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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

国際アンデルセン賞(世界)  レビュー集
(ハンス・クリスチャン・アンデルセン賞)

Hans Christian Andersen Awards

 

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最終更新日 2009/10/05 ハウゲンとカリジェのレビューを追加 

国際アンデルセン賞受賞者リスト(やまねこ資料室) 国際アンデルセン賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メ ールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていない作品については原作を参照して書かれています。


Astrid Lindgren (アストリッド・リンドグレーン) 『さすらいの孤児ラスムス』『やねの上のカールソン
Margaret Mahy (マーガレット・マーヒー)危険な空間』『ポータブル・ゴースト』 『みーんないすのすきまから』(リンクのみ)
Tove Jansson トーベ・ヤンソンそれからどうなるの?』(リンクのみ)
Anthony Browne (アンソニー・ブラウン)びくびくビリー』(リンクのみ)
Farshid Mesghali (ファルシード・メスガーリ)赤ひげのとしがみさま
Gianni Rodari (ジャンニ・ロダーリ)うそつき国のジェルソミーノ』 『もしもし…はなしちゅう
Tormod Haugen(トールモー・ハウゲン)夜の鳥←追加
Alois Carigiet (アロワ・カリジェ)ナシの木とシラカバとメギの木←追加
 


1958年国際アンデルセン賞作家賞受賞

Astrid Lindgren (アストリッド・リンドグレーン) スウェーデン 『さすらいの孤児ラスムス』(尾崎義訳/岩波書店/1965年)で受賞
(1960年までは作品が受賞の対象であった。それ以降は全業績が対象)
その他の受賞歴
1979年ヤヌシュ・コルチャック賞受賞

"Rasmus pa luffen 〔Rasmus på luffen〕" (1956) by Astrid Lindgren アストリッド・リンドグレーン (スウェーデン語)
『さすらいの孤児ラスムス』 尾崎義訳 岩波書店 1965年 

  孤児院に暮らすラスムスは、いつかやさしいお母さんとお父さんのもとへ里子に行くことを夢みている。けれども選ばれるのは、いつも巻き毛の女の子ばかり。ラスムスのような針毛の男の子は、望みが薄かった。ある日ラスムスは、寮母の先生に叱られ、とうとう孤児院から逃げ出す。そして、こわくてふるえながら夜の街道をひた走り、疲れはてて小さな納屋にたどりついた。翌朝、目が覚めると、そこにはひげづらの先客が! それが風来坊のオスカルとの出会いだった。

 40年以上昔の、のどかなスウェーデンの田園を背景にしたラスムスの逃避行は、思いがけない展開を見せる。手に汗にぎる活劇にひきこまれ、久しぶりに寝るのも惜しんで読んだ。この時代の児童文学は、なんて楽しく、心温まるのだろう。全編を通して描かれるのは、自分の本当の家と家族を渇望するラスムスの痛々しいまでの思い。そしてオスカルのような風来坊を受け入れる当時のスウェーデンの暖かな人情だ。貧しいけれど心の清いオスカルは、日本でいえば「寅さん」のようなキャラクターか。リンドグレーンが子どもの頃、自宅の農場によく、こ んな浮浪者がご飯を食べにきたのだという。同じようなテーマを描いた現代児童文学と比較し、時代の変化というものを考えさせられた。

(大塚道子) 2008年4月公開


"Lillebror och Karlsson pa taket 〔Lillebror och Karlsson på taket〕" (1955) by Astrid Lindgren アストリッド・リンドグレーン (スウェーデン語) 
『やねの上のカールソン』 大塚勇三訳 岩波書店 1965年

  ストックホルムのふつうの町の、ふつうの家に、ふつうの家族が住んでいました。両親と、兄のボッセに姉のベッタン。そして末っ子のリッレブルールは、ことし七才のふつうの男の子です。この家でただひとつ変わっていたのは、やねの上にカールソンが住んでいること。カールソンはまるまる太った男の人で、せなかにつけたプロペラで空を飛べるんです。リッレブルールは、カールソンと友だちになりますが、家族のだれもそんなことを信じてくれません。

 やねの上のカールソンは、ちょっとずるくて、自信家で、いつも自分が世界一だとじまんしています。おまけに食いしん坊で、よくばりで、ほらふきでで、とても、うちの子供部屋には来てほしくないようなおじさんです。でも、なぜかリッレブルールはカールソンが大好き。それはカールソンといると楽しいからかな? この突拍子もないキャラクターと、暖かい愛情にあふれた一家の様子が目に浮かんできて、読後には心がほっこり暖かくなりました。
 このお話の舞台はリンドグレーン一家が10年間住んだ建物だそうです。愛蔵版アルバム『アストリッド・リンドグレーン』(2007年、岩波書店)には、その写真が載っています。

(大塚道子) 2008年4月公開

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2006年国際アンデルセン賞作家賞

Margaret Mahy (マーガレット・マーヒー )  ニュージーランド


"Dangerous Spaces" (1991)
 by
Margaret Mahy マーガレット・マーヒー
『危険な空間』 青木由紀子訳 岩波書店 1996年
 その他の受賞歴 
 ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞 年間最優秀図書候補作

 両親を失った11歳のアンシアは、同じ年のいとこフローラの家に引き取られるが、なかなかなじめずにいた。そんなアンシアは、大叔父ヘンリーの残した立体鏡の中の世界、ヴィリディアンに毎晩迷い込むようになる。ヴィリディアンでは、若くしてこの世を去ったヘンリーが、死の世界へ行くことができずにさまよっていた。寂しいヘンリーは、アンシアを自分の世界に引きずり込もうとする。一方、いとこのフローラには、ヘンリーの兄である祖父ライオネルの霊が見えることがあった。ライオネルは、自分が精魂込めて建てた家が改築されないよう子孫を見張っているのだ。それぞれが「幽霊」と対峙することで、初めはギクシャクしていたアンシアとフローラの関係が少しずつほぐれていく。

 ヴィリディアンの世界に入り込んだ当初は、その広い空間に居心地の良さを感じていたアンシア。ところが、現実の世界が充実していくことにより(フローラやその家族と絆を深めていくことにより)、その世界は収縮しはじめる。主人公の精神状態を空間の伸縮で表すというアイデアがユニークだ。自分を取り巻く現実の世界が厳しいと、空想の世界に逃げ出したくなるものだが、そういった誰にでも起こりうる心情をヴィリディアンという立体鏡の中の世界を設定することでファンタジックに描いている。
 アンシアが新しい環境に少しずつなじんでいく様子が描かれる一方で、もう一人の主人公フローラの心情も同じくらい丁寧に描かれている。容姿の美しいアンシアに対し劣等感を感じているフローラが、自らの複雑な気持ちと葛藤し、アンシアを受け入れていく過程は感動的だ。

(相良倫子) 2008年4月公開


"Portable Ghosts" (2006) by Margaret Mahy マーガレット・マーヒー
『ポータブル・ゴースト』 幾島幸子訳 岩波書店 2007年   

 この2週間というもの、ディッタがみかけるたび、あの男の子は図書館のあの席で、いつもぶあつい大きな本を覆いかぶさるようにして読んでいる。すみの机の、窓から日がさしこむと、いつも外の木の葉の影がうつってチラチラしているあの席で。ディッタがみていると、今日はいつもと違うことがおこった。男の子は、目をあげると、こっちを見てニッと笑い、そして一瞬のうちにうちに消えてしまったのだ。ディッタは寒気がした自分に腹を立て、嫌がる足をひきずって、もう一度現れた男の子の方へ向かった。「あたし、あんたが見えるのよ」「まじめに答えてよ。あんた、幽霊なの?」男の子は答えた。「もちろん、そうさ」
 その日の帰り、クラスメートのマックスを見かけた。様子がおかしい。いつもなら乗ってくるはずの、図書館の幽霊の話をしても、マックスの様子はますますおかしくなるばかり。ディッタは図書館の幽霊のことやマックスのことが気にかかり、そしてふとひらめいた。『ふしぎなことがあるなら、だれかが解決しなきゃならない。じゃ、あたしがすれば?』

 ポータブル・ゴースト、持ち運べる幽霊。いったいどんなものだろうと興味をそそられて読んだ。幽霊の正体を調べようと、ディッタは、図書館のお手伝いをしたり、マックスの家に乗りこんだりして奮闘し、マックスの様子がおかしかった理由も、別の幽霊が原因だとつきとめる。図書館の幽霊と、マックスの幽霊。この二つがうまくからみあい、さらに幽霊にコンピューターが関わってくる。あちらとこちらがつながって、うまく物語になっているところはさすがマーヒーと舌を巻いた。 
 でてくるキャラクターもなかなか魅力的である。主人公のディッタはもちろんのこと、パソコンの得意なちょっとシニカルな感じの妹や、近所のボルディじいさん(いつもノートパソコンを抱え、とんでもなく長い話をしてくる)もおもしろい。
 小学生でも読める内容のため、『錬金術』などと比べると、あっさりしているという印象は受けるが、このくらいの年代の子なら楽しく読めることうけあいだ。

(美馬しょうこ) 2008年4月公開


"Down the Back of the Chair" (2006)  by Polly Dunbar ポリー・ダンバー、text by Margaret Mahy マーガレット・マーヒー
『みーんないすのすきまから』 もとしたいづみ訳 フレーベル館 2007年
その他の受賞歴
2007年(2006年度)ケイト・グリーナウェイ賞 ロングリスト

2008年やまねこ賞絵本部門大賞

 ケイト・グリーナウェイ賞レビュー集を参照のこと

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1966年国際アンデルセン賞作家賞

Tove Jansson トーベ・ヤンソン フィンランド


"Hur gick det sen" (1949) Tove Jansson トーベ・ヤンソン (スウェーデン語)
『それからどうなるの?』 渡辺翠訳 講談社 1991
 その他の受賞歴
 ・1953年ニルス・ホルゲッソン賞

 ニルス・ホルゲッソン賞レビュー集を参照のこと

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2000年国際アンデルセン賞画家賞

Anthony Browne アンソニー・ブラウン イギリス


"Silly Billy" (2007) by Anthony Browne アンソニー・ブラウン
『びくびくビリー』 灰島かり訳 評論社 2006.09
 その他の受賞歴
 ・
2008年(2007年度) ケイト・グリーナウェイ賞 ショートリスト
 ・2007年チルドレンズ・ブック賞幼年向け部門ショートリスト

 ケイト・グリーナウェイ賞レビュー集を参照のこと

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1974年国際アンデルセン賞画家賞

Farshid Mesghali (ファルシード・メスガーリ) イラン


"Uncle New Year" (1975)
 ファリード・ファルジャーム、ミーム・アザード文(再話) ファルシード・メスガーリ絵  
『赤ひげのとしがみさま』 桜田方子、猪熊葉子訳 ほるぷ出版 1984
 その他の受賞歴    

 赤い髪の毛、赤いひげのとしがみさまは、毎年春になると、町にお正月を運んできてくださいます。春の最初の日、1人のおばあさんが、としがみさまのおいでを待っていました。ベランダに広げた絹の敷物の上に、Sの頭文字のつく7つの品物をきれいに並べ、髪にはバラのにおいの水をふりかけて、準備は万端。ところが、敷物に座って待つうちに、おばあさんは眠り込んでしまいます。ちょうどそこに現れたとしがみさまは、眠っているおばあさんを見て……。

 翻訳ものの絵本を読みなれた人がこの作品を手に取ったら、間違っておしまいのページから読み始めようとするかもしれません。そう、この本は、最初から日本語で書かれた作品と同じように、右綴じなのです。この絵本が生まれた国イランの言葉は、ペルシャ語。アラビア文字を用いて右から左へ書く言語なので、ペルシャ語の書物は右綴じなのですね。日本語の訳文は、縦書きで印刷されています。外国のお話なのに手になじむ、不思議な感触の絵本です。
 物語は、イランのお正月の様子を楽しく伝えてくれます。作中では特に説明されていませんが、イランの伝統的な暦では、春分が年の初め。春を迎えることが、新しい年の始まりになる、という考え方は、日本人の感覚とも合っていますよね。つぼみが開き、草が茂る季節に祝うお正月を描いたこの絵本からは、すがすがしい花の香りが漂ってくるようです。おばあさんが用意する「Sの頭文字のつく品物7つ」は、イランの新春に欠かせない縁起物。ほかにも、鏡や魚などイランの新年らしいものが出てきますが、これらの説明はなくても、年があらたまるときの厳かで華やいだ雰囲気に、日本の子どもたちも共感をおぼえることでしょう。
 挿絵は、布地を多用したコラージュに彩色を組み合わせています。としがみさまの上着は、春そのもののように鮮やかな若草色。おばあさんの赤いほっぺも愛らしいです。としがみさまのカールした赤毛や彫りの深い顔立ち、おばあさんの水ぎせるなど、エキゾチックだなあと思う一方で、敷物を広げた上に物を並べ、裸足で座っているおばあさんの姿には、日本人もこういうふうにするよね、と親しみを感じます。
 お話の中に、「としがみさまにあえた人は、いつまでも、春のように、わかいままでいられるそうです」と書いてあります。春のように、わかいまま、とは、魅力的な響きではありませんか。ぜひこの絵本を開いて、としがみさまのお姿を目にしてみてはいかがでしょうか。

(古市真由美) 2008年10月公開

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1970年国際アンデルセン賞作家賞

Gianni Rodari (ジャンニ・ロダーリ) イタリア


"Gelsomino nel paese dei bugiardi" (1958) by Gianni Rodari ジャンニ・ロダーリ  
『うそつき国のジェルソミーノ』 安藤美紀夫訳 筑摩書房 1985(邦訳読み物)
 その他の受賞歴    

 ジェルソミーノは生まれたときからとてつもなく声が大きかった。産声で村中の人を起こし、学校に上がると、返事をしただけで黒板がくだけ散り、窓ガラスが割れる。サッカーの応援をすれば、ジェルソミーノの声に押されたボールがゴールに飛び込んでしまう。大人になり、声が原因で面倒なことに巻き込まれたジェルソミーノは、生まれ育った村を出ることにした。たどりついた場所は、誰もが本当のことを言わないうそつきの国だった。
 うそつきの国では本当のことを言うと犯罪になるので、パン屋で文房具を売り、文房具屋でパンを売る。それだけではなく、猫たちはワンとほえ、犬たちはにゃおんと鳴く。そうとは知らずに本物のお金を使ってしまい、警察に連れて行かれそうになったジェルソミーノは、思わず大声を出してしまう。近くにあった街灯が粉々になり、その中から、3本脚の猫、ゾッピーノが現れた。子どものいたずら描きが、本物の猫になったのだった。ジェルソミーノとゾッピーノは行動をともにすることになる。
 ジェルソミーノは、何もかも反対のことをいったり、やったりしなければならないことに戸惑いながら、歌手にスカウトされ、コンサートを開くが、またもや声が原因で面倒なことになり、追われる身となる。一方ゾッピーノは、自分たちは〈犬〉だと言い張る猫たちに、にゃおんと鳴くことを教えったり、王様のひみつを知ったりするうちに、やはり追われる身になる。

 善人だが、生まれ持った資質によりトラブルに巻き込まれやすい主人公が、最後は英雄(?)になるというあたりは、古典的な童話の形をとっている。元海賊の王様ジャコモーネ、画家バナニート、立ちんぼベンヴェヌートなど、登場人物はなかなか個性的だが、中でも、座ったり寝たりすると、急速に年を取ってしまい、10年も生きていないのに老人になってしまった、立ちんぼベンヴェヌートが印象に残った。
 ジャンニ・ロダーリはイタリアを代表する児童文学作家。言葉遊びが得意で、翻訳しにくい作品が多いことにも原因があるのだと思うが、日本でそれほど知名度がないのが残念である。過去に翻訳出版された作品の多くは絶版になっているようで、これまた残念。

(赤塚きょう子) 2009年3月公開


"Favole al telefono" (1962) by Gianni Rodari ジャンニ・ロダーリ
『もしもし…はなしちゅう』 安藤美紀夫訳 大日本図書 1983(邦訳読み物)
 その他の受賞歴    

 一週間のうち6日はイタリア中を飛びまわっているセールスマンが、お話を聞かないと眠れない娘のために、毎晩9時きっかりに電話で物語を聞かせてやります。
 姉の結婚式の料理の材料を狩ってこいと母親に言われ、狩りに出かけた猟師の前に、うさぎ、きじ、つぐみが次々に現れますが……。(「運のわるいりょうし」)
 小さなアリーチェは、目覚まし時計の中やびんの中など、よくいろいろなところへ落ちてしまいます。そのたびにおじいちゃん、おばあちゃんは必死で探します。ある日、引き出しの中へ落ちてしまい……。(「アリーチェ・カスケリーナ」)
 チェゼナティコの町に移動メリーゴーラウンドがやってきました。おじいさんは孫と一緒にメリーゴーランドに乗ります。まわり始めると、メリーゴーラウンドは町で一番高いビルよりも高いところまで浮き上がりました。(「チェゼナティコのメリーゴーラウンド」)

 電話で聞かせたという設定の短い物語が、計16話収録されている。ナンセンスな話、ほのぼのとした話など、いろいろあるが、「ミーダ王」のように、ギリシャ神話のミダス王の逸話をモチーフにしたもの(「ミーダ」は「ミダス」にイタリア語表記)や、「にげだした鼻」のようにゴーゴリの「鼻」に触発されたらしき話もある。また、前述の「チェゼナティコのメリーゴーランド」のように、実在の地名が出てくるものもある。
 アリーチェの話のようなナンセンスな話もいいが、不思議なできごとが淡々と語られる「チェゼナティコのメリーゴーラウンド」が印象に残った。老人ホームへやってきたおばあさんが、毎朝、鳥たちにビスケットのかけらをやるだけの話(「アダおばさん」)もよかった。

 (赤塚きょう子) 2009年3月公開

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1990年国際アンデルセン賞作家賞

Tormod Haugen (トールモウ・ハウゲン) NEW ノルウェー


"Nattfuglene" (1975) by Tormod Haugen トールモウ・ハウゲン  
『夜の鳥』 山口卓文訳 河出書房新社 2003 (邦訳読み物)
 その他の受賞歴
 ・1975年ノルウェー児童文学賞
 ・1979年ドイツ児童文学賞児童書部門

 8歳の少年ヨアキムのパパは、自分に向いていないかもしれない教職についたあげくに、神経を病んで仕事ができない状態だ。家にいても家事も満足にできず、しまいにはどこかにふらっと出ていってしまう。失望し途方にくれるママ。そんな家族の存在は不安定なヨアキムの心に重たくのしかかってくる。パパはもう帰ってこないかもしれない……。ヨアキムが不安を抱き始めると、心の中で、いやな幻想が頭をもたげてくる。あの洋服ダンスの中には鳥が潜んでいるだ、紅い目をした真っ黒で恐ろしい夜の鳥が――。その鳥は巨大な翼を広げて、ヨアキムの世界を暗黒に塗りつぶしてしまうのだった。

 主人公のぐらぐらとした不安定な日常を、詩的で無駄のない文章で淡々とつづっている。現実とファンタジーが交錯する世界は、主人公の寂しさ、悲しさ、哀れさを表している。読み進むほど、大人の勝手な都合で振り回されるヨアキムを何とかしてあげたいという気持ちになってくる。でもこの本では、パパと家族の問題だけではなくて、子ども同士の人間関係、学校の様子、気に入った女の子とのふれあいなども描かれている。
 雨の日の場面が印象的だ。しっとりと濡れる公園や秋の木々。豊かな自然描写は、主人公の心情と一緒になって、こちらの深部に染み込んでくる。静けさと悲しさ、危うさが入り混じった、魅力ある作品だと思った。

(大隈容子) 20098年10月公開

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1966年国際アンデルセン賞画家賞

Alois Carigiet アロワ(アロイワ)・カリジェ NEW スイス


"Birnbaum, Birke, Berberitze" (1967) by Alois Carigiet アロワ・カリジェ  
『ナシの木とシラカバとメギの木』 大塚勇三訳 岩波書店 1970
 その他の受賞歴    

 スイスの山の中、カンテルドン村にある小さな家。家のすぐわきには古びたナシの木、入り口近くには大きなシラカバ、後ろの垣根のわきにメギのしげみがあった。ナシの木は二羽のカラスのねぐらで、シラカバにはカササギの夫婦が住んでいた。小さくてとげだらけの枝をもつメギは何の役にも立たない。家には両親、女の子、男の子の4人家族が住んでいて、シラカバのそばにあるベンチは、家族の憩いの場所だった。
 ある日、人間たちがベンチでくつろいでいると、ナシの木の先住者カラスたちが、新参者アトリの巣を壊してしまう。みなが大騒ぎしているすきに、カササギたちは女の子の大事なものを取ってしまった。そして……。冬が近づき、枯れかかっていたナシの木はたき木にするために切り倒されてしまった。


 スイスの清々しい大自然の空気まで漂ってきそうなカリジェの絵がすばらしい。カリジェ自身も子ども時代を山の村で過ごしたのだそうだ。木々と鳥と人間のちょっとした関わりあいが、それぞれの生活に大きく影響しつつ、日々を形作っていく。ごく淡く水彩絵の具が重ねられているので、下書きした線もうっすらと見え、筆使いまでもはっきりと目にすることができる。水彩のほのかな優しい色合いはとても美しいのだが、お話は必ずしも甘いだけではない。
 ナシの木は切り倒され、人のためのたき木になり、カラスは住むところを失う。カラスが巣を壊して追い払ったアトリにもまた、季節が巡るとともに新たな変化が起こる。
 ナシのたき木を運びながら、男の子は壊された巣のことが忘れられなかったし、女の子は失った大切な物がどこにいったのか気がかりだった。けれども冬が来て雪がつもったある日、思いがけず二人の悩みに明るい光がさしてくる。そして春が来るころ、メギの木にも新しいことが起きるのだ。美しいスイスの山奥で起きる、人と鳥と木の物語だ。

(尾被ほっぽ) 2009年10月公開

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