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2007年11月号
   =====☆                    ☆=====
  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
         Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary
                                 No.95
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2007年11月15日発行 配信数 2440 無料
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●2007年11月号もくじ●
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◎特別企画:マックス・ボリガーの魅力
 ★ミニレビュー:『金のりんご』
    マックス・ボリガー文/チェレスティーノ・ピアッティ絵/いずみちほこ訳
◎特別企画連動レビュー:『おやすみのまえに』
       マックス・ボリガー文/フェレーナ・パヴォーニ絵/たかおまゆみ訳
◎注目の本(未訳絵本):"Every Friday" ダン・ヤッカリーノ文・絵
◎賞速報
◎イベント速報
◎世界のお祭り:第11回 ルシア祭(スウェーデン)
◎やまねこカフェ:海外レポート 第8回ドイツ(ニュルンベルクほか)
◎読者の広場:海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!

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●特別企画●マックス・ボリガーの魅力
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■マックス・ボリガーと邦訳作品

 スイスの代表的児童文学作家マックス・ボリガー(1929年〜)の作品は、12人の訳
者、11の出版社の手を経て、日本で15冊――筆者は15冊目を訳した――が邦訳されて
いる。やまねこ翻訳クラブの資料室を調査しても、20冊内外が邦訳されている作家と
しては訳者数と出版社数がきわめて多い。つまり、大いに注目されてきた作家である
のに、作り手側が“われて”しまったためか、「ボリガー」の名前は知られてこなか
ったし、その魅力を日本の児童書ファンに伝えきれていないかもしれないと思うのだ。

■マックス・ボリガー受賞歴

 ボリガーは55年におよぶ文筆活動で数えきれないほどの作品を生み出し、欧州圏を
はじめ、その作品は世界約30か国で翻訳出版されてきた。なかでも絵本と、児童向け
キリスト教書の2分野にロングセラーが数多く存在する。邦訳の15作品はすべて絵本
だ。
 これまでに1966年ドイツ児童文学賞、1973年スイス青少年文学賞、1976年オランダ
銀の石筆賞、1983年と1991年カソリック児童青少年文学賞、2005年児童青少年文学の
ためのドイツアカデミー大賞などのタイトルを受賞している。さらに1982年には国際
アンデルセン賞作家部門へのノミネートも経験、1994年にはチューリッヒ大学から名
誉博士号を授与された。

■マックス・ボリガーの作風と訳者への想い

 ところで2007年3月、筆者は所用でドイツに滞在していた足をチューリッヒにのば
し、ボリガー氏を訪ねた。チューリッヒ湖沿いを電車にゆられること約1時間、なご
り雪が降った翌日の美しい田舎町ヴェーゼンのご自宅に、「訳者さんの訪問は大歓迎
だよ」とおっしゃって、ボリガー氏は筆者を迎えてくださった。

 氏の作風の特徴は、短くはっきりした言葉、虚飾を排した文にある。ご本人はこの
ように語る。「ぼくは書くときに何回も何回も文章を練るんだ。そして、最後の最後
まで残った言葉だけを使うよ」
 筆者はこの言葉の意味を訳出作業で味わう羽目になった。文字が入りきれなくて、
やむをえず訳文を削る必要のあるページがあった。ところが削る言葉が見あたらない。
編集者といっしょにさまざまな日本語を検討したが、だめだった。原文が選び抜かれ
ているためだろう。しかたなく、挿絵を縮小した。
 彼は続けた。「だからね、選び抜いた言葉を訳者さんたちがどう訳してくれたのか、
すごく気になるんだ」そして、「このページ、どう訳したか読んでくれる? 日本語
はわからないけど何か感じられると思う」と、筆者に向かって予想外のリクエスト!
試訳を持参していなかったし、急な申し出にかなりとまどってしまったけれど、覚え
ているかぎりの訳文をゆっくり口にした。ボリガー氏は静かに目を閉じて心で聴いて
くださり、「……リズムがある。それに、優しい感じだね」と、にっこりしてくださ
った。
 作者が文章にかける一途な思いを改めて知らされた。翻訳作業は右のものを左に置
きかえるだけではだめで、日本文化のフィルターを通すしかない。原文に込められた
作者の思いを、どうしたら一番正確に伝えられるのか。永遠の課題であるが、原作者
と対話するのはひとつの有効な手段だろう。

■「子どもは、自分自身で感じて理解する」

 ボリガー氏の信念は、「子どもは、自分自身で感じて理解する」だという。「だれ
かから教えられて、子どもはわかるんじゃない。だから子どものじゃまをするムダな
言葉を使いたくない」なのだ。ご本人に子どもはいない。けれども、多くの子どもた
ちと時を共有してきた経験から得たものなのだろう。この信念は、ボリガー作品のそ
れぞれを頭に思い浮かべると腑に落ちた。説教くさくない。楽しいけれどそれだけで
はない。読み手が自分で考えなければならない。
 今回の原稿を書くにあたって、2冊のボリガー絵本を訳されているいずみちほこ先
生のご意見をいただく機会に恵まれた。いずみ先生は、ボリガー作品を「考えさせる
物語」だと語る。「昔話を思わせるような親しみやすい入り方で子どもたちを誘い、
子ども自身が考える余地を残して結末にいたる」との評は、ボリガーの本質を見事に
言い当てている。
 こうしたストーリー展開には大人の読者をもうならせるものがある。とくに『金の
りんご』(本誌ミニレビュー参照)の結末はインパクトがある。世界の権力者たちに
読んでほしい絵本のひとつだ。『こどもたちのはし』(シュタパン・ジャヴレル絵/
福田佐智子訳/岩倉務文/中野孝次・永井一正監修/平和のアトリエ)では、欧州で
育まれてきたであろう「異文化理解への努力」の構図が見えて興味深い。「3びきの
こぐま ベン・ヤン・ヨーン」シリーズ(ヴラスタ・バラーンコヴァー絵/佐々木田
鶴子訳/講談社)の『こねこのなまえは…?』は、巷でかまびすしく論争されている
男女の差異(ジェンダー)について、すっきりと示唆してくれる気持ちの良い作品だ。

 大人としてボリガー作品を概観してきたが、子どもから見れば、繰り返しが利いた
文章をおもしろがっているうちに、「そうかぁ!」「ぼく、わかっちゃったもんね!」
という感じのおはなしが多い。それに、ボリガー絵本はヨゼフ・ウイルコン(ポーラ
ンド)、シュタパン・ジャヴレル(チェコ)など、一級の挿絵画家と組むのも特徴だ
から、視覚的魅力にもあふれている――というわけで、現地ではどこの幼稚園でもボ
リガー絵本はまったくもって常備品なのだ。

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【略歴】Max Bolliger(マックス・ボリガー):1929年、スイス生まれ。小学校教師
を経て、心理学・障害児教育学を学び、障害児教育の現場へ。1953年詩集を発表、ま
もなく児童文学作品を書くようになる。1968年以降は教師を辞め、教育関係のメディ
アや公的団体に関わりながら著作に専念。その作品は約30か国で訳されている。近年、
長く暮らしたチューリッヒを離れ、故郷の町に戻った。

【参考】
▼スイス・ビブリオメディア(図書館運営を促進する公的財団)によるボリガー紹介
                                (ドイツ語)
http://www.bibliomedia.ch/Literatur/deutsch/treschT11a.htm

▼ボリガー作品主要出版社ボーヘムのウェブサイト(ドイツ語)
http://www.bohem.ch/deutsch/autoren/bolliger.html

▽マックス・ボリガー邦訳作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/b/mboll_j.htm

▽マックス・ボリガーさんフォトページ
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2007/11_mboll.htm

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ミニレビュー ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
『金のりんご』 チェレスティーノ・ピアッティ絵/いずみちほこ訳
徳間書店 定価1,470円(税込) 1999.07 25ページ ISBN 978-4198610500
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"Der goldene Apfel" by Max Bolliger
Artemis Verlag 1970
Amazonで詳細を見る  

 森のまんなかにある原っぱにそびえる大木のてっぺんに、金のりんごがたったひと
つなっていました。金のりんごをねらって、ライオン、ゾウ、トラ、キリン、キツネ
が木の根元に集まりました。最後に現れたのはリスでした。リスは王でもなく、大き
くも強くもなく、背が高くもなく、かしこくもありません。それなのに金のりんごに
かじりつけたのです。ところが、りんごはかじりかけのまま下に落ち、下にいた強者
たちが、我先にと飛びかかり……。

「強者たちはりんごの存在を最後になぜ忘れてしまうのか、リスの役回りは何なのか、
地面にぽつんと残ったりんごはどうなるのか、など、子どもたちは自分で考えなけれ
ばならないのです」(「」内、いずみ先生のコメント)

                              (たかおまゆみ)

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●特別企画連動レビュー●きみが ねてしまうとね、ほら……。
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『おやすみのまえに』
マックス・ボリガー文/フェレーナ・パヴォーニ絵/たかおまゆみ訳
いのちのことば社 定価945円(税込) 2007.10 37ページ ISBN 978-4264025696
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"Bevor du einschlafst" by Max Bolliger
Verlag Herder Freiburg im Breisgau, 2003
Amazonで詳細を見る

  どうして お星さまが きらきらしているのか しってる?
  どうして あたたかかったり さむかったりするのか しってる?
 1行読むごとに、5歳の息子は考え考え、「あたたかいときは、たいようがでてて、
さむいときは、おほしさまがでているから……、かな?」と答えてくれた。
 この絵本は、23編の短いお話や詩が集まってできている。一見、ひとつひとつは独
立しているように思えるかもしれない。だが、実はそれぞれが少しずつ重なり合い、
全体でひとつの作品となっている。1編ずつをかみしめるように読んだ後、すべてを
通してみてみると、また違ったものが浮かびあがってくる。全編とも、当然ながら子
どもにもわかる言葉でかかれている。だが、簡潔でやさしい言葉の中に、何かを確実
に伝えようとしている作者の想いが、しっかりとこめられている。その穏やかな口調
と、たっぷりとられた間合いに問われるようにして、いつも黙って聞いているわが子
も、思わず口を開いたようだ。
 水彩の、淡くにじませたような挿絵に、行間や余韻をいとおしみ、大切に紡がれた
言葉たち。『おやすみのまえに』というタイトルどおり、この絵本はやわらかな雰囲
気をもち、寝る前の読み聞かせにぴったりだ。ふくろうやどろぼう、こわいものもで
てくるけれど、お星さまやくまちゃん、そしてかみさまが、ざわついていた気持ちを
そっと包みこみ、安心させてくれる。
「おしまい……」ページをとじた後、私たち親子は穏やかな気持ちで、静かに眠りに
ついた。
                              (美馬しょうこ)

【特殊文字】
「einschlafst」:「a」の上にウムラウト(¨)がつく

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●注目の本(未訳絵本)●父として、子どもにしてやれること
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『きんようびのあさ』(仮題)
ダン・ヤッカリーノ文・絵
"Every Friday" by Dan Yaccarino
Henry Holt and Company, 2007 ISBN 978-0805077247
32pp.
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 毎週金曜日、父親と息子は近くのカフェで朝食をとることにしている。母親とまだ
幼い下の子を残し、いつもの時間より少し早く家をでる。雨の日も、雪の日も、それ
がふたりの習慣になっている。早朝の街では、顔見知りの人たちが互いに声を掛け合
う。開店準備に精をだす人や、足早に仕事へ向かう人もいて、1日が始まる活気に満
ちている。おもちゃ屋やスポーツ用品店のショーウインドーに立ち止まったり、少し
ずつ完成していく工事現場のビルを見上げたりしながら、ふたりは何気ない会話を交
わす。特別なことは起こらず、親子の間には、ただゆっくりと時間が流れる。
 今は父親の前を安心しきったようすで歩く息子も、少しずつ大きくなっていく。更
地にビルが立ち上がるように、長そうでいてあっという間に過ぎ去る息子の子ども時
代を、父親は大切に扱おうと決めたのだろう。ある時は子を守る親として、ある時は
仲間として。いずれ少年は大人になり、父は年をとる。だが、たとえ50歳、60歳にな
っても、ふたりは移りゆく街を、並んで見ているような気がする。
 ヤッカリーノは素朴な親子の話を描くにあたり、ひと昔前の情景を連想させる、彩
度を抑えた色合いを選んでいる。一見簡略化したイラストのようだが、影や光によっ
て生じる立体感と、人物のわずかに傾く角度が生みだす表情から、温かさが伝わる。
 ところで、このすてきな金曜日の過ごし方は、息子が3歳になった時から続けてい
る、ヤッカリーノ自身の習慣だという。ヤッカリーノの作品は、子どもにかけがえの
ない時間を過ごしてほしいと願う、彼の人となりからうみだされていることがよく分
かる。だから、作品にしばしば登場する不思議でバリアーのない世界が、普通と少し
変わっていても、信頼して子どもに手渡すことができるのだ。それにしても、なぜ土
日ではなくて忙しい平日金曜の朝なのだろう? そうか、週末は家族全員で大切な時
間を過ごすから。きっとそうに違いない。

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【文・絵】Dan Yaccarino(ダン・ヤッカリーノ):1965年生まれ。1987年にパーソ
ンズ美術大学を卒業後、作家、イラストレーター、プロデューサーとして書籍からゲ
ーム、テレビ、映画など多岐に渡る分野で活躍。代表作はアニメーションにもなった
"Oswald"(『ハロー! オズワルド―あたらしいともだち』青山南訳/小峰書店)シ
リーズなど多数。本作品で2007年度ニューヨークタイムズベストイラスト賞を受賞。
妻、ふたりの子どもとともにニューヨーク在住。

【参考】
▼ダン・ヤッカリーノ公式ウェブサイト
http://www.danyaccarino.com/

▼ダン・ヤッカリーノへのインタビュー記事(Core 77 内)
http://www.core77.com/reactor/02.05_yaccarino.asp

▼2007年度ニューヨークタイムズベストイラスト賞発表ページ
                         (The New York Times 内)
http://www.nytimes.com/slideshow/2007/11/11/books/review/best-childrens-books-
slideshow_index.html

                                (大原慈省)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2007年カナダ総督文学賞(児童書部門)最終候補発表(受賞作の発表は11月27日)
★2007年ブックトラスト・ティーンエイジ賞発表
★2007年度ニューヨークタイムズベストイラスト賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 北海道立帯広美術館「オランダ絵本作家展」
 軽井沢絵本の森美術館
「アメリカ絵本展〜現代絵本を築いたイラストレーターの世界〜」
 安曇野絵本館「ヤン・シュヴァンクマイエル展」など

★セミナー・講演会情報
 大阪府立国際児童文学館
「おはなしボランティア支援講座〜世界の昔話の魅力をさぐるPARTII〜」など

 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、
空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                                (笹山裕子)

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●世界のお祭り●第11回 ルシア祭(スウェーデン) 12月13日
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 北欧の冬の夜は長く、冬至のころともなると、スウェーデンの首都ストックホルム
あたりでは、朝9時前に顔を出した太陽が午後3時ごろにはもう沈んでしまうとか。
そんな長くて暗い冬を過ごす人々の太陽や光への憧れをこめた祭りが、今回ご紹介す
る「ルシア祭」です。ルシアとは、イタリアのシチリア島に住んでいたキリスト教の
聖女の名前です。貧しい人に自分の財産を施していたルシア(イタリア語では「ルチ
ア」)は、当時異端とされていたキリスト教徒であることを婚約者に告発され、304
年に処刑されてしまいます。その殉教の日が12月13日でした。ルシアには「光」とい
う意味があるため、後に北欧までキリスト教が布教された際に、この聖ルシアの殉教
の日と太陽を待ち望む現地の冬至の祭りが合体する形で広まり、現在では特にスウェ
ーデンで盛大に祝われています。
 この日の朝、スウェーデンの各家庭では、清純・美徳を表す白い衣装を着て、血を
意味する赤い帯を腰に締め、炎を表すキャンドルライトを頭に立てたルシア役の女の
子を先頭に、家族みんなで「サンタルシア」を歌いながらお父さんを起こしに行くそ
うです。そのとき、サフラン入りの甘いパン〈ルッセカット〉やジンジャークッキー、
濃いコーヒーを持っていくのが慣習です。さまざまなスパイスや砂糖、アーモンド、
レーズンなどを入れた甘いホットワイン〈グルッグ〉も欠かせません。ルシア・トー
グと呼ばれるこの〈ルシアの隊列〉は、家庭だけでなく、学校や職場、街角などあら
ゆるところで見られ、同じようにルッセカットやコーヒーが振る舞われます。なお、
このときに歌われる「サンタルシア」は、日本でも有名なナポリ民謡「サンタルチア」
と同じメロディです。スウェーデン語の歌詞では、聖ルシアの日に光がもたらされ、
家族や友人と友愛を深めるという内容になっています。
 しかし、このような行列が、学校や職場などで昔から行われていたわけではなく、
1927年にストックホルムの新聞社が、投票でルシア役の少女を決めるという企画を催
したときから始まったといわれています。その後、この行列はスウェーデン全国で行
われるようになり、現在では隣国フィンランドにも広まっています。
 スウェーデンの作家といえば、『長くつ下のピッピ』で有名なアストリッド・リン
ドグレーンが思い浮かべられることでしょう。彼女のデビュー作である『ブリット‐
マリはただいま幸せ』(石井登志子訳/徳間書店)は、スウェーデンの小さな街に住
む15歳の少女ブリット‐マリの日常が、ペンフレンドあての手紙として綴られていま
す。ルシア祭の翌日、ブリット‐マリは、自分が過ごした祭りの様子を細かく報告し
ています。なお、このときは、おてつだいさんのアリーダがルシア役になり、ブリッ
ト‐マリたちを起こして回ったようです。

*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*
 とにかく、アリーダが朝早く、天井が吹っとぶほど力強く重々しい声で、『サンタ
ルシア・光の美しい幻影』を歌いだしました。たとえちょっと調子はずれだったとし
ても、その声で目を覚まし、濃いコーヒーと焼きたてのサフラン入りの甘いパンとシ
ナモンクッキーをベッドまで持ってきてもらうと、じつに心が温まり、いい気持ちに
なりました。
*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*

 同じくスウェーデンの作家であるエバ・ベクセルの『がんこおじいちゃんとこりな
いアントン』(カーリン・S・レーデル絵/石井登志子訳/偕成社)では、男の子で
あるアントンがルシアの扮装をしてみんなを起こしてまわります。みなさんも、今年
はぜひ、このスウェーデンのお祭りをご家庭に取り入れてみませんか?

★参考文献・ウェブサイト

『世界の子どもたち6 スウェーデン』偕成社
『世界の祭りと子ども III』大日本図書

                           (村上利佳/笹山裕子)

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●やまねこカフェ 海外レポート●第8回ドイツ(ニュルンベルクほか)
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         〜寒い冬の楽しみ ドイツのクリスマス市〜

 毎年、アドヴェント(待降節)の到来とともにヨーロッパ各地で始まるクリスマス
市。その規模は今では年を追うごとに大きくなってきているようです。また、小さな
町や村で週末だけ行うところも増えてきました。クリスマス市の発祥地といわれてい
るドイツでは、ドレスデンやシュトゥットガルト、ニュルンベルクなどが規模も大き
く、毎年世界各地から観光客がやってきます。その中でも特に有名なのがニュルンベ
ルクのクリスマス市です。去年の話になりますが、12月にわたしもこの市(いち)を
見に行ってきました。いつもならこの時期は氷点下になるそうですが、幸い去年は暖
冬で助かりました。雪があったほうがたしかにロマンチックではありますが……。
 クリスマス市はドイツ語で一般にヴァイナハツマルクト(Weihnachtsmarkt)とい
いますが、ニュルンベルクではクリストキンドレスマルクト(Christkindlesmarkt、
「幼児キリスト市」の意)と呼ばれています。この市(いち)の会場へ向かうメイン
ストリートでみんなが目にする、金色の冠をかぶったエプロン姿の天使の人形もクリ
ストキントと呼ばれ、このクリスマス市のシンボルになっています。メイン会場は城
壁で囲まれた旧市街の中央広場。すぐ近くのハンス・ザックス広場では、子ども向け
のクリスマス市も開かれています。そちらを先にちょっとのぞいてみると、乗り物や、
お菓子やおもちゃを売る屋台がたくさんあって、とてもにぎわっていました。
 さて、メイン会場はというと、もう壮観のひとこと。電飾された屋台が何列にも並
び、広場を埋めつくしています。もらった冊子によると、屋台の数は162店だそう。
暗くなってくると、会場は光に溢れてさらに華やかに。この広場のシンボルである、
高さ17mの塔《美しの泉》も電球で彩られて輝いています。屋台で売られているもの
は、ありとあらゆるオーナメント、キャンドル、クリッペ(キリストの生誕シーンを
表した模型)のパーツ、ドイツの木組みの家を模したキャンドル・スタンドなど数々
の雑貨。そしてお菓子や揚げパン、グリューワイン(香辛料入りホットワイン)や焼
き栗、ドイツ人には欠かせないビールなどなど。これらはドイツのクリスマス市では
おなじみのものですが、ここならではのものもありました。ひとつはツヴェッチゲン
メンラ(Zwetschgenmannla)というプラム人形。干しプラムとクルミで作られていて、
いろんな職業人の格好をしていますが、代表的なのは煙突掃除人の人形です。すすを
落とすということで、幸運のシンボルと考えられているようです。また、お香を焚く
パイプ人形やくるみ割り人形はどのクリスマス市でも売られていますが、ニュルンベ
ルクは生産地のエルツ地方に近いとあって、種類がとても豊富でした。そして忘れて
ならないのが、名物のニュルンベルク・ソーセージとレープクーヘンの屋台です。寒
い中、ソーセージをサンドしたパンをほおばりながら、グリューワインやプンシュ
(香辛料入りの温かいフルーツ・ポンチ)を手に、レープクーヘンやシュトレンの屋
台などを見ていると、エーリヒ・ケストナーの『わたしが子どもだったころ』(高橋
健二訳/岩波書店)を思い出しました。本に書かれていた「コショウ菓子」や「長い
菓子パン」、「湯気の立つポンチ」というのはまさにこれなんだなあと。
 このクリスマス市独自のイベントとしては、クリストキントに扮した少女が会場で
歓迎の挨拶をしたり、子どもたちにお菓子を配ったりするというものがあります。こ
のクリストキントはニュルンベルクに住む16歳から19歳までの少女の中から2年に1
度選出され、アドヴェントの期間中、クリスマス市での仕事だけでなく、150か所以
上の施設や病院などを慰問したり、数々のマスコミ取材に応じたりもするそうです。
彼女はクリスマス市のアイドルであるとともに、町の慈善大使でもあるのですね。わ
たしが会場で見たクリストキントは、優しい微笑みをたたえた美しい少女で、本当に
天使のように見えました。
 ところで、クリスマス市はわたしが住んでいるボンや近郊の町でも、もちろん行わ
れています。その中には、町の旧市庁舎の窓をアドヴェント・カレンダーに見立てて、
窓に取り付けた数字の板を毎日開いていくイベントを行っている町もあります。また、
ボン近郊の町ジークブルクは中世風のクリスマス市が開催されることで知られていま
す。屋台の売り子さんが中世の衣装に身を包み、屋台の照明もキャンドルのみ。電飾
は一切なく、夜はかなり暗いのですが、幻想的な雰囲気を醸し出していて、わたしは
とても好きです。特設舞台では中世劇なども演じられます。ここの屋台のパン屋さん
は、中世風にパン種を石のかまどで焼いて売っているのです。この焼きたてパンは1
度食べたら忘れられない味です。このようなクリスマス市はいずれもニュルンベルク
などと比べると規模は小さいですが、素朴でまた違った味わいがあります。
 さて、ヨーロッパは先月末から冬時間になり、だんだん日も短くなってきました。
寒いのが苦手なわたしにはドイツの長い冬は辛いですが、それでもやはりクリスマス
市は楽しみです。ドイツで迎える3度目のクリスマスの今年は、少し足を伸ばして、
隣の国の市(いち)も見に行ってみようかと思っています。

【参考】
▼2007年ドイツ国内のおもなクリスマス市のスケジュール            
                 (ドイツ観光局公式ウェブサイト内、日本語)
http://www.visit-germany.jp/JPN/culture_and_events/christmas_markets.htm

▼ニュルンベルクのクリスマス市 公式ウェブサイト(英語)
http://www.christkindlesmarkt.de/english/

★現地レポート フォト・ページ
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2007/11_markt.htm

【特殊文字】
「Zwetschgenmannla」:最初の「a」の上にウムラウト(¨)がつく

                                (蒲池由佳)

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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 このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる
お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ
ください。

※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編
集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。

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●お知らせ●
 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。
こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
http://www.yamaneko.org/info/order.htm
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   やまねこ翻訳クラブ(info@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。
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          吉田真澄の児童書紹介メールマガジン
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◆次号予告は毎月10日頃、やまねこ翻訳クラブHPメニューページに掲載します。◆
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●編集後記●年末が近づき、やまねこ賞の投票が始まりました。いつもならこの時期、
ラストスパートで新刊書の読みあさりをするのですが、今年は多忙で本を読む時間が
あまりありません(涙)。目の前に積んだ、読めなかった本がうらめしそうに私を見
てるような気が……。さて、投票の結果は来月号にて。乞うご期待!(い)
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発行人 村上利佳(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人 井原美穂/大原慈省(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 かまだゆうこ 蒲池由佳 児玉敦子 笹山裕子 たかおまゆみ 冬木恵子
    美馬しょうこ 村上利佳
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
    ながさわくにお さかな
    html版担当 shoko
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