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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

コレッタ・スコット・キング(CSK)賞(アメリカ) レビュー集
The Coretta Scott King Book Award
 

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最終更新日 2009/04/01 レビューを1点公開

★CSK賞の概要 (月刊児童文学翻訳2004年5月号)★   ★CSK賞公式サイト★

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


"Rosa"『ローザ』(リンク) * "Day of Tears"『私が売られた日』 * "Jazz"(リンク) * "The Dark-Thirty: Southern Tales of the Supernatural"(リンク) * "i see the rhythm" * "Ellington was not a Street" * "Only Passing Through: The Story of Sojourner Truth"『とどまることなく』←追加 * 


2006年コレッタ・スコット・キング賞 画家賞

"Rosa" (2005) by Bryan Collier ブライアン・コリアー
 text by Nikki Giovanni ニッキ・ジョヴァンニ
『ローザ』 さくまゆみこ訳 光村教育図書 2007年
 

その他の受賞歴 2006年コールデコット賞オナーブック


 コールデコット賞レビュー集を参照のこと

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2006年コレッタ・スコット・キング賞 作家賞

"Day of Tears" (2005) by Julius Lester ジュリアス・レスター
『私が売られた日』 金利光訳 あすなろ書房 2006 (邦訳読み物)

その他の受賞歴


 1859年3月、アメリカ南東部のジョージア州で史上最大の奴隷市が開催され、農場主の借金の清算のため、実に429名もの奴隷が売買された。市が開催された2日間、その町はかつてないほどの激しい雨に悩まされたという。まるで、奴隷たちの運命を悲しむ天の涙のように。「売らない」と約束されていたはずの12歳の少女エマも、主人の都合ひとつでせり台へと乗せられてしまう。その運命を甘受せず完全と立ち向かうエマと、彼女を支えた人々を描く戯曲形式の物語。

 人間が、肌の色が違うというだけの理由で同じ人間を売買できる制度、それがかつての奴隷制度だ。この作品は戯曲形式で進み、登場人物が自分たちの気持ちをセリフで表現している。そのため、奴隷、奴隷主それぞれの感情がより強く書かれていてわかりやすい。
 当時の奴隷主たちは、どうして同じ人間を奴隷として扱えたのか。その答も表現されている。例えば、奴隷をいじめたことはなく、さまざまな権利を認めてやったのになぜ逃げ出したのか理解できない、という老婦人。黒人たちが、自由そして人間としての尊厳を求めていたことにまるで気づいていない。奴隷を人間とも思わずに虐げる奴隷主は言語道断だが、このような考えを持っていた「心優しいご主人様」も、結構いたのではないだろうか。その事実がまた、奴隷制度の悲しさを際立たせる。優しいだけではだめなのだということに気づけなかった「優しい」人たち。彼らを愚かだというのは簡単だが、果たして自分は大丈夫だろうか。

(村上利佳) 2008年10月公開

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2007年コレッタ・スコット・キング賞 画家賞オナーブック

"Jazz" (2006) (未訳絵本)
 by Walter Dean Myers ウォルター・ディーン・マイヤーズ illustrated by Christopher Myers

その他の受賞歴
 
2006年 ゴールデン・カイト賞絵本部門 絵本・文


 ゴールデン・カイト賞レビュー集を参照のこと

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1993年コレッタ・スコット・キング賞 作家賞

"The Dark-Thirty: Southern Tales of the Supernatural" (1992) (未訳読み物)
  by Patricia C. McKissack パトリシア・C・マキサック illustrated by Brian Pinkney ブライアン・ピンクニー

その他の受賞歴
 
1993年ニューベリー賞オナーブック


 ニューベリー賞レビュー集を参照のこと

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1999年コレッタ・スコット・キング賞 画家賞

"i see the rhythm" (1998) (未訳絵本)
 by Toyomi Igus, illustrated by Michele Woods

その他の受賞歴


 ヨーロッパ船籍の船が、1500年アフリカの港から、奴隷として黒人達を乗せ、新大陸アメリカに向けて出港した。時代は植民地時代。その船は、プランテーションの働き手として黒人達を乗せ、アメリカ、ヴァージニアの港とを往復していた。黒人達には望まぬ異国での想像を絶する毎日が用意されていた。自国を離れ、一日の全てを綿花畑で過ごし、農作業中に仲間達と歌った歌。それが、リズムの始まり。スレーブソングに魂を慰め、あきらめることなく命をつないでいった。これが、アフリカン・アメリカンの歴史の始まりとなった。時代を経るごとにそのリズムは刻みを変え、ブルース、ラグタイム、ジャズへ、そして、ヒップホップの今へと繋がっている。荒々しいタッチの絵の中に、時代の先駆者達の顔が映し出されている。そして、絵も文字もページ全部が、歌いだしそうに踊っている。細かい注釈が両隅に書き込まれ、音楽辞典としても充分に堪能できる。

 ブラックミュージックの起源が、この苛酷な環境のなかで、生き延びることに心魂注いだソウルソングだったことに、あらためて気付かされた。言葉ではなくリズムで、互いの心を慰めあい、励ましあい、いまも世界中のミュージックシーンを引っ張っている彼らのルーツは、あまりにも過酷だ。音楽を柱にして、アフリカン・アメリカンの歴史を表現することで、彼らの全てが紐解かれていくくらい、生きることに密着している音楽、このリズム。感情を言葉にして表すよりも、リズムで、歌で、共感しあっている人は、国境も言語の違いも超越してしまう。互いを分かり合えるこんな素敵なコミュニケーションがある。音楽って偉大だ。

(三好美香) 2008年10月公開

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2005年コレッタ・スコット・キング賞 画家賞

"Ellington was not a Street" (2004) (未訳絵本)
 by Ntozake Shange, illustrated by Kadir A. Nelson

その他の受賞歴


 70年代初頭のアメリカ、ニューヨークの物語。きちんと編んだ三つ編みに、水色のワンピースを着た、愛くるしい笑顔の少女が主人公だ。彼女の家にはたくさんの人が訪れる。彼らは皆、黒人差別のなか、学び、たゆまぬ努力を続け、その世界で一流の人となっていった。互いが努力の成果を喜び、刺激しあいながら前へ、前へと歩んでいったのだ。彼女の家は、彼ら仲間が集う場所だった。彼女の家庭は、人と繋がり、互いを理解しあい、人を愛することは小さなことを積み重ねていくことと、血の繋がり以上のファミリーを育てる家庭 だった。この家庭を巣立っていった仲間は、アメリカを代表する人となっている。

 デューク・エリントンの代表作「Mood Indigo」の詩にあわせ、物語は始まる。彼の生きた時代はまだまだ黒人人種差別も激しく現存し、夢や希望を語るには、世間は冷たいものだった。しかし、あきらめることなく音楽を学び、自己確立していった彼は、黒人達の希望の星となった。オピニオンリーダーとして彼の担った功績は、後に続いた人たちを見れば、明らか だ。人は生きた証として、何かを残そうとするが、彼らは、後に続く人々に道標と、その道を照らす光となったのだろう。この少女が育った家庭のように、時、場所、人種を越えて、大人は 子供達に、温もりを与えなければならないのだと思う。

(三好美香) 2008年10月公開

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2001年コレッタ・スコット・キング賞 画家賞オナーブック

"Only Passing Through: The Story of Sojourner Truth" (2000) NEW
 by Anne Rockwell アン・ロックウェル, illustrated by R. Gregory Christie グレゴリー・クリスティー
『とどまることなく 奴隷解放につくした黒人女性ソジャーナ・トゥルース』 もりうちすみこ訳 国土社 2002年

その他の受賞歴
 2000年度ニューヨークタイムズ・ベストイラスト賞


 あまたの星が夜空に輝いている。イザベラの母は、いつもこの星に願いをこめた。神がいるのよと娘に伝えながら。1800年代初頭、アメリカ、ニューヨーク州にも黒人が奴隷として過酷な労働に虐げられていた。その中で生を受けたイザベラも、あまたの星と同じく数多くの奴隷の子として生きていくこととなった。そして9才の時、競売にかけられ、自身も奴隷として生きることになり過酷な労働のなかで言葉をおぼえ、娘となり、そして、結婚し母となった。初めて自分の子を抱き、宝を持ったイザベラは、何者にも負けない強さを手に入れた。わが子を守る母の強さを。
 時代が奴隷解放へと向いだす中で、イザベラも導かれたように、過酷な奴隷の真実を語りながら、人々に是非を問う旅に出た。どのような危険な場所でも、心は神に寄り添うことで、ひるむことなく、イザベラは大きな声を上げることができた。彼女の長い旅は、夜空に光る一等星の様に人々に希望を与え、夜明け前、西の空に消えていった。人種を超えて皆平等であることを人々の心に残して……。

 今のアメリカが辿った歴史の一部分、そして本当に数多くの人の数だけ苦労と、ぬぐえぬ思いがあったと想像する。光があたったイザベラには、それ以上の苦労があったと確信し、くじけなかった心の強さにも、人は光を見たのだろう。こちらをじっと見据えるイザベラの目に今の時代をも見抜いているような力強さのある重厚な絵が印象的で、人間のすばらしさと共に、人間の愚かさを忘れないようにと伝えてくれる書である。
 イザベラが名を変えてソジャーナ・トゥルースと名乗った経緯も心打たれる。

(三好美香) 2009年4月公開

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