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月刊児童文学翻訳

─99年11月号(No.15 書評編)─

※こちらは「書評編」です。「情報編」もお見逃しなく!!

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:mgzn@yamaneko.org
1999年11月15日発行 配信数1,304


「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎注目の本(邦訳絵本)
シルバーマン文/エイジー絵『ハロウィーンのおばけ屋敷』

◎注目の本(邦訳読み物)
F・L・ブロック作『ウィーツィ・バット』

◎注目の本(未訳読み物)
シンシア・ライラント作 "The Cobble Street Cousins"

◎Chicocoの洋書奮闘記
第10回「雪辱戦」(よしいちよこ)

◎追悼
レオ=レオニ



注目の本(邦訳絵本)

―― ハロウィーンの館で恐怖の一夜?! ――

 

『ハロウィーンのおばけ屋敷』
エリカ・シルバーマン文 ジョン・エイジー絵
清水奈緒子訳
1999.9 セーラー出版 本体1,500円

Text by Erica Silverman, Illustrations by Jon Agee
"The Halloween House"(1997)
Farrar, Straus & Giroux, Inc.
『ハロウィーンのおばけ屋敷』表紙


 日本でも少しずつ浸透しているハロウィーン。このレビューをお届けする11月には終わっているが、時期を過ぎても、一年中楽しめる絵本が『ハロウィーンのおばけ屋敷』だ。実はこうして書いている私自身もハロウィーンに詳しい訳ではない。けれど、ページをめくるたびに、ぐいぐい絵本の中に入り込み、何度も繰り返し読みたくなった。

 物語は、やせっぽちのせいたかさんと、太っちょのちびさんの二人組が走ってるところから始まる。赤い縞模様の服を着た彼らは、どうやら脱獄囚らしい。逃げた先こそがハロウィーンの館、「くらく、ぶきみな おばけ屋敷……」である。

 ハロウィーンの館に隠れているのは、様々な住人たち。合計10種の住人は、オオカミ、ミミズ、コウモリに、ゆうれい、吸血鬼、ガイコツなど。それらが発する声や音は実に生き生きとリズミカルだ。

 例えば、ミミズ。「にょろにょろ、ぬるぬる、ぬらぬら、ぬめぬめ、にちゃにちゃ、ねちゃねちゃ、ねとねと、ねばねば。」のたくるミミズの音が聞こえてきそうである。

 様々な音を楽しむには是非とも音読を薦めたい。しかし、読んでる者には楽しいこれらの音は、逃亡中の二人には恐怖そのもの。眠れぬ一夜をハロウィーンの館で過ごした二人の、戻るべき先は、監獄。そこで、彼らはなにやら思案……。この最後のページには大笑いしてしまう。

 ハロウィーンが終わっても、絵本を開くと、いつでも愉快な気持になれるのがうれしい。

(林 さかな)


【作者】Erica Silverman(エリカ・シルバーマン)
 ハロウィーンが大好きな作家。他にも"Big Pumpkin"(1992/未訳)というハロウィーンをテーマにした絵本を出している。リズミカルな文体が特徴で、最新刊は"Raisel's Riddle"(1999/未訳)。

【イラストレーター】Jon Agee(ジョン・エイジー)
 ニューヨークの芸術学院卒業後、絵本作家としてデビュー。『飛行士フレディ・レグランド』(セーラー出版)では絵もストーリーも書いていて、こちらもおすすめの1冊。

【訳者】清水奈緒子(しみず なおこ)
 1965年、静岡県生まれ。常葉学園大学卒業。『きいろい家』(セーラー出版)が初の絵本翻訳書。以来、絵本翻訳は30冊以上。『砂の馬』『ストライプ』(いずれもセーラー出版)など。大人のための子どもの本の資料館「遊本館」(静岡市)スタッフでもある。

 

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注目の本(邦訳読み物)

―― ポップなファンタジー、だけどリアル! ――

 

『ウィーツィ・バット』表紙 『ウィーツィ・バット』
フランチェスカ・リア・ブロック作
金原瑞人・小川美紀訳
1999.10 東京創元社 本体980円

Francesca Lia Block "WEETZIE BAT" (1989)
HarperCollins Children's Books


 ウィーツィ・バットはハリウッドに住む高校生の女の子。ホワイト・ブロンドのクルーカット、ピンクのハーレクインのサングラス、ストロベリー色のリップ、飾りの下がったピアス、ラメ入りの白いアイシャドー。そんなおしゃれなウィーツィが、学校一カッコイイ、モヒカン少年ダークを好きになった。お互いクールな者同士、二人はすぐに意気投合。毎日、映画へライヴへと、連れだって行くようになった。

 ある日、ダークがウィーツィに告白した。「おれ、ゲイなんだ」すると、ウィーツィ、「ってことは、あたしたち、一緒にオトコをゲットしにいけるわね」かくして、二人の理想のオトコ探しが始まった。ところが、なかなかいいオトコは見つからない。そんな中、ひょんなことからウィーツィは、なんとランプの精に出会った。ランプの精は三つの願いをかなえてくれるという。ウィーツィはちょっと悩んだ末に、こう頼んだ。ダークとあたしに素敵な彼氏を、それと、あたしたちが幸せに暮らせる家を!

 と、こんな具合に物語は進んでいく。私はこの本を読み終わったとき、あまりの衝撃と感動に、思わず「かっこいい! おもしろい!」と叫んでいた。架空の出来事だったはずが、次々と現実になっていくナンセンス。今の十代の子どもたちを取り巻く多くの社会問題に、舞台LAの詳細な描写。この物語には「ファンタジー」と「リアリティ」がうまく同居している。その不思議な雰囲気に巻き込まれると、最後まで一気に読まずにはいられない。

 この物語のテーマは、ずばり「愛」だ。ウィーツィの生き方は、普通で考えれば、「めちゃくちゃ」の一言だけれど、そこには常識も理屈もすべてをとっぱらった「愛」が貫かれている。「めちゃくちゃ」に気をとられてしまい、顔をしかめる人もきっといるだろう。しかし、少なくとも、ウィーツィたちと同じように、若さゆえの楽しさ、苦しさを今経験している十代の読者なら(そして、その頃を思い出せる読者なら)、愛でいっぱいのウィーツィに拍手を送るにちがいない。

 なお、この物語のポップな魅力を最大限に生かしてくれている「クール」な訳も必見だ。全米ではベストセラーのウィーツィ・バットシリーズ。日本でも今後毎月1冊ずつ全5冊が刊行される。今から2冊目が待ちきれない!

(田中亜希子)


【作者】Francesca Lia Block(フランチェスカ・リア・ブロック)
 ロサンゼルス在住の作家。処女作『ウィーツィ・バット』を含む本シリーズは、刊行以来、米国でティーンから大人まで、幅広い層に絶大な人気を博してきた。日本で訳書がでたのは本書が初。本シリーズの他、短編集『「少女神」第九号』(理論社)も近く刊行予定。

【訳者】金原瑞人(かねはら みずひと)
 1954年、岡山県生まれ。法政大学文学部英文科博士課程修了。現在、法政大学教授。翻訳家。『かかし』、『のっぽのサラ』(いずれもベネッセ)、『豚の死なない日』(白水社)、『ケニア』(アーティストハウス)、『リザベーション・ブルース』(東京創元社)など、訳書多数。

【訳者】小川美紀(おがわ みき)
 カンザス州セント・メアリー・カレッジ卒業。訳書に金原瑞人氏との共訳『ローン・レンジャーとトント、天国で殴り合う』(東京創元社)がある。

 

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注目の本(未訳読み物)

―― 普通の出来事がきらりと輝く物語 ――

 

『コブル通りのいとこたち〜ルーシーおばさんのキッチンで』(仮題)
シンシア・ライラント文 ウェンディ・A・ハルパリン絵

Cynthia Rylant & Wendy Anderson Halperin
"The Cobble Street Cousins: In Aunt Lucy's Kitchen" 55pp.
Simon & Schuster 1998, ISBN 0-689-81711-8


 夏のはじめ、3人の少女たちがコブル通りにやってきた。リリー、ロージー、テス。みな9歳の仲良し従姉妹同士。それぞれの両親が外国にいっている1年間、若くておしゃれな叔母、ルーシーと暮らすことになったのだ。

 リリーは、詩を書くことが大好き。ちょっとおませで、しっかり者だ。テスはブロードウェイのスターをめざす積極派。部屋にいるときはレコードを聴いている。ロージーの夢は、花いっぱいのコテージに住むこと。一番慎重派だが、ここぞという時には迷わず決断し、リリーやテスを驚かす。

 夏休み、少女たちは、ルーシーおばさんのキッチンを借りて、クッキーの宅配サービスをはじめることにした。広告を貼り出して数日後、つぎつぎと電話のベルが鳴る。クッキーを焼き、新品のドレスに着替えたら、配達のはじまり、はじまり。

 物語の主人公というと、どこか特別なところがあるものだが、このお話には特別な人は出てこない。リリーもテスもロージーも個性豊かではあるが、普通の小学生の女の子だ。クッキーの宅配で知り合ったマイケルが、以前からルーシーおばさんに思いを寄せているのに、話をするきっかけも作れないと気付くやいなや、3人は恋のキューピッドになるべく画策する。「お母さんは、いけないっていうわよ」「いいの! そうしないとマイケルは来ないじゃない」などなど、会話もこの年頃の少女らしい。

 どの町にもいそうな人たちと9歳の少女たちの出会いは一見平凡かもしれない。しかし、どんな平凡な出来事にも、一人ひとりがきらりと輝く一瞬がある。その一瞬を見逃さずに、心暖まる物語を作り上げるセンスは、ニューベリー賞作家ライラントならではだろう。さらに、このお話のさりげなさを演出しているのは、ハルパリンの表紙画と挿絵である。鉛筆と水彩の穏やかな絵だが、細部までしっかりと描き込まれている。屋根裏部屋を仕切って作った少女たちの部屋の描写は、何度見ても飽きない。植物が好きなのだろうか、表紙や目次ページの縁飾りなど、随所に草花が使われている。表紙画のみカラー、本文中はモノクロの挿画だ。

 このお話は、「コブル通りのいとこたち」シリーズの1巻目。従姉妹たちが越してきた夏の出来事を紹介している。続く秋、冬、春のお話も刊行されている。

(河原まこ)


【文】Cynthia Rylant(シンシア・ライラント)
 絵本、詩、短編、長編小説と幅広く活躍。"Missing May"(邦訳『メイおばちゃんの庭』/斎藤倫子訳/あかね書房)は1993年度ニューベリー賞を受賞。"Dog Heaven"( 『いぬはてんごくで…』中村妙子訳/偕成社)では絵も描く。オレゴン州在住。

【絵】Wendy Anderson Halperin(ウェンディ・A・ハルパリン)
 "Homeplace"(1995/Anne Shelby文)は学校図書館ジャーナル年間優秀図書に選ばれる。ニューベリー賞作家Kathryn Laskyの文に絵をつけた"Sophie and Rose"(1998)は、オランダ、デンマーク、ドイツでも出版された。ミシガン州在住。

 

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Chicocoの洋書奮闘記 第10回 よしいちよこ

―― 「雪辱戦」 ――

 

「りっぱな洋書読みになるぞ」と意気ごんではじめた洋書奮闘記も、今回で10回め。これまで8冊をなんとか読了したが、1冊だけ、挫折した本がある。くわしくは、1999年5月号の第5回を読んでほしい。くやしいから、雪辱戦だ。

 "CATHERINE, CALLED BIRDY"(Karen Cushman/1994年/HarperTrophy)。205ページ。インターネット書店、スカイソフト(※)で、4.95ドルで買った。お金がかかってるのだもの。読まねば。同じ作家の『アリスの見習い物語』を読んで、中世ものの免疫をつけてから読みはじめた。

 1290年の英国。14歳の荘園の娘キャサリンが、日常のできごと、感じたことを素直な言葉で綴る1年間の日記。


1998年のChicocoの日記から
【10/1】17ページ。なじみのない単語に、ついつい辞書をひいてしまう。『アリスの見習い物語』に出てきた言葉だとわかり、うれしいような、くやしいような。
【10/2】21ページ。
【10/3】6ページ。キャサリンは夜中にいろんなものを食べる。14歳、太るぞ。私は14歳ごろが人生で一番太っていた。
【10/4】7ページ。おっ、栞が出てきた。前はこのあたりで挫折したらしい。
【10/5】21ページ。
【10/6】24ページ。
【10/7】29ページ。やっと半分。
【10/8】14ページ。
【10/9】15ページ。
【10/10】妊娠6か月にはいって、夫にも胎動が感じられた。16ページ。
【10/11】4ページ。突然、夫の両親がやってきて、あまり読めなかった。
【10/12】9ページ。
【10/13】8ページ。6か月健診の日。赤ちゃんは400gに育っていた。「安定期なので、散歩などをして、マタニティライフを楽しんでください」といわれた。
【10/14】14ページ。読了。2週間かかった。


 前半はあまり楽しめなかったが、途中から、キャサリンのむちゃくちゃぶりに、ときどき鼻で、ふふと笑っていることに気づいた。とにかく、最後まで読めたことがうれしい。読みながら、14歳のころの自分の日記を思い出した。好きな男の子のことや、友だちのことなど、今思えばつまらないことを真剣に書いていたなあ。時代や国が違っても、14歳にとっての大事なことは同じなのかもしれない。


※インターネット書店については、『月刊児童文学翻訳』本年4月号の記事をご参照ください。バックナンバーはこちらのホームページからご覧いただけます。http://www.yamaneko.org/mgzn/

 

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追悼 レオ=レオニ

―― いくつになっても訪ねたい世界 ――

 

 10月12日、『スイミー』や『フレデリック』などの作者として知られるレオ=レオニの訃報が届いた。レオニの描く絵本は、世代を超えて人々に親しまれてきた。彼の作品に登場するのは、野ねずみや小魚などの小さな生き物や、四角や丸などの図柄が多い。それらのキャラクターは主に、コラージュ(貼り絵)の手法により簡潔に表現されている。


【人と作品】

『スイミー』表紙

 レオ=レオニは1910年、オランダのアムステルダムで生まれた。芸術的教育という点において、レオニは恵まれた幼少期を過ごしたと言える。叔父の勧めで9歳から王立美術館へ通いデッサンの基礎を学んだ。また、親戚の一人がシュールレアリスムなどの前衛絵画の収集家であったため、ピカソやデ・キリコなどの巨匠の絵画をいつでも見ることのできる環境で育った。

 第二次大戦が勃発すると、ユダヤ人であるレオニは、当時住んでいたイタリアから、アメリカへの亡命を余儀なくされる。この頃を境にして、レオニは一気に才能を開花させる。移住からわずか2年後、彼は広告会社のアート・ディレクターに抜擢される。それから8年後には独立し、『フォーチュン』誌のアート・ディレクターとなる。以来、ニューヨーク近代美術館、メトロポリタン美術館、ユネスコ、アメリカ癌協会などの広告デザインを手掛け、デザイナーとしての地位を確立する。そんな中で生まれた1作目の絵本が『あおくんときいろちゃん』だったのである。

『あおくんときいろちゃん』表紙

 『あおくんときいろちゃん』は、単純な形と色から生み出される造形美で、世界中の人々の心をとらえた。日本では1967年、至光社より藤田圭雄氏の翻訳で出版された。初版本が世に出てから30年を経た今もなお、青と黄色という2つの色が織りなす世界は、新鮮な輝きを放ちつづけている。つづいて出版された『スイミー』では、小さな生き物が団結し、大きな敵に立ち向かう様子を視覚にうったえ、読者を圧倒した。本作の邦訳版は、またたくまに評判となり、日本におけるレオニの人気を不動のものとした。同年邦訳された『フレデリック』では、有名な寓話『アリとキリギリス』を逆手に取り、痛快な結末で読者に強烈な驚きを与えた。

 レオニの作品の多くには、「教訓」というエッセンスが含まれている。しかしながら彼の作品には、押しつけがましいところがない。それはレオニが、全てにおいて必要最小限の表現を用いているからに他ならない。レオニのとぎ澄まされた感覚を介して生まれる色、形、言葉の全てからは、一切の贅肉がそぎ落とされているのである。

 そんなレオニの作品が与えてくれるのは、「想像」という新たな空間。この空間のなかで、読者はレオニが表現して見せたメッセージを咀嚼し、消化していく。年齢とともに読者の視点が変化すると、それに対応して想像の空間も変化する。それゆえ読者はレオニの作品を見るたびに、新たな感動を覚えるのである。

 いま一度、レオ=レオニの作品を手に取ってみよう。手に取るたびに違う表情を見せてくれる、万華鏡のようなレオニの世界に、あなたはわくわくすることだろう。


【略歴】レオ=レオニ【Leo Lionni】
 1910年オランダ、アムステルダム生まれ。1939年の渡米以来、グラフィック・デザイナーとして活躍する。1955年、全米アート・ディレクター協会より年間優秀アート・ディレクター賞を受賞したのを初め、デザイナーとして高い評価を受ける。1959年、『あおくんときいろちゃん』で絵本作家としてデビュー。その後『ひとあし ひとあし』、『スイミー』、『フレデリック』、『アレクサンダ と ぜんまいねずみ』ではコールデコット賞次点に、『せかいいち おおきな うち』ではBIB金のリンゴ賞に選ばれるなど、絵本作家としても受賞歴多数。1999年10月12日死去。


【レビュー】
『ペツエッティーノ じぶんを みつけた ぶぶんひんの はなし』
レオ=レオニ作
谷川俊太郎訳 1975 好学社

Leo Lionni "Pezzettino" Pantheon 1975
 

 ペツエッティーノはオレンジ色をした四角。自分は何かの部分品なのだろうと思っている。彼は、自分が属している相手を探すため旅に出る。旅先では、さまざまな出会いがペツエッティーノを待っている。「はしるやつ」や、「つよいやつ」や「およぐやつ」……。しかし、どれもペツエッティーノが求める相手ではない。そんなある日、ペツエッティーノは出会ったうちのひとりに勧められ、「こなごなじま」へ行く。ところが、こなごなじまを探索しているうちにペツエッティーノは疲れ果て、坂の上からころげ落ちてしまう。そうしてやっと気が付くのだった。自分が何者であるかを……。

 本作は、多くのレオニの作品と同様、コラージュの手法と、必要最小限の言葉を用いて簡潔に表現されている。ペツエッティーノをはじめ、登場するキャラクターは、すべて四角で表現されている。読者に与えられるのは「はしる」、「つよい」、「およぐ」など、部分的な情報のみなのだ。そのため、読者は自由に想像を巡らせることができる。単純に四角でできた主人公たちを面白いと思う場合もあるだろう。身近な人物に当てはめる読者もいるかもしれない。また、読者の年齢によっても、受ける印象が変わるだろう。
 また、レオニの意図を余すことなく伝えたという点で、詩人、谷川俊太郎の果たした役割は大きい。同氏は、ほとんどのレオニの作品を訳している。レオニによって絞り込まれた言語表現を、谷川は見事に日本語として再現していると言えよう。原文と訳文を読み比べてみたときに、作品から受ける印象がピタリと重なるのはそのためである。

 本作は年齢を問わず、誰もが楽しめる作品と言える。まさに「絵本=子どもの読み物」といった既成概念を取り払ってくれる貴重な作品なのだ。他のレオニの作品同様、繰り返し読みたくなる1冊である。


【その他の主な作品】
1959
"Little Blue and Little Yellow"
『あおくんときいろちゃん』至光社
(1967)
1960
"Inch by Inch"
『ひとあし ひとあし』好学社
(1975)
1963
"Frederick"
『フレデリック』好学社
(1969)
1963
"Swimmy"
『スイミー』好学社
(1969)
1968
"The Biggest House in the World"
『せかいいちおおきなうち』好学社
(1969)
1969
"Alexander and the Wind-Up Mouse"
『アレクサンダとぜんまいねずみ』好学社
(1975)
1970
"A Color of His Own"
『じぶんだけのいろ』好学社
(1975)
1983
"What?"
『なあに?』ほるぷ出版
(1985)
1994
"An Extraordinary Egg"
『びっくり たまご』好学社
(1996)

※『あおくんときいろちゃん』以外は、すべて谷川俊太郎訳

【参考文献】『レオ・レオーニ展』(朝日新聞社 1996年)

(瀬尾友子)

 

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●編集後記●

レオニ追悼を編集中、『あおくんときいろちゃん』の訳者、藤田圭雄氏の訃報も伝えられました。11月7日没、享年93歳。(き)


発 行: やまねこ翻訳クラブ
発行人: 生方頼子(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人: 菊池由美(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画: 河まこ キャトル くるり 小湖 Chicoco どんぐり BUN ベス YUU りり ワラビ
協 力: @nifty 文芸翻訳フォーラム マネジャー 小野仙内(SDI00897@nifty.ne.jp)
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