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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集>ニューベリー賞レビュー集(1970・1980年代)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

ニューベリー賞(アメリカ) レビュー集
The Newbery Medal

(1970・1980年代)
 

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最終更新日 2009/07/05 レビュー1点追加  

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ニューベリー賞リスト(やまねこ資料室)   
ニューベリー賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


"Scorpions" * "The Road from Home: The Story of an Armenian Girl"『アルメニアの少女』 * "Doctor DeSoto"『歯いしゃのチュー先生』" * "A Visit to William Blake's Inn" * "Joyful Noise" ←追加 * 


1989年ニューベリー賞オナーブック

"Scorpions" (1988) by Walter Dean Myers ウォルター・ディーン・マイヤーズ (未訳) その他の受賞歴 

 12歳のジャマールは母親、妹とハーレムに住んでいる。兄は殺人容疑で刑務所に入所中だ。上訴するためには2000ドルが必要らしいのだが、母親が身を粉にして働いても、それほどの大金を用意するのは難しい。そんなときジャマールは、兄が率いていた少年ギャンググループ「蠍」を引き継げば、ドラッグの取引きを通じて2000ドルが手に入るという話をもちかけられた。「蠍」のメンバーと接触をもったジャマールは、次第に危険な状況に追い込まれていく。そして悲劇は起こった……。

 母親おもいの普通の少年である主人公が、恵まれているとは言いがたい環境のなかで危険な道に踏み入ってしまう過程には、何ともやるせない気持ちにさせられた。ドラッグとアルコールにおぼれた「蠍」のメンバー、ジャマールを敵視する校長、ジャマールにけんかをふっかける上級生、そして銃……。不吉な予感にとらわれ、どきどきしながら物語を読み進めた。そして起こるショッキングな事件に、育つ家庭や環境を選べない子供の無力さを思い知らされる。銃社会アメリカの抱える問題についても考えさせられる作品だ。

(佐藤淑子) 2008年4月公開

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 1980年ニューベリー賞 オナーブック

"The Road from Home: The Story of an Armenian Girl" (1979)
 by
David Kherdian デーヴィッド・ケルディアン
『アルメニアの少女』 越智道雄訳 評論社 1990
その他の受賞歴 
1979年ボストングローブ・ホーンブック賞 ノンフィクション部門

 20世紀初頭、オスマン帝国の体制が崩壊する寸前のトルコ。アルメニア人の少女ヴェロンは、両親や祖父母らとともに、アジジアの町(現在のトルコ中西部)のアルメニア地区で暮らしていた。キリスト教の信仰をはじめ、アルメニア民族の伝統を守って生きる自分たちは、イスラム教徒である周囲のトルコ人たちとはどこか違うと感じながらも、小さなヴェロンの毎日は家族の愛に包まれて幸せだった。
 だが、その暮らしは1915年を境に一変する。アルメニア人はトルコ国外へ追放されることになったのだ。どこへ連れて行かれるのか、だれにもわからない。ヴェロンはまだ知らなかった。のちにトルコのアルメニア人大虐殺として歴史に刻まれる恐ろしい出来事に、自分と家族の運命が呑み込まれつつあることを。

 作者の実母の体験に取材したノンフィクション作品。物語はヴェロンの言葉で語られるが、その口調はドラマチックではなくむしろ淡々としており、かえって真実の重みを感じさせる。作中の年代は1907年から1924年までの17年間に及び、冒頭では幼い少女のヴェロンは、壮絶な体験を経てギリシャへ逃れ、ついには伴侶を得る。ヴェロンが目の前で半生を語ってくれるような臨場感があり、引き込まれて一気に読んだ。
 ヴェロンは家族を次々に失い、自身も筆舌に尽くしがたい辛酸をなめる。だが、そんな中でヴェロンが見せるたくましさには目を見張る。生き延びたいという強烈な意志をもって、彼女は未来への道を切り拓いていくのだ。その姿はどんな局面にあっても光を放ち、読む者の心をとらえて離さない。
 本書は当時のアルメニア人の生活習慣を細かく伝えており、資料的な価値もある。食事の場面がよく出てくるが、生きることに直結した食べ物の描写が印象的なのは当然かもしれない。たまに口にできる甘いお菓子がおいしそうで、甘いものを楽しみにしていたヴェロンの気持ちがうかがえる。人々の暮らしぶりが丁寧に描かれていることで、一般民衆が犠牲となった出来事の悲惨さが浮き彫りになってもいる。
 トルコはいまでもアルメニア人虐殺の事実を認めていないという。また日本では、ナチスの行為に比べればこの問題はあまり知られていない。気軽に楽しむたぐいの本ではないが、多くの人に読んでほしい作品だ。

(古市真由美) 2008年8月公開

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1983年ニューベリー賞 オナーブック

"Doctor DeSoto"(1982) by William Steig ウィリアム・スタイグ
『歯いしゃのチュー先生』 内海まお訳 評論社 1991

その他の受賞歴
1983年ボストングローブ・ホーンブック賞絵本部門オナーブック

1983年米国図書賞(The American Book Award)絵本ハードカバー部門
1984年 オランダ銀の絵筆賞


 歯医者のチュー先生は大変な名医だ。ネズミはもちろんのこと、大きな動物ですら先生を訪ねてくる患者は絶えなかった。でもネズミなので、猫など危険な動物の診療はしない。ところがある日、りっぱな身なりの、これまたりっぱな虫歯をもったキツネが、先生の治療を求めて泣きついてきた。かわいそうに思った先生は治療を引き受けることにした。ひどい虫歯を抜いてやり、いよいよ明日は新しい歯を入れることになった。痛い虫歯がなくなると、キツネは口の中にいるチュー先生の美味そうな匂いがたまらなくなった。ああ、食べたい! とキツネは思った。

 仕事熱心なチュー先生は、キツネの治療を身の危険を省みず、引き受けてしまう。でもやっぱりキツネはキツネ。本能の命じるままに、いや増さる食欲は押さえがたい。そこでチュー先生と奥さんはある計画を練るのだ。新しい歯はちゃんと入れてあげたいけれど、なんといっても自分たちの安全は確保したい。一晩中練りに練って、話し合いを続け、考えた計画とは! チュー先生の新発明、秘伝のお薬登場! 
 誠実に仕事に取り組むチュー先生と奥さんは、とてもステキ。こんな歯医者がいたら、どんなに遠くても出かけていきたい。にんまりしちゃう結末も最高。

(尾被ほっぽ) 2008年11月公開


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1982年ニューベリー賞

"A Visit to William Blake's Inn" (1980) (未訳絵本)  ←追加
by Nancy Willard ナンシー・ウィラード、 
illustrated by Alice and Martin Provensen アリス&マーティン・プロヴィンセン

 やまねこ公式レビュー レビュー(月刊児童文学翻訳1999年10月号)

その他の受賞歴 ・1982年コールデコット賞オナーブック
1981年ゴールデンカイト賞フィクション部門HB
1982年ボストングローブ・ホーンブック賞(絵本部門)


 ウィリアム・ブレイクのホテルは不思議がいっぱい。パンを焼く2頭のドラゴン。羽根布団を用意する天使。ウサギに部屋へ案内されると、中にいたのは毛むくじゃらのクマ。運転手の天使は、緑のコートに身をつつみブーツまではいている。
 ホテルのお客も変わっている。奥方に手紙を書く王様ネコ、眠れないトラ、雲のベッドに眠る雌牛、景色の良い部屋を頼むひまわりなどなど。ウサギに、トラに、ネズミに、ネコに、子ども、金や銀やエメラルドの靴をはき、ブレイクといっしょに天の川へお散歩だ。

 作者のナンシー・ウィラードは、幼いころ知ったウィリアム・ブレイクの詩が忘れられず、彼の詩をもとに、彼自身が営むホテルという想定でこの詩を書いたそうだ。絵本の最初にそのときの話が紹介されている。7歳のときはしかにかかってベッドで寝ていたら、ベビーシッターのプラットさんは200年も前の詩人ウィリアム・ブレイクの詩集をプレゼントしてくれたのだそうだ。言葉は響きがよく、リズムがあり、大きな声で読みたくなる。詩の描き出す不思議な世界を、古風なタッチのイラストが目にも美しく見せてくれる。

(尾被ほっぽ) 2009年4月公開


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1989年ニューベリー賞

"Joyful Noise: Poems for Two Voices" (1988) (未訳詩集) ←追加
by
Paul Fleischman ポール・フライシュマン
illustrated by Eric Beddows

その他の受賞歴
 ・1988年 ボストングローブ・ホーンブック賞フィクションと詩部門オナーブック


  表紙にはタンバリンを打ち鳴らす蝶のイラスト。昆虫たちが奏でる14の歌がのっている。バッタは生きる喜びを謳い、アメンボはどうして水の上を歩けるのか、質問に答えてくれる。ホタルは、夜を背景に光で字を書く書道家であることを誇り、蛾は明かりに対する恋心を謳う。ジガバチは、決して会うことのないわが子への愛を切々と詩にした。女王蜂は最高の人生を謳歌するけど、働き蜂は最悪の人生だと歎く。カマキリの奏でるレクイエム。サナギの書いた日記。昆虫たちがそれぞれの人生のなかで作り上げた歌の数々。

  とても面白い本だ。一頁の左と右に、それぞれ別の詩が書かれ、しかもそれを一緒に読むようにという断り書きがついている。言葉と言葉が響きあい、共鳴しあって、まるで輪唱のように聞こえてくる。すべて昆虫が書いた(という設定の)詩なので、歌のリズムが、昆虫それぞれの動きや、動作にぴったり合っているように感じる。魅力たっぷりな虫たちのイラストもチャーミング。本のシラミや、蛾の幼虫(つまりイモムシ)なんかも出てくるけど決して気味悪くはないから大丈夫。まるで人間のように表情も豊かでおもしろい。一人で読むのじゃもったいない。だれかと一緒に声を出して読もう。

(尾被ほっぽ) 2009年7月公開


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