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月刊児童文学翻訳

─(No.9)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:mgzn@yamaneko.org
1999年4月15日発行 配信数436


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎プロに訊く
第6回:中川千尋さん(翻訳家、絵本作家)

◎特集
4月だ! 春だ! 洋書を読もう!! 〜 洋書の買い方大研究 〜

◎展示会情報
西武アートフォーラム「世界の絵本原画展'99」など全7種

◎セミナー・講演会情報
間崎(大月)ルリ子「絵本とおはなしについての講演」他

◎注目の本(邦訳編)
ピーター・ディッキンソン作『時計ネズミの謎』

◎注目の本(未訳編)
キンバリー・W・ホルト作『ルイジアナの空の下で』(仮題)

◎お菓子の旅
第4回 手軽に作れるイギリスの家庭の味 〜トライフル Trifle〜



プロに訊く 第6回

―― 中川千尋さん(翻訳家、絵本作家) ――

 

 今回は、ヤング・アダルト文学から絵本の翻訳、さらには挿し絵に、創作絵本と、幅広い活動で注目を集める中川千尋さんにお話をうかがいました。お忙しい中、快くインタビューに応じてくださった中川さん、まことにありがとうございました。

 

【中川千尋(なかがわちひろ)さん】

 1958年生まれ。東京芸術大学美術学部芸術学科卒業。翻訳書にドハティ『ディア ノーバディ』(新潮社)、サーバー&スロボドキン『たくさんのお月さま』(徳間書店)など多数。ケネディ『ふしぎをのせたアリエル号』(ベネッセ)では翻訳と挿し絵を手がける。また『のはらひめ』(徳間書店)、『ぼくにはしっぽがあったらしい』(理論社)などの創作作品もあり、活動は多彩。




★最初のお仕事である、劇団テアトル・エコーでのコメディの翻訳や、映画・TVの吹き替え台本の翻訳を始められたきっかけを教えてください。

 学生時代、友人のつてで紹介されました。きっかけは、初来日したマザーテレサの身の回りのお世話係のアルバイトをしていたことです。……のっけからビッグでしょう。
 まだあるんです。最初に手がけた戯曲は、上演交渉するか否かの資料としてではありますが、なんとピーター・シェーファーの『アマデウス』でした。もちろん映画にも芝居にもなる以前の。「な、なんなの、この冒涜的なモーツァルト像は!?」と、背景の知識もなく、ひたすら混乱してキマジメに訳しました。一万円の約束でしたが、あんまり可哀想だというので、たしか二万円いただきました。……このへんから以後、てんでビッグじゃなくなっていきます。
 結局、上演権は松竹にいってしまい、前からこの作品を暖めていらした江守徹さんの翻訳が出版されたとき、エコーのプロデューサー氏が本をプレゼントしてくれたのですが、江守さんの訳を読んで、目からうろこが落ちました。のちに、あれはあくまで俳優の翻訳だという声も耳にしましたが、当時のわたしには、こういうことが許されるならばやってみたいという意欲をかきたてるものでした。


★福武書店(現ベネッセ)でリーダーを始められたころのこと、最初の訳書である『ふしぎをのせたアリエル号』との出会いなどについてお聞かせください。

『ふしぎをのせたアリエル号』表紙  そもそもは、荻原規子さんの『空色勾玉』です。あれをアメリカ人の友人と組んで英訳したいという大それた望みにとりつかれて福武に電話をしました。わたしは日頃電話恐怖症なので、なぜそんな大胆なことができたのか、いまもって謎です。残念ながら(幸い?)「勾玉」の英訳はすでに他の方に任されていたのですが、その電話で編集の方と子どもの本をめぐって長々と話しこみ、つづきはお会いしてということで会社に伺い、ますます意気投合しました。当時の福武から出るものはことごとく面白く、それを作っている人たちの輪に加われるのはとてもうれしかったです。
 そのころ編集部の机には翻訳者をさがしている『アリエル号』の原書がのっていたそうです。もしかすると、あの本が呼んでくれたのかもしれませんね。


★バーリー・ドハティの作品を三冊訳していらっしゃいますが、ドハティさんご本人とお会いになられたときのエピソードをお聞かせください。

『ディアノーバディ』表紙  『シェフィールドを発つ日』を訳して以来、著者ドハティさんとは、たまに手紙のやりとりがありました。92年にイギリスに遊びにいったとき、旅の途中でカーネギー賞の発表があり、彼女の二度目の受賞を知ったのです。二度ももらう人は稀です。お祝いの電話を入れ、予定を変更して会いにいきました。ドハティさんはテレビや新聞の取材で忙しかったはずなのに、雨の日の午後、静かで穏やかな時間を過ごさせてくれました。
 そのときわたしは受賞作についてほとんどなにも知りませんでしたが、「テーマは十代の妊娠」ときき、ついで「タイトルはDEAR NOBODY」ときいたとき、胸の奥でなにかがコトンと音をたてたのをよく覚えています。
 「あなたにあげたいのに一冊も残っていない!」とあわてるドハティさんといっしょに雨のシェフィールドの書店めぐりにでかけ、帰りの電車と飛行機で読み、これまた、絶対訳すぞ、と決意したわけです。


★絵本も数多く翻訳なさっていますが、特にお好きな作家はいますか? 翻訳の際に特に気をつかわれるのは、どんな点でしょうか。

 うーん、大勢います。絵の美しいのが好きです。センダック、バーバラ・クーニー、シュレーダー、ル・カイン、ターシャ・チューダー……。H.A.レイや、リリアン・ホーバー、フランソワーズ、といった可愛いのも……。アーサー・ラッカムやカイ・ニールセン、という古いあたりも……。もちろんスロボトキンも、アーディゾーニも。日本人では……おっと、翻訳の話でした。
 えー、絵本は、やはり絵が主役です。こどもは絵を読むし。だから言葉の調子をふくめて、絵の邪魔をしないように気をつけます。文章が短ければ簡単というのでは、まったくありません。短いものほどリズムやトーンがきまるまで四苦八苦します。一般に、文の短い幼い子の絵本ほど、気に入ってもらえれば百回でも繰り返し読んでもらえるはずです。その子の血肉となるまで。それに耐える文章をめざしたいと思います。
 書店で「字の少ないのはここで読んじゃって、もっと字が多いのを買っていきましょうね」なんて話してる親子と遭遇したときは、……かなしかった。


★中川さんの翻訳は、流れるようなリズムとせりふの自然さに定評がありますが、やはり「話し言葉」の世界に関わっていらしたことは大きな財産でしょうか? 

 ありがとうございます。演劇や吹き替えから学んだことは多いと思います。
 字幕翻訳に誘われたこともありますが断りました。わたしには話し言葉から得る物のほうが大切だったからです。
 芝居の稽古や、吹き替えの現場にたちあうと、じぶんが書いた言葉が役者さんの声にのるたびに、気が遠くなるくらいたくさんの発見があります。
 また逆に、本の翻訳をしながら、特定の役者の声がきこえてくることもあります。勝手にキャスティングをしちゃうわけです。


★『アリエル号』では挿し絵も描かれていますね。翻訳と挿し絵には、共通点がありそうですが、いかがでしょうか。また創作絵本のこともお聞かせください。

 さすが! 鋭いご指摘です。
 翻訳と挿し絵の共通点は……、うーん、どちらも本のいちばんの読者になろうとつとめて、ようやくできる仕事ということでしょうか。細部まで何回も読みこむだろうし。成功すれば、原作の世界をよりゆたかに広げることができるし。挿し絵は、もっともっと重要視され、評価されるべきだと力説したいです。
 あれ、話がずれました。創作絵本、ですね。絵本を作ることは口にするのも恐ろしい秘めた野望だったのですが、編集者に見破られ、そそのかされ、おだてられ、つい木にのぼってしまいました。
 ただ、翻訳、挿し絵、創作絵本といろいろな角度から関わりながらも、「こんな本、どう? わたしはいいと思うんだけど」と、どきどきしながら手わたすような気持ちは、いつも同じです。


★最後に、今取りかかっていらっしゃるお仕事についておきかせください。

 絵本の翻訳で、エロール・ル・カインの「シンデレラ」(ほるぷ出版)が五月に出ます。ルーマー・ゴッデンの再話による「お酢のびんにすんでいたおばあさん(仮題)」(徳間書店)も翻訳中ですが、絵もわたしが描くことになっているので、ちょっと遅れるかも。むしろその前に、べつのお姫さま物語が、やはり徳間からでるかもしれません。
 長編の翻訳予定は、いまのところありません。やらせてと頼んでるものはあるんだけど、もろもろの事情でペンディングです。
 創作絵本は、五月か六月に偕成社から「ことりだいすき」というのが出ます。ほかに徳間から「きょうりゅうのたまご(仮題)」を出すはずです。これはもう恥ずかしいくらい大昔からやっているのに絵が思うようにならず押入から出したりしまったりしてた代物です。あまりの怠慢を編集者に叱られながら、いま苦戦しています。また理論社からカッパのお話絵本を一冊。鳥、恐竜、カッパ……今年はこんな傾向です。

(インタビュアー:内藤文子)

※中川さん作品リスト
※中川さんインタビュー ノーカット版

 

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特集

―― 4月だ! 春だ! 洋書を読もう!! ――
〜 洋書の買い方大研究 〜

 

 翻訳家をめざすからには、日本語の本ばかりでなく洋書もたくさん読みたいもの。日本国内で洋書を手に入れるには、大型書店の洋書売り場や洋書専門店に出かける、インターネットのオンライン書店を利用するなどの方法がある。書店に行けば実際に本を手に取って確かめることができるが、値段が高いのが難点だ。バーゲンを狙うという手もあるが、大都市近辺に住んでいなければ洋書のバーゲンに出かけるのもなかなか難しい。しかしオンライン書店なら全国どこからでも洋書が安く手に入る。そこで今回は、おすすめのオンライン書店を紹介しながら、賢いオンライン洋書ショッピングについて考えてみたい。


◆おさえておきたい定番ショップ

スカイソフトの画像 【スカイソフト】――安さと速さが魅力―― 2006年3月に閉店しました
(http://www.skysoft.co.jp/)
 アメリカの書籍が手数料なしの現地価格で買える。宅配便の送料は800円だが、支払い方法をクレジット・カードとするページプラス会員になれば380円ですむ。文教堂書店・旭屋書店での受取りを指定すれば送料がかからないので、いっそうお得。本は在庫があれば2〜3週間で届く。購入金額に応じてポイントがつき、次回以降の購入時に使うことができる。国内のサイトなので問い合わせ等も日本語でやりとりでき、初心者でも安心だ。




アマゾン・コムの画像 【アマゾン・コム】――情報の宝庫――
(http://www.amazon.com/)
 世界最大の規模を誇る、オンライン書店の草分的存在。各書評誌のレビューや読者からの感想も読むことができる。表紙画像をクリックして拡大できる機能は、絵本など絵の感じを確認したいときに便利。おすすめ本など情報満載のKIDSコーナーも必見だ。価格は最大40%の割引あり。船便の場合、送料は1個口につき4ドル+1冊1.95ドルで、届くのに2か月ほどかかる。航空便の場合は、送料1個口につき7ドル+1冊5.95ドル、1〜3週間で届く。



 ハードカバーなど割引金額の大きい本を買ったり、一度に何冊もまとめて買ったりする場合で、特に急がないならアマゾンの船便、1〜2冊を思いたったとき気軽に買う場合やなるべく早く手に入れたいときにはスカイソフト、というように状況に応じてうまく使いわけるとよいだろう。


◆イギリスの本ならここで

iBSの画像 【iBS】――検索結果が見やすい――
(http://www.bookshop.co.uk/)
 検索結果を出版年順やタイトルのアルファベット順に表示することもできる。最大で40%の割引あり。航空便のみの取扱いで、送料は合計金額の45%(最低8ポンド〜最高50ポンド)。10日〜2週間で届く。購入金額が日本円でも表示されるので安心。






アマゾンUKの画像 【アマゾンUK】――今後が楽しみ――
(http://www.amazon.co.uk/)
 前身のBookpagesがアマゾンUKとなってからまだ半年しかたっていないので、アマゾン・コムに比べると書評等の情報はまだまだ不足しているが、これから徐々に充実していくだろう。最大で40%の割引あり。取扱いは航空便のみ、送料は1個口につき2.95ポンド+1冊3.00ポンド。10日〜2週間で届く。






Heffersの画像 【Heffers】――カタログもあり――
(http://www.heffers.co.uk)
 ケンブリッジにある書店。オンライン販売のほかカタログ販売も行っている。送料は購入した本の重さによって変わる。(例:ペーパーバック2冊1.5kgで7.50ポンド)2〜3週間で届く。







 本によってはどちらか一方の割引率が大きいこともあるが、iBSとアマゾンUKの価格に大差はない。送料との兼ね合いや使い勝手でどちらかを利用するとよいだろう。Heffersのカタログを取り寄せ、じっくり選んでメールで注文するという手もある。


◆オーストラリアの本がほしいとき

Dymocksの画像 【Dymocks】――オーストラリア最大の書店――
(http://www.dymocks.com/)
 取扱いは航空便のみで、送料は2.5kgまで一律20Aドル。


【The Australian Online Bookshop】
(http://www.bookworm.com.au/)
 最大15%の割引。送料は購入した本の重さによって変わる(例:1kgで船便11Aドル、航空便16Aドル)。


◆絶版本もきっと手に入る!?

【Bookfinders】新刊書から古本までパワフルに検索
(http://www.bookfinder.com/)

【パウエル古書店】100万冊の在庫を誇る
(http://www.powells.com/)

【Mr.Chocolate】児童書専門の古本屋 リンク切れ
(http://www.mrchocolate.aus.nu/)


◆あっと驚くリンク集

【世界の書店リンク集】世界各地のオンライン書店がズラリと並ぶ
(http://nakano.no-ip.org/blog/links/index.php)


 オンライン書店のサイトは見ているだけでも楽しい。しかし見ているだけのつもりが、ふと気がつくと何冊も買っていた……ということにもなりかねないのでご用心。また、本が届くまでに時間がかかるので、いつどこで何を買ったのか忘れてしまわないように、メモをとっておくとよいかもしれない。魅力と魔力を兼ね備えたオンライン洋書ショッピングだが、賢く活用し、どんどん買ってどんどん読もう!

(生方頼子)

 

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展示会/セミナー・講演会情報

―― 展示会情報 ――
ゴールデンウィークは展示会へ行こう!

 

☆西武アートフォーラム「世界の絵本原画展'99」
所在地: 西武百貨店池袋店6F 西武アートフォーラム
電 話: 03-3981-0111
会 期: 平成11年4月28日(水)〜5月6日(木)まで
入場料: 高校生以上500円 小中学生200円
内 容: アジア、アフリカ、ラテンアメリカのイラストレーターによる絵本原画展。
 
☆小田急美術館「絵本の100年展」
所在地: 小田急百貨店新宿店 11F
電 話: 03-3342-1111
会 期: 平成11年4月21日(水)〜5月9日(日)まで
入場料: 800円
内 容: プーさんやババールなど、長く親しまれてきた絵本250点を紹介。
 
☆名古屋三越「ディック・ブルーナの世界展」
所在地: 名古屋三越 栄本店 7F 催物会場
電 話: 052-252-1111
会 期: 平成11年4月28日(水)〜5月4日(火)まで
入場料: 一般600円
内 容: ミッフィー(うさこ)ちゃんで有名なブルーナの原画展。
 
◎斑尾高原絵本美術館「イギリス女流絵本画家展」
所在地: 長野県飯山市斑尾高原11492-224
電 話: 0269-64-2807
会 期: 開催中/平成11年6月30日(水)まで
休館日: 火曜日
入場料: 700円
内 容: ヘレン・オクセンバリー、アンジェラ・バレット、シャーロット・ヴォークなど、イギリスの第一線で活躍する女流絵本画家の原画を展示。
 
◎JR大阪セルヴィス・ギャラリー「谷内こうた ノルマンディーの便り展」
所在地: JR大阪駅構内
電 話: 06-6346-3564
会 期: 開催中/平成11年4月22日まで
休館日: なし
入場料: 無料
内 容: 絵本作家・谷内こうた氏が活躍するノルマンディー地方の風景のイラストを中心に展示。
 
◎えほんミュージアム清里「キュリアス・ジョージの世界」
所在地: 山梨県北巨摩郡高根町清里3545-6079
電 話: 0551-48-2220
会 期: 開催中/平成11年7月12日(月)まで
休館日: 火曜日
入場料: 大人700円 小中学生400円
内 容: 「ひとまねこざる」シリーズの原画や資料を展示。
 
◎山田かまち水彩デッサン美術館−常設展
所在地: 群馬県高崎市片岡町3-23-5
電 話: 0273-24-3890
会 期: 1年中(ただし季節ごとに展示内容変更)
休館日: 水曜日
入場料: 大人500円 高中小学生200円
内 容: 秀でた才能で、水彩画やデッサン、詩やメモなどを数多く残し、わずか17歳でこの世を去った山田かまちの常設展。

(瀬尾友子/菊池由美/分銅晴子)

 

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―― セミナー・講演会情報 ――

 

◎宝塚市立中央図書館「絵本とおはなしについての講演」
講 師: 間崎(大月)ルリ子
場 所: 宝塚市立中央図書館 2階集会室
日 時: 平成11年4月26日(月)10:30-12:00
参加費: 無料
内 容: エッツの絵本『もりのなか』などの訳者である間崎氏が、絵本やおはなしについて講演。午後には講師によるおはなし会の予定もあり。
申 込: 不要(当日直接会場へ)
 
◎クレヨンハウス(東京・大阪)「地球の宝探し」
講 師: 新宮晋
場 所: 東京 港区北青山3-8-15  クレヨンハウス
大阪 吹田市江ノ木町5-3 クレヨンハウス
日 時: 東京 平成11年5月8日(土)16:00-17:30
大阪 平成11年5月1日(土)16:00-17:30
参加費: 会員は無料(年会費に含まれる) 非会員は2500円
内 容: 『じんべいざめ』や『キッピスの訪ねた地球』など、絵本作家としても知られる彫刻家・新宮晋氏が絵本誕生までの過程について語る。
申 込: クレヨンハウスへ(東京03-3406-6492 大阪06-6330-8071)

(菊池由美/宮坂宏美)

 

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注目の本(邦訳編)

―― からくり時計の中に住む、不思議なテレパシーネズミたち  ――

 

ピーター・ディッキンソン作『時計ネズミの謎』
エマ・チチェスター・クラーク絵  木村桂子訳
1998.5発行 評論社 本体2,200円

"Time and the Clockmice, Etcetera"
Delacorte Press 1994

『時計ネズミの謎』表紙

 

 ブラントンの町の有名な大時計が、99年目を迎えて止まってしまった。そこで、時計をつくった技師の孫であるわたし、老時計技師の出番がやってきたんだ。わたしが大時計のからくり人形のふたをあけてみると、そこにいたのは普通とちょっと違うネズミ。じつは、この時計の中には、賢いテレパシーネズミの一族が住んでいた。どんなテレパシーかって? 彼らは絵言葉のようなかたちで意志を通じ合う。ほら、エマさんの描いた絵をみてごらん、こんな感じさ。

 時計の修理をするうちに、からくり時計のしくみのすばらしさと共に、時計ネズミのすばらしさがわかってきた。わたしのユニークないとこたち――鐘の魔力にとりつかれたミニー、マーマレード好きで材木の研究家サイラスなど――の助けも借りながら、なんとか修理はすすんだ。だが、わたしの失言がもとで、ネズミたちに危険がせまることになってしまった!

 異常な設定と超自然的な出来事が、豊富な知識に裏付けられた詳細な描写によってリアリティを持つというのが、ディッキンソンの作風である。軽いタッチのこの作品においてもその持ち味がよく生かされ、おとぎばなしのような筋立てが決して嘘っぽくならない。時々挿入される技術的な解説、哲学的な考察などの余談めいた部分も説教臭くはなく、ストーリーと絶妙にからみあってくる。章立てのかわりに、「ネズミについて その1」「鐘について その1」といった見出しの文章で全体が組み立てられる、ちょっと変わった構成。子ども対象の作品でありながら、登場人物に子どもがひとりもいないのも特徴といえる。凝った言い回しやイギリス人らしい諧謔に満ちた文章は、読書力のある子ども向けだし、設定もはじめはわかりづらいが、文章とぴったり合ったふんだんな挿絵(エマ・チチェスター・クラーク。他の作品に『竜の子ラッキーと音楽師』岩波書店など)が助けになるだろう。

 お話を楽しみながらいつのまにか、真理や人間や地球について思いをはせている自分に気がつく、魅力にあふれた一冊。文字の多い絵本という体裁だが、内容は小学中学年以上向け。大人も充分楽しめる。

(菊池由美)

 

【作者】Peter Dickinson(ピーター・ディッキンソン)
 1927年、リビングストンに生まれ、幼年時代をアフリカで過ごす。ケンブリッジ大学在学中に週刊誌「パンチ」の文芸編集者の職につき、17年間務める。その間に評論、創作を始め、初めての本格長編ミステリを1968年に発表、ゴールド・ダガー賞を受賞する。同年、児童向け作品"The Weathermonger"(『過去にもどされた国』大日本図書)を執筆、その後も多くの作品を発表し、カーネギー賞(2回)、Whitbread賞、BGHB賞など、ヤングアダルトの主要な賞だけでも16回も受賞している。

【訳者】木村桂子(きむらけいこ)
 1947年、東京生まれ。大阪大学大学院修士課程修了(工学科石油化学専攻)。創作『からっぽの地球人』で、愛知県教育振興会「子とともに、児童文学賞」最優秀賞受賞。1985年、ひくまの出版から『泣くなあほマーク』と改題して出版される。その後も幼年文学作品を執筆。最近の創作作品に、『ワームホールの夏休み』(評論社、1995年)がある。

 

 

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注目の本(未訳編)

―― 知的障害のある両親を持った少女の心の葛藤と成長を描く ――

 

『ルイジアナの空の下で』(仮題)
キンバリー・ウィリス・ホルト作

Kimberly Willis Holt "My Louisiana Sky" 200pp.
Holt, 1998 ISBN 0-8050-5251-8

 

1950年代のアメリカ、ルイジアナ州――12歳のタイガー・アン・パーカーは、両親と祖母と4人で暮らしていた。両親には知的障害があったが、タイガーは聡明で運動神経もよく、活発な明るい女の子に成長した。両親は子どものように純粋な心でひとり娘のタイガーを愛し、しっかり者の祖母も孫の良き相談相手となっていた。

 タイガーの悩みは、村の女の子たちから仲間外れにされることだった。地主の息子、ジェシーという親友もいたし、男の子たちから野球に誘われることも多かったが、年頃のタイガーにはどうしても女の子の友だちが必要だった。ある日、タイガーは母親の幼稚な振る舞いを女の子たちに笑われ、大きなショックを受ける。彼女は生まれて初めて母親に向かって怒鳴り、両親を恥ずかしく思った。

 そんなタイガーに追いうちをかけるように、唯一の心の支えだった祖母が急死した。タイガーは悲しみにうちひしがれるが、その気持ちを理解してくれる人は誰もいない。そこへ大都会バトンルージュに住む叔母がやって来て、タイガーに一緒に住まないかと提案した。タイガーは、都会で新しい生活ができると大喜びするのだが……。

 詩的な美しい文章でしみじみと感動できるこの作品は、98年ボストングローブ=ホーンブック賞のオナーに選ばれた。主人公タイガーの葛藤をメインに描かれているが、叔母や祖母の複雑な心境にも触れられており、知的障害者の家族を持つというのはどういうことなのか、家族・家・ふるさととは何なのかについても考えさせられる。物語の後半では、タイガーの母親に関する意外な事実も明らかになるなど、最後まで読者をひきつける作品であることは間違いない。

 ただし、母親が美化されている点、結末があっさりしすぎている点が多少気になった。実際にはもっと複雑で難しい問題なのではないかと思わせるところもいくつかあり、知的障害を題材として扱うことの難しさを感じた。

 作品のテーマは、おそらく祖母のセリフ"People are afraid of what's different"(人は違うことをおそれるものだ)に凝縮されていると思われる。他の人たちとは違う環境に置かれた主人公が、いかに自分の居場所を見出していくかが、この作品の読みどころといえる。

(宮坂宏美)

 

Kimberly Willis Holt
 テキサス州アマリロ在住。海軍士官の父を持ち、幼年期を世界各地で過ごす。本作品の舞台となっているルイジアナ州は、ホルト家が7代住んでいた土地で、著者自身にとってもふるさとと呼べる場所だとのこと。以前から雑誌に短編などを書いていたが、単行本を出版したのはこれが初めて。同じく98年に出版した"Mister and Me"も、ジュニア図書ガイドセレクションに選ばれている。

 

 

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お菓子の旅 第4回

―― 手軽に作れるイギリスの家庭の味 ――
〜トライフル Trifle〜

 

 A moment's thought, and Tom had glided into the kitchen and thence into the larder. This would have been a routine move at home; he and Peter had often done it.
 In Aunt Gwen's larder there were two cold pork chops, half a trifle, some bananas and some buns and cakes.

Philippa Pearce "Tom's Midnight Garden"
Harper Trophy (1958)

 

 親戚の家で眠れぬ夜を過ごしていたトム。ある日の夜中、そっとベッドを抜け出すと……。時を超えた不思議な出会いを描いたファンタジーの名作、『トムは真夜中の庭で』(高杉一郎訳/岩波書店)の一場面です。

 トムのおばさんの食料品貯蔵室に肉やパンや果物といっしょにおいてあったトライフルは、残ったスポンジケーキや果物を使って作る、イギリスの家庭ではおなじみのお菓子です。trifleとは、「とるに足らない」「つまらない」などの意味。もともと濃いクリームと砕いたビスケットを混ぜただけの質素なものだったために、この名前がついたといわれます。それぞれの家庭で、そのときにあるものを使って手軽に作るので、特に決まったレシピはありません。好きな果物をたっぷり使い、トッピングも様々に工夫して、自分だけのトライフルを作ってみませんか。

 


*-トライフルの作り方-*
材料:6人分
バター 大さじ1と1/2 卵黄 3個分
コーンスターチ 大さじ3と1/2 砂糖 25g
牛乳 450cc バニラエッセンス 適量
スポンジケーキ(20×5cm角) 1/2本 あんずジャム 適量
バナナ(好きな果物) 2本(適量) レモン汁 少々
ドライシェリー酒 大さじ5 ホイップクリーム 100cc
トライフルの写真
  1. カスタードを作る。バターを弱火で溶かし、コーンスターチを入れてよく混ぜる。とろりとしたら、牛乳・砂糖を少しずつ加えてのばす。沸騰直前に火から下ろし、卵黄を加えて泡立て器などですばやく混ぜる。再び弱火にかけ、沸騰させないように2分ほどあたためる。火から下ろし、バニラエッセンスを加えてよく冷ます。
  2. 3〜4cm角に切ったスポンジケーキをさらに半分に切り、間にあんずジャムをぬったものを大きめのグラスに並べて入れる。
  3. 並べたスポンジケーキにシェリー酒を均等にふりかける。
  4. スポンジケーキの上に、薄切りにしてレモン汁をふったバナナをのせる。
  5. 冷めたカスタードをスポンジケーキとバナナがかくれるくらいたっぷりとのせ、冷蔵庫でカスタードが固まるまで4〜5時間冷やす。
  6. カスタードが固まったらさらにホイップクリームをのせ、レーズンやスプレーなど好みでトッピングする。

 

*-参考文献-*

『イギリスのお菓子II』 北野佐久子著 ソニー・マガジンズ
『英国おいしい物語』 ジェイン・ベスト・クック著 原口優子訳 東京書籍

(森久里子/田中亜希子)

 

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やまねこ翻訳クラブ(会員数132名)


 やまねこ翻訳クラブは、海外の子どもの本に関する情報交換、翻訳・シノプシス自主勉強会などを行っている児童書専門サークルです。翻訳と子どもの本に興味のある方でしたらどなたでも入会できますので、ぜひお気軽にご参加ください。

―― 99年4〜5月の主な活動 ――

海外児童文学賞受賞作読破マラソン
セーラー出版社長・小川悦子さんを招いて(座談会)


出版翻訳ネットワークのホームページに新刊情報を掲載しませんか?

http://www.litrans.net/maplestreet/


●編集後記●

 インターネットの普及で、海外の洋書を安く手に入れたり、日本での出版状況を調べたりするのもだいぶ楽になりました。翻訳家志望のみなさん、是非こういった便利なツールを使って、すばらしい未訳の本を発掘してくださいね。(み)


発 行: NIFTY SERVE 文芸翻訳フォーラム・やまねこ翻訳クラブ
発行人: 小野仙内(文芸翻訳フォーラム・マネージャー)
編集人: 宮坂宏美(やまねこ翻訳クラブ・スタッフ)
企 画: 河まこ キャトル くるり Chicoco どんぐり BUN ベス YUU りり ワラビ
協 力: ながさわくにお HAROU SUGO わんちゅく こべに


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