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2009年7月号
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  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
                                No.112
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2009年7月15日発行 配信数 2320 無料
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●2009年7月号もくじ●
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◎賞情報:2009年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表
◎特集:2009年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品レビュー
 【カーネギー賞】"Bog Child" シヴォーン・ダウド作
 【ケイト・グリーナウェイ賞】"Harris Finds his Feet"
                         キャサリン・レイナー文・絵
◎注目の本(邦訳読み物):『シュガー&スパイス』
                        ジーン・ユーア作/渋谷弘子訳
◎注目の本(未訳絵本):"The Were-Nana: NOT a Bedtime Story"
           メリンダ・シマニク文/サラ・ネリシウェ・アンダーソン絵
◎賞速報
◎イベント速報
◎お菓子の旅:第48回 白くてつるりん、あこがれのデザート 〜ブランマンジェ〜
◎読者の広場

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●賞情報●速報! 2009年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞発表
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 英国図書館協会が主催する、イギリスで最も権威のある児童文学賞、カーネギー賞
およびケイト・グリーナウェイ賞が、6月25日に発表された。受賞作品は以下の通り。
 72年の歴史があるカーネギー賞を受賞したのは、Siobhan Dowd。デビュー作からシ
ョートリストにあがっていたが、3作目にして初受賞した。2007年8月に惜しまれな
がらこの世を去った Dowd は、子どもたちの未来を見据えた活動に携わっていた。遺
志を形にした Siobhan Dowd Trust は、イギリスとアイルランドの恵まれない子ども
たちへの支援を続けている。なお、故人の受賞は、賞の設立以来初めての出来事だ。
 受賞作品の "Bog Child" は、1980年代の紛争さなかのアイルランドを舞台として
いる。緊迫する社会情勢の中で暮らす少年が、北アイルランドの泥炭の中から2000年
前の少女の遺体(ボッグ・チャイルド)を発見した。少年は、少女の死の謎を解き明
かす中で、時を超えてこの地でひたむきに生きた命の存在を知ることになる。今の時
代から目を背けずに、未来を切り開いていく少年の姿を描いた作品だ。
 52回目のケイト・グリーナウェイ賞には、初受賞となる Catherine Rayner が輝い
た。2007年(2006年度)にデビュー作の "Augustus and his Smile"(『オーガスタ
スのたび』すぎもとえみ訳/アールアイシー出版)で、失くしてしまった笑顔を探し
に世界を旅するトラを描き、ショートリストに選ばれた。そして、2作目の "Harris
Finds his Feet" で小さな野ウサギの成長を描き、栄誉あるメダルを手にした。春の
景色を切り取ったかのような繊細で、なおかつ大胆な絵の力によって、野ウサギの住
む世界は絵本の中に収まりきらない広がりを感じさせる。生き生きとした野ウサギと
その祖父の様子が印象的な作品だ。
 本誌今月号では両賞を受賞した作品のレビューを掲載する。ぜひとも、ご参照いた
だきたい。


【カーネギー賞】(作家対象)

The Carnegie Medal 2009

★Winner
  "Bog Child" Siobhan Dowd (David Fickling Books)
  Amazonで詳細を見る

【ケイト・グリーナウェイ賞】(画家対象)

The Kate Greenaway Medal 2009

★Winner
  "Harris Finds his Feet" Catherine Rayner (Little Tiger Press)
  Amazonで詳細を見る

【参考】
▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞公式ウェブサイト
http://www.carnegiegreenaway.org.uk/

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について
               (本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト
                        (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm

▽ショートリスト(最終候補作)一覧(本誌2009年5月号)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2009/05.htm#sokuho

                                (三好美香)

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●特集●2009年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品レビュー
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 本年度のカーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品レビューをお届けする。
どちらも英国版の本を参照して書かれている。

 なお、ショートリスト(最終候補作)作品については、先月号で以下のレビューを
掲載済み。

・カーネギー賞ショートリスト作品
"Ostrich Boys"(本誌2009年6月号「注目の本」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2009/06.htm#myomi

 また、当クラブ読書室掲示板において、「2009年カーネギー賞/ケイト・グリーナ
ウェイ賞候補作品を読もう会」を現在開催しており、それぞれの本についての感想な
どが活発に飛びかっている。「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集でも、候補作品
のレビューを公開しているので、あわせてごらんいただきたい。

▽読書室掲示板
http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=dokusho

▽「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集
http://www.yamaneko.org/dokusho/shohyo/tokusetsu/10th/index.htm

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★2009年カーネギー賞受賞作品

『時を超えて ボッグ・チャイルド』(仮題) シヴォーン・ダウド作
"Bog Child" by Siobhan Dowd
David Fickling Books, 2008 ISBN 978-0385614269
336pp.
Difinitions, 2009 ISBN 978-1862305915 (PB)
322pp.
Amazonで詳細を見る

 1981年6月、北アイルランド。国境近くの村に住むファーガスは、泥炭地に埋めら
れた遺体を発見した。数日前に殺されたように見えたが、実は2000年もの間状態良く
保存されていたボッグ・ピープルであることが判明。妹と同じくらいの背格好をした
少女の遺体と死の謎に強くひきつけられたファーガスは、夢の中で少女の声を聞いた
り、彼女が生きていた頃の様子を垣間見たりするようになる。彼は進学のための試験
を控えていた。良い成績を取れば、9月からスコットランドで医者になる勉強ができ
ることになっており、家族もそれを強く望んでいた。しかし、試験勉強も手につかな
いまま、ファーガスは考古学者の調査を手伝って少女の死の謎に迫っていく。
 一方、ファーガスの兄ジョーはIRA暫定派の活動をして逮捕され、服役中の身だ。
家族はジョーのことをひどく心配していた。ジョーの仲間には、政治犯として扱われ
ることを要求してハンガーストライキを決行し、死んでしまう者も出ていたのだ。
 1970年代よりはじまる北アイルランド紛争のなかから、作者ダウドは、ボビー・サ
ンズがハンストで死んだことで強い関心を集めた1981年を舞台に選んだ。固い信念を
もって刑務所でハンストを決行し、衰弱していくジョーの様子、仲間の葬儀での一触
即発の緊張感、家族それぞれの立場や気持ち、考え方の違いなどを描くことで、当時
の空気をうまく表した作品に仕上げている。そこに2000年前のボッグ・チャイルドの
発見を組み合わせたのが、いかにも作者らしいところ。少女を夢の中に幻想的に登場
させて、ファンタジーやミステリの味わいをふくらませた。ファーガスが、兄や友人
を守ろうとして苦しい決断を下すなか、夢の中でのボッグ・チャイルドの物語も進み、
死の真相が明らかになっていく。2000年の時を超えてふたりの心が重なる場面では、
全身にふるえが走るのを感じた。たくみな構成力はさすがである。
 それに加えて、悩みながらも前向きに歩いていくすがすがしい主人公の人物造形も
あり、アイルランド独特の風景や音楽の美しい描写もありで、2007年(2006年度)に
同賞ショートリストにあげられた "A Swift Pure Cry" を全体的に上まわる仕上がり
になったといえるだろう。邦訳の予定があるとのことなので楽しみに待ちたいと思う。

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【作】Siobhan Dowd(シヴォーン・ダウド):英国ロンドンでアイルランド系の家庭
に生まれ育った。アイルランドを舞台にした2006年刊のデビュー作 "A Swift Pure
Cry" がブランフォード・ボウズ賞を受賞するなど話題となり、その後の活躍が期待
されたが、2007年8月に癌のため47歳で逝去。書きためていた3、4作目が死後刊行
され、注目を集めている。本作は3作目で、ビスト最優秀児童図書賞も受賞した。

【参考】
▼シヴォーン・ダウド公式ウェブサイト
http://www.siobhandowd.co.uk/

▽シヴォーン・ダウド作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/d/sdowd.htm

                               (植村わらび)

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★2009年ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品

『ハリスの おおきなあし』(仮題) キャサリン・レイナー文・絵
"Harris Finds his Feet" by Catherine Rayner
Little Tiger Press, 2008 ISBN 978-1845065898
26pp.
Amazonで詳細を見る

 ハリスは、小さな野ウサギ。だけど、足だけはとっても大きい。自分の足をながめ
て「どうしてこの足はこんなにでっかいの?」とため息をつくハリスに、おじいちゃ
んは笑う。「野ウサギはみんな、でっかい足をしとるんじゃよ。そのわけを教えてや
ろう」そしておじいちゃんは、ハリスにその大きな足のすばらしさを教えてくれた。
ハリスは走るのもジャンプするのもうまくなり、自分の足のちょっとすてきなところ
を発見したりもする。そして……。
 全体的に、前作の "Augustus and his Smile" とイメージが重なる部分が多く、姉
妹編とも言えそうな作品だ。しかし、子ウサギの成長と、祖父と孫との触れ合いをテ
ーマにしたことで、趣が変わり、これもまた新鮮で印象的な絵本になっている。
"Augustus and his Smile" で、トラのオーガスタスは、失くした「笑顔」をさがし
てたったひとりで世界を旅した。けれども、ハリスにはおじいちゃんという頼もしい
案内役がいる。おじいちゃんはうんと高くジャンプする方法や、地面を掘ってひんや
り寝心地のいい休み場所をつくる方法を、お手本を見せながら教えてくれたり、高い
山を登りながら、これから広い世界に出ていくハリスに励ましの言葉をかけてくれた
りする。老いつつある祖父と幼い孫の道行きは、のんびりとして、ほのぼの温かい。
互いに目を見交わすときの表情や、並んで空を見上げるようす、おじいちゃんの砂色
の背中を見ながら同じ姿勢で山を登っていくハリスの後ろ姿──ふたりの間に通う、
愛情と信頼に満ちた空気が、画面から立ちのぼるように伝わってくる。
 おじいちゃんの真似をすることから始めたハリスも、いつしか祖父を超える力を身
につけ、やがてひとり立ちしていく。その姿をレイナーは、繊細な線と美しく優しい
色彩で、さわやかに描きだした。前作でも色使いの美しさには驚嘆させられたが、こ
の絵本でも、デリケートな色使いが、ハリスのみずみずしい若さと、おじいちゃんと
ハリスの深い絆をみごとに演出している。希望と喜びにあふれた最後のページを、な
んと表現したらいいだろう。輝くばかりの山吹色の野を力強く駆けるハリス──そん
な言葉では言い足りない。レイナーの絵は、あまりにも雄弁だ。

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【文・絵】Catherine Rayner(キャサリン・レイナー):英国ヨークシャー生まれ。
エディンバラ・カレッジ・オブ・アートの卒業制作だった作品が出版社の目に留まり、
絵本作家としてデビュー。2008年のブックトラストの「ビッグ・ピクチャー・キャン
ペーン」では、10人の Best New Illustrators のひとりに選ばれた。作品に "Posy"、
"Sylvia and Bird" がある。現在、エディンバラで多くの動物たちと暮らしている。

【参考】
▼キャサリン・レイナー公式ウェブサイト
http://www.catherinerayner.co.uk/

▽キャサリン・レイナー作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/r/crayner.htm

                                (杉本詠美)

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●注目の本(邦訳読み物)●シュガー+スパイス=どんな味?
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『シュガー&スパイス』 ジーン・ユーア作/渋谷弘子訳
フレーベル館 定価1,470円(税込) 2009.02 223ページ ISBN 978-4577036754
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る
"Sugar and Spice" by Jean Ure
HarperCollins, 2005
Amazonで詳細を見る

 ルース・スパイサーは、勉強が好きで、将来は医者になりたいと夢見ている12歳の
女の子。だが、思う存分に勉強することができない。肺気腫を患うパパの代わりに働
くママを手伝って、家事や看病をしたり、弟妹3人の面倒を見たりしなければならな
いからだ。おまけに両親は教育にあまり興味がなく、ルースの夢を聞いても笑うだけ。
学校でも成績がいいといじめられ、ルースはどの仲良しグループにも入れなかった。
 そんなある日、シェイアン・シュガーという転校生がやってくる。問題を起こして
転校ばかりしている彼女は、友達なんかいらないと思っていた。だが登校初日、作文
をほめられてクラス中から冷やかされているルースに、なぜか助け舟を出してしまう。
そして翌週、ルースがわざとふざけた作文を提出したのを知ると「脳みそがあるなら、
使ったらどうだ!」と怒鳴りつけた。ルースは震えあがり、シェイの言うとおりにす
ると約束したものの、今度はママに振り回されて宿題ができなくなってしまう。見か
ねたシェイの提案で、町の図書館で勉強したルースは大満足だったのだが──。
 ふたりの関係は、いわゆる友達のイメージとはだいぶ違う。シェイが一方的に命令
し、ルースがしぶしぶ行動する、という構図になっているからだ。しかしルースは不
思議といやな気持ちにならなかった。シェイは高級住宅街に住み、ほしいものは何で
も与えられていたが、親の愛情だけが足りなかった。自分に関心を持ってほしくて、
両親を怒らせてばかりいるシェイ。そんなシェイだから、両親の考えや学校の雰囲気
に合わせてしまおうとしているルースが歯がゆく、放っておけなかったのだろう。
 ルースもその時々の不満を言わないわけではないが、その口から親を責める言葉は
出てこない。もどかしく感じながら読んでいるうちに、わたしの高校時代の日記を思
い出した。数年前に見つけたその日記には、親の決めた進路がまるで自分の考えのよ
うに書かれていた。進路への不満や自分の本心にはまったく触れず、その進路が自分
に向いているはずだと言い聞かせている高校生のわたしが、ルースの姿と重なった。
 やり方は乱暴だったが、シェイと親友になれたことでルースは強くなった。「自分
のことは自分でできる」と言いきるシェイにも、明るい未来がありますように。

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【作】ジーン・ユーア(Jean Ure):1943年英国生まれ。十代から作品を書き始め、
さまざまな職業を経て作家となる。親に対する反抗、異性への関心など、子どもの悩
みや心の痛みに寄り添った作品を数多く発表し、子どもたちの圧倒的な支持を得る。
戦争や飢餓、環境問題、動物愛護にも深い関心を寄せ、その姿勢は作品にも反映され
ている。"Bad Alice" は2003年ガーディアン賞ロングリスト作品。南ロンドン在住。

【訳】渋谷弘子(しぶや ひろこ):1952年群馬県生まれ。群馬の県立高校で英語教
師を27年間務めたのち、通信教育で翻訳を学ぶ。ジーン・ユーアの作品では本作のほ
かに、『双子のヴァイオレット』(文研出版)、『秘密のチャットルーム』(金の星
社)の翻訳も手がける。エッセー集『トゥーファーザー ほんとうの気持ち、届けま
す』(文芸社)は、群馬県文学賞(随筆部門)受賞作品。

【参考】
▼ジーン・ユーア公式ウェブサイト
http://www.jeanure.com/

                               (赤間美和子)

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●注目の本(未訳絵本)●NZの子どもたちが選んだホラー絵本
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『おばあちゃんはオオカミばばあ:ひるまむきのおはなし』(仮題)
メリンダ・シマニク文/サラ・ネリシウェ・アンダーソン絵
"The Were-Nana: NOT a Bedtime Story"
text by Melinda Szymanik, illustrations by Sarah Nelisiwe Anderson
Scholastic New Zealand, 2008 ISBN 978-1869438692
32pp.
Amazonで詳細を見る
★2009年ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト小説賞
                       子どもたちが選んだ本賞受賞作品

 外国に住んでいるおばあちゃんが、初めて遊びにくることになった。ステラローザ
は、ちっともうれしくない。写真で見るおばあちゃんは、黒いコートに身を包み、と
てもこわそう。それに、お兄ちゃんのサイモンによれば、おばあちゃんの正体は〈オ
オカミ男〉ならぬ〈オオカミばばあ〉なんだって。
「キスされたら最後、おまえもオオカミばばあになっちゃうんだぞ」空港へ向かう車
の中でサイモンにおどかされつづけ、ステラローザはふるえあがる。
 幼いステラローザのおびえた顔は、リアルなタッチで描かれている。色使いも、ス
テラローザの気持ちそのままに、どんより暗い。おまけに、あやしげな角度から日が
さして、ますますぶきみ。子どもが読むにはこわそうな絵本だ。原題に「ベッドタイ
ム向きではない」と書いてあるのもうなずける。
 ステラローザは、両親に連れられて空港の到着ロビーへ。いよいよおばあちゃん登
場。逆光を受けながらこちらへ歩いてくる。黒い大きな影が目の前にせまる。サイモ
ンがおどし文句をささやく。ステラローザは、こわさのあまり泣きさけぶ。すると、
おばあちゃんは、オオカミの毛皮のような黒いコートを脱ぎはじめた。頭をおおって
いたスカーフもはずすと……〈オオカミばばあ〉なんてとんでもない! ふつうの人
だ。笑顔をうかべたおばあちゃんにやさしくだっこされ、ステラローザの涙はかわく。
 ほっと安心する一方、この展開は、平凡といえば平凡だ。でも、めでたしめでたし
では終わらないところが、この作品の魅力だろう。明るくなった背景が、再びダーク
な色合いに……。そう、こわさは続くのだ。
 こんなぶきみな絵本が子どもたちに人気なのかと、初めはびっくりしたけれど、何
度も読むうちに、じわじわと愛着がわいてきた。ちょっとしたホラー絵本として楽し
めそうだ。家族や友だちと一緒に読めば、恐怖が笑いに変わって、盛り上がるのでは
ないだろうか。ただし、ベッドタイム向きではないことにご注意を。

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【文】Melinda Szymanik(メリンダ・シマニク):1963年、ニュージーランドのオー
クランド生まれ。いくつかの作家養成講座で修行を積み、2006年に、絵本 "Clever
Moo" でデビュー。2008年には、読み物 "Jack the Viking" を発表した。夫とともに
会社を営み、3人の子どもを育てながら、執筆活動を精力的に行っている。

【絵】Sarah Nelisiwe Anderson(サラ・ネリシウェ・アンダーソン):1983年、英
国ロンドンに生まれ、幼少時にニュージーランドに移住。マッセイ大学でデザインを
学んだ後、学校教材などの挿絵をいくつか担当した。絵本は本作品が初めて。2作目
の絵本 "Tiny Miss Dott and her Dotty Umbrella"(Michelle Osment 文)が8月末
に出版される予定。

【参考】
▼メリンダ・シマニク公式ブログ
http://www.melindaszymanik.blogspot.com/

▼メリンダ・シマニク紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/szymanikmelinda.html

▼サラ・ネリシウェ・アンダーソン紹介ページ(New Zealand Book Council 内)
http://www.bookcouncil.org.nz/writers/andersonsarahn.html

                                (大作道子)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2009年銀の石筆賞発表(金の石筆賞の発表は10月6日)
★2010年国際アンデルセン賞候補者発表(受賞者の発表は2010年3月)
★2009年エスター・グレン賞、ラッセル・クラーク賞他ファイナリスト発表
                         (受賞作の発表は8月10日)
★2009年カーネギー賞発表
★2009年ケイト・グリーナウェイ賞発表
★2009年ローカス賞発表
★2009年ブックトラスト・ティーンエイジ賞ロングリスト発表
             (ショートリストの発表は9月、受賞作の発表は11月)
★2009年金の絵筆賞発表
★2009年ブランフォード・ボウズ賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 板橋区立美術館「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」
 山梨県立美術館「ハンス・フィッシャーの世界」
 国立国会図書館国際子ども図書館「出発進行!『のりもの』本めぐりへ」 など

★講座・講演会情報
 大阪府立国際児童文学館「池内紀さん講演会」
 教文館 子どもの本のみせ ナルニア国「菱木晃子氏講演会」
 射水市大島絵本館「絵本セミナー『いのちの絵本』」 など

 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、
空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                           (笹山裕子/冬木恵子)

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●お菓子の旅●第48回 白くてつるりん、あこがれのデザート 〜ブランマンジェ〜
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The blancmange was lumpy, and the strawberries not as ripe as they looked,
having been skillfully 'deaconed.'
              "Little Women" by Louisa May Alcott(1868)
                       Oxford University Press(1998)
              Amazonで詳細を見る
             『若草物語』
              オルコット著/矢川澄子訳/福音館書店(1985年)他
              Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る
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 冷たくてのどごしのよいお菓子、ブランマンジェ。子どものころ『若草物語』でそ
の名を知ってあこがれた人も多いことでしょう。ところが引用部分では少々様子が違
います。四姉妹で1週間遊び暮らすという実験の最終日、家政婦と母親までもが家事
を休んでしまい、最終的に次女のジョーが料理を引き受けます。ところがどれもこれ
も失敗して、ブランマンジェはぶつぶつとかたまりだらけになってしまったのです。
 ブランマンジェは、中世のフランスやイギリスをはじめ、ヨーロッパ各地で作られ
ていました。といっても、当時は鶏肉を米やアーモンドと煮てすりつぶしたり、鶏の
煮汁で米を煮てアーモンドミルクを加えたりした、手間のかかるポタージュ状の料理
でした。白身の魚を使うこともあり、肉の入らないものは宗教上の肉断ちの日の食事
にもなっていたようです。18世紀終盤になると、だんだん作られなくなっていったこ
の料理に代わって、アーモンドミルクをゼラチンで固めたお菓子がおなじくブランマ
ンジェという名で登場し、一世を風靡しました。その後アーモンドミルクよりも牛乳
を使うことが多くなり、またイギリスではゼラチンでなくコーンスターチで固めるよ
うになりました。ジョーのブランマンジェがかたまりだらけになったのは、もしかし
たらこの方法だったからかもしれませんね。
 今回は、アーモンドの香り漂うフランス式のレシピをご紹介しましょう。フランス
語で「白い食べ物」という意味のその名にふさわしいでき上がりをお楽しみに。

*-* ブランマンジェの作り方 *-*

                  画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)


材料(プリン型4個分)
ブランマンジェ用
 アーモンド(ダイス)    40g    粉ゼラチン            4g
 牛乳           400cc    グラニュー糖           30g
 アーモンドエッセンス   少々    

アングレーズソース用
 牛乳           300cc    グラニュー糖           30g
 卵黄          2個分    バニラエッセンス        少々

1.フライパンでアーモンドを香ばしくから煎りする。
2.鍋に牛乳を入れ、1を加えて火にかける。沸騰したら火からおろし、ふたをして
  10分ほど蒸らす。
3.裏ごし器などの目の細かい網でアーモンドをこし取り、グラニュー糖、大さじ1
  程度の水でふやかしたゼラチン、アーモンドエッセンスを入れてよく溶かす。
4.型に流し、冷蔵庫で冷やし固める(約3時間)。
5.食べる直前に型から出して皿に入れ、アングレーズソースをまわりに流す。型が
  はずれにくい場合は数秒ぬるま湯につける。長くつけると溶けてしまうので注意。

アングレーズソースの作り方
1.牛乳を沸騰直前まであたためる。
2.卵黄とグラニュー糖をよく混ぜて、1の牛乳の半量を少しずつ加えてよく溶かし、
  それを残りの牛乳が入った鍋にもどして混ぜ合わせる。
3.弱火で底が焦げないよう木べらで混ぜながら煮る。小さな泡が消え、少しとろみ
  がついたら火からおろす。煮すぎると分離するので注意する。
4.バニラエッセンスをふって混ぜ、あら熱を取って冷蔵庫で冷やす。

★参考図書
『人気ケーキ・菓子をつくる本』(河合重久著/旭屋出版)
『中世フランスの食』(森本英夫著/駿河台出版社)
『お菓子の歴史』(マグロンヌ・トゥーサン=サマ著/河出書房新社)

★「やまねこ翻訳クラブお菓子掲示板」
        http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=okashi

                         (冬木恵子/かまだゆうこ)

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●読者の広場● 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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 このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる
お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ
ください。

※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編
集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。

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●お知らせ●

 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。
こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
http://www.yamaneko.org/info/order.htm
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           ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・

 詳細は毎月10日頃、やまねこ翻訳クラブHPメニューページに掲載します。
          http://www.yamaneko.org/info/index.htm
 どうぞお楽しみに!

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▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽

  やまねこ翻訳クラブ(yagisan@yamaneko.org)までお気軽にご相談ください。
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     ☆☆ FOSSIL 〜 Made in USA のカジュアルウオッチ ☆☆
「FOSSIL は化石って意味でしょ? レトロ調の時計なの?」 これは創業者の父親が
FOSSIL(石頭、がんこ者)というあだ名だったことから誕生したブランド名。オーソ
ドックスからユニークまで様々なテイストの時計がいずれもお手頃価格で揃います。
2005年より新しいスローガン "What Vintage are you?" を掲げ、更にパワーアップ
した商品ラインナップでキャンペーンを展開。Vintage を表現する重要なツールが
TIN CAN(ブリキの缶)のパッケージです。年間200種類以上の新しいTIN CAN が発表
され、時計のデザイン同様、常に世界中のコレクターから注目を集めています。
http://www.fossil.co.jp/      (株)フォッシルジャパン:TEL 03-5981-5620
                             やまねこ賞協賛会社
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          吉田真澄の児童書紹介メールマガジン
             「子どもの本だより」
     http://www.litrans.net/maplestreet/kodomo/info/index.htm
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★☆       出版翻訳ネットワーク・メープルストリート       ☆★
        http://www.litrans.net/maplestreet/index.htm
新刊情報・イベント情報などを掲載いたします。詳細はmaple2003@litrans.netまで。

       出版翻訳ネットワークは出版翻訳のポータルサイトです
             http://www.litrans.net/ 
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     ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★
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未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や
編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉
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★やまねこアクチベーター(毎月20日発行/無料)
  やまねこ翻訳クラブのHOTな話題をご提供します!
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●編集後記●毎年目が離せないカーネギー賞とケイト・グリーナウェイ賞。今年は両
賞ともに受賞作品のレビューをお届けできてうれしい限りです。梅雨明けの声も聞か
れるようになり、いよいよ夏本番。1か月休んで、9月号に向けて英気を養いたいと
思います。(う)
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発行人 武富博子(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人 植村わらび/赤間美和子/井原美穂(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 大作道子 かまだゆうこ 児玉敦子 笹山裕子 杉本詠美 冬木恵子
    三好美香 村上利佳
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
    ながさわくにお 林檎
    html版担当 ハイタカ
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