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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集>コールデコット賞レビュー集(1950・1960年代)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

コールデコット賞(アメリカ) レビュー集
the Caldecott Medal 

(1950・1960年代 その2)
 

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最終更新日 2009/07/05 レビューを1点追加  

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コールデコット賞リスト(やまねこ資料室)   
コールデコット賞の概要

このレビュー集について  10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


(コールデコット賞 1950・1960年代 その1) "Why the Sun and the Moon live in the Sky"『たいようとつきはなぜそらにあるの』 * "May I Bring A Friend?"『ともだちつれてよろしいですか』 * "A Very Special House"『うちがいっけんあったとさ』 * "Frederick"『フレデリック』 * "Five Little Monkeys""Wheel on the Chimney"*  "Lion" *  "Drummer Hoff" *  "Always Room for One More" * "The Egg Tree"


(コールデコット賞 1950・1960年代 その2 本ページ)  "Sam, Bangs & Moonshine"『へんてこりんなサムとねこ』 *  "A Pocketful of Cricket"『ポケットのたからもの』 *  "Baboushka and The Three Kings" *  "The Emperor and the Kite" *  "Umbrella"『あまがさ』←追加 * 


1967年コールデコット賞受賞作品

"Sam, Bangs & Moonshine" (1966) by Evaline Ness エバリン・ネス
 『へんてこりんなサムとねこ』 猪熊葉子訳 佑学社 1981
その他の受賞歴 

(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 小さな島に住む漁師の娘のサムは作り話をするのが大好きです。もう亡くなっているのにお母さんは人魚なのと言ったり、ねこしかいないのに家にはライオンと赤ちゃんカンガルーがいると言ったり……。でもトーマスぼうやは、サムの言うことを何でも信じてしまいます。毎日サムの家に来て赤ちゃんカンガルーを見せてくれとせがみ、そのたびにサムはカンガルーは出かけているとの言ってでたらめな行き先を教えて、トーマスが探しに行くのを面白がっていました。ある日、赤ちゃんカンガルーは海辺の洞窟に行ったと教えたら、嵐がやってきました。

 サムはとても想像力豊かな子なのでしょう。母親がいない寂しさも手伝ってか、古ぼけた玄関マットをドラゴンに引かせた二輪戦車に見立てて、その上に寝そべって 空想の世界に遊んでいます。色々なことを空想してお話を作ること自体は悪いことではないし、むしろ想像力豊かな子どもは素晴らしいと思います。
 でもサムのはちょっとやり過ぎです。赤ちゃんカンガルーは「ふくろうに会いに一番高い木行った」とか「夜食用のとうもろこしを挽きに古い風車に行っている」とか言うので、幼いトーマスはかなり危険な場所へ一人で出かけて行ってしまいます。 高い木の枝に四つんばいになったトーマスの小さな姿には、ハラハラさせられます。サムの父親も「作り話をするな。とんでもないことが起きてしまうぞ」とサムに言い聞かせました。それなのに赤ちゃんカンガルーは人魚に会いに海辺の洞窟に行っていると、トーマスに言ってしまうのです。ねこのバングズが、その洞窟は満ち潮になったら帰って来れなくなると注意してくれたのに、いつものように玄関マットの上で空想に耽って気にもとめません。そしてとうとう、恐ろしいことが起きてしまいます。
 とはいっても、この作品は決して、作り話が全部悪いと戒める話ではありません。作り話を楽しむことと嘘をつくことの区別を子どもに教えようとしているのす。40年以上前に書かれた作品でもあり、少々道徳臭いきらいはありますが、適度にスリルも盛り込まれていてストーリー自体は今でも楽しめると思います。ただ絵が……。ねこはとても良く描けているのですが、人物の描き方が独特で、ことにトーマスはかわいい男の子のはずですが、絵を見るとちょっと不気味。最後のページなど、子どもたちは怖がるのではないでしょうか?

(吉崎泰世) 2008年9月公開

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1965年コールデコット賞 オナーブック

"A Pocketful of Cricket"(1964) Rebecca Caudill レベッカ・コーディル文 Evaline Ness エバリン・ネス絵
『ポケットのたからもの』 三木卓訳 あかね書房 1977 / リブリオ出版 2000 (復刊)
その他の受賞歴 

 ジェイは6歳。谷間の農家に、お父さんとお母さんと三人で住んでいます。ある8月の終わりの夕方、ジェイはいつものように牧場に出かけました。ウシを連れて帰るのが、ジェイの仕事なのです。牧場に行くまでに、ヒッコリーの実、小石や豆などを拾ってポケットに入れ、ウシを連れて変える途中には、コオロギを1匹見つけてポケットに入れました。ジェイは、そのコオロギを家に連れて帰って飼うことにしま す。でも、あと5日たったらジェイは1年生。毎日学校に通うことになるのです。ジェイはコオロギをどうするのでしょうか。

 作者コーディルの生まれたアパラチア地方(ケンタッキー州ハーラン郡)が舞台の初級向け読み物。ジェイの家のまわりは、丘また丘。シモツケソウ、クモ、チョウ、ヒッコリーの木の実、ザリガニ、ハヤ、トカゲ、カブトムシ、セミ、フクロウ、けむし、トウモロコシ、マメ、矢尻、リンゴの木、家から牧場に行くまでに、こんなに自然のものが出てきます。ジェイは、ひとつひとつ丁寧に観察したり、食べたり、手にとってポケットに入れたり。子どもの姿がそのまま描かれていているところに、好感がもてました。
 エバリン・ネスは、茶、緑、黒、赤、灰色といった落ち着いた配色の静かな絵を添えています。手のひらでコオロギを包みこんで中をのぞいている姿、ベッドの上にねころんでコオロギが鳴くのを聞いている姿など、なにげないしぐさから、子どもの気持ちが伝わってきます。63ページのお話の中に、絵が多めに配されているのもうれしい限り。
 お話のさいごには、学校の初日が描かれています。困った立場に立たされるジェイですが、でも大丈夫。これからの楽しい学校生活を予感することができました。もう40年以上も前のお話ですが、子どもの好奇心や気持ちは、今とあまり変わらないなと思いました。

(植村わらび) 2008年10月公開

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1961年コールデコット賞受賞作

"Baboushka and The Three Kings" (1960) Ruth Robbins ルース・ロビンス 文 Nicolas Sidjakov 絵 (未訳絵本) 追加

その他の受賞歴


 昔々、風の吹きすさぶ寒い冬、貧しいけれど小さな小屋に住むバブーシュカは、毎日きちんと家の中を居心地良く整えていた。ある雪の降る夜、先触れのラッパがひびき、それはそれは華やかな隊列がやってきた。美しい三頭の白い馬が引くりっぱなそりには、ひげをたくわえた威厳のある三人の王が乗っていた。そりが小屋の前までくると、三人の王は、赤ちゃんの誕生を祝って、贈り物を届けにいこうとバブーシュカを誘った。年をとった老婆であるバブーシュカは、こんな寒い夜に旅を続けるよりも、この小屋で一晩休み、明日の朝でかけるように言った。けれども、それではお祝いに間に合わないと行列はいってしまう。
 次の日、まだ日も昇らぬうちに、バブーシュカも心ばかりの贈り物をたずさえ、行列のあとを追いかけたのだった。野を越え山を越え、あちこちであのきらびやかな行列の話をしながら村々を尋ね歩いた。

 黒のフェルトペンで描き、彩色を抑えたイラストは、まるで木版画のような素朴な味わいがある。最後のページにはバブーシュカの歌が楽譜つきで掲載されている。現在のロシアでも、サンタよりこのバブーシュカがやってくるのを、子どもたちは心待ちにして、この歌を歌うのだろうか? ニコラス・シドジャコフは1924年ロシアのラトビアで生まれ、パリでアートの勉強をし、1954年には家族を連れて合衆国へわたった。1950年から子どもの本にもイラストを書き始めたそうだ。このお話はロシアの古い言い伝えに基づいている。ロシア人としての面目躍如といったところか。

(尾被ほっぽ) 2008年12月公開

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1968年コールデコット賞 オナーブック

"The Emperor and the Kite"(1967) Jane Yolen ジェーン・ヨーレン文 Ed Young エド・ヤング絵 (未訳絵本) 追加

その他の受賞歴


『おうじょさまのたこ』(仮題)

 むかしむかし、中国の皇帝にはたくさんの子どもたちがいた。一番末の皇女は、あまりに小さいので、皇帝をはじめ誰にも気にかけてもらえない。いつも一人さびしく凧あげをする日々を送っていた。そんなある日のこと、悪者たちが謀反を企て、皇帝は高い塔に幽閉されてしまう。悪者たちに気づかれず、一部始終を目撃していたのは、一番末の皇女だった。皇帝を助けるために、皇女はあることを思いつく。

 中国に伝わる昔話の再話かと思われるほど、古代中国の雰囲気に満ちた物語である。伝統的な昔話に則ったプロットは、驚きこそないものの、読んでいて安心できる。そして何よりも、エド・ヤングによる絵が美しい。昔話風の物語にぴったり合った、中国らしさを感じさせる絵だ。切り絵風の繊細で複雑なラインと、美しい色のグラデーション。どことなく懐かしい香りのする絵本である。

(佐藤淑子) 2008年12月公開

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1959年コールデコット賞 オナーブック

"Umbrella"(1958) by Taro Yashima 八島太郎 追加
『あまがさ』 福音館書店 1963

その他の受賞歴


(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 ニューヨーク生まれのモモは、3歳の誕生日に二つのプレゼントを貰った。雨ぐつと傘だ。早く傘をさして、雨ぐつをはいて歩きたい。でも梅雨のないニューヨークでは、雨はなかなか降ってくれなかった。
 待ちに待った雨の日。モモは、いそいそとゴム長をはき、傘をさして出かけた。雨の中をうきうきと歩く。あたり一面で、雨粒がはねる。踊る。雨は雨傘にあたり、楽しいにぎやかな音楽も奏でてくれた。モモはうれしくてたまらない。大人の女の人のように、まっすぐ背を伸ばして歩いた。

 代表作ともいえる『からすたろう』に比べて、女の子の主人公がかわいらしい絵本だ。八島の娘さんをモデルにして描かれたということだ。まるで模様の一部のように添えられた漢字一文字「春」「夏」「雨」にも柔らかい雰囲気が漂う。雨を心待ちにする少女の気持ちと、高揚感が伝わってくる。最後のページには、成長した少女の姿も描かれ、清々しい美しさが印象的だ。
 あまりにも有名な八島太郎。1939年に渡米して、ほとんどアメリカで活躍していたためか、日本で取り上げられることが少ない気がする。今年(2009年)故郷鹿児島で、展示会が開かれたそうだ。もっと多くの人に知ってもらえる機会が増えると良いと思う。

(尾被ほっぽ) 2009年7月公開

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