白水社 新刊情報(2003年)

白水社HP

2003.03『みんなワッフルにのせて』2003.09『ザッカリー・ビーヴァーが町に来た日』2003.12『チボー家のジャック
2002.08『天国までもう一歩』2002.10『嵐をつかまえて』2002.12『秘密の手紙 0から10


2003年12月刊行

高野文子装幀 黄色い本で新装復刊!

チボー家のジャック:箱表紙

チボー家のジャック

マルタン・デュ・ガール
山内義雄 訳
高野文子 装幀

ISBN 4-560-04776-6
本体1800円+税
チボー家のジャック:黄色い表紙

不朽の名作『チボー家の人々』の青春版

ジャック・チボーとは学校の図書室で出会った。
その日から、彼は私の大切な友達になった。
高野文子

 解説によると、『チボー家の人々』全11巻(翻訳の白水社Uブックスでは全13巻)の中から、特に次男のジャックを中心とした部分を作者自身が選び出し、つなぎ部分を書き加えて、より年少の読者におくった本である。かといって簡約や抜粋ではなく、チボー家の次男ジャックにより近接して、彼の視点からの再構築という位置づけ。
 実は『チボー家の人々』は未読である。一昨年、高野文子の漫画『黄色い本:ジャック・チボーという名の友人』で、私はジャックの姿を初めて見た。
 『黄色い本』は、メリヤス工場に就職が決まっている女子高生実地子が、残り少ない高校生活の中で、学校図書館からハードカバーの5冊の『チボー家の人々』を借り出して読んでいく作品である。自分の血肉となる読書といおうか、手先が器用で穏やかな実地子だが、読書している間は、ジャックと熱い議論を共有し、革命の心を感じている。静かな外側と熱い内面という本読み行為の深さ、見ていないようでちゃんと見守っている父親など、しみじみとおもしろい漫画である。
 今回読んだ『チボー家のジャック』は、その高野文子が装丁し、「ジャック・チボーとは学校の図書室で出会った。その日から、彼は私の大切な友達になった。」という帯がついている。
 『チボー家のジャック』は、やりどころのない不満を抱えたジャックの少年時代と友人を巻き込んでの家出から始まる。ブルジョワの家に生まれながら、内的不満を抱え、詩や文学に親しみつつ、やがて労働者の人間としての尊厳を求める運動や革命に傾倒していくジャック。情熱はあっても、正しく理解されなかったジャックの、壁にぶつかることだらけの少年時代の感性は、現代の私にも強く共感できる。
 様々な道をゆきつ戻りつした後の1914年、反戦運動にすべてをかけようという計画が彼の気持ちを明るくする。「今や彼には、抵抗したり、選択したりする必要はなかった。なにをしようと考えてみる必要もなくなっていた。解放! 風をきっての飛行、空の高みにあっての空気、断然成功するにちがいないという確信、それらは、彼の血をさらにすみやかに、さらに強く脈打たせた。彼は、胸の奥に、心臓のはげしい、きわめて響きのいい鼓動を聞いていた。それは、彼の身のまわりのあらゆる空間をふるえおののかせているこのすばらしい凱歌にとって、まさに一種の人間的な伴奏、あるいは彼が身を挙げての共感といったように思われた……」(p.336)には、痛々しいほどの解放が感じられるのだが……。
 また、社会的地位も名誉もお金もあるチボー氏の、父親としてのありかたは、最初は反発するけれども、その奥に様々な苦悩があることがしだいに分かってくる。私が個人的に感情移入したのはむしろアントワーヌである。道を踏み外さなかった、しかし、要所要所で自己凝視し、父親や弟に複雑な感情を抱く彼に近しいものを感じた。

鈴木宏枝
メールマガジン「児童文学評論」より
(c) hiroe suzuki


かつて黄色い装幀で5巻本だった全集―― 白水Uブックス
チボー家の人々
(全13巻)
マルタン・デュ・ガール作
山内義雄訳
1 灰色のノート
2 少年園
3 美しい季節1
4 美しい季節2
5 診察
6 ラ・ソレリーナ
7 父の死
8 一九一四年夏1
9 一九一四年夏2
10 一九一四年夏3
11 一九一四年夏4
12 エピローグ1
13 エピローグ2


2003年9月刊行

全米図書賞受賞作

ザッカリー・ビーヴァーが町に来た日 ザッカリー・ビーヴァーが
町に来た日

When Zachary Beaver
Came to Town

キンバリー・ウィリス・ホルト
河野万里子 訳



ISBN 4-560-04770-7
定価 本体1700円+税


1971年、テキサス州アントラー
 たいしたことはなにも起きない町。
 そこに「世界一ふとった少年」の見せ物がやってきた。
 1ドル札2枚を握りしめた人たちの行列がたちまちのうちにできる。
 それはアントラーの人口の半分にもなるほどの行列。
 もちろん、トビーも親友のキャルと一緒に並んだ。
 そのふとった少年の名前はザッカリー・ビーヴァー。
 トビーとキャル、ザッカリー、アントラーの人たち、
 1971年の忘れられない夏がはじまった。


本をとじる。ひと夏のできごとが過ぎ、静かな気持ちになる。
言葉を選ぼうとしても、ただ読んで――とさしだすだけでいいのではと思えた。
どこがよかったと聞かれれば、ザッカリーのバプテスマ、ベトナム戦争に行っているウェイン(キャルの兄)の手紙、
そしてトビーとキャルの友情などなど、いくらでもあげられる。
つきなみな言葉だが、胸に迫る物語なのだ。なんども喉があつくなった。


キンバリー・ウィルス・ホルト著作リストやまねこ翻訳クラブ作成)


【作者】キンバリー・ウィルス・ホルト Kimberly Willis Holt フロリダ州生まれ。海軍士官の父をもち、幼年期はアメリカ内外の各地で暮らす。テキサス州アマリロ在住。デビュー作『マイ・ルイジアナ・スカイ』(1998)(白水社より近刊予定)で、ボストン・グローブ=ホーンブック賞ほか多数受賞。本書で1999年ヤングアダルト部門全米図書賞受賞。

【訳者】河野 万里子(こうの・まりこ) 1959年生。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。国際翻訳賞新人賞受賞(1993)。主要訳書にフランソワーズ・サガン『愛は束縛』『逃げ道』(新潮社)、ドナ・ウィリアムズ『自閉症だったわたしへ』(新潮社)、ルイス・セプルベダ『カモメに飛ぶことを教えた猫』(白水社)、シュジー・モルゲンステルン『秘密の手紙 0から10』(白水社)など多数。

装丁 丹羽朋子/カバー絵 小林治子


2003年3月刊行

2002年ニューベリー賞オナー(次点)作品
2001年ボストングローブ・ホーンブック賞オナー(次点)作品

みんなワッフルののせて:表紙 みんなワッフルにのせて

ポリー・ホーヴァート 著 代田亜香子 訳

本体1500円+税
ISBN 4-560-04761-8

「理由なんてないけど、心の奥のほうでそうだってわかるっていうこと、ない?」大人たちにそうたずねるのは、11歳の主人公プリムローズ。彼女にはわかっていた――両親はまだ生きている、と。彼女の両親は、嵐の日に舟で海に出たまま戻ってこない。学校のカウンセラーは、今後のためにも、両親が死んだという事実を認めたほうがいいと迫るが、プリムローズは聞く耳をもたなかった。両親はどこかの島に流れ着いて娘のことを心配しており、なんとかして戻ってくるはず……プリムローズはそう信じていたのだ。やがてプリムローズは、たった一人の身内であるジャックおじさんと暮らし始める。そして、小さな町の中では数々の騒動がもちあがるのだった。

 プリムローズは、自分の考えをきちんと持った女の子(でも、どこか抜けたところがあって、とんでもない事件をひきおこしたりもする)。彼女の目を通して、町の人々の姿が語られていく。防虫剤のにおいをプンプンさせる近所のおばあさん、何かにつけて自分の一族の自慢話をするカウンセラー等々。プリムローズに悪気はないのだけれど、その冷静でシニカルな視点にはにやりと笑わされる。ユーモアのきいた、少々おおげさともいえる描写は、前作の "The Trolls" 同様、ホーヴァートの得意とするところ。そのおかしさを透かして、本当に大切なものや、隠れた悲しみや孤独が見えてくる。そのあたりが、本作品がボストングローブ・ホーンブック賞次点、ニューベリー賞次点に選ばれた所以だろう。筋の運びに多少強引さは感じるものの、これだけの役者たちを登場させて最後に丸くおさめる手腕には、素直に感嘆させられる。

 題名の "Everything on a Waffle" は、町にあるレストランが、どんな料理もワッフルの上にのせて出すことに由来している。ちゃんと目を開けていれば、小さな町でも人生のいろんなことがわかる、そんなことがこの題名に込められているのかもしれない。そのレストランのオーナー、ミス・バウザーは、プリムローズの話を聞いてくれ、アドバイスをくれる人。また、ジャックおじさんも、両親の生死には触れず、プリムローズをそのまま受け入れてくれる。自分にとって本当に大切な人は、ワッフルのように身近にいて見守ってくれる人だと、プリムローズは気づくのだ。

 各章の終わりに添えられたユニークなレシピの数々もお楽しみに。

(植村わらび)

メールマガジン「月刊児童文学翻訳」2002年2月掲載レビュー及び作者紹介より

【作者】Polly Horvath (ポリー・ホーヴァート) 1957年ミシガン州生まれ。9歳から創作をはじめ、18歳までのあいだ原稿を書いては編集者に送り続けた。その頃原稿を受け取った編集者の一人が現在のエージェントである。18歳でいったん執筆を中断し、トロントやニューヨークの学校でダンスを学ぶ。1989年に1作目である "An Occasional Cow" を出し、本作品で6作目。カナダのバンクーバー島在住。

【訳者】代田亜香子 (だいた あかこ)
立教大学英米文学科卒。主な訳書に、『スチュアート・リトル』(青山出版社)『屋根にのぼって』『家なき鳥』『天国までもう一歩』(白水社)。共訳に、映画「プリティ・プリンセス」の原作『プリンセス・ダイアリー』(河出書房新社)のほか、『ベンとふしぎな青いびん』(あかね書房)などがある。

【参考】
○やまねこ翻訳クラブ ポリー・ホーヴァート作品リスト

○前作 "The Trolls" のレビュー(「月刊児童文学翻訳」2000年3月号書評編「注目の本」)


2002年12月刊行

フランスで最も権威ある児童文学賞〈トーテム賞〉を受賞!
国内外合わせると合計16の賞に輝いたYA小説!


秘密の手紙0から10:表紙 秘密の手紙 0から10

シュジー・モルゲンステルン 著 河野万里子 訳
本体1500円+税
ISBN 4-560-04756-
1

読後感がさわかで心地よく、生きていることの躍動感あふれるヤングアダルト小説!

〜〜 内容 〜〜
10歳のエルネストは生まれると同時に母を亡くした。
そして父は謎の行方不明に――。
祖母に育てられたエルネストの生活は、毎日判を押したように単調なもの。
食べるものも着るものも毎日同じ。
エルネストはそれが自分の生活だと思っていた。
そこに新しい風が入ってくる。
14人きょうだいの13番目の女の子、ヴィクトワールが転校してきたのだ。
彼女はエルネストの生活に積極的に介入し、どんどん変化をもたらす。
止まった空気が動き出した。祖母までも、新しい風にふかれ……。

年齢に応じてそれぞれに楽しみ、味わうことのできるチャーミングな一冊。
(訳者あとがきより)


【作者】ジュジー・モルゲンステルン アメリカのニュージャージー州ニューアーク生まれ。30年ほど前に、南フランスに移り、現在はニース在住。

【訳者】河野万里子 1959年生まれ。上智大学外国語学部フランス語学科卒業。主要訳書にサガン『愛は束縛』『逃げ道』(新潮社)、ウィリアムズ『自閉症だったわたしへ』(新潮社)、セプルベダ『カモメに飛ぶことを教えた猫』(白水社)などがある。


2002年10月刊行

カーネギー賞受賞作家 初の邦訳!
2002年度 サウス・ラナークシア文学賞を受賞!

嵐をつかまえて:表紙 嵐をつかまえて

ティム・ボウラー 作 小竹由美子 訳
本体 1700円+税

【作者】ティム・ボウラー(Tim Bowler) 1953年、イギリス生まれ。大学でスウェーデン語やスカンジナビアの文化を学んだのち、林業から教師まで様々な職を経て、最初の作品 ”Midget" を書き上げる。三作目の "River Boy"で1997年カーネギー賞を受賞。本作は五作目にあたり、初の邦訳となる。

【訳者】小竹由美子(こたけ ゆみこ) 1954年生まれ。早稲田大学法学部卒業。訳書にジャクリーン・ウィルソン『みそっかすなんていわせない』『バイバイわたしのおうち』(以上、偕成社)など。

〜 〜 内容 〜 〜

嵐の夜、両親はそろって出かけ、きょうだい3人で留守番する予定だった。しかし、エラは兄フィンが友人の家に行きたいのを知り、快く送り出す。弟のサムと一緒に待ってるから大丈夫……。兄フィンが家に戻ってきた時に玄関においてあった紙切れには、「だれかに話したら、娘の命はない。またわれわれのほうから連絡する」
いったい、誰が最愛の妹を連れていったんだ。弟サムは、エラの機転で連れ去られずにすんでいた。家族は一致団結して、誘拐犯からエラを救出しようとする――。

〜 〜 〜 〜 〜

誘拐という恐ろしい出来事と共に、静かな家族生活が一変します。兄が妹を大事に思う気持ち、弟が不思議な能力を発揮するシーン、そのどれもが、緊迫した空気の中で物語は進行します。
翻訳者の小竹さんがあとがきで、こう書かれています。

 「起こってしまったどうしようもないこと」と、わたしたちはどのようにむきあったらいいのでしょう。どれほど悔やんでも、いったん起こってしまったことを起こらなかったことにするのは不可能。つらくても苦しくても、むきあって生きていくしかありません。

ラストでは家族がつかまえた大きなものをみることができるのではないでしょうか。

▼ティム・ボウラー公式サイト
http://www.timbowler.co.uk/
▼出版社HPで一部を立ち読みできます。
http://www.hakusuisha.co.jp/

 

2002年8月刊行
最もすぐれたヤングアダルト小説に贈られる
           全米図書館協会プリンツ賞2002年度受賞作

天国までもう一歩:表紙

天国までもう一歩

アン・ナ 著 代田亜香子 訳
本体 1500円+税

本書は、韓国系移民の少女パク・ヨンジュの幼児期から高校卒業までを描いた物語である。韓国の小さな漁村で、つづまやかに暮らすパク一家。父と母は、新しい豊かな生活を夢見て、ミグク(アメリカ)への移住を決める。現地で結婚した伯母がしてくれるという、当座の援助を頼っての決断だ。「飛行機に乗って空を飛んでいく」と聞かされた4歳のヨンジュは、「ミグク」が空の上にあるところ、すなわち天国だと思い込む。天国にいけば死んだハラボジ(おじいちゃん)に会えると、祖父との再会を楽しみにアメリカへ渡るが、そこは想像していたような天国ではない。落胆するヨンジュに、アメリカ人の伯父が言う。「ミグクは天国に負けないくらいいい場所だ。うん、天国までもう一歩といえばいいかな。」

<作者紹介>1972年、韓国に生まれる。4歳のとき家族とともにアメリカ、カリフォルニア州に移住。アマースト大学卒業後、ノーウィッチ大学にて文芸修士号を取得。中学校の教師を務めたのち、現在はカリフォルニア州オークランドとバーモント州ウォーレンに住み、執筆活動に専念している。本書がはじめての小説。

<翻訳者紹介>立教大学英米文学科卒。主な訳書に、『スチュアート・リトル』(青山出版社)『屋根にのぼって』『家なき鳥』(白水社)。共訳に、映画「プリティ・プリンセス」の原作『プリンセス・ダイアリー』(河出書房新社)のほか、『スクランブル・マインド〈時空の扉〉』『スクランブル・マインド〈はじまりの記憶〉』(共にあかね書房)などがある。

                 


レビュー●

貧しい生活、アイデンティティーの不安、親子間や夫婦間の心のすれ違い。どの家族にも共通して起こりうるこうした問題が、移民家族を取り上げることでよりくっきりと示されている。ヨンジュの目を通して描かれる家族ひとりひとりの苦しむ姿は、哀しくせつなく、読む者の胸を打つ。

 だが、本書のトーンは決して重苦しくない。日常のさりげない出来事を淡々と語るヨンジュの「声」には透明感があり、幻想的でさえもある。幼いころのヨンジュはこちらが思わずほほえんでしまうほど可愛らしい。大きくなるにつれ、彼女の行動や考えにはある種の力強さが加わる。傷つき悩みながらものびやかに成長していくヨンジュの姿にすがすがしさを感じることができるのも、この作品の魅力のひとつだろう。心の成長過程にある若者たちと、家族を持つ大人たちにぜひ読んでもらいたい。


 ★本書内容紹介、レビューは、やまねこ翻訳クラブ会員、生方頼子によるもので、メルマガ「月刊児童文学翻訳」に掲載したものより★

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Last Modified: 2004/05/18
担当:さかな

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