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2008年3月号
   =====☆                    ☆=====
  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
         Yamaneko Honyaku Club 10th Anniversary
                                 No.98
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2008年3月15日発行 配信数 2510 無料
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●2008年3月号もくじ●
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◎注目の本(邦訳読み物):『バディ たいせつな相棒』
                     V・M・ジョーンズ作/田中亜希子訳
◎注目の本(邦訳読み物):『シェフィーがいちばん』
   カート・フランケン作/マルテイン・ファン・デル・リンデン絵/野坂悦子訳
◎注目の本(未訳読み物):"The Bower Bird" アン・ケリー作
◎世界の本棚:スウェーデン語 "En stjarna vid namn Ajax"
               ウルフ・スタルク文/スティーナ・ヴィルセーン絵
◎賞速報
◎イベント速報
◎お菓子の旅:第42回 しあわせの甘いおすそ分け 〜プロフィッテロール〜
◎読者の広場

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●注目の本(邦訳読み物)●本当の意味で勝つことの大切さを知って欲しい
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『バディ たいせつな相棒』 V・M・ジョーンズ作/田中亜希子訳
PHP研究所 定価1,470円(税込) 2008.02 285ページ ISBN 978-4569687582
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る
"Buddy" by V. M. Jones
HarperCollins Publishers New Zealand Limited, 2002

★2003年ニュージーランド・ポスト児童書賞(児童読み物部門)受賞作品
★2003年ニュージーランド・ポスト児童書最優秀処女作賞受賞作品
★2003年エスター・グレン賞候補作品

 ぼくはジョシュ。もうすぐ13歳になる。成績優秀、スポーツ万能なぼくだけど、こ
の年ごろ特有の悩みも尽きない。にきびとかライバルとか、気になる女の子とかね。
そんなぼくには、大きな秘密がふたつある。ひとつめは、水が怖いってこと。怖いな
んてものじゃない。自分がプールの中にいると想像するだけで吐き気がするほどだ。
そしてふたつめは……双子の兄がいるってこと。そう、物心ついたときからお互いを
〈相棒(バディ)〉と呼んでいる大切な兄がいる。でも、実はこの7年間のほとんど
を、バディは自宅ではなく、リハビリセンターですごしているんだ。
 勉強にスポーツ、友情に初恋と、一見青春を謳歌しているように見えるジョシュ。
だが、バディが重い障害を負うことになった責任の一端が自分にある、という罪の意
識から逃れられない。その気持ちは、時折見る悪夢や水への恐怖心となってジョシュ
を苦しめる。誰にも言えず閉じ込められた後悔と苦しみが、痛いほどに伝わってくる。
 また、自分にとってバディは何物にも代えがたい特別な存在だが、脳に障害を負っ
たバディの姿を友だちに見られるのは恥ずかしい、という複雑な気持ちも持っている。
これは、障害のあるきょうだいを持つ子どもが抱きがちな感情だと思う。こういう気
持ちを抱いたからといって、責められるものではないはずだ。そんなジョシュは、バ
ディと一緒にいるところをライバルに見られ、秘密が暴露されることを覚悟する。だ
が、予想に反して彼が誰にもしゃべらなかったため、ジョシュはかえってなにか行動
を起こさずにはいられなくなり、トライアスロン大会への参加を決心するのだった。
 水への恐怖心をおしてまでライバルに勝ちたいのは、バディがいても自分はなんら
同情や哀れみの対象ではない、ということを証明したかったからに違いない。そんな
ジョシュを諭す、トライアスロンの個人指導をつけてくれた先生の言葉が印象的だっ
た。「本当の意味で勝つということは、自分の心に平和をもたらすこと」。自分の気
持ちと向き合い、自分の中のいろんな問題と対決するのは勇気がいる。かなりつらい
し、成功するとは限らない。だが、これを経験するとしないとでは、その後の人生に
大きな違いが生まれるはずだ。たくさんのティーンエイジャーたちが、ジョシュと同
じように自分の気持ちにまっすぐに向き合う勇気を持ってくれることを願う。

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【作】V・M・ジョーンズ(V. M. Jones):1958年、ザンビア生まれ。南アフリカ
のケープタウン大学で英語、考古学、文化人類学の文学士号を取得。1995年から、ニ
ュージーランドのクライストチャーチに家族で移り住む。2002年、本作品でデビュー。

【訳】田中亜希子(たなか あきこ):千葉県生まれ。東京女子大学短期大学部英語
科卒業。主な訳書に絵本『コッケモーモー!』(ジュリエット・ダラス=コンテ文/
アリソン・バートレット絵/徳間書店)、児童書「マーメイドガールズ」シリーズ
(ジリアン・シールズ作/つじむらあゆこ絵/宮坂宏美共訳/あすなろ書房)、ヤン
グアダルト向け作品『僕らの事情。』(デイヴィッド・ヒル作/求龍堂)など多数。

【参考】
▽ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞
                 受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/nz/nzp/index.htm

▽エスター・グレン賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/nz/esther/index.htm

▽田中亜希子訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/atanaka.htm

                                (村上利佳)

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●注目の本(邦訳読み物)●抱きしめたくなるわんこの気持ちを届けます
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『シェフィーがいちばん』
カート・フランケン作/マルテイン・ファン・デル・リンデン絵/野坂悦子訳
BL出版 定価1,365円(税込) 2007.12 127ページ ISBN 978-4776402619
Amazonで詳細を見る  bk1で詳細を見る
"Cheffie is de baas"
by Kaat Vrancken, illustrations by Martijn van der Linden Querido, 2005
★2005年銀の石筆賞受賞作品
★2005年本のライオン賞受賞作品

「おれ、死んだモグラって、さいこうのにおいだと思うな!」3匹のテリアは体中に
においをなすりつけ「とろける気分」を味わいます。なんてショックな事実でしょう。
あのかわいいテリアは、こんな好みを持つ犬だったのです。それだけではありません。
せっけんのにおいは大嫌い。家の中で最も好きな場所はトイレ。いいにおいが残って
いるからです。彼らにとって「におい」はとても重要で、まるで新聞のように「最新
のニュース」を伝えるものなのです。
 赤裸々な犬世界を見せてくれるのは、シェフィー、ボーヒー、プフの3匹です。彼
らはエマという女の子の家に住んでいます。最初にこの家にやってきたシェフィーが
ボスです。シェフィーは、「ぼくがエマの『いちばん』の友だちで、『いちばん』は
ぼくだけだよ」と思っていました。かわいいエマはシェフィーの恋人だったのです。
そこへ、ある日、ヘルダーがやってきました。ヘルダーは大きなシェパードで、明る
い青い目をしています。その日から、エマはヘルダーといっしょに散歩にいくように
なりました。「あの、ごますり犬!」シェフィーは許せません。けれどもエマには、
ある事情があったのです。まさにそのために、ヘルダーはこの家に来たのでした。
 もしかしたら著者は犬語の達人ではないかと思うほど、犬たちの言葉には、彼らの
気持ちや行動が実に細かく書かれています。読者は犬の視点でシェフィーのいたずら
を楽しみ、悩みに共感していきます。シェフィーはどうしてエマがヘルダーとばかり
いるのか、わかりません。どうしたら、またエマの「いちばん」になれるのでしょう。
愛しているのに、それがうまく相手に伝わらないもどかしさ、悲しさ。打ち捨てられ
たような寂しさも味わいます。へルダーが来た理由が明らかになったとき、シェフィ
ーのショックはエマへの思いに比例していました。つらさを乗り越えていく力は、ど
こからわいてくるのか。愛することは生きる喜びであり、命の糧であることを、シェ
フィーは体当たりで見せてくれます。犬たちの繰り広げるおちゃめな日常に大いに笑
い、その純粋で一途な気持ちにぐっとくる、楽しくて温かい物語です。すでに発行さ
れている続編の邦訳が待ち遠しいところです。

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【文】カート・フランケン(Kaat Vrancken):1957年ベルギーにて、1年で1番慌
ただしい、クリスマスとお正月の間、12月27日に生を受けた。幼いころから何匹もの
犬と暮らす。著者サイトでは、犬とくつろぐ彼女の写真を見ることができる。大学卒
業後、広告代理店につとめ、コピーライターとして長く働いた。1995年娘ハンナのた
めに書いた "Zing maar, Hannah" が初めての児童書。このハンナを主人公としたシ
リーズが4冊出版されている。邦訳は本書が最初である。

【絵】マルテイン・ファン・デル・リンデン(Martijn van der Linden):1979年オ
ランダ生まれ。1997年から2001年までロッテルダムの美術アカデミーでイラストを学
ぶ。在学中から本の装丁にかかわる。最近は絵本制作、本の装丁など、さまざまな活
動を行っている。Maranke Rinck が文を担当した絵本 "The Prince Child"、"Kiss
the Girls"、"The Sweetest Kiss" では克明な動物のイラストを披露している。

【訳】野坂悦子(のざか えつこ):1959年東京生まれ。早稲田大学第一文学部英文
学科卒業。1985年より5年間オランダとフランスに滞在ののち翻訳家として活躍。
2001年より紙芝居文化の会の運営委員として、日本の紙芝居文化を海外に広める活動
に尽力している。最近の翻訳作品に『かえるでよかった マックス・ベルジュイスの
生涯と仕事』(ヨーケ・リンデルス作/セーラー出版)、『車いすのおねえちゃん』
(ステファン・ボーネン文/イナ・ハーレマンス絵/大月書店)などがある。

【参考】
▼カート・フランケン公式ウェブサイト
http://www.kaatvrancken.com/

▼マルテイン・ファン・デル・リンデン公式ウェブサイト
http://www.martijnvanderlinden.eu/

▼野坂悦子公式ウェブサイト
http://www.green.dti.ne.jp/nozaka/

▽野坂悦子訳書リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/enozaka.htm

▽金の石筆賞・銀の石筆賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/nl/griffel.htm

                               (尾被ほっぽ)

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●注目の本(未訳読み物)●「今」を大切に生きる少女の静かに輝く日々
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『セント・アイヴィスのガッシー』(仮題) アン・ケリー作
"The Bower Bird" by Ann Kelley
Luath Press, 2007 ISBN 978-1906307325
208pp.
Amazonで詳細を見る
★2007年コスタ賞児童書部門受賞作品

 先天性の心臓病を患う12歳のガッシーは、臓器移植の待機リストに登録し、連絡用
のポケットベルをいつも携帯している。体が成長するにつれ、少し歩くだけでも息が
あがるようになってきており、単なる風邪から重い病気になりかねない状況だ。その
ため、前回の手術以降は学校に通わず、母と2人、家で毎日を送っていた。
 ガッシーと母は、海沿いの崖の上にぽつりと建つ借家から、近隣のセント・アイヴ
ィスの町にやっと家を見つけて引っ越してきたばかりだ。うれしいことに、町は小さ
いけれど人がたくさんいた。カメラを片手に老人の社交場に出かけて写真を撮ったり、
図書館に行ったりと、少しずつではあるが生活も活気を帯びてくる。ガッシーはどう
してもやりたいと思っていたことにも取りかかった。この町のどこかにいるはずの親
戚を探しだすことだ。また、少し前に知り合った男の子ブレットに胸をときめかせる
ようにもなっていた。彼の気をひこうと部屋に自然の物を飾り、まるで巣を飾りたて
るニワシドリ(Bower Bird)みたいだと思ったりする。
 この作品の一番の魅力は、主人公のガッシーだ。たとえ移植を受けたとしても、そ
う長くは生きられないとわかっている彼女のモットーは、今日を精一杯生きること。
ささやかながらも、やりたいことにチャレンジしていく。その姿から、毎日を普通に
生きていくことがいかに貴重なことなのかを改めて考えさせられた。シリー諸島でブ
レットと一緒に鳥や星を見る場面と、終盤に町角で母親とクリスマスキャロルを聞く
場面は、特に生きることの喜びにみちあふれている。詩人で写真家でもある作者らし
い、美しく印象に残る場面である。
 アン・ケリーは、息子をガッシーと同じ病気で亡くしている。ガッシーのように積
極的に生きていた息子への思いをこめて、初の小説 "The Burying Beetle" を発表し
たところ、読者から続編を望む声が多く寄せられたという。1作目では身近な生き物
を通して生と死を見つめる日々が、2作目となる本作では、まわりの人々とふれあう
中で「生きたい」と思う日々が、ガッシーのみずみずしい言葉でつづられている。ま
るでドキュメンタリーのようなこのシリーズを通して、わたしたちは重い病気で臓器
移植を待つ本人からの率直な声を聞くことができる。ガッシーの力強い声は、もう一
度この世界を見直すチャンスを与えてくれる。

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【作】Ann Kelley(アン・ケリー):1985年に長男を臓器移植手術後に亡くした後、
悲しみを乗り越えて写真集や詩集を出版するようになる。また、患者、医療関係者、
医学生を対象とした詩のワークショップや講演なども行っている。2005年に初の小説
を発表。2作目となる本作でコスタ賞児童書部門に輝いた。2008年1月の受賞時で、
62歳。英国セント・アイヴィス在住。

【参考】
▼アン・ケリー公式ウェブサイト
http://www.annkelley.co.uk/

▼出版社 Luath Press サイト内作品紹介のページ
http://www.luath.co.uk/Bowerbird/index.htm

▼作品紹介ページ(Telegraph サイト内)
http://www.telegraph.co.uk/arts/main.jhtml?xml=/arts/2008/01/06/
bocosta106.xml

▼作品紹介ページ(Daily Mail サイト内)
http://www.dailymail.co.uk/pages/live/femail/
article.html?in_article_id=500575&in_page_id=1879

▽アン・ケリー作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/k/akelley.htm

▽コスタ賞児童書部門受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/whit/index.htm

                               (植村わらび)

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●世界の本棚(スウェーデン語)●ウルフ・スタルクが描く、犬と男の子の友情
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『アヤックスという名の星』(仮題)
ウルフ・スタルク文/スティーナ・ヴィルセーン絵
"En stjarna vid namn Ajax" text by Ulf Stark, illustrations by Stina Wirsen
Bonnier Carlsen, 2007 ISBN 978-9163852510(Sweden)
48pp.

 犬のアヤックスが7歳のとき、家に子どもがうまれた。名前は、ヨハン。ヨハンが
ねむれない夜、アヤックスはとなりによりそった。泣きじゃくるときは、ペロペロな
めて、なぐさめた。友達って、そういうものだから。アヤックスの毛につかまって、
立つ練習をしていたヨハンも、やがて夏にはアヤックスとチョウを追い、冬には雪の
上をころがって遊び、ついにはアヤックスに本を読んであげたり、なぞなぞを出した
りして遊ぶほど大きくなった。
 そしてヨハンが7歳になった年のある晩、アヤックスは天国にいく夢をみたまま、
起きなくなってしまった。そこでヨハンは馬にのり、アヤックスという名の星をめざ
した。宇宙に飛びだしたヨハンは、いくつもの惑星をこえ、ちいさいけれど、ひとき
わ澄んだ光をはなつ星を見つけた。「アヤックス、お前なんだろ?」ヨハンの言葉に
答えるかのように、その星はまたたいた。星になったアヤックスをつれていこうとす
るヨハンを、宇宙が呼びとめた。星をもちかえることは、禁止されているのだ。アヤ
ックスのためなら、なんだってするというヨハンに、宇宙はあるなぞなぞを出した。
答えることができたら、星の影をもってかえることができるというのだ。ヨハンはな
ぞなぞに答え、アヤックスの影をつれてかえることができるのだろうか。そして家に
もどったヨハンにふりかかることとなる、奇妙な出来事とは?
 犬と男の子の友情を描いた、心あたたまる物語。スティーナ・ヴィルセーンのシン
プルでくずした感のあるイラストは、細かい描きこみがされた緻密な絵が好きな人に
は物足りなく思えるかもしれないが、ぼかした紺色で描かれた夜空のイラストにより、
スタルクのつくりだしたファンタジーの世界が、幻想的な雰囲気で彩られている。た
っぷりのユーモアの中に、センチメンタリズムのスパイスがきいた、スタルク節は健
在。人間の成長と老いが対比され、死というものが新しい命へとつづく道筋として、
希望をもって描かれている。そしてなにより心にのこったのは、犬と男の子の、たが
いを思い、助けあう姿だった。友達って、こういうものなんだ。

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【文】Ulf Stark(ウルフ・スタルク):1944年スウェーデン生まれ。その作品は25
か国語余りに翻訳されている人気作家。1988年『ぼくはジャガーだ』(いしいとしこ
訳/ブッキング)でニルス・ホルゲッソン賞、1994年『おじいちゃんの口笛』(菱木
晃子訳/ほるぷ出版)でドイツ児童文学賞を受賞。他に『パーシーと魔法の運動ぐつ』
(菱木晃子訳/小峰書店)など著書多数。

【絵】Stina Wirsen(スティーナ・ヴィルセーン):1968年スウェーデン生まれ。雑
誌、新聞や児童書の挿絵画家、絵本作家などとして幅広く活躍している。1997年、
2001年新聞デザイン協会賞受賞。2000年エルサ・ベスコフ賞受賞。

【参考】
▼Bonnier Group Agency ウェブサイト(英語)
http://www.bonniergroupagency.se/1100/1100.asp?id=2939

▽ウルフ・スタルク邦訳作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/s/ustark.htm

▽ニルス・ホルゲッソン賞受賞作品&作家リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/sw/holgers.htm

▽ドイツ児童文学賞受賞作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/de/dj/index.htm

▽エルサ・ベスコフ賞受賞作品&作家リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/sw/beskow.htm

                                (枇谷玲子)

【特殊文字】
 「Wirsen」:「i」の上にアクセント記号(')がつく
 「stjarna」:最初の「a」の上にウムラウト(¨)がつく

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2008年ボローニャ・ラガッツィ賞発表
★2008年度フェニックス賞発表
★2008年ニュージーランド・ポスト児童書及びヤングアダルト(YA)小説賞
                    候補作発表(受賞作の発表は5月21日)
★2008年アガサ賞ショートリスト発表
★2007年度ゴールデン・カイト賞発表
★2008年度アストリッド・リンドグレーン記念文学賞発表

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 軽井沢絵本の森美術館「マザーグースの絵本展」
 ちひろ美術館・東京「ロシアの絵本」など

★イベント情報
 出版文化産業振興財団主催「上野の森 親子フェスタ」など

★コンクール情報
 インターカレッジ札幌「第5回翻訳コンクール」

 詳細やその他のイベント情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、
空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                                (笹山裕子)

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●お菓子の旅●第42回 しあわせの甘いおすそ分け 〜プロフィッテロール〜
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― and apart from calling Jazzi's beautiful profiterole tower 'profit rolls'
and refusing to eat them because they were part of the conspiracy, Harley
seemed fine.
                            by Catherine Bateson
             "Being Bee", University of Queensland Press(2006)
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*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 今回は、昨年のオーストラリア児童図書賞、低学年向け部門受賞作 "Being Bee"
から。母親を亡くして以来、父と2人で暮らしてきた主人公のビーは、父の恋人の存
在によって起こる変化にとまどいながらも、やがて少しずつ成長していきます。引用
文は、一緒に住むことになった父の恋人ジャジィが、親しい人たちを夕食に招待して
プロフィッテロール(プロフィットロールとも呼ばれています)を振る舞っていると
ころです。日本ではあまり聞きなれない名前ですが、文中にある「プロフィッテロー
ル・タワー」はシューを糖衣で貼り付けて円錐形に積み上げたもので、「クロカンブ
ッシュ」という名でも知られ、ウェディングや洗礼式などでもよく用いられています。
フランス語では「ささやかな心づけ」という意味があるプロフィッテロール。ジャジ
ィは新生活を祝って、みんなとしあわせを分かち合いたいと思ったのかもしれません。
 プロフィッテロールは、16世紀ごろにフランスで作られたといわれています。知人
のフランス人によると、小さめのシューの中にアイスクリームを詰め、チョコレート
ソースをかけたものを指し、シュー・ア・ラ・クレーム(シュークリーム)とは区別
するそうですが、私の住むオーストラリアでは、中にカスタードクリームが入ったも
のもプロフィッテロールとして売られています。今回のレシピは、フランス風にアイ
スクリーム入りのものをご紹介します。前もってシューだけ作っておいて、食後に家
族みんなで仕上げるのも、楽しいかもしれません。

*-* プロフィッテロールの作り方 *-*

                  画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)

材料:(ゴルフボールぐらいの大きさ8個分)
(シュー生地)
薄力粉     25g     水     50cc      無塩バター    25g
卵      1個     塩     ごく少量
バニラまたはお好みのアイスクリーム(中に詰める)        100cc〜200cc
(チョコレートソース)
製菓用チョコレート   30g   無塩バター  大さじ1/2   水  大さじ1

1.オーブンを200度にセットしておく。鍋に水とバターを入れて火にかける。
2.バターが溶けたらふるった薄力粉を加え、鍋を火からおろして生地が鍋肌から離
  れ、ひとかたまりになるまで木べらでしっかり混ぜる。
3.生地の荒熱がとれたら、割りほぐした卵を少しずつ加えて混ぜる。卵は全部使わ
  なくてもよい。生地が木べらから、ぽてっと落ちるぐらいの固さがちょうどよい。
4.クッキングシートを敷いた天板に、生地をスプーンで直径約2センチの円状に高
  さをつけて置く。各生地の間は5センチほどあける。ぬれた指で形を整える。
5.200度で約10〜15分、その後160度でさらに10〜15分焼く(オーブンによって要調
  整)。この間、オーブンを開けると生地がしぼんでしまうので、開けないこと。
6.焼けたらオーブンを止め、約15分、取り出さずそのまま冷ます。
7.小鍋にチョコレート、バター、水を入れて火にかけ、滑らかになるまで混ぜる。
8.シューの上部を切り、蓋とカップ部分を作る。食べる前にカップにアイスクリー
  ムを盛り上がるように詰め、蓋の部分をかぶせる。お皿にシューを盛り付け、上
  からチョコレートソースをかける。

★参考文献
"Better Homes And Gardens" (June 1999)

★「やまねこ翻訳クラブお菓子掲示板」
        http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=okashi

                         (かまだゆうこ/冬木恵子)

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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 このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる
お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ
ください。

※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編
集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。

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●お知らせ●
 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。
こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
http://www.yamaneko.org/info/order.htm
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▽▲▽▲▽   海外児童書のシノプシス作成・書評執筆を承ります   ▽▲▽▲▽

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             「子どもの本だより」
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◆次号予告は毎月10日頃、やまねこ翻訳クラブHPメニューページに掲載します。◆
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●編集後記●犬は生涯の友、そんな言葉を思い出させる2つの作品を、今月は紹介し
ました。私もレビューを読んで、子どものころに飼っていた犬の、楽しい思い出が心
によみがえって来ました。犬や猫をはじめ、動物を友とした名作が、今後もたくさん
生まれることを心から願います。(い)
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発行人 かまだゆうこ(やまねこ翻訳クラブ 会長)
編集人 井原美穂/大原慈省(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 植村わらび 尾被ほっぽ かまだゆうこ 児玉敦子 笹山裕子 枇谷玲子
    冬木恵子 村上利佳
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
    ながさわくにお
    html版担当 shoko
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