メニュー「月刊児童文学翻訳」バックナンバー>2014年03月号   オンライン書店


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2014年3月号
   =====☆                    ☆=====
  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
                                No.155
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2014年3月15日発行 配信数 2470 無料
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●2014年3月号もくじ●
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◎出版社シリーズ研究:第3回 岩波書店「STAMP BOOKS」
◎出版社シリーズ研究連動レビュー:『路上のストライカー』
                  マイケル・ウィリアムズ作/さくまゆみこ訳
◎注目の本(未訳読み物):"Goth Girl and the Ghost of a Mouse"
                              クリス・リデル作
◎賞速報
◎イベント速報
◎世界のお祭り:第31回 チャランダマルツ(スイス)
◎読者の広場

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●出版社シリーズ研究●第3回 岩波書店「STAMP BOOKS」
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 2011年10月号以来、久しぶりに「出版社シリーズ研究」をお届けする。今回取り上
げるのは、岩波書店が昨年創刊したヤングアダルト(YA)向けの海外文学シリーズ
「STAMP BOOKS」だ。児童書編集部の若手編集者、須藤建さんと熊倉沙希子さんに、
やまねこ翻訳クラブ会員が企画した読書会にご参加いただき、その後、会員たちがお
ふたりを囲む形で、インタビューをおこなった。

■シリーズ誕生のいきさつ

「STAMP BOOKS」は、岩波書店創業100周年記念企画の一環として2013年の1月に創刊
されたシリーズだが、構想は2010年から始まっていたという。そもそものきっかけは、
10代のころに原書で読んだYA作品を出版したいという、熊倉さんの思いだった。そ
の作品とは、のちにシリーズ第1弾となる『アリブランディを探して』(メリーナ・
マーケッタ作/神戸万知訳)である。思春期の悩みを抱えてオーストラリアに留学し
た熊倉さんは、学校の課題図書として本書を読み、同年代の女の子の気持ちがストレ
ートに書かれている点に強く惹かれた。児童書の編集者となり、この作品を日本で出
版したいと考え始めていたところ、2010年の春、児童書編集部に異動してきた須藤さ
んが原書を読んで、気に入ってくれた。ただ、既存のラインアップにあてはまらず、
単独で出すことは難しかった。だったら、現代の若者の日常がリアルに描かれている
海外の作品をシリーズで打ち出そうと、2人で企画を立てた。その企画が、編集長の
愛宕裕子さんの理解と後押しを得て実現の運びとなり、創業100周年に合わせて、
「STAMP BOOKS」シリーズとして創刊されたのである。

■シリーズのコンセプト

 いわずと知れた老舗出版社であり、児童文学ではいわゆる名作や古典作品の版元と
してのイメージが強い岩波書店だが、「STAMP BOOKS」シリーズでは、「現代」にこ
だわった。さまざまな悩みや不安を抱える若者たちに、今の作品を届けたい。海外に
も同じような悩みを持つ子がいることを知ってほしいし、それを日本の作品にはない
表現のしかたで語ったものを読んでほしい。そんな思いが強くこめられている。熊倉
さん自身が悩み多きときに日本を離れ、全く違う土地で心境の変化を感じたこと、そ
して、そこで出合った現代のYA作品に共感し、励まされ、救われたことが根底にあ
る。アメリカや台湾で学んだ経験のある須藤さんも、「このラインアップは、日本の
若者たちに共感してもらえると思うし、作品に描かれている世界に関心を持ってほし
いと願っています」とのこと。須藤さんは、児童書の担当になった直後に、『はみだ
しインディアンのホントにホントの物語』(シャーマン・アレクシー作/さくまゆみ
こ訳/小学館)や『ピーティ』(ベン・マイケルセン作/千葉茂樹訳/鈴木出版)を
読んで心を動かされ、こういったリアリズムのYA作品を出したいという気持ちを強
くしたそうだ。おふたりの言葉の端々から、本、特にフィクションの持つ力を信じる
気持ちや、それを日本の若者たちに届けるんだという思いが伝わってきた。

■こだわりの装丁

 洋書のペーパーバックを意識して、軽くて持ちやすい並製にし、若い読者が思わず
手に取りたくなるようなかっこいい装丁にしたい。そんな希望を、社内のデザイナー
が見事にすくいあげ、早い段階で完成度の高いデザインを提出してくれた。「STAMP
BOOKS」というシリーズ名も、デザイナーから提案されたものだ。「海外からあなた
に届く物語」というイメージで、エアメールを基調にしたデザインが、企画書を出す
前におおむね固まっていたという。「こだわってこだわって完成させたかったので、
カバーの試作品を本に巻き、こっそり書店の棚に差して見栄えを確かめたりもしまし
た」と、須藤さん。飛行機の絵の切手と国名の消印のマーク、表紙や背に配された横
文字の原題などのパーツが、全体的に抑えた色合いとあいまって、ポップでありなが
ら落ち着いた印象を与える。これなら確かに、ブックカバーをかけずに持ち歩きたく
なるし、シリーズでそろえて並べると、見ているだけでも楽しくなる。

■作品との出合い

 各作品との出合いのきっかけは、編集者本人による発掘、翻訳者やエージェントか
らの紹介、海外のブックフェアなど、さまざまだ。例えば、失踪した女友達の行方を
追う男子高校生を描いたアメリカの作品『ペーパータウン』(ジョン・グリーン作/
金原瑞人訳)は、須藤さんがインターネットの書評サイトで知ったもの。自ら原書を
読んで気に入り、その後、金原瑞人氏に読んでもらって意見を聞いた。電子出版部か
ら異動してきた須藤さんが、絵本と少年文庫以外で初めて担当する本ということもあ
り、また、ジョン・グリーンが比較的新しい作家ということもあって、英語圏のYA
作品に精通している金原氏の評価を知りたかったからだ。同じ作者の『さよならを待
つふたりのために』(金原瑞人・竹内茜訳)は、原書出版の前に、版元から優先的に
情報を得ることができた。アメリカでは、初版15万部が予約で完売したという超人気
作品。映画化も決まり、日本のメディアでも取り上げられるなど、話題になっている。
 南アフリカの作品『路上のストライカー』(マイケル・ウィリアムズ作/さくまゆ
みこ訳)は、さくまゆみこ氏から紹介されたのをきっかけに、須藤さんが出版を決め
た。ジンバブエから南アフリカに逃れた少年を主人公に、政情不安や外国人排斥など
の苛酷な現実を、サッカーへの情熱とともに描いた作品だ(本誌今月号「出版社シリ
ーズ研究連動レビュー」参照)。
 スウェーデン発の『わたしは倒れて血を流す』(イェニー・ヤーゲルフェルト作/
ヘレンハルメ美穂訳)は、アウグスト賞の児童書・YA部門受賞作品。熊倉さんがボ
ローニャ・ブックフェアでエージェントから紹介され、ヘレンハルメ美穂氏による要
約を読んで、涙が出るほど感動した。「表現が生々しく、ハードな面もあるのですが、
いい物語なので敬遠しないで読んでほしいです」と、熊倉さん。
 須藤さんも熊倉さんも、英語の原書はなるべく自分で読むようにしているが、そう
することで偏りが出ると感じることもあり、今後はリーディングを依頼することも視
野に入れている。

■『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』

 このインタビューのきっかけとなった読書会の課題本であり、2013年やまねこ賞の
読み物部門大賞受賞作品でもある『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』(フラン
シスコ・X・ストーク作/千葉茂樹訳)の裏話も伺った。この作品は、千葉茂樹氏か
ら別の編集者に紹介されたことがあったのだが、シリーズの立ち上げ前だったため、
単独で出すのは難しいなどの理由で、そのときは出版に至らなかった。そのあと須藤
さんが書評サイトで知り、原書を読んで気に入ったので、「STAMP BOOKS」の1冊と
して出版することになったそうだ。なるほど、本誌2013年12月号に掲載した、千葉氏
の「受賞の言葉」に、「一度は手の届かないところへいってしまった」とあるのは、
こういうことだったのだ。評価の高い作品でも、単独でアピールするのは難しいこと
がある。シリーズを設けることの意義がよくわかるエピソードだ。
 シリーズの中でこの作品だけ、原書と同じ装画を使っていることも興味深い。これ
は、原書の表紙が文句なしにすばらしかったことに尽きる。作者からも、もしも表紙
の絵を変えるなら、事前に見せてほしいと要望があったそうだ。それぐらい作者も気
に入っていたということだろう。

■チームワーク

 創刊時に2作を同時刊行したあと、2か月に1作のペースとなり、今月下旬に発行
されるベルギーの作品『15の夏を抱きしめて』(ヤン・デ・レーウ作/西村由美訳)
を含めて、ここまで9作品が並んだ。担当者2人でこのペースを守るのはかなりハー
ドだったに違いないが、発行の順番がうまい具合に調整されたこともあり、予定通り
に進行できた。お互いの担当作品を読み合ったり、意見を交換したりというのは、シ
ステマチックにやっているわけではなく、毎日の仕事の中で自然になされている。児
童書編集部は、編集長、須藤さん、熊倉さんの3人だけ。会議で話し合うことももち
ろんあるが、日常業務中にも会話が多く、そのおかげで互いの仕事内容も把握しやす
いとのこと。今回の取材の中でおふたりが交わされる会話を聞いていても、意思の疎
通がしっかり図れているのがわかり、チームワークの良さを感じた。

■シリーズの今後

 創刊から1年経ったこともあり、今後は、これまでの総括をしながら、続刊のライ
ンアップや出版のペースを決めていくことになるそうだ。YA世代からの反応はまだ
十分に把握できていないため、既刊のものを確実に届け、広めていく努力の必要性も
感じている。いろいろな国の物語が読めることが魅力なので、これからも世界各国の
作品をラインアップに加え、長く続くシリーズにすることをめざしている。
 最後に、おふたりそれぞれの思いも伺った。
「シリーズのバリエーションを広げたい。『きみに出会うとき』(レベッカ・ステッ
ド作/ないとうふみこ訳/東京創元社)のような、SFっぽい作品があっても面白い
と思います。それと、以前住んだことのある台湾の作品を出してみたいですね。若者
を描いた短編作品にもいいものがあるので、権利の関係など難しい点もありますが、
検討してみたいです」(須藤さん)
「悩みに寄り添うような作品だけでなく、もっと読みやすく楽しい作品も出して、若
い人たちにより気軽に手に取ってもらいたいと思っています」(熊倉さん)

◆取材を終えて

 今回は、読書会のあと、12人ものやまねこ会員が2人の編集者を囲むという異例の
取材だったが、おふたりには快くお話しいただき、にぎやかな楽しいひとときとなっ
た。海外読み物の人気が下降気味の昨今に、新しいシリーズを打ち出すパワーや、一
冊一冊を大切に作り上げ、読者に届けるんだという一途な思いが伝わってきて、参加
者一同、大いに刺激を受けた。海外児童文学愛好者として、翻訳に携わる者として、
私たちも役割を果たしていかなければと思う。

▼岩波書店ウェブサイト
http://www.iwanami.co.jp/

▼同ウェブサイト内「STAMP BOOKS」紹介ページ
http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/116401=/top.html

▽『マルセロ・イン・ザ・リアルワールド』レビュー(本誌2013年9月号「特集1」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2013/09.htm#hyomi1

                           (取材・文/大作道子)

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●出版社シリーズ研究連動レビュー●憎悪を招く無知と、希望をもたらすサッカー
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『路上のストライカー』 マイケル・ウィリアムズ作/さくまゆみこ訳
岩波書店 定価1,785円(税込) 2013.12 270ページ ISBN 978-4001164046
"The Billion Dollar Soccer Ball" Maskew Miller Longman, 2009 (South Africa)
"Now Is the Time for Running" Little, Brown and Company, 2011 (US)
by Michael Williams
Amazonで詳細を見る  hontoで詳細を見る  Amazonで原書を見る

 強烈なインフレ、暴動、虐殺、難民。
 遠い国のそういった現実をニュースなどで知り、暗たんたる気持ちになっても、実
際に巻き込まれた人の身になって考えるのはなかなか難しい。しかし、当事者を描い
た物語には、その難しい想像を可能にしてくれる力があるように思う。
 ジンバブエに住む15歳の少年デオは、ある日、兄とともに村から逃げ出す。「大統
領がこの村の投票結果に満足していない」という理由で、兵士たちが村人の虐殺を始
めたからだ。デオは、祖父の手作りのサッカーボールに、なけなしの「10億」ジンバ
ブエドルをつめ、生き別れの父親がいると思われる隣国の南アフリカを目指す。
 デオと兄を待ち受けているのは、ワニのすむ川、難民を狙う強盗、ライオンやハイ
エナがうろつく自然保護区だ。やっとの思いで南アフリカに入った後も、ふたりは地
元から雇用を奪う厄介者と見なされ、住民の激しい憎悪にさらされる。それでもデオ
には大好きなサッカーがあり、守るべき兄がいた。10歳年上のイノセントは、ラジオ
や石けんに強いこだわりを示すなど、少し変わったところがある。そんな兄にデオは
いらつきながらも、どこか支えられて旅をつづけていく。
 兄弟を襲う不幸は目を覆いたくなるほど悲惨だが、作者は、実際の出来事を「手加
減して」描いたと後書きで語っている。そもそも作者がこの物語を書いたのは、南ア
フリカで外国人襲撃が起きた際に撮られた、焼き殺される男性の写真を見たからだっ
た。男性がどんな事情でこの国に来たかわかっていたら、人々は男性を殺しただろう
か? その疑問の答えを探して、作者は難民の調査を進めたという。日本でも韓国人
などに対するヘイトスピーチが問題になっているが、相手の外国人のことをよく知っ
ていたら、果たして同じようにののしることができるだろうか?
 本作の第3部に登場する「ストリートサッカー・ワールドカップ」は、2003年から
毎年開催されている「ホームレス・ワールドカップ」がモデルだ。このサッカー大会
には、日本も「野武士ジャパン」というチーム名で参加している。世界中のホームレ
スの人たちが国の代表となり、大会を機に人生を変えるチャンスを得るとのこと。こ
ういった活動があるのもまた現実だということに、暗闇の中で光を見る思いがした。

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【作】マイケル・ウィリアムズ(Michael Williams):南アフリカ生まれ。小説家。
劇、ミュージカル、オペラの脚本家。「ケープタウン・オペラ」の総合監督。ケープ
タウン大学在学中にラジオ劇を書き始め、25歳のときに最初の小説を出版。アフリカ
の神話をもとにした若者向けのオペラなども手がけている。1992年に発表したYA小
説 "Crocodile Burning" も高い評価を受けた。本作が初の邦訳作品。

【訳】さくま ゆみこ:東京都生まれ。翻訳家。青山学院女子短期大学教授。「アフ
リカ子どもの本プロジェクト」代表。著書に『エンザロ村のかまど』(福音館書店)、
『どうしてアフリカ? どうして図書館?』(あかね書房)、最近の訳書に『やくそ
く』(ニコラ・デイビス文/ローラ・カーリン絵/BL出版)、『ひとりでおとまり
したよるに』(フィリパ・ピアス文/ヘレン・クレイグ絵/徳間書店)などがある。

【参考】
▼"Billion Dollar Soccer Ball" 作品紹介ページ(Maskew Miller Longman 内)
http://www.mml.co.za/book/9780636091931

▼野武士ジャパン公式ウェブサイト
http://www.nobushijapan.org/

▼さくまゆみこ公式ウェブサイト
http://members.jcom.home.ne.jp/baobab-star/

▽さくまゆみこ訳書・著作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/ysakuma.htm

                                (宮坂宏美)

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●注目の本(未訳読み物)●リデル・ワールド炸裂の奇天烈ファンタジー
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"Goth Girl and the Ghost of a Mouse"
『キミワル屋敷の少女とネズミの幽霊』(仮題)
by Chris Riddell クリス・リデル作
Macmillan Children's Books, 2013, 220pp. ISBN 978-0230759800 (UK) (HB)
★2013年度コスタ賞児童書部門受賞作品
Amazonで詳細を見る

 18世紀末のイングランド。広大な敷地に立つキミワル屋敷に、少女エイダは父ゴス
卿とふたりで暮らしている。綱渡り師だった母は、エイダが赤ん坊のときに練習中の
事故で亡くなった。それ以来、ゴス卿は妻の面影濃い娘を避け、詩作に没頭するか、
らっぱ銃や足けり自転車で遊ぶかで悲しみを紛らわせていた。エイダはいつもひとり
ぼっち。家庭教師も居つかず、屋敷内で幽霊には出くわしても、使用人や仕事見習い
の子とは、顔を合わせる機会すらほとんどなかった。そんなある日、エイダの部屋に
ネズミの幽霊イシュメイルが現れ、以後、ことあるごとに姿を見せるようになる。
 ひょんなことから、エイダは滞在客の連れの子どもふたりに出会い、彼らが屋敷の
見習いの子たちと主催する〈屋根裏クラブ〉に入れてもらえることになった。折しも、
屋敷では毎年恒例のパーティーの準備が進められていた。エイダたちクラブのメンバ
ーは、このパーティーのイベントで屋内狩猟番人が策略をめぐらし、偽の招待状で客
を呼んでいることに気づく。なんとしても悪事を阻止せねば! しかし、パーティー
はもう3日後に迫っていた。
 ホラーとミステリーの香り漂うゴシックファンタジーかと思いきや、なんとも奇天
烈なストーリーでびっくり。登場する大人たちは足けり自転車レースに熱狂し、虫取
り網を手に、屋内に放たれた獲物を追いかけるなど、なにもかもハチャメチャで、ま
ともなのは子どもたちだけなのだ。水面下で進行する企みはスリリングなのに、大人
たちが滑稽すぎて、爆笑を誘う。そんな大人が頼りになるはずもなく、子どもは自分
たちだけで悪事に立ち向かう。彼らが一致団結して編み出した作戦は、まさに圧巻!
 ケイト・グリーナウェイ賞を2度受賞し、画家としての評価が高いリデルが、本書
では作家として、得意のユーモアを駆使し、奇想天外な物語を生み出した。ふんだん
に盛りこまれた、遊び心いっぱいの挿絵は、もちろん彼自身が手掛けている。緻密に
描かれた屋敷の様子や、登場人物の個性的な服装も必見。装丁も凝っていて、裏表紙
の見返しには、なんと、本作と連動したミニブックの付録が。これは、作中で水先案
内役を果たしている、ネズミが書いた(設定の)本で、本作読後にもうひとつの物語
が楽しめるというわけだ。笑いどころ満載のリデル・ワールド、とくとご堪能あれ。

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【作】Chris Riddell(クリス・リデル):1962年、南アフリカ生まれ。児童書の執
筆、挿絵のほか、英国の新聞で風刺漫画の連載を持つなど幅広く活躍している。挿絵
を手掛けた作品に、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作『ヴィジュアル版 ガリヴァー
旅行記』(ジョナサン・スウィフト原作/原田範行訳/岩波書店)、「崖の国物語」
シリーズ(ポール・スチュワート作/唐沢則幸訳/ポプラ社)などがある。英国ブラ
イトン在住。

【参考】
▼クリス・リデル公式ウェブサイト
http://www.chrisriddell.co.uk/

▽コスタ賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/whit/index.htm

                                (蒲池由佳)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2014年ケイト・グリーナウェイ賞ロングリスト発表
★2014年カーネギー賞ロングリスト発表
(カーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞ショートリストの発表は3月18日、
                        受賞作品の発表は6月の予定)
★2013年度ローカス賞YA部門推薦作品発表(読者投票受付は4月15日迄)
★2013年度アガサ賞児童書およびヤングアダルト部門候補作品発表
                     (受賞作品の発表は5月3日の予定)
★2013年金・銀の石筆賞発表
★2013年金・銀の絵筆賞発表
★2014年度IBBYオナーリスト発表
★2013年チェント賞ファイナリスト発表(最終順位の発表は2014年春の予定)
★2014年バンカレリーノ賞セミファイナリスト発表
★2014年エズラ・ジャック・キーツ賞発表
★2014年チルドレンズ・ブック賞受賞作品発表
★2014年ボローニャ・ラガッツィ賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 軽井沢絵本の森美術館「イギリスの絵本原画展」
 新見美術館「宮沢賢治・詩と絵の宇宙」 など

★講演会情報
 千葉市男女共同参画センター「オズと英米文学」
 ちひろ美術館・東京「トークイベント チェコの文化と子どもの本の魅力」 など

★東日本大震災チャリティイベント
 丸善日本橋店「こどもの本の画家たち展2」
 京都国際マンガミュージアム
 「手から手へ展 絵本作家から子どもたちへ 3.11後のメッセージ」 など

 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、
空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                           (冬木恵子/笹山裕子)

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●世界のお祭り●第31回 チャランダマルツ(スイス) 3月1日
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 今年は日本でも各地で大雪が降りましたが、そんな厳しい冬もそろそろ終わりを告
げる時期になりましたね。今回ご紹介するのは、スイス南東部の険しい山岳地帯、グ
ラウビュンデン州の春を迎えるお祭り、チャランダマルツです。
 チャランダマルツというのは、ラテン語で「月の最初の日」を意味する chalanda
と、「3月」という意味の marz が合わさってできた言葉で、その名のとおり3月1
日に祝われます。グラウビュンデン州特有のお祭りで、特にエンガディン地方のもの
が有名ですが、いつごろ始まったかは、現地の村人たちもはっきりはわからないよう
です。このあたりは、紀元前15年ごろローマ帝国に征服され、ローマの属州としてラ
エティア州と呼ばれていました。一説によると、そのころから受け継がれてきた伝統
ある慣習のようです。ローマ暦では、3月1日は年の初め、春の始まりと考えられて
おり、ローマの新年祭に起源があるという説があります。グラウビュンデン州の公用
語のひとつであるロマンシュ語は、ローマの支配下に置かれていたころの公用語ラテ
ン語が変形してできたもので、お祭りの名前がラテン語なのはその名残です。
 名峰や湖に恵まれたグラウビュンデン州には、険しい山々によって隔てられた谷が
100以上も点在しているため、習俗や方言といった文化が谷によって異なります。祭
りの内容も村によってさまざまですが、基本的には、男の子たちが鈴(カウベル)を
持って歌をうたい、村中に春の訪れを告げてまわるという形を取ります。今回は、州
南部のエンガディン地方にあるふたつの村、ツオーツとグアルダの祭りの様子をご紹
介します。
 イン川の源に近いツオーツ村では、約1か月をかけて祭りの準備をします。まず2
月の初めに、子どもたちの中から、祭りのリーダーとなる「パトロン」役の年長の少
年を4人と、そのパートナー役の少女を4人選びます。そして、2月の最後から2番
目の日曜日に村の子どもたちが集まり、祭り当日誰がどの鈴を使うかを決めます。鈴
を持つのは男の子だけで、4歳くらいの小さな子から、15歳くらいの大きな子まで年
齢はさまざまです。3月1日の早朝4時、静かな村に、パトロンたちが鳴らす鈴の音
が響き渡り、7時には鈴を持った少年たちが、青いスモックのような民族衣装に赤い
スカーフと帽子という、昔の牧童の格好で集まってきます。行列の先頭には、打ち鳴
らすための鞭とご祝儀のお金を入れてもらう箱を持った、ひとりめのパトロンが立ち、
その後ろに、首から下げた鈴の大きさの順に少年たちが並びます。最後尾を固める3
人のパトロンが引くそりには、ソーセージや栗、焼き菓子といったお金以外のご祝儀
を載せてもらいます。鈴行列は家々の戸口で春を迎える歌をうたい、村中をまわりま
す。まわり終わった子どもたちは、前もって予約してあった飲食店へ行き、パートナ
ー役の少女たちが栗を焼いたりゆでたりし、その間にパトロンたちが生クリームを泡
立てます。村中の子どもたちで盛大な夕食会を楽しんだ後、夜はダンスパーティーが
開かれます。
 ツオーツからイン川を少し下ったところにあるグアルダ村では、祭りは午後から始
まります。祭りに参加する少年たちの服装は、ツオーツと同じように青い民族衣装に
赤いスカーフと帽子ですが、ここグアルダでは年齢順に一列に並びます。先頭の年長
の子が一番大きな鈴を持ち、後ろにいくほど鈴は小さくなります。そして、鞭や棒を
持った年上の男の子が、行列の指揮をとります。これは、毎年初夏に家畜たちを高地
放牧地まで追いあげる、伝統的な「家畜の追いあげ」の様子を模しています。少年た
ちは、牛が首にかけても重そうな鈴をガランガランと鳴らし、春を迎える歌をうたい
ながら村中を練り歩き、あちこちにある共同井戸の周りをまわります。鈴の音を大き
く鳴らすのは、冬の悪魔を追い払うためと言われています。
 グアルダは、これからご紹介する絵本『ウルスリのすず』(ゼリーナ・ヘンツ文/
アロイス・カリジェ絵/大塚勇三訳/岩波書店)の作者ヘンツの故郷で、作品の舞台
にもなった村です。小さな鈴しか貸してもらえなかった少年ウルスリは、なんとかし
て大きな鈴を手に入れたいと、雪に閉ざされた山小屋まで出かけて行きます。ウルス
リはどうしてそこまでしたのでしょうか? それは、こんなわけでした。

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*
行列の先頭には、大きい子たちが、とくいげに、大きい鈴をふりたてて、すすみます。
鈴をたかくひびかせながら、さきにたって、村じゅうのいどや、牛小屋なんかをまわ
ります。
どの家にもはいっていって、鈴をならして、冬をおいだし、はれやかな歌声をひびか
せて、またくる春を、よろこび、むかえます。
すると、みんなは、そのおかえしに、木の実や、肉や、おかしなんかを、鈴いっぱい
に、いれてくれるのです。
でも、小さい子たちは、あとにのこって、まっていなければなりません。
*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

 特に昔は、この時期は食べ物が少なく、子どもたちは栗をもらうのをとても楽しみ
にしていたそうです。絵本の中でも、鈴行列を終えたウルスリが、お母さんが蒸して
くれた栗に生クリームをたっぷりかけて食べています。

★参考文献・ウェブサイト
『めるへんいっぱい スイス紀行』
(宮沢乃里子文/安野光雅画/クラウス・ディーター・モイリッヒ写真/東京書籍)
『スイス・風と光の小径へ』(小谷明文・写真/東京書籍)
スイス政府観光局公式ウェブサイト
http://www.myswiss.jp/jp.cfm/home/
Swissworld(スイス公式情報ウェブサイト)
http://www.swissworld.org/jp/

                           (村上利佳/笹山裕子)

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●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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 このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる
お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ
ください。

※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編
集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。

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●お知らせ●

 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。
こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
http://www.yamaneko.org/info/order.htm
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           ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・

 詳細は10日頃、出版翻訳ネットワーク内「やまねこ翻訳クラブ情報」のページに掲
載します。どうぞお楽しみに!
          http://litrans.g.hatena.ne.jp/yamaneko1/

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▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽

  やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。

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    ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のライフスタイルブランド ☆☆
 独創的なデザインで世界120ヶ国以上で愛用されているフォッシルはアメリカを代
表するライフスタイルブランドです。1984年、時計メーカーとして始まったフォッシ
ルは時計をファッションアクセサリーのひとつと考え、カジュアルでポップなライン
からフォーマルなシーンにも使えるアイテムまで、年間300種類以上のモデルを発売
し続けています。またフォッシル直営店では、時計以外にもレザーバッグ、革小物、
ファッションサングラスなどのラインを展開しています。
TEL 03-5992-4611
http://www.fossil.co.jp/     (株)フォッシルジャパン:やまねこ賞協賛会社
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★☆     出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです     ☆★
             http://www.litrans.net/
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     ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★
          http://www.litrans21.net/whodunit/mag/
未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や
編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉
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*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*= やまねこ翻訳クラブ広報ブログ =*=*=*=*=*=*=*=*=*=*=*

★広報ブログ「やまねこ翻訳クラブ情報」(litrans グループ ブログ内)
                  http://litrans.g.hatena.ne.jp/yamaneko1/
 ※メールマガジン「やまねこ翻訳クラブ・アクチベーター」は、昨年12月20日発行
の第245号をもって休刊いたしました。メールマガジン版にかわり、12月末から広報
ブログ「やまねこ翻訳クラブ情報」で、各掲示板の話題やクラブの動きなどの情報を
ご紹介しています!

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●編集後記●外国や他民族へのバッシングに関わるニュースがふえているように思い
ます。『路上のストライカー』のレビューにもあるように、相手の事情を知ることの
大切さを感じます。さまざまな情報がすばやく手に入る世の中ですが、しっかり書か
れた本をじっくり読むことの意義は、計り知れないと思います。(お)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 大作道子/蒲池由佳(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 尾被ほっぽ 加賀田睦美 かまだゆうこ くどうあきこ 小島明子
    笹山裕子 冬木恵子 宮坂宏美 村上利佳 森井理沙 山本真奈美
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
    asayaka からくっこ キャトル くらら SUGO ながさわくにお みーこ
    muzu ゆま ラッテ ワラビ
    html版担当 shoko
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