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やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集> カーネギー賞レビュー集(2008年)
 

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 やまねこ10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」レビュー集

カーネギー賞(イギリス) レビュー集  その2
The Carnegie Medal

「2008年(2007年度)カーネギー賞&ケイト・グリーナウェイ賞候補作を読もう会」
▽▲合同企画▲▽
 

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最終更新日 2009/08/02 レビューを1点追加 

2007年(2006年度以前) / 2008年(2007年度)「カ&グ賞候補作を読もう会」合同企画 / 2009年「カ&グ賞候補作を読もう会」合同企画

カーネギー賞受賞作品リスト(やまねこ資料室) カーネギー賞の概要

このレビュー集について
 10周年記念「世界の児童文学賞ラリー」においてやまねこ会員が個々に書いたレビューを、各児童文学賞ごとにまとめました。メールマガジン「月刊児童文学翻訳」「やまねこのおすすめ」などに掲載してきた〈やまねこ公式レビュー〉とは異なる、バラエティーあふれるレビューをお楽しみください。
 なお、レビューは注記のある場合を除き、邦訳の出ている作品については邦訳を参照して、邦訳の出ていな作品については原作を参照して書かれています。

*カーネギー賞公式サイトにおいて、2007年より、年表記が、出版年度(前年)から授賞年に変わりましたので、 やまねこサイトでも順次改めていきます。2005年度(発表は2006年)以前の作品については、以前のまま作品が出版された年度で表示しています。


"Life on the Refrigerator Door"『冷蔵庫のうえの人生』  * "The London Eye Mystery" * "Zenith" * "Girl, Missing" * "Ottoline and the Yellow Cat" (リンク) * "Gatty's Tale" * "Apache" * "Here Lies Arthur"『アーサー王ここに眠る』←追加 * 


2008年(2007年度) カーネギー賞ロングリスト

"Life on the Refrigerator Door"(2007) by Alice Kuipers アリス・カイパース
『冷蔵庫のうえの人生』 八木明子訳 文藝春秋社 2007.12

その他の受賞歴


 冷蔵庫の扉に貼られた、母と娘の互いへの短いメモ(手紙)だけで構成された本。
 母は産婦人科医として忙しい日々を送り、15歳の娘クレアも、友達やボーイフレンドのことで頭がいっぱいだ。買い物リスト、今日のできごと、帰宅時間……メモは、なかなか顔を合わせて話すことの少ない2人の大切なコミュニケーション手段だった。 ところが、ある日をさかいに、母親からのメモには「話したいことがあるの」という言葉が繰り返し出てくるようになる。母親は、病院に行って診察を受けることになったのだという。

 2人のすれ違いがもどかしい。互いの予定がずれて、片方が顔を合わせて話をしたい時に、片方には予定が入ってしまう。母親の娘を心配させまいとする気遣いが、かえって娘の気持ちを波立たせてしまう。実の親子だから、つい言葉が過ぎて傷つけあってしまうことだってある。どれもこれも、身に覚えがあることばかりで、読んでいて辛くなってきた。だが、家族や友達、ボーイフレンドへの思いが綴られたクレアの素直な文章を読むと、彼女のこれから先の生き方が見えてくるようで救われる。
 ユニークな形式のこの本は、作者アリス・カイパースのデビュー作である。クレアのようなヤングアダルト世代や、クレアの母親の世代だけでなく、さまざまな立場の人の心にひびくことだろう。

(植村わらび) 2008年6月公開


 高校生のクレアと産婦人科医のお母さんは、忙しい毎日を送っている。すれ違いの多いふたりの連絡手段は冷蔵庫のうえにマグネットで止めたメモ。買い物リストや週末の予定の相談、ペットの世話の依頼やおこづかいの催促など、最初はごく普通のメモだった。ところがある日、「話しておきたいことがあるの」と母が書き記す。母に病気が見つかり、闘病が始まったのだ。支えあわなければいけない母娘だが、なかなかストレートに分かり合えないもどかしさ。そんな中にも綿々と続いて行く日常。つらい現実を前にしたふたりの日々が、冷蔵庫のメモだけを通じて描かれる。

 冷蔵庫のうえに止めたメモだけで構成された、ある意味実験的な作品。
 わずかな言葉を通して、この母娘とそれを取り巻く人々の暮らしがこんなに見えてくることに驚き、せつないラストに泣いた。そしてクレアと一緒に、十代の頃の親への反抗や甘えなどの気持ちを思い出した。クレアは立派に現実を受け止めたなと思う。お母さんの、遣り残したことへの思いが、胸につきささってくる。日本版だけという絵文字の登場も、いまの子どもらしくていい。作者は1979年生まれ。この作品が初めての小説とのこと。

(大塚道子) 2009年5月公開

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2008年(2007年度) カーネギー賞ロングリスト

"The London Eye Mystery"(2007) by Siobhan Dowd (未訳読み物)

その他の受賞歴
2008年チルドレンズ・ブック賞高学年向け部門ショートリスト
2007-08年ビスト最優秀児童図書賞


 デビュー作 "A Swift Pure Cry" が数々の賞のショートリストに輝いたシヴォーン・ダウド。彼女の2作目は、ロンドンの観光名所ロンドン・アイ(観覧車)に乗って1周する30分の間に姿を消してしまった少年の謎を、12歳の主人公「ぼく」が解いていくミステリー風の作品だ。
 姿を消した少年サリムは、「ぼく」の1つ年上のいとこで、母親の仕事でアメリカへ移住する前の数日を、ロンドンの「ぼく」の家に滞在しているところだった。いなくなる前の晩にサリムといろいろな話をし、当日もロンドン・アイからサリムが降りてくるのを下で待っていた主人公は、8つの推論を立てて、姉と一緒に、ひとつひとつ検証していく。

「ぼくの脳は、他の人と動き方が違うんだ」主人公の説明や、作中に出てくるシンドロームという言葉などから、はっきりと書かれてはいないものの、主人公はアスペルガー症候群なのだろうと想像できる。人とのコミュニケーションや体に触れられることが苦手な「ぼく」が、抜群の記憶力や、(コミュニケーション以外の)認識力や推察力などを武器に、謎に向かって一歩一歩進んでいく。
 このような設定からは、どうしても『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(マーク・ハッドン作/小尾芙佐訳/角川書店)が思い出されるし、家族関係とミステリーが密接に関係しているという点からは "Finding Violet Park" (Jenny Valentine 作)も浮かんでくる。たしかに、オリジナリティーという点では、デビュー作で感じたような新鮮な驚きはない。しかし、対象年齢を低めに設定してある分、安心して読み進められる作品に仕上がったといえるだろう。事件を通して「ぼく」がまわりの人をより親しい存在として感じていく様子、2人きりの家族であるサリムと母親の互いへ対する複雑な思い、偉そうにふるまう姉と「ぼく」の微妙な関係、姉が思春期に入ってから険悪になってきた母娘関係といった要点が、きちんと押さえられ、解決が与えられているのだ。また、ミステリーとしてのおもしろみも十分といえる。なにより、からっと明るくほっとするような雰囲気は、上にあげた作品にはない魅力だ。

(植村わらび) 2008年6月公開

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2008年(2007年度) カーネギー賞ロングリスト

"Zenith"(2007) by Julie Bertagna (未訳読み物)

その他の受賞歴


"Exodus"(2002)の続編。(レビューはこちら)
   2002年ウィットブレッド賞 (現コスタ賞)児童書部門ショートリスト2002年ガーディアン賞ロングリスト作品

 西暦2100年。温暖化が招いた海面上昇により、地球上の陸地の大半は海に沈んでいた。主人公マーラは水没を目前にした故郷の島を捨て、島の人々とともに旅立ったが、安住の地と信じた「ニュー・マンゴ」は、難民である彼らを受け入れてはくれなかった。"Exodus" のラストで、マーラたちは希望に燃え、新天地 "The land of the people" を目指して新たな旅に出た。だが、マーラたちにあったのは、何の保証もない「希望」だけだ。目的地が本当に存在するのかもわからない。もしあったとして、そこははたしてマーラが思い描いたような理想郷なのだろうか……。

 この物語の前編である "Exodus" は波乱万丈の物語だった。この続編でもマーラの行く手には思いもかけぬ苦難がいくつも待ち受けているが、"Zenith" ではむしろ、マーラを取り巻く人々の心模様が織り成すドラマが中心となる。幼なじみの少年ローワン、マーラを信じ、支えてくれる〈ツリーネスター〉たち、"Exodus" で哀しくも美しい別れをした恋人、そして、新たに登場した謎を秘めた少年タック……。ストーリーはこれでもか、これでもかと、残酷に登場人物たちを追いつめていく。信じること、希望を持つことにさえ、はたして意味はあるのか思うほどの極限状態を前に、考えても答えの出ないような問いをいくつも突きつけられている気がした。

(杉本詠美) 2008年6月公開

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2008年(2007年度) カーネギー賞ロングリスト

"Girl, Missing"(2007) by Sophie McKenzie (未訳読み物) [Amazon]

その他の受賞歴  ・2007年チルドレンズ・ブック賞高学年向け部門


 ローレンは3歳の時に今の両親に養子として引き取られ、実の親については何も聞かされないまま14歳まで育った。ある日、ネットサーフィン中に偶然行き当たった行方不明児童の捜索支援サイトで、小さい頃の自分にそっくりな、「マーサ」の写真を見つけてしまう。自分の生い立ちの秘密を突き止めようと決意したローレンは、無理やり家族旅行を計画、11年前、マーサが消えたというアメリカに到着すると、乗り継ぎを待つ間にこっそり家族と離れ、わずかな手がかりをもとに実母探しの旅に出る。

 主人公ローレンの一人称で語られており、短い章立てでテンポが良く、とても読みやすい。ストーリーの展開も早く、しかも波乱万丈なので、読者が主人公と同年代のティーンエイジャーであれば、きっと、ページをめくる手が止まらないだろう。大人の読者としては、主人公のローレンの自分勝手さ、周囲への思いやりのなさが目について、どうにも嫌になってしまうことがあったのだが、読み進むにつれて、それも作者の計算ではないかと思えてきた。というのも、ローレンが出会う人々の中に、彼女がある意味、自ら引き起こしてしまったともいえる複雑な事態について、冷徹な目で意見しつつ、愛情をもって見守り、大きな影響を与える大人の存在があったからだ。一人称の語りを用いて、思春期の微妙な心情に寄り添う一方、その未熟さをもきっちりと浮き上がらせて、後の成長を際立たせるのに成功していると思う。

(tommy) 2008年6月公開

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2008年(2007年度) カーネギー賞 ロングリスト

"Ottoline and the Yellow Cat"(2007) (未訳絵本) 
 by Chris Riddell クリス・リデル [Amazon]

 やまねこ公式レビュー 
 
レビュー(月刊児童文学翻訳2008年 7月号)(未訳)

その他の受賞歴
2007年ネスレ子どもの本賞6〜8歳部門金賞
2008年チルドレンズ・ブック賞低学年向け部門受賞
2008年(2007年度) ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト
2008年やまねこ賞絵本部門第3位


 ケイト・グリーナウェイ賞レビュー集を参照のこと

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2008年(2007年度) カーネギー賞 ショートリスト

"Gatty's Tale"(2006) US版タイトル "Crossing to Paradise"(2008.09) (未訳読み物)
 by Kevin Crossley-Holland ケビン・クロスリー=ホランド  [Amazon]

 やまねこ公式レビュー 
 
レビュー(月刊児童文学翻訳2008年 9月号)(未訳)

その他の受賞歴 


 1203年イギリス。小さな荘園で働いていた14歳のガティは、思わぬなりゆきから、別の荘園の未亡人グウィネスの率いる巡礼団に加わり、エルサレムへと旅立つことになった。生きて帰れる保証のない危険な旅だったが、神に罪の赦しを請い、悲しみを癒してもらいたいというグウィネスの意思は固い。フランスに渡り、アルプスの山を越えて、イタリアへと進んでいく9人の巡礼団に、次々と難題がふりかかる。ガティたちはイスラエルにたどりつくことができるのか。

 作者クロスリー=ホランドは、前作「ふたりのアーサー」シリーズで、中世の時代を生きる少年アーサーの物語にアーサー王伝説を重ねて見事に紡ぎ上げた。本作ではその登場人物の中から、アーサーが育った荘園で働く少女ガティを主人公に据えて、ヨーロッパから中東へと続く壮大な冒険物語に仕上げ ている。アーサー王伝説の枠組みにとらわれることなくのびのびと筆を進めただろうことが、生き生きとした明るい筆遣いから感じられる。
 主人公のガティは、出発前、牛小屋で飼い牛と寝食を共にしていたという少女。無鉄砲さゆえに旅の仲間から反感を買うこともあったが、持ち前の明るさ、熱心さ、たくましさと機転で、仲間を助け、なくてはならない存在になっていく。ガティという人物の魅力が、物語を支えている。さて、ガティは折にふれて、アーサーへの思いを吐露する。アーサーは、ガティよりも先に十字軍の従者としてエルサレムに向けて旅立っている。ふたりの再会はかなうのかどうか、お楽しみに。

(植村わらび) 2008年9月公開

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2008年(2007年度) カーネギー賞 ショートリスト

"Apache"(2007) US版タイトル "I am Apache"(2008.08) (未訳読み物)
 by Tanya Landman

その他の受賞歴 
2008年ブックトラスト・ティーンエイジ賞ショートリスト


 19世紀おわり、アパッチ族とメキシカンの間には、絶え間ない戦いが続いていた。ある時、主人公シキのいるブラック・マウンテン・アパッチ族はメキシカンからの休戦 の申し入れを受け、住処の山を離れメキシコ国境まで取引に出かけた。ところが、休戦の約束を破ったメキシカンたちが、女、子どもと見張りだけのキャンプ地を襲撃し、残虐の限りを尽くした。14歳のシキは木の上に登っていて、弟が惨殺されるところを目撃してしまう。 弟は、シキにとってたったひとりの家族だった。シキの父親は、何年も前のメキシコへの襲撃から戻ってこず、その後で母親も殺されていたのだ。心の中にぽっかりと穴のあいたシキは、女戦士となって自分自身で弟の仇を討つと決め、まわりの偏見に負けずただひたすら突き進んでいく。それは大変な道のりだった。
 その頃、アパッチ族の住処には、彼らが「白い目」と呼ぶアメリカ人が押し寄せてきており、アパッチ族は大きな転換期を迎えていた。

 作者は、ジェロニモなどの実在した人物や出来事を参考にして、架空の部族、人物、ストーリーを作り上げた。インディアンの教え、考え方、自然観、行動が、丁寧に描きだされて おり、ストーリー全体に説得力が生まれている。残忍なことで知られるアパッチ族の普段のくらし、特に、死者に対する考え方などはとても印象的だった。また、それまでのメキシカンとの戦いと、アメリカ大陸の東海岸から勢力を広げて来た白人との戦いとでは、明らかに次元が違っていたこと、そして、大地や自然を尊んで生きてきた アパッチ族が、その白人をどう受け止めていたのかということも、よく伝わってきた。この作品の背景には、白人の側から作られた西部劇を見て育った作者が、インディアンの本当の姿に触れたときの衝撃の大きさがあるというが、なるほどと思った。
 主人公を、先頭に立つ男性リーダーではなく、家族を失って女性ながらに戦士を志す少女に設定したことによって、YA世代に強くアピールする作品になっ ている。シキのゆるぎない語りによって、読者はこの時代の世界に、ぐいぐいとひきこまれていく。物語を読んでいる間、私自身もアパッチの少女になって、アメリカの大地を駆けていた。
 ただ、イギリス人の作者が作り上げた世界が、実際のインディアンの世界にどれだけ合致しているのか、疑問を呈する声も聞かれるようだ。ノンフィクションではなく、あくまでフィクションであることを念頭において、読み進めるのが良いだろう。

(2015年7月、一部訂正)

(植村わらび) 2008年10月公開

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2008年(2007年度) カーネギー賞 受賞作品

"Here Lies Arthur"(2007) by Philip Reeve フィリップ・リーヴ (邦訳読み物) 追加
『アーサー王ここに眠る』 井辻朱美訳 東京創元社 2009.04

その他の受賞歴 
ネスレ子どもの本賞9〜11歳部門銅賞
2007年ブックトラスト・ティーンエイジ賞ショートリスト


 紀元500年ごろのブリテン島。農場で働いていた少女グウィナは、アーサー率いる騎馬団の襲撃で焼け出され、吟遊詩人のミルディンという男に拾われた。水にもぐるのが得意なグウィナに、ミルディンはある重要な役目を言い渡す――アーサーに神々からの賜り物を授ける水の精の役目だ。おかげで、アーサーはその土地の者たちに認められ、勢力を拡大する。それからというもの、グウィナは少年の格好をしてミルディンの従者となり、アーサーの一行と行動を共にするようになるのだった。ミルディンは、小さな集団のリーダー程度でしかないアーサーの力を強大にして、その力を平和のために使おうとしていた。ブリテン島に入り込んできたサクソン人に対抗するために、ブリテン人がひとつになることが必要だと、切実に考えていたのだ。

 アーサー王伝説がどうやって生まれたのかを、グウィナという少女が語っていく、という物語。
 吟遊詩人のミルディンは、アーサーに助言を与える一方で、彼を英雄にするための歌を作って人々に語り、人々をアーサー王の味方につけていく。なるほど、こういう風にアーサー王伝説ができあがったのかもしれない、アーサーは実はこんな男だったのかもしれない、と考える私も、ミルディン、つまりは作者リーヴの思惑にすっぽりはまってしまったということだろう。
 アーサーの義理の兄や甥、妻、そしてミルディンにも焦点があたっていて、それぞれの人物やエピソードがしっかりしていて、読み応えがある。アーサー王伝説にあまり詳しくない私でも、興味深く読み進めることができた。ケビン・クロスリー=ホランドの「ふたりのアーサー」シリーズもアーサー王の物語と少年アーサーの物語を重ねた点が新鮮だったが、本作はさらに新しい切り口による、2008年カーネギー賞受賞作らしい良く練られた作品だと思う。リーヴのこれまでの作品、『移動都市』や『ラークライト』のイメージとは大きく異なるが、根っこのところは同じファンタジーといえるだろう。
 人々は、自分が見えると思うものしか見ない、信じたいと思うものを信じるのだ、という事実が印象的だった。物語がそのようにして生まれるということを納得する一方で、一部の者の意図によって、時のヒーローや悪役が生まれて、多くの人がまきこまれていくというパターンは、今のメディア主体の報道にも通じるところがあるのではなかろうかと思ったりもした。

(植村わらび) 2009年8月公開

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カーネギー賞の概要

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