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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集>コールデコット賞レビュー集(1930・1940年代)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

コールデコット賞(アメリカ) レビュー集
the Caldecott Medal 

(1930・1940年代)
 

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最終更新日 2009/10/05 レビュー1点追加

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コールデコット賞リスト(やまねこ資料室)   
コールデコット賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていな作品については原作を参照して書かれています。


"The Big Snow" "My Mother is the Most Beautiful Woman in the World" "Andy and the Lion" "Juanita" "Wee Gillis" "They were Strong and Good" "The Boats on the River" "In My Mother's House" "Many Moons"←追加


1949年コールデコット賞受賞作

"The Big Snow" (1948) by Berta & Elmer Hader (未訳) その他の受賞歴 

『冬 雪ふりつもる』(仮題)

 冬が来る。渡り鳥が南に進路をとり、それを見上げる野うさぎやリスや、地上に住む者たちは冬仕度を始める。冬眠に備えてたくさん食べたり、冬ごもりするための穴を探したり、巣穴にたくさん食料を蓄えたり、はたまた、そんなこととは関係なく日々を送るカラスや、キジ。厚い毛皮を着込む鹿たち。しだいに日は短くなり、クリスマスが過ぎ、ある夜、月の周囲に虹がかかると、ふくろうがその時を告げる。雪だ。美しい雪の結晶がまるで花びらのように地上に舞い降り始めた。

 冬を迎える動物たちの様子が、とても美しい森を背景に語られる。それぞれが森に生きる住人の一人としてつながっているように感じるのは、真っ白で真綿のような雪に包まれていくせいだろうか。動物だけの紹介で終わらない。人間も末席に登場し、一つの役割を割り当てられる。仲間外れにされなくてほっとした。どうやら彼らこそ作者夫妻らしい。実際に作者夫婦も森に住み、動物たちと親しく生活していたらしい。夫妻の動物に寄せる温かな眼差しと、優しい心配りが伝わってくる絵本だ。

(尾被ほっぽ) 2008年3月公開

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1946年コールデコット賞オナーブック

"My Mother is the Most Beautiful Woman in the World"(1945)
 by Ruth Gannett ルース・ガネット text by Becky Reyher ベッキー・ライアー
『わたしのおかあさんは世界一びじん』 光吉郁子訳 大日本図書 1985
その他の受賞歴 

 ロシア、ウクライナ。夏の最後の取り入れの日、6歳のワーリャは、お父さんとお母さんのお手伝いをするために小麦畑に出かけました。明日は待ちに待ったお祭り。みんなが村の広場に集まって、歌って踊る日です。お祭りが待ち遠しいワーリャには、1日がとても長く感じられました。そのうえ、暑いことときたらたまりません! 疲れてしまったワーリャは、小麦の列の間ですやすやと眠ってしまいました。目がさめてあたりを見わたすと、刈り入れをしていたお父さんとお母さんの姿が見当たりません。さて、どうやって見つけましょう!? ワーリャのお母さんの特徴は?

 この作品は、作者ベッキー・ライアー(アメリカ生まれ)のロシア人の母親が聞かせてくれたお話がもとになっているそうです。ウクライナが舞台になっているものの、お話自体はとても素朴で、世界のどこでも通じるでしょう。1945年にアメリカで出版されたものが、40年後の1985年に日本で紹介され、そして今でも(刈り入れの経験のある子どもは少ないだろうけれど)十分楽しめる作品です。うちの1年生の息子も、たどたどしいながらも 最初から最後まで通して読んで聞かせてくれました。
 絵を描いたルース・ガネットは、この翌年には『ミス・ヒッコリーと森のなかまたち』(キャロリン・シャーウィン・ベイリー作、1947年ニューベリー賞)に、その2年後には『エルマーのぼうけん』(ルース・スタイルス・ガネット、1949年ニューベリー賞オナーブック)に挿絵を描いています。本作品の点描画法を用いたような絵は、「エルマー」の絵とは少し印象が違いますが、カラフルな点は同じ。エルマーよりも短いお話に、絵がたっぷりと使われていて、広場のお祭りの場面や最後の母娘の民族衣装の場面は特に見ごたえがあります。

(植村わらび) 2008年3月公開

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1939年コールデコット賞オナーブック

"Andy and the Lion" by James Daugherty ジェームズ・ドハーティ
『アンディとライオン』 村岡花子訳 福音館書店 1961
その他の受賞歴 

 ある晴れた日、アンディは図書館でライオンの本を手に入れた。夕食のときも読みつづけ、ベッドに入るまで夢中になって読んだ。そんなわけで、夢の中でもアンディはライオン狩りに大活躍だった。ところが次の日、いつものように学校へ出かけた彼は、道の曲がり角でどう見たってライオンのしっぽにしか見えない物を目にする。はて?なんとそれは正真正銘のライオンだったのだ。アンディもライオンも驚いたの何の。ライオンは足に大きなとげが刺さっていて、大きな涙をポロポロ。気の毒に思ったアンディは恐る恐るながらも、そのとげを抜いてやることになった。しかしまあ、どうしてこんな所にライオンがいるのだろう?

 とても古い本だが、色あせてないコミカルで生き生きとした絵が楽しい。毎日を元気いっぱいご機嫌に生きているって感じのアンディ君。彼が遭遇した非日常事件は意外な展開を招いていく。小気味よいテンポでどんどんお話の世界に招き入れられていく。「こんなことある訳ない」と思いつつ、「あるといいな」と思ってしまう爽快さがいい。
 本もやはり時代とともにあると思う。このあっけらかんとした明るさは、古き良きアメリカ、アメリカがまだ自信にあふれていた時代を思わせる。

(尾被ほっぽ) 2008年3月公開

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1949年コールデコット賞オナーブック

"Juanita" (1948) by Leo Politi レオ・ポリティ (未訳) その他の受賞歴 

『フアニータ』(仮題)

 ロサンジェルスのオリバー通りには、露店がたくさん並んでいる。その一つ「フアニータ」は、フアニータの両親が営む店だ。フアニータはもうじき4歳になる。お誕生日に、お父さんは故郷メキシコに伝わる誕生日の歌を、ギターをひきながら歌ってくれた。お母さんは晴れ着に、ピンクのドレスを作ってくれた。誕生日プレゼントは、白いハトだった。白いハトとフアニータは、とても仲のよい友だちになった。
 春真っ盛り、イースターの前日は“The Blessing of the Animals”の日だ。フアニータは晴れ着を着て、白いハトにはきれいな緑のリボンをかけてやり、一緒にパレードに参加した。

 メキシコからやってきた人々の生活が、信心深い人々の、春の行事“The Blessing of the Animals”を交えて語られる。明るい色彩で飾られた絵本には、両親がフアニータによせる深い愛情と、明日への希望が輝いている。誕生日の歌、パレードの曲、子守唄と3曲が楽譜つきで掲載され興味深い。どんな曲か確かめてみる時間がなくて、残念だ。オリバー通りは、現在もロサンジェルスに実在し、1930年代にできた最も古いメキシカンマーケットの一つだそうだ。
 同じ作家の“Songs of the Swallows”は、1950年にコールデコット賞を受賞し、石井桃子訳で『ツバメの歌』として、邦訳が出版されている。この本は邦訳されていないが、同じような雰囲気のカラフルなやさしい色使いで、素朴な人々の描写が生きている。貧しくとも実直に明日を信じて生きる。このシンプルで迷いのない日々の生活に、堅実な時間の厚みを感じる。物はなくとも、溢れるほどの幸せが、どの頁にも満ちている。

(尾被ほっぽ) 2008年4月公開

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1939年コールデコット賞オナーブック

"Wee Gillis" (1938) by Munro Leaf マンロー・リーフ文/Robert Lawson ロバート・ローソン (未訳) その他の受賞歴 

『ウィー・ギリス』(仮題)

  ウィー・ギリスはスコットランドに住む少年。本当の名前はとても長いので、みんな彼をウィー・ギリスと呼ぶ。さて、彼の母方の親族は低地地方に住み、父方は高地地方に住み、お互いに相手の暮らしぶりを、小ばかにしている。ウィー・ギリスはまず、低地地方に行き、母方の親族と暮らした。慣れない牛の放牧をやり、霧の中で牛を集め損ねたとき、親族一同がそろって「彼の声は小さい」とぼやいた。ウィーは、毎日、大きな声を出す練習をして、肺がとても強くなった。
 次に、高地地方で父方の親族と暮らした。鹿を捕まえるために、岩になったつもりで、何時間も静かに潜んでいるのだ。それに失敗したとき、父方の親族一同、肩をすくめ「じっと息を止めておくことを学ぶべきだ」と言った。ウィーは、くる日もくる日も練習を重ね、さらにさらに肺は強くなった。
 いよいよどちらの地方に住むのか、決断の時がきた。それぞれの地方からおじがやってきた。少しも相手を認めず、激しい口論の声が、村じゅう、谷じゅうに響く。と、かたわらにしょんぼりと座っている男がいた。彼は、世にも大きなバグパイプを持っている。彼に理由をたずねると……。

 ロバート・ローソンによるイラストが楽しい! タータンチェックのキルトに身を包んだウィー・ギリスと、親族たちの表情が、とても豊かで生き生きとしている。何度も版が重ねられ、新たに別の出版社から2005年にも再版されているので、アメリカでは人気のある絵本なのだろう。どうして今だ、邦訳がないのか不思議だ。絵が白黒だから? 劇画タッチでいい味が出てる気もするけど……。親戚たちの頑強さ、偏屈さには、時代や場所を越えたユーモアを感じる。それにもめげずに、いや、むしろそのお陰で、ウィーが手に入れる思いがけない能力! それが彼の将来を決めてしまう、という皮肉に満ちた結末も大いに笑える!

(尾被ほっぽ) 2008年4月公開

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1941年コールデコット賞オナーブック

"They were Strong and Good" (1940) by Robert Lawson ロバート・ローソン (未訳) その他の受賞歴 

 新しい国アメリカ。今はそこに住む「私」が、祖父母、両親のことを語る。
 母方の祖父は、船の船長だった。ニューヨークから船出し、カリブ諸島を巡り、珍しい物を仕入れていた。母方の祖母は、オランダからの移民で、ニュージャージーに住む農家だった。ある日、二人は町の市で出会う。二人は結婚し、母が生まれた。
 父方の祖父は、アラバマに住む英国人だった。宣教師として、各地を巡る。父方の祖母は、熱弁をふるう祖父の姿に魅了され、結婚し、父が生まれた。
 南北戦争を始め、歴史を振り返り、アメリカ各地が登場する。今、現在あるような形へと、発展してきた一家族の物語だ。

 最近、再出版されたものには書き直された個所がいくつかあり、人種偏見的な要素に配慮されている。そんなことを差し引いても、一人ずつ語られる家族の歴史は圧巻だ。ロバート・ローソンお得意のユーモアもたっぷりあり、悲惨な場面も雄々しく、逞しく、笑いさえ誘う。語り手の前書きでの言葉「有名でもなく、偉大でもなかったが、だれもが強く正しく生きた。合衆国が今あるような素晴らしい国へと、形作られる礎となった。彼らを誇りに思い、彼らの残した遺産を守っていこう」
 祖先を誇りに思い、それを率直に語れることこそ、素晴らしいと思う。

(尾被ほっぽ) 2008年4月公開

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1947年コールデコット賞オナーブック

"The Boats on the River" (1946) by Jay Hyde Barnum, text by Marjorie Flack マージョリー・フラック(未訳) その他の受賞歴 

 川は山から流れ出て、海にそそぐ。川を行き交う船が、思わず歌いたくなるような、韻を踏んだくり返しの言葉にのせて、気持ちよく、まるで川の流れのように、次から次へと紹介されていく。フェリーボートから始まって、タグボートなどの小さい船や、オーシャンライナーなどの豪華で大きな船までも、いそがしく川を行き来する。絵で姿形を知り、文でその働きを知る。口ずさんで楽しく読める、川を行く船を紹介した絵本。

 ヨットや手こぎボートに、大きな豪華客船、潜水艦、果ては軍艦まで、登場させてしまうところは、さすがアメリカ! 最後のおちがふるっていて、軍艦から上陸してきた水兵たちが、足取り軽く町中を見学して回る。それじゃ、町にやってきた船たちも市中を見学? となる。アメリカが自信にあふれていた時代、屈託のない陽気さと、明るさ(今となっては貴重かも)が画面にあふれている一冊。

(尾被ほっぽ) 2008年5月公開

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1942年コールデコット賞オナーブック

"In My Mother's House" (1941) by Velino Herrera, text by Ann Nolan Clark アン・ノーラン・クラーク (未訳) その他の受賞歴 

 全編29の詩からなる。土と水と自然とともに生きるネイティブアメリカンの暮らしが、その象形文字のような図案もまじえて紹介されている。まず家の作り方、そして家の中で、あるいは外で行われる仕事、広場の意味、人々の暮らしぶり、畑で育てる作物、耕作のこと、放牧のこと、一年を通じた暮らし、周辺に住む野生動物にいたるまで、事細かに素晴らしい詩で表現されている。

 一見とても地味な装丁で、内容も派手さはなく、一つ一つがとてもていねいに書かれている。しかし、ここにある自然や暮らしが失われつつある今となっては、とても貴重な絵本だ。近代化の流れのなかでは、自分たちの独自性を守り通すのは大変難しいことだ。同じ民族に置いてですら、それは抗いがたいことだから、民族が違えば、より困難が伴うことだろう。先祖伝来の文化が意味してきたことと、それを体現する暮らしを守っていくのは並大抵ではないだろうと思う。それが今も守られていることを願いたい。

(尾被ほっぽ) 2008年5月公開

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1944年コールデコット賞 受賞作品

"Many Moons" (1943) by Louis Slobodkin ルイス・スロボトキン, text by James Thurber ジェームズ・サーバー 追加
『たくさんのお月さま』 中川千尋訳 徳間書店 1994年
その他の受賞歴 

(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 昔々、海の側にある王国にレノアという小さなお姫さまが住んでいました。ある日、姫は食べすぎで寝こんでしまいます。ところが姫は「もしお月さまを手に入れることができたら、元気になるわ」というのでした。父王は王国一の家来や、魔法使いや数学者をよび、月を手に入れよといいます。けれども賢者たちは、月はとても遠い空の上にあり、途方もなく大きいので無理だというばかり。王様はたいへんがっかりして宮廷つきの道化師にぼやきます。と、彼は「姫さまは月がどのくらいの大きさだと思っているのでしょう」と言うのでした。

 月はほんとに大きいし、遠いし、いったいどんな結末が待っているのだろうと、父王でなくても気がかりになりました。小さな姫は実に子どもらしい、明快さと、素直さで、ものの見事に解決してしまうのだけれども。
 家来たちがこれまで王様のために手に入れたという品々は、高価で贅沢で、不思議なおもしろい物ばかりで、その数と豪華さにびっくりです。王様のお願いも突拍子もないけど、それを全部かなえて差し上げるほうもすごい。そんな賢い方々を差し置いて決着をつけるのが道化師というのも笑えます。さらに姫の回答を聞くと、子どもの頃を思い出してしまいました。そういえば小さなころはそんなふうに思っていましたっけ。いつのまに名実ともに年を重ねていたのでしょうか。姫の答えに予想もつかずがっかりです。
 下絵にパステルで彩色したような淡いトーンは、この物語の持つかわいらしくて、ロマンチックな雰囲気にぴったり。とてもお茶目で愛らしくて、ほんとは元気いっぱいなレノア姫のすばらしい答えを楽しんでください。

(尾被ほっぽ) 2009年10月公開

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