk/
→2006年度よりコスタ賞に変更:2008年3月追記http://www.costabookawards.com/

 

 スポンサーは、大手総合レジャー企業であるホイットブレッド社。読書の楽しみを広めたいという意向で1971年に創設された。95年まではホイットブレッド文学賞の児童書部門(Children's Novel Category of the Whitbread Book of the Year)という位置付けだったが、96年に独立してホイットブレッド文学賞と並ぶひとつの賞となり、名称も現在のものに変更された。文学として質が高いことはもちろん、実際に多くの子どもたちに読まれている「おもしろい」作品に対して贈られる。読書感想文コンテストで優秀な成績を修めた十代の子ども2名が、副賞の一環として、候補作および受賞作を決める審査員に加わる。



■1998年度の受賞作(99年1月26日発表)
"Skellig" by David Almond (Signature)
 生まれたばかりの妹が重い病気にかかり、死に強い恐れを抱くようになった主人公マイケルと、家の物置小屋に住む謎の存在、半鳥半人"Skellig"との不思議な心の交流を描いた物語。作者のアーモンド初の児童書である本書は、99年度のガーディアン賞候補、および今年7月発表のカーネギー賞候補にもあげられている。


■過去の主な受賞作家
◎マイケル(マイクル)・モーパーゴ Michael Morpurgo
 95年"The Wreck of the Zanzibar"(『ザンジバルの贈り物』吉岡襄訳/BL出版)で受賞。気候の厳しい島で暮らす少女の成長が、美しい挿画とともに瑞々しい文体で語られる。自然と人間との関わりをユーモアをまじえて詩情豊かに描いた作品を得意とする。最近の邦訳に『星になったブルーノ』(原題"The Dancing Bear"/佐藤見果夢訳/評論社)がある。
◎ジェラルディン・マコーリアン Geraldine McCaughrean
 87年"Gold Dust"、94年"A Little Lower Than the Angels"で二度受賞。特に後者は、中世を舞台にしながらも、生き生きとした人物描写で人気の作品である。また、89年には"A Pack of Lies"(『不思議を売る男』金原瑞人訳/偕成社)でガーディアン、カーネギー両賞に輝いている。

(森 久里子)

 

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やまねこ翻訳クラブ(会員数137名)

 やまねこ翻訳クラブは、海外の子どもの本に関する情報交換、翻訳・シノプシス自主勉強会などを行っている児童書専門サークルです。翻訳と子どもの本に興味のある方でしたらどなたでも入会できますので、ぜひお気軽にご参加ください。

―― 99年5〜6月の主な活動 ――

◆海外児童文学賞受賞作読破マラソン
◆セーラー出版社長・小川悦子さんを招いて(座談会)
◆"Ella Enchanted" by Gail Carson Levine シノプシス勉強会


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●編集後記●

 本誌もお陰様で10号を迎えました。配信数も「まぐまぐ」のお陰で一気に倍増しています。これからも一層充実した内容をお届けできるよう頑張ります(み)


発 行: NIFTY SERVE 文芸翻訳フォーラム・やまねこ翻訳クラブ
発行人: 小野仙内(文芸翻訳フォーラム・マネージャー)
編集人: 宮坂宏美(やまねこ翻訳クラブ・スタッフ)
企 画: 河まこ キャトル くるり Chicoco どんぐり BUN ベス YUU りり ワラビ
協 力: ながさわくにお みるか きら SUGO こべに Blue Jay


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