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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集>コールデコット賞レビュー集(1970・1980年代)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

コールデコット賞(アメリカ) レビュー集
the Caldecott Medal 

(1970・1980年代)
 

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最終更新日 2009/10/05 その2のページにレビューを1本追加

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コールデコット賞リスト(やまねこ資料室) 
コールデコット賞の概要

このレビュー集について 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。

 


(コールデコット賞 1970・1980年代 その1) "Owl Moon"『月夜のみみずく』 * "The Relative Came" * "When I was Young in the Mountains" * "Anansi the Spider"『アナンシと6ぴきのむすこ』 * "One Fine Day"『きょうはよいてんき』 * "A Story A Story"『おはなし おはなし』 * "The Funny Little Woman"『だんごをなくしたおばあさん』 * "Hey, AL" * "Why Mosquitoes Buzz in People's Ears"『どうしてカはみみのそばでぶんぶんいうの?』 * "The Gray Lady and the Strawberry Snatcher"


(コールデコット賞 1970・1980年代 その2)  "A Visit to William Blake's Inn"(リンク) * "It Could Always Be Worse"『ありがたいこってす!』 * "Duffy and the Devil"『ダフィと子鬼』 * "On Market Street"『ABCのおかいもの』 * "The Boy of the Three-Year Nap"『さんねんねたろう』 追加


1988年コールデコット賞受賞作

"Owl Moon" (1987) by John Schoenherr ジョン・ショーエンヘール
 text by Jane Yolen ジェーン・ヨーレン
『月夜のみみずく』 くどうなおこ訳 偕成社 1989
その他の受賞歴 
 1990年Florida State Reading Award〈アメリカ〉候補
 1991年North Dakota Flickertail Award〈アメリカ〉候補


 兄さんたちから話を聞かされて、首を長くして待っていた日がとうとうやって来た。冬の夜ふけ、家族のみんなが寝静まるころ、 父さんにくっついてみみずく探しにでかけた女の子。凍りつくような冷たい空気をものともせずに、息をひそめ、りりしく歩を進めていく。見なれぬ夜の森の姿に目をみはりながら胸を高鳴らせる少女の前に、はたしてみみずくは姿を現してくれるだろうか。

 五感に訴える詩的な文章と、映画のロングショットを思わせる絵のコンビネーションがみごとだ。静寂のなか、月あかりに照らしだされた神秘の世界へ読者をいざなう。詩人・児童文学作家でもある訳者・工藤直子氏の日本語は、生き生きとした躍動感にあふれ、朗読や読み聞かせにふさわしい。
 今日まで、日本語のほかフランス語・ドイツ語・中国語・韓国語など9か国語に翻訳されている。大自然への畏敬の念が根底に流れる不朽の名作といえるだろう。
 今宵、あなたも大切なだれかと連れだって、みみずく探しに出かけてみては?

(雲野雨希) 2008年3月公開

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1986年コールデコット賞オナーブック

"The Relative Came" (1985) by Stephen Gammell, text by Cynthia Rylant(シンシア・ライラント) (未訳絵本) その他の受賞歴 


 夏、親戚が大勢やってくる。年に1度、虹色のワゴンに乗って、バージニア州からやってくる。朝4時に出発して、山を越えて、山をぬってやってくる。やっとこさ着いたなら、大騒ぎが始まる。抱きあって、泣いて、また抱きあって、しゃべって、食べて、しゃべって、食べて、それからやっと、静かなおしゃべりタイムに……。夜はみんなでざこ寝。さて、これから数週間、何をして過ごそうか?

 作者ライラントの "When I was Young in the Mountains"(1982) と同じく、アパラチアの山奥が舞台。でも "When 〜"と違って、本作はとてもにぎやか。少なめの文章には、繰り返しや強調、ちょっと大げさな表現も使われていて、「親族の集合」という年中行事の楽しさが伝わってくる。
 文中には、I も You も固有名詞も出てこない。たずねてくる側の The Relative = They と、迎える側の We だけ。絵の方も、見開きページに一番多くて18人もの人が描かれているのだけれど、誰が誰だかはっきりしないし、特にだれかひとりがクローズアップされるわけでもない。みんな親戚、それで良し、というところか。不思議な距離感だ。
 絵を描いているのは、Stephen Gammell(1943- )。あるページでは車がはねて郵便受けが倒れ、次のページではぶらんこが揺れ、他にも、水たまりの水がはねたり、食べ物がぽろぽろこぼれたり……ストーリーと関係のないところに遊び心がいっぱいつまっている。人間の描き方は個性的すぎるぐらいで、日本向けではないかも。でも、表情はすこぶる豊かだ。Gammell は1988年に"Song and Dance Man" でコールデコット賞を受賞しているが、日本ではまだ紹介されていない。

(植村わらび) 2008年3月公開

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1983年コールデコット賞オナーブック

"When I was Young in the Mountains" (1982) by Diane Goode ダイアン・グッド text by Cynthia Rylant(シンシア・ライラント) (未訳絵本) その他の受賞歴 


「わたし」が子どもの頃に過ごした、山奥の祖父母の家での暮らしを描いた絵本。
 炭鉱で働くおじいちゃん、コーン・ブレッドやインゲンマメやオクラの料理を出してくれるおばあちゃん。大きなストーブのある台所、屋外のトイレ、井戸からくんできた水を沸かして大きなたらいで入るお風呂など、家での生活の様子。老夫婦の営む雑貨屋、教会、池での洗礼式、移動写真屋など、家のまわりの生活の様子。そして、印象に残る夜のポーチでの静かなひととき。ページをめくるごとに、ささやかであたたかい山奥の暮らしが広がる。

 簡潔で詩的な文章からは、祖父母からの愛、祖父母への愛、そして山奥での生活への満ち足りた思いが静かに伝わってくる。絵本の最後にも、こう書かれている――わたしは、海にも、砂漠にも、世界のどこにも行きたいとは思わなかった。わたしは山の中にいて、それでじゅうぶんだった、と。
 作者ライラント(1954- )は4歳からの4年間を、ウェストバージニア州の山中にある母方の祖父母の家で暮らした。そうなったいきさつはもちろん絵本には出てこないけれども、両親が離婚し、母親が手に職をつけるために、娘を祖父母の元に預けた、という事情があった。その4年間の暮らしを思い出して書かれたこの絵本には、「わたし」=ライラントの気持ちがそのまま表れているのだろう。これまでに多くの作品を発表してきた作者の記念すべきデビュー作である。
 ダイアン・グッドの絵は、落ち着いていて、細部まで丁寧に描かれており、美しい。ちょっとクセのある顔も、作品として見るとよくまとまっているなと思う。ただ、奥行きに欠けるような、例えばもう少しにおいまでも描いてほしいような、そんな物足りなさも正直感じられる。ノスタルジーにひたるには、ぴったりなんだけどな。

(植村わらび) 2008年3月公開

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 1973年コールデコット賞オナーブック

"Anansi the Spider"(1972) by Gerald McDermott ジェラルド・マクダーモット
『アナンシと6ぴきのむすこ』 しろたのぼる訳 ほるぷ出版 1980
その他の受賞歴

(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 クモのアナンシは旅にでた。魚に飲み込まれたり、ハヤブサにおそわれたり、旅は困難続き。けれども6ぴきの息子たちが、それぞれの能力を生かしてアナンシを助けてくれた。アナンシは自分の命をすくってくれた息子たちに、素敵なご褒美を思いつく。ところが困ったことに、そのご褒美はたったひとつしかない。そこでアナンシは、万物の神ニヤメの力を借りることにした。

 まず、幾何学的な模様を思わせる絵と、鮮やかな色彩の取り合わせに惹きつけられた。ピンクに水色、赤に緑。そこに力強い黒の線で描かれる、クモや魚や鳥。大胆な色と構図がとても新鮮だ。この本はガーナのアシャンティ族に伝わる民話の、マクダーモットによる再話である。初めにアフリカ大陸のなかのガーナの位置が示してあり、プロローグでこの民話についての説明がある。子供たちはガーナという国に興味を持つのではないだろうか。世界にはたくさんの民話があるが、こういった形で外国に紹介されるのは、すばらしいことだと思う。マクダーモットは他にも同様に、民話を題材にした絵本を出しているとのことである。

(佐藤淑子) 2008年2月公開


(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 クモのアナンシには6匹の息子がいた。息子たちは、それぞれ得意な力を持っている。ある日、遠い国に旅に出たアナンシは、道に迷い、窮地に陥ってしまう。それに気づいた息子たちは、それぞれの力を生かして、アナンシを助け出し、一家は無事、家に帰る。その夜アナンシは、森で美しく光り輝く丸いものを見つける。そしてそれを、命を助けてくれた息子にあげたいと考えたが……。

 アフリカ、ガーナのお話。ガーナに住むアシャンティの人々にとって、「アナンシ」といえばクモだ。この絵本は、そんなアナンシの伝承のひとつをアニメーション・フィルムにしたものが元になっている。鮮やかな地色に、淡く描かれた民族的な幾何学模様。その上に切り絵か影絵のようにくっきりとした、クモや動物が象徴的に配置されて、グラフィック的にも質の高い作品だと思う。どこからかアフリカの太鼓の音が聞こえてきそうだ。

(大塚道子) 2008年3月公開


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 1972年コールデコット賞オナーブック

"One Fine Day"(1971) by Nonny Hogrogian ノニー・ホグローギアン
『きょうはよいてんき』 芦野あき訳 ほるぷ出版 1976年
その他の受賞歴

(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 重そうなミルクポットを抱えたおばあさんが森を行く。その後ろにちらりと見えるのはキツネ。とても天気の良い日、ちょっとそこらを一回りと思い立ったキツネですが、少々のどが渇いておりました。そこで先ほどのおばあさんが、森で薪を集めている間に、彼女のミルクをちょっくら失敬。それに気がついたおばあさん、キツネのしっぽをガッシリとつかむが速いか、ばっさりとナイフで切ってしまった!!!
 おばあさんは、哀れなキツネがシッポを返してと懇願するので、「ミルクを元通りにするなら」と約束します。そこでキツネは牛にミルクをもらいにいきます。ところが牛は「草をくれるなら」といいます。そこで草を取りに行くと、草は「水をくれるなら」といいます。そこで水を汲みにいくと……。どこへ言ってもみんな「その代わり」を望みます。キツネのしっぽはどうなるのでしょう?

 なんだか、キツネがかわいそう。しっぽのないキツネなんて、ちっともカッコよくないし、キツネらしくありません。そのカッコ悪いキツネがトボトボと困った顔をして歩いていくページが何ページも続きます。ついついお気の毒にもなろうというもの。ルンルンでお散歩に出かけたご機嫌な表情は微塵もありません。どうして水を飲んでから、出かけなかったの? と言ってやりたくなりました。ミルクを全部飲んじゃったのは確かに悪いけど、みんな優しくないな。ちょっとぐらい、分けてあげてもいいだろうに。

(尾被ほっぽ) 2008年3月公開

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 1971年コールデコット賞受賞作

"A Story A Story" (1970) by Gall E.Haley ゲイル・ヘイリー
『おはなし おはなし』 八木田宜子訳 ほるぷ出版 1976年
その他の受賞歴 
 1970年ボストングローブ・ホーンブック賞絵本部門オナーブック

(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 アフリカ民話でクモ男として知られるクワク・アナンセが語るお話はいったいどこからきたのでしょう。昔々、すべての物語は天の神であるニヤメのものでした。そこでアナンセは空に向かってクモの糸でできたはしごをかけ、神様から物語を買うために空へ登っていきました。しかし神様はそれはそれは難しい品を三つあげ、これらを持ってくれば、物語をわたそうというのでした。恐ろしい牙をもつヒョウのオセボ、燃えさかる炎のような針をもつクマンバチのムンボロ、そして人間には決して見えない妖精モアチア。神様は、年を取り弱々しくみえるアナンセには持ってこれはしまいと言うのですが……。

 "We do not really mean, we do not really mean that what we are about to say is true. A Story, a story; let it come, let it go." 
 アフリカの物語の語り手は、このステキな言葉で物語を始めるのだそうです。こんな言葉で物語の世界の扉が開くと不思議な世界へ一足飛びできそうです。
 クワク・アナンセが三つのものを手に入れるために、繰り出す知恵の数々は面白くて、まるで一休さんか、彦一さん。ヒョウとクマンバチの場合は、「へ〜そんな上手いこといく!」と感心し、妖精の一件は思わず笑える楽しいものです。いずれも才覚を生かしてことにあたり、みごと成し遂げるという点では、国の東西を問わないようです。同じ作者による色版画のようなイラストが、アフリカ情緒たっぷりでいい感じです。

(尾被ほっぽ) 2008年3月公開

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1973年コールデコット賞受賞作

"The Funny Little Woman" (1972)  by Blair Lent ブレア・レント text by  Arlene Mosel
(邦訳参考:絵は日本の画家、詳細はレビューを参照のこと)
『だんごをなくしたおばあさん』 小泉八雲/作 平山英三/絵 光吉夏弥/訳 大日本図書 1977年
その他の受賞歴

(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 昔々、「テーヒーヒーヒー」と笑う変なおばあさんがいた。おばあさんは、団子を作るのが大好き。ある日、いつものように団子を作っていると、床の隙間から団子が落ちてしまった。おばあさんが、転がる団子を追っかけていくと、地の底に不思議な国が広がっていた。すると、鬼がやってきておばあさんを捕まえ、おばあさんは鬼の国で飯炊きをすることになった。鬼が用意した魔法のひしゃくは、あっという間にご飯ができる優れものだったが、それでも大きな鬼たちの食事の用意は大変だった。何ヶ月か経って、おばあさんは家が恋しくなり、密かに鬼の国を抜けだした。お土産に魔法のひしゃくを持って……。

 この本は、ラフカディオ・ハーンこと小泉八雲が日本で集めた話の再話だ。ハーンといえば、「耳なし芳一」で有名だが、この話も元々はハーンの集めた(あるいは創作した?)民話の一つなのだ。初版本は明治時代、日本で出版され、実に日本情緒たっぷりな挿絵で飾られ、英語で書かれている。これが海外へ渡り、物語が知られるところとなったのだが……。
 ヘンテコな着物に、おかしな日本髪。ブレア・レントが描き出した舞台は、中国だか、タイだか、東洋的要素を混ぜ合わせた「どこにもない国」だ。最後のページ、赤い旗にかかげられた「団子」の文字が妙に日本味を主張する。これに対して、1977年の邦訳版は完全に日本民話としての体裁を取り戻している。訳者は昭和を代表するお一人で、あとがきに、ブレア・レントの絵があまりにも外国風だったので、そのまま使用することはできなかったとあった。物語がどこで生まれようと、何語で書かれようと、挿絵はその国の人々が持つイメージに合うものが好まれるということだろうか。

(尾被ほっぽ) 2008年5月公開

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1987年コールデコット賞受賞作

"Hey Al" (1986)  (未訳絵本)
 by Richard Egielski リチャード・エギエルスキー,  text by Arthur Yorinks アーサー・ヨリンクス
その他の受賞歴

 ビル掃除夫アルは犬のエディと暮らしていた。たった一つきりの部屋で、一緒に食べ、一緒にテレビを見て、一緒に寝て。犬のエディはぐちを言う。「何て狭いんだ! 走り回る庭が欲しい!」ある朝、とてつもなく大きな鳥がやってきて、二人を天国のような場所へ案内すると申し出た。多少の不安はあったけど、空高く鳥に運ばれ、着いた場所はまさにパラダイスだった! 花は咲き乱れ、果物はたわわに実り、滝は流れ、たくさんの鳥たちが二人を大歓迎してくれたのだ。だが、数日後、鼻はなんだか、堅く尖り、手はバタバタと……。

 アルとエディが暮らす部屋は、まさに日本のカプセルホテル。なんでもコンパクトに詰っているけど、のびする隙間もないほどだ。二人が怪しげな大きな鳥の言うことにのってしまうのもうなずける。空に浮かぶ鳥たちのパラダイスは、とてもすてきなところだ。でも問題は、だれにとってステキな場所かってところ。明るい彩色も楽しいし、アニメのような絵も登場人物の表情がよくわかって面白い。よくよく見れば、最後の顛末を暗示する鳥たちもちらほらいる。「我が家よりステキな場所はない」なんていうセリフがぴったりくる楽しい物語だ。ちっとも色あせないテーマで、60年代にできた作品なんてとても思えない。

(尾被ほっぽ) 2008年8月公開

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1976年コールデコット賞受賞作

"Why Mosquitoes Buzz in People's Ears" (1975)
 by Leo & Diane Dillon ディロン夫妻、text by Verna Aardema ヴェルナ・アールデマ
『どうしてカはみみのそばでぶんぶんいうの――西アフリカ民話より』 やぎたよしこ訳 ほるぷ出版 1976
その他の受賞歴

(このレビューは、英語版を参照して書かれています)

 ある日のこと、森で蚊がイグアナに、ちょっとした嘘の話をした。イグアナは「そんなつまらぬ嘘など聞きたくもない」と耳に木の枝を突っ込んだ。耳がきこえなくなったイグアナは、ニシキヘビが挨拶しても返事をしない。蚊のついた嘘がきっかけで、次々に思わぬできごとが起こり、とうとう森に朝日が昇らないという事態になってしまった。ライオンの王様が皆を集めて会議を始めた。こんなことになったのは、一体誰のせい?

  この話は西アフリカ民話の再話だが、それにしても興味を引く題名である。夏の夜中、耳元で聞こえる蚊の音にいらいらさせられた経験は、誰にでもあるのではないだろうか?  風が吹いたら桶屋がもうかる話のように、蚊のついた小さな嘘が次々と事件を引き起こしていく流れは愉快だ。蚊が人間の耳元で、いったい何をささやいているのか? そしてその結果起こるのは……それは読んでのお楽しみ。
 ディロン夫妻による切り絵風の絵は、色彩がとても美しい。そして動物たちの表情がそれぞれにユーモラスだ。耳に木の枝を突っ込んだイグアナの表情には、思わず笑いがもれる。もうひとつ読んでいて楽しいのは、独特の擬態語、擬声語だ。例えばイグアナはmek,mek,mek,mekと歩き、ヘビはwasawusu,wasawusuと動く。この豊かな音たちは邦訳ではどのように訳されているのだろう? とても興味がある。

(佐藤淑子) 2008年8月公開

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1981年コールデコット賞 オナーブック

"The Gray Lady and the Strawberry Snatcher" (1980)  (未訳絵本)
 by Molly Bang モリー・バング
その他の受賞歴
1980年ボストングローブ・ホーンブック賞 絵本部門オナーブック

仮題『いちごどろぼう』

 灰色の服を着た女の人が、町のくだものやでいちごを買った。その様子を、緑の服に青い体の男が物陰からのぞいている。こっそりあとをつけていって、いちごを奪い取ろうとするが、女の人はすんでのところでかわしてバスに飛び乗った。でも、いちごどろぼうは、バスを追って森までやってきてしまう。森の中でも追跡は続くが、女の人は男をひょいひょいとかわしていく。実は、ある魔法のような技を持っていて、森の中ではそれが効果抜群だった。どんな技? そして、いちごの行方は?

 何年も前に、やまねこ翻訳クラブのメンバーにこの絵本を見せた際の感想は、「不気味」というのが多かった。モリー・バングの公式サイト内のこの本の紹介ページ(http://www.mollybang.com/strawberries.html)でも、出版に至るまでの苦労と、出版してからも評判が芳しくなかったことが語られている。正体不明のいちごどろぼうは人間と同じ背格好だけれど、歩いた後には小さなきのこが生えてきて、妖精かゴブりンの風情も漂う。確かに、気味が悪い。ただただいちごに執着しているのはなぜなのか、そのあたりの説明は一切ない。ストーリーも、いちごどろぼうがおいかけて、女の人が逃げるというだけで、それ以外にふくらみはなくシンプル。
 でも、私はなぜかこの本に魅入ってしまう。町の描写は、欧風のお菓子が並んでいたり、インド風の通行人がローラーボードに乗っていたり、日本風の小物が飾ってあったりと、無国籍の不思議さがある。そして、森に入ってからの、木々や草木の描き方が繊細なこと! 針葉樹の葉のつんつんした感じ、色づいた葉のグラデュエーション、ワラビの葉が風に揺れる様子。奇妙な設定とは正反対のリアルさ! この按配が絶妙。これもシュール? 言葉はなく、絵だけで完成している世界だ。また、いろいろな工夫もほどこされている。灰色の紙が用いられており、にその地の色ををうまく利用して絵が描かれている。つまり、女の人の灰色の服には、色が塗られておらず、それが技につながっているというわけだ。また、見開きの絵の中には、同じページに時間を少しずらした場面が描かれているものもある。
「この絵本をどう思う? 好き? 不気味だと思う?」と、みんなの反応を楽しみたい絵本である。

(植村わらび) 2008年10月公開

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